オーバードライヴ様の『艦隊これくしょん―啓開の鏑矢―』あちらの提督方と東郷中佐の出会いがどんなものだったか。
今回は、それがネジの吹っ飛んだようなものだった―という話です。
(最初は瑞鶴のバレンタイン回にするつもりが……)
二章でもこれから登場して頂く予定なので、ご紹介するのに良い機会かと。
一度検閲をかけて頂いた所「いいぞ、もっとやれ!」と返信して頂きました。
彼らの名誉の為と思う方は『艦隊これくしょん―啓開の鏑矢―』の方にお進み下さい。
軽快な鏑矢のようなギャグでも構わない、という方はスクロールして下さい。
それでも構いませんか?では本文をどうぞ。
うーん、と改大鳳型1番艦。瑞鶴は首を捻る。
おかしいなー。これであってるはずなんだけど。
提督さんの執務室から拝借した『失敗しないデザート作り!』という本を片手に、調理場で一人唸る。
切っ掛けは、小説が多く取り揃えられている本棚に、一つだけ料理本があった事。
暇つぶしにパラパラと捲っていると、そういえばバレンタインだっけ?と思いたった。
まぁ、日頃お世話になってるし―と調理場で悪戦苦闘を繰り返して今に至る。
そういえば、何でこんな本があるんだろう?
ちょっと気分転換しなきゃ。片づけを終え、とりあえず執務室に向かう事にする。
「ヴェルさん、お久しぶりなのです」
ウェーク島に所属する電が、ヴェルに声を掛ける。
「そうか、そろそろ定期連絡の時期か。そっちの様子はどうだい」
「新しい司令官さんが着任されて。ようやく戦えるようになったのです。ヴェルさんの元相棒の響も、元気にしていますよ」
そうか、何よりだ―と返す。
「それで、うちの司令官さんからヴェルさんの司令官さんに、預かりものがあるのですが……」
実は中身は知らないのです―という電に対して、とりあえずヴェルは開けてみようかと答える。
箱を開けてびっくり、二人揃って声がハモる。
「「何なの(です)?これ?」」
「遠路遥々ウェークからようこそ、駆逐艦電。今回は提督が代わった事の報告かい?」
「はいなのです。こちらも忙しくて、なかなかお会い出来なくてすみませんなのです。それと、うちの司令官さんから、書状と品を預かっているのですが……」
その品は?という問いに対して電はヴェルを指す。
「……鍋?」
「鍋なのです」
見間違いじゃない。確かにヴェルの頭に乗っかっているのは鍋である。こら、調理器具で遊ばないの。
着任の挨拶で鍋?……ナベ!? ナベナンデ!?
着任の書状を見ると見知った名前が……月刀だと!?今ウェーク島にいるのか?
待て。あの鍋どこかで見た事がある気が……。
注意されても鍋を被ったまま、執務机の周りをグルグル回るヴェルを捕まえて、手元に持ってみる。
この焦げ跡・・・間違いない。これはあの時の……
冷や汗が止まらない東郷に対して、ヴェルと電ははてなマークを浮かべている。
「ねぇ、提督さん。何してるの?お客さん?」
換気の為に開けていた窓からヒョコッと、瑞鶴が窓の外から顔を出す。
そう、そのタイミングと場所が悪かった・・・。
――――『ハッピーかい?マイフレンズ。どうせ男世帯でつまんないだろうから、義理チョコ持ってきたわよー(笑』
フラッシュバックする悪夢。忘れようと思っていた、素敵な思い出(トラウマ)。
ふっと、体の力が抜けたのが分かる。意識が暗転する。
はわわ、東郷さんが倒れちゃったのです。
そんな電の声を最後に、記憶はあの時の惨状を呼び起こす。
悩んだ末にやっぱり日替わりが一番だな―と券売機のボタンを押していると声を掛けられた。
「――――なぁ、委員長。今日も夕定食の大盛りか?」
「……うん、まぁそうだけど?」
元々宿舎の定食は、辛い訓練でも胃腸に支障がないよう、普通より少なめに盛られる。大食いな訳ではないが、人並みには食べるので確かに今日も―という表現は正しい。
声の主に反応して、振り向いてその人物に驚く。滅多に話す事はないが、俺は彼を知っている。今期で学年一位を争う技術を持つ高峰春斗だった。
「この後予定は、空いてるか?」
という問いに対して、まぁ消灯まではね――と返す。
「じゃあ決まりだな、別腹は残しておけ」
大盛り券を押そうとした僕の指を阻み、どう、どうとカウンターへ並ばせる。
いや。一体何が起こるんですか!?腹パン?吐くから食うなって事!?僕気に障るような事なんかしましたっけ!?
