でも卒研・SA・就活・教職・執筆の5本柱はキツイっす。
優先順位が下がるのは、勘弁して下さい……。
篠華中佐に関しては『幕間-2 愚かな悲劇(喜劇)を繰り返さぬように』をご確認下さい。
それでは、どうぞ。
横須賀港に着いたのは、スクラサスと接触した日の夕刻だった。入港した直後には、とある執務室に向かい当初の目的を果たす事になる。
「駈くん。トラック泊地から遠路はるばる、お疲れ様だね。うちの瑞鶴もお世話になったようだ」
「……お変わりないようですね。井矢崎少将も」
「君に最後に会ったのは、“白夜の鐘事件”後の横須賀かな。彼の朝雲は元気にしているかい?」
「おかげさまで、まだ沈んでませんよ。伊達に“守りの東郷”なんて言われてません」
眼前に立ち扇子を片手に扇ぐ男。横須賀基地司令官を務める井矢崎莞爾少将は、自分が思っている以上に俺の事を知っている。
今日の業務は終わったのか、ラフな格好で……いやこの人は、いつもこんな感じだと思いかえす。
「いやぁ。君の活躍を見ていると、東郷颯少佐の事を思い出すよ――――
「対空戦の本分は兄貴の肩書なんで、遠慮しときます」
3年……いや、もう来月で4年になるのか。自分の兄が、朝雲を託して消えたのは。
井矢崎少将と兄は防衛大でも同期だったと聞くし、宿舎にあった兄の遺品を取り置いてくれたのも彼だった。自分の知らない兄の防衛大時代の話を聞く限り、やはりというか同じ血を分けた兄弟である風に見えるそうだ。
「到着してすぐに、辞令を伝える事になって申し訳ないが……528駆逐隊の副官。さっそくだが、やってくれるかね?君ほどの人材を腐らせる余裕は、国連海軍には残っていないんだが」
窓の外の港湾を眺めつつ、こちらの意志を聞く井矢崎少将。
「選択肢が、残っていないでしょうに……。強いて言えば、なんで自分が篠華と組まなきゃならないのか?――くらいですかね」
「高峰くんから『東郷中佐なら、篠華中佐の手綱を握れる』と聞いているからね。即応打撃軍の編成に伴って、各泊地にいる艦娘達のほとんどが入れ替わり始めている。今日が顔合わせのはずだ……。もう勤務時間は終わっているが、528駆逐隊に挨拶ぐらいはしてきてはどうかな?」
おい、高峰。余計な所で、俺の仕事を増やすんじゃない!
いやにでも顔に出ていたのが分かったのか、微笑を浮かべながら井矢崎少将は会話を進める。それで、明日の社交界の件だが――――
「君の探している“鍵”は見つかったのかい?東郷中佐」
「はい、
「PSSSね。旧アメリカ合衆国陣営が絡んでくるか……さすがに国境を超える問題まではフォローしきれない。お手伝いはここまでになるけれど」
「構いません。元より、そのつもりです」
道中にだって、スクラサスと名乗る人物から警告が来ているのだ。もちろん、他人を巻き込む訳にはいかない。
「まぁ、そんな訳で……だ。堅い話は抜きにして、君も景鶴とパーティーを楽しむ余裕も持った方が良い。ダンスに自信の程は?」
「そんなもの一軍人が知ってる訳ないでしょう!?」
――――それじゃあ、君のライブラリの中に『入門―初めてのダンス』でも入れておくかな。冗談でも、そんな当てつけは勘弁して下さいよ。井矢崎少将。
「女性をエスコートするスキルは、磨かないと駄目だよ?東郷中佐」
それって、一軍人が知る必要があるんですかね?
「そういえば。君の部屋が用意出来ていないという報告が来ているから、暫くは来賓用のホテルの一室をお貸しする事になる。スペースの関係上で、2人部屋をふたつしか用意出来なかった。代わりと言っては何だが、君の部下宛てにプレゼントを用意してある。確認したまえ」
ちょっと待って下さい、井矢崎少将。自分、景鶴、Верный、朝雲――この4人なんですが。駆逐艦と同室になるのはアウトだとすると、必然的に景鶴と組まされるのですが……。
じゃあ、明日は頑張ってねー。手をひらひら振って話は終わりだという井矢崎の反応に、東郷も肩を落とすのだった。
決められてしまったものは仕方がない。時間潰しも兼ねて、異動先の528駆逐隊のドックへ足を向ける。そこで俺は、本当に場所を間違えたのかと疑った。
――――誰だって目を疑うだろう。猫耳を付けて、尻尾まで生やしてメイド服を着ている女の子がいる。
ドックというこの場に対する違和感が多分にあるが、艦娘であろうから声をかけてみる。
「本日付けで、528駆逐隊の副官を務める事になる、東郷駈中佐だ。篠華中佐はいらっしゃるかな?」
あえて、服装には触れずに声をかける。というかここが街中だったら、職質されるのは間違いなく自分の方である。生真面目そうな黒髪の少女が、こちらに振り向いた。
「あっ、失礼致しました!お話は聞いております。528駆逐隊所属の朝潮型1番艦朝潮です。本日より宜しくお願い致します!――はい、司令官なら先程も……」
「――――猫は人間の言葉を話しちゃいけないでしょ?朝潮ちゃん」
突如、割って入る女性の声。自分としては二度と会いたくなかった、女帝の姿が視界に映る。
「はいっ!失礼しm……あっ……にゃっ、にゃあ?」
「良い子、良い子朝潮にゃん。いつも頑張ってるよねぇ。整備で油まみれでしょ?お姉さんと一緒にお風呂行こうか!隅々まで、洗ってあげるから♪」
「……部下でなにやらかしてんだよ!?この百合提督野郎が!」
「野郎じゃないしっ、女の子だし!」
間髪入れずに不意討ちで放った東郷の跳び蹴りを、バック宙で余裕に躱し着地した銀髪の女性――篠華=リーナ=ローレンベルグ中佐が二カッと笑う。
防衛大時代に、絡んできては――というかコイツのやらかした所業の数々を、まるく治めるハメになったのは言うまでもない。なんで部下にコスプレさせて、調教までしてるんだよお前は!?
