”轟沈と見える描写を含んでおります”
念の為ですが、作者は陽炎と不知火は艦隊で駆逐のエースであるくらいに好きです。
それでもOKな方は、どうぞ。
「思い上がるな、着任したばかりの
怒気の籠った彼女の声は、この先もきっと忘れる事はない。
忘れるはずはない――――それが自分への戒めなのだから。
高緯度地域の定めか、現在の主戦力である駆逐艦が夜戦に持ち込めない。
戦術核の投入から、小一時間。北方海域は未だに、司令部を喪失した混乱から抜け出せずにいた。
東郷もまた、引き継いだ艦隊へ指揮をとりつつ、援軍として横須賀から派兵された恩師に連絡をとっていた。
『――――聞こえますか、東郷大尉。敗走中の残存艦は、こちらで全て捕捉しました。撤退までのタイムリミットは?』
「もって30分……こちらも損傷が軽微だった駆逐隊を向かわせていますが、艦隊中央にいたはずの第一艦隊までが限界です。先遣隊であった駆逐隊の救出は不可能かと」
『――――やむをえませんね。こちらも司令部の再建を行っていますが、深々度リンクをしていた指揮官は根こそぎ意識を持って行かれています。東郷大尉は戦線の維持を最優先。とりのこされた528駆逐隊へはコンタクトを。可能であれば、自力で帰投するようにと』
「了解。ご武運を永野教官」
戦線離脱していたが故に、九死に一生を得ていた東郷。その事態を回避した新人提督に頼り切ってしまう状況は、最悪の事態が継続している状況を如実に表している。
東郷は重責に臆したわけではないが、どうにもならない状況に歯噛みしていた。
「光学補足も双方向振動もだめ。528駆逐隊はどこにいった……」
無事でいてくれ。その願いとは裏腹に、ただ時間だけが過ぎて行く。
戦闘ログを漁っていると、微弱であるが元々いる指揮官へはシグナルを返しているのだ――――ただ、その受け取り相手がいないだけであって。
「ギニョールを使っての、強制スワップ……やるしかないか」
受け取り手がいないのであれば、自分が気絶した指揮官の代わりに乗っ取ればいい。
“白鴉”などという不名誉なあだ名を貰ったきっかけ。禁じ手であるが、この機会を失わないために使うしかない。
その機能を惜しんだ軍上層部が、一般指揮官には秘匿して存在し続けているシステム。東郷自身も変わり者であった永野大尉が教官でなかったら、利用はおろかその存在そのものすら知らなかっただろう。
主戦力が艦娘にシフトした後も、ギニョールは運用に関するバックドア的な存在として残されている。そのため緊急時には、火器管制及び航行能力を強制的にオーバーライドでき。意識喪失や艦娘本体の被弾による管制能力の喪失のフォローを目的とされていた。
エリート揃いの海大で成績を残して、何とか卒業まで漕ぎ着けた。その一因は誰よりもこのシステムに精通し、自己を喪わずに運用し続けられた東郷自身のセンスも含まれていた。
しかし、海軍に教官として着任した永野大佐。もともと戦闘機乗りで空軍所属であった彼は、ギニョールと艦娘とを運用するために出向されてきたのだろう。その運用に関しては、東郷を始めとした“気が狂ったような一握り”にしか教えなかった。
だからこそ海大にいた時に、ギニョールを模擬戦で使ったがために東郷には不名誉なあだ名がつくことになる。目の前とその場にいないはずの人格とをスワップし、戦闘行為に介入する。存在自体は目立つが、身の危険を感じると群れの中に逃げ込む。また機会があれば、別の艦娘へ乗り移り喉笛を引き裂く――――臆病者の白鴉であると。
だがこんな時に生かせないのであれば、何の為の力だ。
528駆逐隊のホストアカウントを強制排除。艦隊と指揮官との間に生じたブランクに、自分のIDを紐付ける。
「スナッチ完了っ。疑似司令網を構築……よし、シグナルは生きているな。528駆逐隊、応答せよ!」
『――――イ タ……ま たく、 絡が遅いんじ ないの!?う の司令は』
「その声はDD-KG01か?待ってろ、回線の出力を上げる」
