就活、卒論関係がいよいよ迫ってきました。なお4月末から春イベが始まる模様(白目)
白夜の鐘編に入ると言ったな。あれは嘘だ。東郷過去編を2話ほどいきます。
それでは、どうぞ。
2077/07/xx いくらでも地獄に堕ちてやる
――――あの赤い夢とは違う。これは俺の記憶だ。
故郷が深海棲艦に蹂躙されてからという物の、俺の頭の中には復讐という二文字しかなかった。
大学を卒業した後には、実家の農業に関わろうと生化学関係に就職した。俺の人生を狂わせた要因の一つであるファーヴニル生化。俺は作物・生物の遺伝子工学を主とするその企業で、幸か不幸か憎しみの矛先である深海棲艦に立ち会う事になる。
新入したての社員としては、研究の手ほどきを先輩から受ける日々だった。しかし、深海棲艦の登場から企業の状況は一変。本業である作物・生物の遺伝子操作ではなく、未知の生命体に対してメスを入れて行くように空気が変わった。
現行兵器では深海棲艦に有効打を与える事は出来ない。護衛艦や戦闘機と比べてあまりにも小柄な敵。戦闘においては、その小さな的である事が鬼門であった。機銃を敵の射程外から撃ち込むのは至難の業であるし、ミサイルと言った類は彼らの防空能力によって防がれる。
おまけに、デカい的というのは撃てば当たるものである。またたくまに護衛艦や戦闘機による防衛行動は、ただただ金と人材が消えて自軍の被害を拡大していくだけであった。
軍事技術の伸び次第ではあるが、人型のドローンを使って奴らと同じ土俵に立とうという考えの元に作られたのが艦娘のプロトタイプである。
だが、計画は頓挫。そもそも的を小さくした所で、ラジコンを操るようになるだけで勝てるならば人類は苦労していない。自己で判断し、その機動力をもって敵艦隊と切り結ぶ。そんな自律型知能と強力な武器が必要となった。
そこで登場したのが、深海棲艦の細胞を人間に取り込み人間自身を強化するという案であった。
ファーヴニルの研究所には、現在では駆逐イ級と呼ばれる個体が冷凍保存されていた。数多の犠牲を経て、サンプルとして得られた1体。軍部から提供された細胞を解析し、人体に組み込み事で同じ力を得ようとした――――それが、提唱された艦娘増産計画の一つであった。
まだ経験の積んでいない若手社員に出来る仕事と言えば、研究に打ち込む事ではなく研究者の補佐であった。自分が付くようになった男。その男こそ、人体実験に躊躇しない思考で研究を続けていたハーミラ・ターナー博士だった。彼から与えられていた命令は一つ。
――――被験者どもが、俺の研究に逆らわないように首輪を付けろ。
原因は不明だが、深海棲艦の細胞は男性には拒絶反応を起こした。実験素体として国の未来の礎となる少女達を従える。それが俺の役目だった。
ターナー博士。彼は非合法に入手した人材を消費して、結果を出すタイプの人間だった。今回の艦娘増産計画では、人体の改造という観点で強靭な肉体を得る少女をつくり出そうとしていた。重量のある装備を背負う力や、傷口の高速治癒といった能力が特に生かされる分野であった。
毎日、毎日。被検体の閉じ込められている少女達に対して起床と就寝の合図を告げる番。廊下に備え付けられていた長椅子が、俺のベットであった。食事が必要ならば与え、彼女らの信頼を得る為に欲しい物があれば買い与える。
――――気の良い看守が目の前にいるだけで、少女らは従順になる。
結局俺は、ターナー博士の行った実験に立ち会った事は一度もなかった。目を逸らしていただけなのが、それが幸せな事だったのだと今では思う。ある時は包帯でミイラの様になって戻って来る。ある時は、気が狂ったように泣き喚く。そんな彼女達を抑える役目。
実験という鞭に対しての、砂糖菓子として。度重なる苦痛を伴う人体実験で、面倒を見る俺に縋り付く事しか彼女らには出来なかったのだろう。俺が出来たのは(行ってしまったのは)彼女達に対して、仮初の安寧を与える事だった。
いつのまにか、独房である子に会う事が楽しみになった。同世代の子に比べて背が高めで金目の女の子。元々健康的に日に焼けて見えた皮膚は、実験や投薬により深海棲艦の色の様に青白くなった。黒髪であったそれは脱色されたように白く輝いていた。しかし俺に見せる笑顔は、最初にあった時と変わっていなかった。
