1/17追記:改稿終了しました。
嫌な予感というのは当たる物だ。本土の連中が南方に大攻勢を掛けるという話は聞いていたが、陽動され、決戦へ向けての資源を運んだ調達用タンカーを攻撃されるとは。
いかにも功を焦った本土連中の顛末らしい。チューク諸島――トラック泊地で艦娘をまとめる東郷
自分は別に指揮能力が高いからここに配属された訳ではない。トラックは南方のカタカナ泊地といわれる各泊地と本土の中継点、何より工作艦明石が配属されている。そんな場所では各指揮官同士の交流も多い。
しかし一概に指揮官と言っても、穏健派や急進派、様々な指揮官がいる。ここトラック基地に一堂に会する場面は少なからずある。
といっても意識を電子化出来る、今の指揮方法では本土の安全な所でふんぞり返る者もいるが。自分の行動が引き起こした事に、慌てて救援要請を出したキャリア組――大村少将もその一人である。
生身の人間同士のいざこざ、それを解決するには、やはり人間が必要である。調停と言えば聞こえは良い。士官学校では問題児と教官の軋轢を対処する。そんな役回り――――もとい押しつけが、今の役職に就かせていると思うと皮肉なものだ。
その性格が今でも災いし、今回も上官の火消しに走る為に部下を危険に晒そうとしている。
上司としては失格だな――と自嘲する事も、最近多くなってきた。
「司令官、良いかい?」
執務室の扉を開けて入ってきたのは、幌筵泊地からの付き合いの秘書艦であるВерныйだ。戦闘を逃れてきた船団が停泊許可を求めに来たのは、つい先ほどの事である。
「タンカーが停泊した。こちらも救援隊の準備は整ったよ」
「そうだな。静観もしていられないし、救援だけで良い。獲物に喰らいついたら、本土から怒られそうだしな」
了解した。指示を待つ――そう呟いてВерныйは執務室を後にする。
――――ヴェル。勝ちに行かなくて良いからな。俺らの役目はあくまで救援だ。戦闘を継続する事で被害は出したくはないし、大村少将に良いように使われるつもりも更々ない
そんな事を思いながら、ヘッドギアを装着する。意識が電子の世界へ霧散し、自分の指揮下の艦娘たちが盤上の駒の様に配列される。各地点をマッピング。闇夜といえど、南方海域はトラック泊地にとって庭のようなものだ。衛星からのデータと照らし合わせ、岩礁の位置などにオブジェクトを置いて行く。
さて、
『――――視界良好。視覚情報のリンクを直結。司令官、見えるかい?』
「あぁ、いつもと変わらない。泥沼の戦場はあまり見たくはないけどな」
『――――了解、Верный、出撃する』
さて、久しぶりの戦闘だ。彼女達に危機が及ぶなら、その火の粉を払おう。
その戦場は凄惨だった。敵の砲火で焼かれた水面は赤く染まり、夜の闇に映えていた。
深海棲艦の砲弾って何を起爆させるのだろう。油も撒いていない、こんな環境で海が文字通り燃えるか?と思う事もあるが、そんな戦場を見るたびに、状況から構っていられない。
視認する限り味方空母一隻、駆逐艦一隻、両艦大破判定。敵艦は鬼クラスと戦艦タ級。駆逐ロ級が複数隻。空母を落としたと言えど、海域を旋回する艦載機は航空戦力を持たないこちらには荷が重い。
どうやら救援対象の艦娘は、中々に実力を持った猛者の様だ。たった2隻で生き残るだけでも驚きだ。
「謝っとくよ、ヴェル。やっぱり倒さないと、好転しなさそうだ。手を抜くと、こちらが沈む可能性が高い」
『――――了解。作戦行動に移る。各艦、第四警戒序列にて航行』
「北上。甲標的の状況は?」
『――――既に展開してる。私ら重雷装巡洋艦はやっぱり、先制雷撃だからねー。んじゃぁ行くよ?」
甲標的による雷撃。不意を突かれた鬼が仰け反った。遊んでいたのを邪魔されたような形相で、鬼がこちらを見る。
雷巡の要は雷撃であり、甲標的と言う遠隔兵器を用いたその試行回数が武器だ。
『――――あちゃー、あれ全然削れてないね。むしろ怒らせたわ』
「北上は、甲標的を回収後に戦線から離脱。次の機会が来るまで待機。タイミングを逃すなよ?」
『――――んっ。了解だよー』
『――――奇襲に失敗して、だるまさんが転んだってか? やっぱ撃破なんか考えずに撤退すべきだろ?』
「言ってる場合か? 摩耶。ここで撃破しなければ、追いつかれて泊地前での戦闘になる。可能な限り武装を破壊するまでは、退くには退けない。各艦、散開。照準補足はこちらでバックアップする。存分に叩き込め!」
『――――了解っ!』
率いられた艦隊が、砲撃を開始する。こちらに振り向いた敵艦にありったけを叩き込む。
『――――砲戦用意!撃ぇー!』
