艦隊これくしょん~鶴の慟哭~   作:エーデリカ

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さーて、いよいよ三章も抜錨であります!

今後の慟哭の予定とか立ててたら、よく分からない話になった……。そして相変わらず暴走するВерный氏。

それでは、どうぞ。


二章-22 日出づる国より瑞来たる

 ――――これは一体、いつから見始めた夢なのだろうか。

 

 一面が赤く染まった世界。自分がいる場所が、何かの水槽みたいなものであるとボンヤリと思う。

 

 視界には、倒れて上体を起こす提督さんがいる。判別は難しいが、普段は白いはずの制服が所々黒く塗りつぶされている。

 

 その場に響いたのは、聞きなれぬ声の英語。

 

『まだ、抵抗するかね?東郷中佐』

 

 私に背を向けるコートを着たような男性が、銃口を提督さんに向けている。

 

『何度でも言わせて貰う……お前がやってるのは、祖国の為じゃない。己のエゴを押し通しているだけなんだよッ!』

『そうか……残念だ。あの世で彼女と再会できる事を祈っているよ』

 

 私からのプレゼントだ、受け取りたまえ――――撃鉄が起こされる。

 

 ――――ダメっ、止めて!

 

 彼女の願いは空しく、銃声が鳴り響く。

 

 私の夢は、ここで覚めるのだ。

 

 

 

 

 

 毎度思うが、自分でも酷い顔をしていると分かる。

 

「いいかげん、この夢の正体が知りたいわね……そのせいで、ここ最近寝起きが悪いのよ」

 

 洗面台で顔を洗いつつ、景鶴が溜息をつく。

 

 ――――それは本当に一瞬だった。彼女がいつも通り眼帯を着ける前。傷を残して、既に何も映さないはずの左目。

 

 鏡に映った本来黄色いはずのその目が、蒼く揺らめいている。まるで深淵に引きずり込むかのように、深い青色。

 

「嘘っ……どうしてっ……」

 

 次にまばたきした時には、いつも通りの光景に戻っている。

 

 何で……今のは、一体なんなの?

 

 自分の手が、震えている事に気づく。そんな自問自答のループを断ち切ったのは、提督さんからの着信だった。

 

『――――景鶴。起床直後に悪いが、スクランブルだ。うちで動けるのが、お前しかいないが……頼む』

「……了解、提督さん。出撃予定の海域は?」

『――――トラック基地に来る途中の輸送艇から、救援要請が来てる。護衛の艦娘だけでは足りない規模らしい』

 

 命令はいつも通りだ――――死ぬな。必ず、生きて帰って来い。

 

 

 

 

 

 不味い、非常に不味い。スコールの中を進みながら、翔鶴型2番艦瑞鶴は呟く。

 予期せぬ戦闘で、被弾したうえ。僚艦を含めた全員の、羅針盤が破壊されてしまっている。

 

 おまけに、肌が痛くなる程に打ち付けてくるスコールだ。敵に対して有効打撃を与えられる自負はあるが、この天候では艦載機の発艦すら出来ない。

 足手まとい……肝心な時に置物になっているなんて。

 

「初めての長距離遠征だからって、気にすることないのよ」

 

 横須賀から出港して以降、護衛して貰っている曙から声をかけられる。

 彼女の言葉の粗さは、表には出そうとしない優しさからきているのは、短い横須賀の生活でも身に染みている。

 

「曙ちゃんは、この前だって無理して戦闘してたんだから……また入渠ドック行きになっちゃいますよ」

 

 言葉を返すのは、曙ともコンビを組む事も多い潮である。

 

「いくら空母だからって、何でも出来るとは大間違いよ」

「そうは言っても、私は練度が足りてないんだから――――っ、2時の方向に敵影!敵の艦載機が来るわ。対空戦用意!」

 

 瑞鶴もまた、使い慣れていない高角砲を構え迎撃する。

 足を止めてはダメだ。最悪、救援部隊の到着まで持ちこたえなければ。

 

 実戦に対する恐怖はない。敵空母と航空戦で戦った事もあるし、水雷戦隊程度なら一人でも抑えられる。

 

 ――――しかし、戦艦部隊から長距離砲撃が飛んでくる事は今までなかった。

 

 一発でも当たれば致命傷になる。それだけが大きなプレッシャーになる。避けて躱して、撃ち返して。

 

 せめて、艦載機だけでも発艦出来れば……。歯噛みするが状況が好転する訳でもない。

 一か八か。自分の操る妖精達では難しいかもしれない。それでも。

 

 副砲を腰のラッチへ下げ、弓を構える。一瞬だけ、目を閉じて深呼吸。

 波の揺れに逆らうな、身を任せろ。落ち着ついて、艦載機を撃ち出す方向を定めろ。

 大丈夫。私ならやれる。

 

 全機爆装――目標、敵戦艦部隊。矢を番え、放つ。

 