「
「
だって、困るのが東郷クンだもんねー。確かにこの状況で篠華が『あの人がやりましたー(笑)』とか言い出したら、完全に孤立するのが目に見えている。
とりあえず駆逐隊の詰所に篠華を押し込み、ようやく話が出来る段階まで持ち込むのに小1時間かかった。
それも東郷にとっては、苦渋の選択を迫られたわけだが……。
「部下の一人も、私の手から取り返せない“守りの東郷”さーん。気分はどう?」
「……最悪に決まってんだろ。篠華」
「お茶をお持ちしました。どうぞ、東郷中佐」
目の前のソファには、篠華を挟んで不快感を表に出した朝雲とВерныйが座っている――――それも猫耳&尻尾付きで。篠華は両手に花状態で至極ご満悦なようだ。
『とりあえず埒が明かないから、朝潮に“日本語を”話させろ。お前とは意志疎通が出来る気がせん』
『
――――その結果がコレである。
「
「提督さん、ゴメン。あの人が何言ってるか、さっぱり分からなかった……」
「……安心しろ。俺もアイツが何やらかすかは、さっぱり分からん」
とりあえず、自己紹介といこうか!じゃあまず、朝潮にゃんからね♪――――俺は篠華の扱いを、何処で間違えたのだろうか……いや、防衛大時代からか。さておき、順々に自己紹介が進んでいく。
「朝潮です。これから宜しくお願い致します!東郷中佐」
「横須賀じゃ“優等生”って言われるくらい真面目な子だよー。ね、“委員長”さん?」
その委員長が委員長でたりえたのは、主にお前らのせいだろうが……
「ウェーク艦隊から転入しております。初春型4番艦初霜です」
「同じく、ウェークから来た若葉だ……宜しく頼む」
「なんだ……二人は月刀の所から来たのか。飛燕についていける実力なら逸材じゃないか」
どうやら、篠華の洗礼を喰らったらしく。二人とも顔色が悪いようだ。そりゃあ月刀の所が居心地良いのは決まっている。俺も出来れば篠華と組むのは、遠慮したい。
「満潮よ……へぇ、アンタもアラスカの生き残りなんだ……まぁ災難ね。こんな艦隊に配属されるなんて」
「山雲よー。朝雲姉がーお世話になってまーす」
あっ、良かった。篠華以外はまともなようだ。反面教師って奴か?しかし、この中に知った顔がいない事に気づく。自分やВерныйとも関わりがあった艦娘だが……。
「おい篠華、朝霜はどうしたんだ?お前の秘書艦から外されたのか?」
「朝霜ちゃんなら、今頃は仮眠室にいるよ。Без кота- мышам масленица.(鬼のいぬ間の洗濯ってね)」
「司令……何やってんだい?どうやら、お仕置きが足りないらしいねぇ」
この惨状を見ての感想だろうか?聞き覚えのある、ドス黒い声が聞こえた気がした。恐る恐るといった風に篠華が振り向くと、その顔に拳がめり込んでいた。
いやー、悪いねぇ。うちの司令が暴走してるようで――――視界の右半分を銀髪で覆い、鉢巻を締めた艦娘。アラスカ沖海戦では篠華と組んでいた朝霜である。
「あれっ誰かと思ったら、東郷大尉かよ。久しぶりじゃん。
「元気そうで、なによりだ朝霜。お前がいなかったら、篠華が止まらん所だった」
ちなみに今は中佐だからな――おっ、出世したねぇ。そんな会話をしつつも、回復した篠華が飛び起きた瞬間に、朝霜が手刀を首筋へ叩き込む。ぐへっ――という変な擬音が出る。
「霜ちゃん、ヒドイ!?」
「霜ちゃん言うな。初霜が来たから、どっちか分からなくなるだろうに」
――――今度やったら頭頂部のアホ毛を引っこ抜くかんな!
元々、この子はこういう性格だった。自分としても関わりやすくて、仲は良好なのだが。
「久しぶりだ、朝霜。篠華中佐には、やはり手を焼いているかい?」
「まったくだよ。響も元気そうじゃんか。東郷中佐と組み続ければ安心だろう?あたいは最近主機が不調でさぁ。オーバーホールが必要で缶とか何かまで、全部外してる所。なんで秘書官は響に譲るから、頼んだぜ」
ともあれ、
篠華の掛け声と共にエイエイオー。
とりあえず俺はこの先で、自分の胃が荒れない事を祈るばかりだった。
とりあえず、景鶴の所属先の話はまた次回に。