自覚がないが、顔色が悪くなったであろう俺を見て、高峰はニヤリと笑う。普段は真面目そうな堅物だと思ってた。そんな表情するんだ。
「一名様ご案なーい」
……何これ。一体何が始まるの。
連れて来られたのは高峰の部屋である。そこには既に先客がいた。少し大きめの丸テーブルのコタツを挟んで2人。
「どこ行ってたんだっ……て。委員長か!?なんでまた?」
そう驚くのは同期の杉田勝也。遠距離からのスナイプにかけては並ぶ者がいないと評されている。
「まぁ確かに。万が一の保険には最適だよね」
こう答えるのは渡井慧。潜水艦の運用に関してのエキスパートである。
「……で、呼ばれたのは良いが。何を始める気だ……お前ら」
後ろからの声に、東郷の肩がビクッと跳ねる。
振り返るとそこにいたのは月刀航暉、つい先日の演習でコテンパンにされた相手である。
航空戦においての実力は、変態飛行(褒め言葉)とされる実力を持つ空戦の鬼。
この4人が仲が良い事は知っていたが。なんでまた俺が頭数に入ってるのか!?
「今日は2月14日だろ。明日は教官らの会議で訓練と講義は休み。ならやる事は一つだろ」
今の高峰の表情は、まさに悪の権化かもしれない。
――――ブラック・バレンタインデーだよ。
さて、状況の把握に努めようかと思う。
狭い部屋に男が5人。そのうち4人は成績上位の優秀組で、後は凡人の俺。
部屋の照明は常夜灯のみ、丸コタツを挟んでの向かい合い。
視線の先には、どこからか持ち込んだのか不明だが、ホットプレートと鍋……。
そう、鍋である。
「とりあえず、粉末カカオ入れるねー」
「ってか苦っ!銀蝿してきた砂糖入れれば良いか?」
「……まぁ、なんかそれっぽくなった気がするな」
煮えたぎるのは、溶かした粉末カカオを溶かした黒い何か。
食堂から拝借してきたであろう、お玉でかき混ぜている。
これはそう……チョコレートのような何かである。
「今時、加工食品は貴重だからな。原材料や果物はまだ手に入りやすいが」
と、高峰はボールに入ったイチゴやバナナ等のぶつ切りを持ってくる。
「これを串に刺して食べれば“チョコレート・フォンデュ”?っていうのになるんだよね?」
「らしな、このご時世じゃこんな事をやってるのは、俺らぐらいだろうさ」
スタンバイ・オーケーと言わんばかりの問題児達。
そして月刀の号令で幕が落とされる。
「……よし。オペレーション・ブラック・バレンタイン。開始する!」
そしてこの月刀、ノリノリである。こんなキャラなの皆!?