 タイミングとしては及第点。多少ふらついた挙動をしながらも、艦爆隊を上空に上げられた。

 

「何やってるのよ、瑞鶴!?直援隊を優先しなさいよ!」

「敵の砲火をまずは減らします。全機、攻撃開始!」

 

 瑞鶴の判断は間違ってはいない……状況にもよるが、敵の攻撃自体を妨害する作戦を採るのは珍しい事ではない――しかし、荒天でなければ……の話だが。

 

 ただでさえ重量のある魚雷や爆弾を抱えている状態では、とてもではないが平時通りの攻撃はできない。豪雨打たれ、強風に煽られ艦載機の軌跡は精彩を欠いている。

 

「お願い艦載機の皆さん!少しでも良いから、攻撃を当てて!」

 

 瑞鶴の願いは空しく、敵の砲撃によって火球が落ちていく――まるで七面鳥が落とされていくように。

 

 ギリッと歯を喰いしばり、再び瑞鶴は弓に手をかける――もう一度、もう一度艦載機を……。

 

「瑞鶴さんっ。直上!」

 

 潮の警告にハッと視線を上げる、迫る敵の艦載機。自分が出来ないから敵も出来ないと、心のどこかで甘く見ていたのかもしれない。

 

 銃口が鈍く光る。高角砲でっ、いや間に合わない!

 

 ――――目を逸らすな。最後まで諦めるな。それは自分の慢心の結果だ。それを受け止めた上で生き残るんだ、私は。

 

 

 

 

 

 被弾を覚悟した瑞鶴の目の前で、敵艦載機が弾ける。

 

 直後、飛び去って行くのは六○一空とナンバリングされた烈風隊。あの機体は――――

 

「救難信号を受けてみれば、大変な事になってるじゃない」

 

 駆け付けた艦娘――自分と身なりもそう変わらない人影がそこにはあった。右目を細め、敵艦隊を睨む。

 

 彼女が右手の得物を構えて、艦載機を発艦させる。

 

「直援隊も、攻撃隊の援護を。この程度のスコールに押し負けるんじゃないわよっ」

 

 瑞鶴の前で、敵艦隊が炎に包まれていく。

 

 自分の航空隊とは、明らかな差をつけられていると思う。暗雲の空を奔る流星が、彗星が突入し、攻撃していく。

 

 その光景に驚嘆しながらも、瑞鶴もまた弓を構える。紫電隊が機銃を放ち、既に上がっている航空隊の援護に回る。こちらの艦載機の加勢を含めて、制空は優勢といった所か。十分な実力は発揮できないが、戦う分には申し分がないだろう。

 

「そうよ。荒天の場合は、動かす数を絞って扱いなさい。妖精さん達の練度だけに拘ってはだめよ。貴方自身が操ってこそ、自分の実力なんだから」

 

 その攻撃は、敵航空部隊を蹂躙している、といった表現が近い。喰い殺すかのように獲物に強襲し、機銃の雨を降らせる。

 

 彼女が介入してからというものの。敵艦隊が防戦一方になった事は確かである。

 

 攻撃に構っている余裕ががあったら、少しでもうるさい蝿を追い払いたいはずだ。

 

 敵艦の足が乱れているなら、私でもやれる。攻撃隊を発艦させる。

 

「よしっ!そのまま魚雷を――――決まった!?」

 

 自分の操る艦載機達が反応し、海面に雷跡を奔らせる。

 

 しかしそれよりも早く、他の爆撃機が接近し先を越される。

 

「えっ……嘘!?私の獲物が!?」

 

 振り返ると、眼帯をした艦娘が口角を上げる。

 

「みんな優秀な子達ですから」

 

 その台詞や仕草。瑞鶴の疑念は確信に変わる。

 

「やっぱり、貴方が加賀さんの愛弟子なんですね」

 

 増援が到着して、制空権がとれた事。もう勝負はついたも同然だった。喰う側が喰われる側に変われば、戦況もまた逆方向に傾く。

 

 やがては敵艦隊が撤退を始めた所で、彼女らは一息つくのだった。

 

「中々の腕だったわね。でも……練度を上げておきなさい。まだ先へ行けるはずよ」

 

 そうぶっきらぼうに話すのは、間違いない。私が捜していた人だった。私に手を差し伸べてくれた人の名――それは……

 

「景鶴姉様っ!会いたかったです!」

「………………はぁ!?姉様って何?えっ!?」

 

 すっとんきょうな声を上げた艦娘――――改大鳳型1番艦景鶴。

 

 彼女が、とうに諦めていたはずの縁が結ばれる。

 

 

 

 

 

「で……どういう状況だコレは」

「……そんなの私が聞きたいわよ」

 

 ようやく執務室の態を取り戻しつつある、トラック泊地にて。東郷の目の前にいるのは部下の景鶴。そして、来客用のソファにちょこんと上品に腰かけているのは……

 

