艦隊これくしょん~鶴の慟哭~   作:エーデリカ

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いい加減に、井矢崎少将を出したい今日この頃。次回はっ、次回はきっと出せる(かもしれない)

本文中で使われてる英文はJavaの警告・エラー文をそれっぽく使っただけなので、意味の整合性はとれてません――あしからず(いや確かに大学ではやってたけど、苦手でさorz)

アメリカ東西戦争やPSSSの背景は、オーバードライヴ様より提供・立案して頂いております。この場を借りて、お礼申し上げます!

それでは、どうぞ


三章 激震!横須賀動乱編
三章-1 宵闇を飛ぶ


――――これは一体、いつから見始めた夢なのだろうか。

 

一面が赤く染まった世界。全身に負荷がかかるかのように、体は重い。血糊で赤黒く染まり、制服で無事な部分を探す事の方が難しい。

 

視界には、培養液か何かに放られている景鶴の姿がある。カプセルを叩き何かを伝えようとしているが、あちらの声は聞こえない。

 

その場に響いたのは、聞きなれぬ声の英語。

 

『まだ、抵抗するかね?東郷中佐』

 

俺に銃口を突きつける、白衣の男が尋ねてくる。上等だ、馬鹿野郎――――自分も英語で男に返す。

 

『何度でも言わせて貰う……お前がやってるのは、祖国の為じゃない。己のエゴを押し通しているだけなんだよッ!』

『そうか……残念だ。あの世で彼女と再会できる事を祈っているよ』

 

私からのプレゼントだ、受け取りたまえ――――撃鉄が起こされる。

 

――――夢の中だと言うのに、手に馴染むのはWalther P22。軍から支給された拳銃ではなく、しばらく使っていないコレだとはな。

 

眼前の敵に対して引き金を引き、銃声が鳴り響く。

 

俺の夢は、ここで覚めるのだ。

 

 

 

 

 

「――――クソッ」

 

トラック基地を出港する少し前からか?あの夢を見始めたのは。

 

輸送艇の客室に吊るされたハンモックに揺られながら、今朝の寝起きも最悪だったという表情をする東郷。

 

「また、あの顔なし野郎を仕留めそこなった……」

 

夢に出てくるたびにお互いが銃を向けあうとか、そいつと前世できっと何かあったに違いない。といっても顔がおぼろげで、誰かも分からない状態なのだが……。

 

それにしても夢の中で登場するのが、何でよりによって景鶴なんだよ。俺ってそんなに欲求不満なのか……。部下をそういう目で見れば、指揮官失格だなとは思う。

 

自己嫌悪のループ……というか最低だろ俺。

 

いかん、いかん。このままだと部屋から出ずに一日が終わる。いつのまにか時計を見ると、予定の時間が迫ってきている。とりあえず制服に着替えヘッドセットを身に着ける。

 

 

 

 

 

電脳世界へのダイブ。今となっては当たり前になっているが、その技術は計り知れない。メールや音声のみでの交流が、人の意識や感情を1と0に還元し広大なネットの海にばらまく。

 

人という残滓が無数に転がっているのだから、その欠片を集めた人工知能がそろそろ作られても良い時代だとは思う。話に聞けば、環礁棲姫とカテゴライズされた種はネットの海を潜って情報を取得していたらしい。誰がどこから見ているかは分からないものだから、より気をつけなかればならないと戒めて。

 

そんな風に考えながらも、いつものチャットルームで感じたのは違和感。待ち合わせの時間になっても高峰が現れない。アイツはまめだから1時間くらい前から、ログインしてるんだがなぁ――呟きつつも、直後背筋を這うような悪寒に襲われる。脳裏に鳴り響く警告音。

 

――――この電子空間に、何者かの侵入を許している!?

 

慌ててポップアップウィンドウを呼び出し、この異常事態について指を走らせる。そこで莫大なエラーコードや警告の波に流されかける。

 

E4756: Warning, None of the ciphers are valid. 『警告、暗号化方式が無効化されています』

 

畜生。侵入者はここのプログラム自体を、書き換えながら邁進してるって訳かよっ。

 

E4212: Server is already suspending all operations. 『管理者は、既に凍結されているサーバーを凍結モードにしようとしました』

E4213: error-code while stopping databases. Please make sure suffixes are online. 『サーバーを凍結モードにするときにエラーが発生しました』

 

どうやら、高峰の接続すら拒絶しているらしい。自分の情報処理の腕ではかなわないかも知れないが、やらないよりはやるだけましだ。こっちからも解除を試みるが、反応がない。マズイ、完全に隔離されている。

 