俺の預かり知らぬ所で、なんかヤバい事始めました。この人達。
とりあえずこの騒ぎを、廊下の外へ広げないようにするしかない……。
後で思えば、ここで逃げれば良かったのかなぁ。
委員長と呼ばれる所以である、その面倒見の良さ。これが裏目に出た訳である。
感想を言おう。非常に不味い……。
「いやー。なかなか再現出来ないね」
「いや、むしろ当然だろ」
鋭い月刀のツッコミ。
違う、そういう意味じゃない。
唸る4人を見て、僕は席を立つ。ちょっとお手洗いに……。
帰って来た僕を見ての4人の反応は、皆一緒だった。
「「「「何持って来たんだ!?委員長!?」」」」
僕の両手には一杯の調味料達。ちょっと拝借してきた。
食材を無駄にすると怒られるからね。そういって鍋に手を出す。
まず牛乳を目分量で投入。とりあえずあったバターも放り投げる。
原材料ってこれであってるっけ?と思いつつ、グルグル掻き混ぜる。
チョコレートというよりはココアな気もするが、背に腹は代えられない。
即席のデザートに無理矢理完成させる。
「「「「おぉー」」」」と主催者側。オイ
締めは、朝食用の物を拝借してきたコーンフレーク。
あぁ美味ぇー、食べられるって幸せだ―と皆で一息ついた。
うわっ。この部屋甘ったるい匂いで一杯だ。
そういって、窓を開け始めたのは誰だっただろうか。冬の寒空の中、冷気が流れ込む。
もう十分じゃね?と思う頃、窓の外からひょっこりと顔が飛び出す。
「ハッピーかい?マイフレンズ。どうせ男世帯でつまんないだろうから、義理チョコ持ってきたわよー(笑」
5期の黒鳥のその一人、笹原ゆうである。
門限過ぎてるだろ!?何で男子寮に!?という問いに対しては、意に介せず。
あれっ?何やってるの?と窓から入ってくる。
「うわっ。男5人で闇鍋?委員長、あんたも災難だねー。こんな奴らと組むと碌な事がないでしょ」
うん激しく同意する。今日で多分一生分の驚きを使い切ったと思う。
ねぇ食べて良い?と輪に混ざる。そして鍋に残っていた、もはや雑炊状態のコーンフレークを口に流し込む。
「なかなか行けるんじゃないの?んじゃまぁ。ハッピー・バレンタイン同期の皆さん」
そういって、ラッピングされたチョコレートを渡してくる。
「いやー私的に買っておいて助かったわね。まさか、委員長もいるかとは思わなかった。結構高かったんだから、3倍で返しなさいよ(笑」
まぁどうせ、問題児どもを落ち着かせたの委員長でしょ?うんまぁ―と苦笑いで返すしかない。
「「「「いや。お前も十分問題児だろ」」」」
4人のツッコミに対して、何か言った?と返す笹原。いえ、何でもありません。
そんな事をやっていて、声のボリュームを落とす事を忘れていたのだろう。
――――お前ら何やってる!消灯時間はとっくに過ぎてるんだぞ!
不味い、廊下から見回りの教官の声がする。
「ちょっと!?鍋焦げてるよ!」
「笹原お前!このまま持ってけ!」
「えっ!?何で私が!?」
今日も変わらず夜が更ける。
結局場を上手く収める羽目になった僕に対して、渡井が一言。
「ね。万が一の保険は掛けておいて正解でしょ」
とりあえず一言だけ言いたい。君達と関わると碌な事がないっ!そう断言出来た。
――――気が付いたかい司令官?
看病に付き合ってくれたであろうヴェルの声で、意識が現実に引き戻される。
「過労かい。最近碌な休みはとれていないんだろう?」
自分の部屋だろうか、ベットに寝かされていたらしい。
まぁ、色々な事が立て続けにあったからね。ずいぶん応えたこともあったね。
ふと視線を動かすと何故か、ヴェルの頭には僕のトラウマ=例の鍋が鎮座している。
いや、だから。調理器具で遊ぶのは、やめなさいって。
咎めていると、ふとヴェルが視線を廊下へ向ける。
もう入ってきて良いよ――と現われたのは、瑞鶴だった。
「提督さん。いつもありがとう。これ気持ちですがどうぞ」
可愛くラッピングされたシフォンケーキとマフィン。
あぁ、良かったチョコじゃない。ふと胸を撫で下ろす。
「そういえば、何であのタイミングで気を失ったの?私なんか悪い事をした!?」
心配そうな顔で覗き込む彼女に対して、ただ一言笑って返す。
そうだね。皆との素敵な思い出を、思い出しただけだよ――と。
「提督さん。この本だけ周りから浮いていたけど、どうして執務室にあったの?」
手に握られているのは『失敗しないデザート作り!』というタイトル。
質問に対しては苦笑で返す。
『情報は何よりの武器』というのを、自分に思い起こす為にある戒めだよ――とはとてもではないが言えなかった。
コラボ先の方々の、多分なキャラ崩壊を含んでおります。
いや……軽快の方のぶっ飛び方もおかしいと言えば違和感が(おや、誰か来たようだ