「翔鶴型2番艦瑞鶴ですっ。姉の景鶴がお世話になっております!」

「……景鶴……お前妹がいたのか?」

「……翔鶴姉の妹さんだって」

 

 ――――どっ……ドッペルゲンガー

 

 正直その表現しか、咄嗟には出ない。瓜二つと言わないまでも、容姿が似ているのだ。

 瑞鶴の方、少し色白いかなくらいの肌色であるのに対し。うちの景鶴は結構、日に当てられているんじゃないかと思う。

 

『肌の手入れって……え?何でする必要があるの?』

 

 先日会った金剛の指摘に対しての返答が、コレである。その後、がっくり肩を落とした金剛が『瑞鶴は……瑞鶴はもうちょっとオトナなレディーを目指して、努力をして欲しいネー』と言っていた事もあった。

 

 でも“男勝り”って言って怒るどころか、誇らしげにしてる面もあるしこれ以上は言えない。

 

 一方の瑞鶴氏。何と言うか、凄いお嬢様オーラが出ている。深窓の令嬢と言うか、箱入り娘というか。仕草の一々が上品に見える。それも東郷からすれば、大袈裟に見えるくらいにだ。

 

「提督さん。何気に酷い事考えていない?」

 

 ジト目の部下に対し、顔に出したつもりは無いんだが……と答える。そんなやりとりを見て、フフッと。それはもう花の様に、眩しい笑顔を見せる瑞鶴。直視できません。あんまりに輝き過ぎて……。

 

「あっ、失礼いたしました。横須賀基地司令官――井矢崎少将より書状をお預かりしています」

「うむ。拝見つかまつる」

 

 井矢崎少将――――色々世話になってる恩人ではあるが、どうも俺にはあの人が理解できない。何かを隠し続けているような……まぁそれは、5期の黒烏全員にも言える話ではあるのだが。

 

「なんて書いてあるの?提督さん」

「産業会の重鎮達が集まる、社交界みたいなのがあってな。平菱インダストリアル社やポセイドンインダストリー社。月岡コンツェルンの総取締クラスが出てくるって噂の会合だよ」

「それに参加出来るように、取り計らって貰ったわけね。でも……どうして?」

 

 それは……瑞鶴の目もあるし、この場ではどう誤魔化そうか。

 

「4月には即応打撃軍が編成されるだろう?その分、各泊地から引っこ抜かれる艦娘が多い。景鶴、お前は俺と横須賀勤務になるからな。ついでに産業会にはコネを作りに行った方が、あとあとで便利なんだよ」

「だそうですよ、景鶴姉さま。翔鶴姉さまも今は横須賀にいらっしゃいますよ!」

「……そっかぁ。翔鶴姉、元気にしてるかなぁ」

 

 ひょんな所からの、本土行き決定。おまけにこのままだと、継続した勤務先になってしまう気がする。トラック基地が元通りにならなければ……だが。

 

 俺の配属先は……528駆逐隊、第二分隊指揮官。膨れ上がって現在の所属は駆逐艦8隻の予定というから、指揮官がもう一人必要になったそうだ。

 

 それで……今の指揮官は?書類に書かれている情報を見て、東郷の思考がフリーズする。

 

 ――――528駆逐隊(528DSq)指揮官:篠華=リーナ=ローレンベルグ中佐

 

 おい……嘘だろ!?よりによって、何でアイツの部隊に配属されなきゃならないんだよ!

 

 快活に笑う、自由奔放で気まぐれな同期が脳裏に浮かぶ。

 

 いかん……新年度早々、胃が痛くなりそうだ。

 

 

 

 

 

 そんな物思いに一人でふけり、太陽がてっぺんに上りそうな時分。執務室の窓の外から声がする。

 

「司令官。今入っても、構わないかい?」

 

 言うが早いか、ノックもせず入室するВерный――それも窓から。

 

「今日の昼食を獲ってきた」

 

 満面の笑みで、中身を見せてくる。バケツに入った名前も知らないような魚たちが、元気良く飛び跳ねる。

 

「ちょっと……さすがに魚釣りというか、漁をさせられるとは思ってなかったわ……」

「電探や聴音機を魚群探知機代わりに使ったりするのは、この基地が初めてでした……」

「スマン、曙と潮。うちの馬鹿に付き合わせちまった」

 

 この泊地にも顔を見せた事もある、曙と潮の姿も屋外に見える。というか手伝わせたのか?アレを。

 

「さぁ、司令官。この魚を捌いてくれ!」

 

 お刺身が良いなぁ――目を輝かせながら呟くのは構わないが、そもそも食えるか自体は自分で確認しろよ?ヴェル。

 

 トラック基地最後の昼食は、そんなこんなで厨房担当が東郷になるのだった。




今日、一日は有意義に過ごせたかなと思います。色々と、慟哭の設定を練る機会もありましたし。

右目が黄色で、左目が蒼い……うっ、頭が。
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