「ご丁寧に管理者権限まで偽装して、この電子空間ごと切り取りやがったのかよオイ!」

 

このチャットルームが、高峰の手から離れているのは疑いようがない。直近の通信記録の完全削除は間に合った為、情報流出は防げるはずだ――――自分の記憶から、敵に情報抽出されなければ……の話だが。

 

C4193: Plugin 'name' (op-type plug-in-type) signaled an error (error-code) 『外部または内部の操作後、プラグインがエラーを通知しました』

C4219: ldap-error-msg Entry "dn=DN". 『無効なパスワードポリシーエントリを検出し、移行前の検証に失敗しました。サーバーは、エントリの移行をそのまま続行します』

C4765: SSL_OptionSet return-code error error-code ( error-message) 『クライアント認証要求プロパティーを設定できませんでした』

C34821: Error: This (ACI) ACL will not be considered for evaluation because of syntax errors. 『このアクセス制御命令は、エラーのために無視されます』

 

強制的に接続を切って離脱するか?現実世界で意識が戻らない可能性があるが、これから横須賀で、井矢崎少将との接触を読まれるのが最悪のパターンだ――背に腹は代えられない。

しかし突如、電子空間を文字通り割いて表れたキューブ状の物体。その出現に東郷は対処する為の判断を止める事となる。

 

『――――ハロー、昨夜は眠れたかな東郷中佐。横須賀へ向けての航海中、ご機嫌はいかが?』

「……お客人がいなかったらリラックスは出来ただろうな。お前はいったい何者だ?ここは高峰の奴が管理してるはずだ。交信の電子妨害はともかく部屋を乗っ取った挙句、元の部屋主を追い出すとかどこの諜報機関のクラッカーだ?」

 

内閣情報準備室(CIRO)か?それとも特調三課の電脳特別諜報班か?軍部ら身内からの介入であったら、このチャットルームのセキュリティへの介入も少しは上層部のサポートがあるだろう。それも真っ黒な連中からの差し金と言う訳だ。

 

『――――そうね……私にも色々名前はあるけれど、今はスクラサスって名乗ろうかしら?』

 

普通に聞く分には、耳障りな電子音声はスクラサスというらしい。

 

「じゃあ、聞くがスクラサス。俺に何をしに来た?殺す事が目的って訳じゃなさそうだ……お前ほどのクラッカーなら、アクセス中の俺の脳神経を通信過負荷で焼き切るのも朝飯前だろうが」

『――――だから、敵じゃないんだってば。あーホントに面倒な男なんだから……良い?景鶴の出自を調べるつもりでいるのだろうけれど。その判断がいずれは、貴方自身の身を滅ぼすわよ』

「それは警告か?クラッカーの分際で」

 

そもそも横須賀行きを仕向けているのは、景鶴に対する上層部の対応がおかしいからだ。おまけに先日のトラック泊地強襲の際に近隣海域の封鎖を行ったのは、景鶴に長く関わっている俺ごと抹消する可能性があったとも考えられる。

 

目の前のキューブはクルクルと回転し、その意思を伝えようと口を開く。

 

『――――珍しくワタシが、善意で言ってるんだから大人しく従いなさい』

「……アンタの珍しいがどれくらい珍しいかは知らんが、答えはNoだな。景鶴の件は、決着をつけなきゃ話にならない。既に殺されかけてる身だから、ご忠告だけは受け取っておくよ。どうもありがとう」

『――――はぁ。やっぱりそう言うと思った。“これから”が大変だわ……』

 

呆れ半分を含んだキューブの回答に、東郷も肩を竦める。

 

「そんじゃあ“これから”も頼むわ、スクラサンさんよ」

『――――あぁもう、高峰君の追跡は早すぎ!こっちの妨害用トラップをとことん破壊してるし時間がないっ。……次にワタシと会う事がない事を祈るわ、東郷中佐』

「こっちもお前みたいなお節介役は、高峰一人で足りてるから十分だ」

 

現れた時と同じように浮遊したキューブは、空間の裂け目へ吸い込まれていった。

 

C4214: Server is now [frozen|thawed]. 『サーバーは、凍結モードに正しく設定されたか、凍結モードから戻りました』

 

そのメッセージの直後。珍しく焦った口調で、高峰のアバターが出現する。

 

『――――クソッ、また逃げやがった!スクラサスの野郎、尻尾すら掴ませねぇ』

「幻視と言われたお前が手こずるとか、世も末だな高峰」

 

防衛大時代の同僚。高峰春斗中佐――いや出世して今は大佐だったか?そんな彼が編成予定の即応打撃軍についてを無視してまで、わざわざ連絡を寄越して来たのだ。

 