モニターに反応を返したのは、528駆逐隊で旗艦であったはずのDD-KG01――――陽炎型のネームシップだった。アイコンが大破であることを示している。
旗艦の状況を把握できたことで、戦況報告が東郷の端末に上がってくる。
僚艦の不知火も左舷の大半を喪失。
『――――茶山少佐……ではありませんね。どなたでしょうか』
「526水雷戦隊の東郷駈大尉だ。先程の爆発で、司令部機能は喪失している。528駆逐隊の状況を」
『――――この際、誰でもいいんじゃないの?こちら旗艦の陽炎。あの爆発で夏潮、萩風、嵐と信号が途絶。おまけに被弾してて、火器の照準が甘くなってるから役に立たない。本当にヒドイ有様よね』
視覚情報に載せられた映像には、砲撃に肉を抉られた二人の少女が痛々しく映っていた。
このままでは轟沈する――――その思いゆえに、東郷の口から焦って言葉が飛び出す。
「二人ともっ、支援艦隊を向かわせる!それまで持ちこたえてくれっ!」
『――――思い上がるな、着任したばかりの
返ってきたのは、朱色髪の少女の冷笑だった。
『――――自分の力を過信するなっ。私たちは戦う艦娘で、あんたは指揮する指揮官だ!』
その壁は、どんな場合であっても越えられないのよ――――陽炎と名乗った少女の言葉に、東郷は反論できなかった。
『――――自分の死に場所は、自分で決めるわ。長門たちが離脱できるまで、あと何分?』
「……あと15分で済ませる」
『――――十分です。20分なら稼げます』
そういった桃色髪の少女が、連装砲をリロードする。
――――死ぬ覚悟で、足止めをするっていうのか。この子たちは。俺はそれを許して良いのか?
提督として着任しても、自分があの時と同じく無力な人間であることを思いだすのは変わらない。
「それでも……君たちを、見捨てて良い理由にはならないだろうっ!」
『――――……その言葉だけで十分よ。不知火、ヘタルにはまだ早いわよ。いけるわよね?』
『――――当たり前です。この程度の負傷ならば、戦闘続行に支障はありません』
彼女たちの強がりだ。航行機能が消失しているからこそ――助かる見込みがないから、殿を任せてしまうのに。それでも彼女たちは武器をとる。
乗っ取っている二人の視覚情報には、朱色と桃色の髪の少女が向き合い笑っていた。
『――――ほら、シャンとしなさいルーキー。私たちは、自分の火器管制がオシャカなんだから。あんたが介入に使ってるシステムで、サポート頼むわよ』
『――――
二つの炎は、その身を焦がしながら最後の煌めきを見せる。
『――――私たちの命を使いなさい。陽炎型の誇りにかけて、ここは誰も通さないわ』
『――――ここで無意味に沈むよりはマシでしょう。ご命令を東郷大尉』
答えは、一つしか残されていなかった。
「真面目にやると、乗り物酔いするからな。二人とも。ジェネレータの出力はこっちで合わせる。動きたいようにやってくれ」
『――――了解。不知火?外したら承知しないわよ!』
『――――自動照準がなくとも、十分です』
『――――上等ッ!』
彼女たちの艤装のコントロールを掌握する。被弾で認識していなかった武装やタービンにマニュアルで動作を与えて行く。水を得た魚の様に、二人が物陰から戦場へ飛び出す。
こちらの駆逐艦2隻に対して、何倍もの水雷戦隊を叩きに出る。その射撃は確実に敵艦船の装甲を抉り、爆散させる。
東郷などよりも、よほど歴戦の艦娘だったのか。二人が万全の状態であったなら、苦でもないのだろう。
『――――次っ!二時の方向ッ。面舵まわせぇ』
あくまで、東郷は二人の戦闘をサポートしているに過ぎない。ギニョールシステムの本来の使用方法である。彼女たちの人格の掌握は、今の東郷には出来なかった――――少しでも、彼女たち自身である時間を奪わないように。
20分――――二人はその時間を稼ぎ切った。
周囲の敵を一掃し終わったあと。弾薬も燃料が尽きた2隻の駆逐艦は、文字通り燃焼した後だった。
せめて最後は苦しまずに逝けるよう、痛覚だけは完全にロックした。陽炎には余計なお世話よ――――と一蹴されたのだが。