「ねぇ、トーゴー。今日は読む本はないの?」
「相変わらずお前は、読むのが早いなぁ。財布が空になるから少し辛抱してくれ“107”。というか、今回はまたえらく抉られたな?」
「……大丈夫、大丈夫。私達は傷の治りは早いからさっ」
体中を包帯で巻かれて、血で染めている少女。“被検体107”それが人間としての全てを奪われた彼女に与えられた名であり、彼女が彼女である事を示す記号であった。
いくら深海棲艦の再生能力を取り入れたからといって、肉体をバラバラにして良いのとは話が違う。いくら切って継いでも、その傷は深く残る。ましてや心なんて、一度ひび割れたら元に戻らなくなる。東郷の目の前でも、何人もの少女が壊れて行った。
しかしそれに目を瞑れば、ここの看守としての仕事は気楽でいい。鉄格子を挟んだ少女に対して、ご機嫌取りをするだけなのだから。もちろん買い出しという名目くらいしか休みはなく、そうとう精神的・肉体的な疲労は溜まっていたが。
「そういえば、お前達に誕生日はあるのか?それくらいなら誕生日プレゼントを買って来るが。財布はヤバいが、それぐらいなら面倒をみられるが」
「……物は要らないから、思い出が欲しい。そうだ、名前を付けてよトーゴー。“107”じゃなくて、私に似合う人間っぽい名前」
私には何も残っていないんだから――――そういって、アルビノの少女は微笑むのだった。
咄嗟に出たのはtaller。背が周りより抜きんでている彼女の姿。集団行動の際のリーダーシップと“出る杭”である彼女。
「じゃあトーラーで。これからも成長を期待しているぞ」
「……それは、銃の技術とか体術とかの話?何がとは言わないけど“007”と比較したら、許さないからね」
慎ましいとか言ったら、いくらトーゴーでもどうなるか分かってるわよね?……でも良い響きね。トーゴーと似てるから大切にするねっ。
しかし、彼女の姿が独房から消えたのは、そう遠い話ではなかったのだ。
――――水槽の中のソレを見て、傷ついた彼女を美しいと思った。
ターナー博士が凶行に走った。彼にとっての時間が残されていなかったのか。はたまた、人体実験の噂を聞きつけた当局が動いたのかは分からない。
幾人もの少女が、サンプルの過剰投与によって崩壊していった。賑やかだった牢獄は閑散とし、東郷が面倒を見る子もほとんど残されていなかった。お前は用済みとばかりに仕事を追われ、この職場から去る事になったのは必然だったのだろう。今思えば、自分が口封じで消されるのも時間の問題だったと思う。
最後にあそこで何が起こっているのかだけを確認したい。入るなと言われていたターナー博士の研究室に踏み入れる。
そこには人であった何か。異形のモノが散在し、踏み入れた東郷を強化ガラスの向こうから見下ろしていた。
悍ましいとしか思えない光景に、吐き気を催す。堪えて立ち上がり、先に進む。やがて行き着いたのは、正面にある大きな水槽であった――――そこに彼女はいた。体中がチューブで繋がれ、皮膚が裂かれて痛々しい姿を晒している。
目の前で計器を弄る男たちに向けて、東郷はWalther P22を取り出す。このご時世では日本でも、銃を持ち歩く事は黙認されている現状である。
内乱によって銃刀法が機能しなくなったこの国では、一方的に撃たれない為に護身用の拳銃の一つや二つを持ち歩くのは珍しい事ではない。
中学校・高校の教育でさえ銃の使い方を学ぶなど時代錯誤と思った事もあったが、真面目に受けていた事は嫌でも自分に恩恵をもたらしている。
『ようやく来たか、傀儡めが。笛吹き男を気取るのは、もうおしまいだよ』
「こちとら自分の身の可愛さに、反吐が出た所だよクソったれが。彼女達を殺す事に何の意味があったんだよ!?答えろよ!ターナー」
流暢な英語で語りかけてくるリーダー格である白衣の男。旧アメリカ合衆国陣営PSSSの所属で、何人かの研究員と共に自分の実験を行ってきた事を確認している。この男たちが彼女達を狂わせた元凶なら、今ここで撃ち殺す。それが、これまでやってきた自分の行いに対するけじめだ。その後なら、いくらでも地獄に堕ちてやる。