予想外のトラブルがあったが、まぁ時間的なロスもないしここからは予定通りか。

 

『――――それで……アイツに、何て言われた?』

「景鶴の出自に関わると死ぬぞ――って警告されたよ」

『――――ホントお節介な奴だな。だが、引っ込む気はないんだろう?』

 

あらかた、情報の裏は取れてる。あとは実行に移されるタイムリミットが知れればいいくらいだ――――高峰が添付資料を東郷に放ってくる。景鶴が思い出したという“艦娘に関わる研究所”というキーワードから洗いざらい調べて貰っていたのだ。

 

『――――お前が知っての通り、現在の日本の軍需産業は平菱インダストリアル社とポセイドンインダストリー社の2強状態だ。だが、それでも下請けやらで生き残っている中小企業も多い』

 

確かに工業は弱肉強食と言われるかもしれないが、平菱とポセイドンは別格である。

 

『――――その中の一つ、六連星(むつらぼし)造船の動きは他の企業と異なっている。受注数は他社と大差がないが、株主総会で発表されている売上高が明らかに盛られているんだよ。探りを入れたらビンゴだ――旧アメリカ合衆国陣営に所属していたPleiades systems surface ships=PSSSとの癒着の可能性が大いにある』

「艦娘の技術を、非合法に輸出していると?」

『――――帝政アメリカに変わってからは、平菱が利権を獲得しているがな。それをよしとしない旧合衆国陣営が“独自の”技術でシェアを奪おうとしているのかもしれん。景鶴が記憶を失う前に、艦娘の素体となる人間の情報が抽出された可能性をかんがみると頷ける』

 

アメリカ東西戦争――旧アメリカ合衆国中心とした東側陣営とサンフランシスコで独立宣言をした帝政アメリカ西側陣営による内紛。第三次世界大戦は多くの爪痕を残したが、大国であるアメリカ国内ですらも紛争が起こった事から、この戦いについても挙げられることが多い。

 

現在アメリカと言われる国は、勝利した西側陣営の帝政アメリカを指している。

 

「ミッドナイト・サン……白夜の鐘事件だけでなく、帝政アメリカ様まで絡んでるのかよ。うちの景鶴は」

『――――そう泣き言をいうな。守りの東郷の名が廃るぜ。惚れた女の一人くらい守って見せろよ』

「言ってくれるじゃねぇか。お前だって、青葉を大事にしてやれよ?少しは気持ちに応えてやれ」

 

ここまでくれば、互いに継ぐ言葉は要らない。

そろそろ到着か……横須賀で待ってるぞ――高峰の言葉を最後に通信が切られる。

 

分かってるんだよ。戦えない俺はせめて、艦娘達が笑って暮らせるように後顧の憂いを断つ事しか出来ないんだからな。

 

残された東郷の呟きは、チャットルームに消えて行った。

 

 

 

 

 

「あぁ、もう。また失敗したっ!これだから面倒なのよ、委員長は」

 

とある部屋の一室で、女性がヘッドセットを床に叩きつける。こっちからのコンタクトに、どれだけ無理をしたと思っているのだ。もうこの回線は抑えられてしまったし、また違う物を用意しなければならない。

 

「仕方ない、行くよ川内。“当初の”予定通りの手筈で頼むよ」

「”当初の”って最初から諦めてるじゃん、司令官。結局、東郷中佐にはフラれちゃったの?」

 

暗闇の中に、川内の姿が浮かび上がる。

 

「臆病者だったら、私が喰っていたんだけどね。中々に強情だよ、あの男は」

「まぁ私も、景鶴を危険に晒したくはないしさ」

「その為に、アンタをこっちの世界に呼んだんだ。守りたいならビシビシ働きなさい」

 

あいあい。しかし川内が気にしているのは、そっちではなく会場に向かう時の服装であった。

 

「で、ホントに私がコレを着ていくの?」

「え?良いじゃん。カッコいいと思うけど」

 

そう言って夜鷹は笑う。正直の所は着せ替えをさせて持っていくという、彼女にとってただの気まぐれなのだが……。

 

横須賀――――そこは極東防衛の最前線であり、同時に複雑な思惑が絡み合う黒い世界なのだ。

 

今夜も夜鷹は、光が射さない宵闇を飛ぶ。




スクラサス――いったい何者なんだ……。
なお読者層の傾向を見ると、慟哭の読者のほとんどが知っている気がする模様。

もし気になる方は、オーバードライヴ様著『艦隊これくしょん―啓開の鏑矢―』へお進み下さい。
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