『――――どうせ、視覚情報まで乗っ取ってるんでしょ?なら覚えときなさい。あんたが味方を逃がすため――守る為に喪った対価ってやつをね……でもありがと。おかげで犬死しなくてすんだわ』
『――――陽炎と不知火の最後、見届けて頂けますか?……それだけで十分です』
「……艤装のコントロールを自閉モードに移行する。残ったエネルギーは生命維持にまわせるはずだ」
本当に、余計なことを――――そういう陽炎の表情を、不知火の視覚情報からは伺えなかった。
それでも通信が途切れるまで、二人の記録は確かに残されていたのだ。
「まったく、生真面目だねぇ。東郷中佐は」
「お前らもわざわざ時期外れの盆休みを使ってまで、幌筵まで来なくて良いんだが?」
「古巣には、遊びに行きたいと思わないかぁ?」
大きめの和傘を傾けて、中に入れてくれる隼鷹の指摘に、東郷は笑い返すだけだった。
あれから4年。白夜の鐘――――あの事件で殉職した軍人の慰霊碑は、最寄りであった幌筵泊地にそびえ立っている。
実家にでも顔を出してこい――というと。身寄りがいると思うか?と艦娘たちには返された。そんなこんなで、東郷にとって知るメンツが集まっての小旅行になった――生憎の雨であるが。
もともと、両親が健在であれば艦娘として戦場に立たせようとは思わないだろう。
ここにいるのは、身寄りを喪って生計を立てるために軍属になった子がほとんどだ。
ここに祀られている彼女たちも、スラム街で過ごしていた所をスカウトされたのだろうか。
「しかし……妙な気分だな。血の繋がっていない姉妹艦の墓参りをするなどとは」
「不満だったか?磯風」
手を合わせ終わり、雨で黒髪を濡らすのはその12番艦である磯風。そんな彼女の表情は穏やかであった。
「いや、こうして顔も知らない姉様たちに会いに来るのは……不幸でもあるのだろが、嬉しくもあるんだ。司令」
だってそうだろう?あのとき戦っていたのが中佐でなかったら、誰が姉様の最後を伝えてくれるんだ?――――彼女の瞳は、あの時の姉妹と同じ色で揺らいでいた。
「それでも。俺は、間違いなく二人を沈めたんだよ」
「だとしても……だ、司令。あのとき離脱できた艦娘が、この数年でどれだけ活躍出来たと思っている?それで救われた命がどれくらいだと思う?」
話に聞く姉様なら、笑い飛ばすだろうな――――そういう磯風はまるで、あのとき自信を誇っていた少女の面影に重なる。
「なんだ?司令。置いて行くぞ?」
「……いや。やっぱり、君らは姉妹艦だよって思っただけさ」
雨雲の切れ間から、日が差し込んでくる。頬に光が当たった磯風が、華の様に笑う。
一足先に離れていたВерныйと隼鷹――――ここ幌筵泊地で共に過ごした艦娘たちが、こちらに視線を向ける。
「道中のクリリスク市に、友人と通ってた良い酒屋がある。ついてきてくれた礼に奢るよ」
「弔い酒たぁ、気が利いてるねぇい」
「隼鷹は飲む量を考えた方がいい」
ヴェル……お前も他人の事は言えないからな?かつて、司令長官室からウイスキーを銀蠅していたくらいの酒好きであるからな。
「生きていれば、あの子らも酒が飲める年齢だったのかな?」
お供え物に缶ビールを置いて行ったのは、まずかっただろうか?
『――――何年後でもいい……もし、あんたが“陽炎”を使うってときには、こき扱ってやるわ。感謝しなさい?それじゃあ……ね』
『――――直接、顔を合わせられなかったのが残念です……またいつか、お会いできれば。そのときは、宜しくです』
それを最後に、聞こえなくなった彼女たちの言葉。
あのとき、彼女たちがいたから。自分はここまで来れたのだ。
『――――東郷大尉』
ふと呼ばれた気がして、慰霊碑へ向けて振り返る。
光の中で、朱色髪の少女がこちらへ手を振っていた。桃色髪の少女が、不器用に微笑んで敬礼をしていた。
「十分、感謝しきれないよ。陽炎、不知火。これからもよろしく頼む」
強い風を受けて、制帽を深く被り直す。次に目を開けたとき、その姿は消え去っていた。
資源が尽きてます。風雲でません。
あと一週間でどうにかなるか?