『殺したつもりは無かったのだがねぁ。あくまで彼女達が“耐えられなかっただけ”だろうに』
「……遺言はそれでいいか?まずは死んで彼女達に詫びろ、この人殺しが」
『私を裁いた瞬間に、君も人殺しになるがね。モルモットに心を惹かれた、愚かな看守よ』
互いに継ぐ言葉はなく、ターナーが東郷に向けて発砲する。物陰に隠れて様子を窺うと、遮蔽物の周りを銃弾が跳ねる。
埒が明かないっ。どこかの御曹司とか聞いてたが、趣味は鷹狩りか鼠取りかよ。正確な狙撃に歯噛みする。他の男たちも周囲にばらけ始め、侵入者を殺そうと距離を詰めてくる。
その膠着状態を破ったのは、黒尽くめで武装した集団だった。
「こちらは海上機動隊である。ハーミラ・ターナー博士の身柄の確保及び、軍部へ研究内容弁明に対する出頭命令が出ている。抵抗せず、施設を明け渡せ」
『極東の番犬どもめが。被検体107だけでも回収しろ』
動いたターナー陣営に対して、海上機動隊と名乗った男たちもまた威嚇射撃を行う。
その隙を突いて、東郷は走る。銃撃戦となった研究室を横切り、水槽の中から彼女を引っ張り出す。
「なぁ、おいトーラー!生きているよな?」
「……だ……れ……?」
自分の上着で彼女を覆う。意識を取り戻した少女の焦点があい、金色の瞳が自分を照り返す。
華奢な少女の青白い体。それは何度も注射器に刺されて薬物を投入された結果、あちらこちらがミミズ腫れの様になっている。
人類の礎の為に、何で彼女が犠牲にならなきゃならないのかよ。歯を喰いしばり、少女を抱え上げる。ここにいる事自体が危険だ。身の安全の確保の為にも、彼女を連れ出す。
――――トーラーはこんなに軽かったのだろうか。この少女の命は消え入りそうな程、軽かったのか?“俺達がやっている戦争”というのは、今を必死で生きようとした命を踏みにじっているだけなんじゃないか?
「……泣いて……る?」
自分の頬をいつのまにか伝っていたのだろう。少女の骨張った指先が、涙を払う。
「……悲し……い?」
彼女の問いに対しては、一呼吸おいて答える。
「悲しいけれど、嬉しいんだろうな……。お前を連れ出す事が出来たんだから」
自分のこの行為が、艦娘の技術の発展を遅らせる事になるかもしれない。
それでも……だ。生気を抜かれて、ぐったりとした少女――彼女を助ける事が出来た。
これ以上、目の前の人間を見捨てる事は出来ない。
「どんな命でも、生きられるのなら生きたいだろう」
研究室を飛び出した所で銃声。左足が撃ち抜かれ、彼女を抱えたまま前のめりに崩れる。
『被検体107を連れ出すとは良い度胸だね……私の研究成果を返して貰おうか。成功したデータはあるが被検体107には、まだ実験に耐えて貰わなきゃならないからね』
銃口を自分の額に向けながら歩みを止めない、ターナー博士に対しての答えは一つだった。
「うるせぇ。他人の命を弄んでる人間が、のうのうと生きていているのが気に食わねぇんだよ!」
『ならば、あの世で死人でも愛でているがいい』
その言葉が放たれたのと同時に。トリガーを引いたターナーの肩を銃弾が抉った。身の危険を感じたターナーが彼の部下の方に駆けて行く。
『この借りはいつか返しておくからな!』
「そこの男……止まれっ!クソっ応援要請、一人取り逃した」
防弾チョッキを着用した男が警戒して、こちらに走り寄ってくる。
「そこの君、この施設の関係者か?」
「……誰だ?あんた」
「海上機動隊揚陸部の井矢崎とでも言っておく……オイ、人を寄越してくれ。負傷者込み2名を保護。1人は左足を負傷、弾は貫通してる」
どうやら、PSSSの施設に対して強制捜査が、行われていたらしい。ならば、俺が飛び込む必要がなかったじゃないか。
無線を飛ばしていた黒尽くめが自分の味方だと思ったので、緊張が緩んだのだろう。
痛みと出血で曖昧になってきた東郷の意識は、そこで途切れた。
書きたい話が増え始めて、時系列を揃える為に時間が掛かるかもしれません。先の話は書けているんだよなぁ……。
睦月、如月のレベルが60で足りなかった慢心提督がここに一人。