艦隊の先陣をきるのは、中口径砲を装備した足柄。戦闘スタイルは機動力を活かした攪乱。そして本人の性格が災いしての深入り担当である。
案の定防御が疎かになる彼女であるが、俺たちは個人で戦っているのではない。海域に残っていた鏃型の戦闘機を叩き落としたのは、二体の鋼鉄の人形を率いる秋月。その対空砲火の精度にしかり、トラック泊地では不可欠な存在になっている。
『――――助かったわ、秋月』
『――――駆逐艦といえど、本分は対潜と護衛ですから。さて、始めましょう。主砲、撃ち方、始め!』
彼女もまた、両手に10cm連装高角砲を構え、敵艦隊に向かって砲撃する。
足柄が弾倉を空にしたタイミングで、黒髪の長髪をなびかせる少女が入れ替わりで入る。
『――――主砲、二門斉射、撃ちまくれ!』
これまた使い勝手の難しい、武闘派の磯風。無茶をやらかすタイプではないが、駆逐艦という艦種と戦闘傾向がマッチしていないのが難点だ。戦艦タ級に正確な射撃を叩き込む。
戦艦クラスの装甲といえど、先の戦闘で抉られていた僅かなヒビにピンポイントで狙撃し続けるのは彼女の腕次第ということだ。その僅かな隙間に着弾し、内部から圧潰させることで致命傷を与える。
僚艦を落とされ、苦虫を噛み潰したような鬼に雷跡が迫る。
『――――
露払いが終わった戦場で、肉薄したВерныйの雷撃が迫る。爆音と共に火柱が上がり、鬼の悲鳴が闇夜に木霊する。
『――――ここまでお膳立てしたんだから……きっちり決めなさいよ?北上』
『――――いっちょやりますか』
回遊していた北上が反転し、魚雷発射管を展開。怒り狂う敵艦には、その射線へ誤射修正などいらぬ心配だった。ありったけの魚雷が着弾する。
『――――40門の酸素魚雷は伊達じゃないからねっと』
『――――やり過ぎた感はあるが、撤退は今しかない。対象を曳航して離脱。鬼に後ろから撃たれないように』
曳航されてきた少女を見て、何でこの子が――と思ったものだ。特徴的な髪留めは戦闘中に髪ごと焼き切れたのかボサボサだが、縁があった曙か。
こっちを見るなり「遅いっ!このクソ委員長!」とまで言われたから、少々泣きたい。
無事だったタンカーをこの泊地まで誘導してきた、僚艦の潮ともども教導艦として関わる機会があったから懐かしいという面もある。
そんな彼女だって、強がってはいるが大破判定だ。医務室で消毒液に悲鳴を上げていたのは聞かなかったことにしよう。後が怖い。問題はデータベースにない空母の方の艦娘だ。
左舷――――人間でいう左半身のほとんどを喪っている空母の容体は、芳しくなかった。左前腕、左足切断。左頭部に裂傷。右半身に銃創2、背中は大火傷。誰がどう見たって、死んでいるとしか思えなかった。
道中に、流血に躊躇しない磯風が応急手当てをしたらしい。だがその磯風の手際が悪く、悪化しないかはらはらする場面もあったそうだが、何とかトラック泊地に曳航する事が出来た。
明石が血相を変えて集中治療室に運び込んで半日。翌日の昼過ぎに命を取り留めた事が報告された。
「随分、蛮勇な性格らしい。この子は」
「それって、何気に褒めてませんよね」
明石も寝不足で目に隈が出ているが。助手もつけずに治療し続ける方も、蛮勇だ思う――――という言葉は飲み込んだ。
「悪いな、明石。もう一つ頼みたい事が。人工タンパク質繊維の縫合だが、今から出来るか?」
「……多分言われるとは思っていましたが。すいません、ちょっと寝かせて下さい。90分で良いです」
そういって執務室のソファに倒れ込んだ。
人工義手の定着は、手術自体が経過から早ければ早いほど適合が速い。その部分も分かってはいるが、医者が不足するような離島ではその処置を治療と連続で担うのは難しい。
――――提督っていうのは、こんな時に何も出来ないな。そう自嘲し椅子に座る。
防衛大時代には医療分野にも長けた同期もいたが、あいにく自分は、その分野を修業せずに過程を終えている。
蛮勇は悪い事じゃない。ただ、自分自身を見ているようで、落ち着かないだけだ。
集中治療室で眠る少女に視線を向ける。何故だろう、あの子に似ている気がしてしまう。
「馬鹿馬鹿しい、死者が蘇るとでも?」
朝焼けと共に、その呟きは霧散する。
蛮勇=向こう見ずの勇気
どうも一対多の絶望。奮闘する側の戦いは蛮勇という言葉がよぎります。
艦娘の台詞って難しいですね。ゲームから逸れてはいけない、かつイメージを崩してはならない。ここの所の境界がまだまだです。
戦闘はもともと長く書いたのですが、風呂敷を広げ過ぎるといけないので、カットしてます。
投稿に慣れたら、飽きない程度に増やして行きたいと思います。