艦隊これくしょん~鶴の慟哭~   作:エーデリカ

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投稿速度が遅れてるのには理由がありまして……
ぶっちゃけ社交界以降は書けてるけど、時系列考えると物語は進められなくなってます(苦笑
今回⇒白夜の鐘(過去編)⇒社交界⇒1-5対潜哨戒みたいな。
三章を終わらせるだけで二ヶ月くらいかかりそう。

それでは、どうぞ。


三章-2 だが、実際は違った

ワタシが私に語りかける。

 

――――お前は、何者なのだと。偽りの肉体を得てなお、何故生き続けようとするのか。

 

私にはワタシへ答えられなかった。

 

 

 

 

 

『俺はしばらく528駆逐隊(ココ)の仮眠室で寝起きするから、ホテルの部屋は一人で使ってて良いぞ。景鶴』

『東郷クンは小心者なんだからぁ――――はっ、まさか駆逐艦しか興味がないロリk』

『やかましい!それ以上言ったら、蹴り飛ばすぞ!』

 

という事で、部屋の鍵を渡されただけに断る訳にも行かない。艦娘とはいえ船旅は疲れるし、そろそろふかふかのベットで寝たいものだ。

 

部屋の鍵――――1枚のプラスチックみたいなカードを渡された。

 

これが鍵?鍵って言えば、金属製のこう……ぐるっと回す奴よね?

 

――――ここで思い出して頂きたいのは、彼女は一度エピソード記憶や意味記憶の全てを喪っているのである

 

かつて横須賀にいた事もあり場所は分かったのだから、ここまでは順調。しかし、ホテル入口でつまづいてしまった。手動ドアが当たり前の宿舎で過ごしていた為、そもそもホテルとは『泊まる所』以外のなにもかもが分からない。

 

「何これ……どうして、扉がいくつもついているの!?」

 

彼女の目の前にある、ガラス張りの回転ドア――彼女にとってドアとは“押すか引くか”の概念でしかなく、どうすればいいか分からない。

 

とりあえず、“左側”の羽を押してみる――――動かない。ならば引いてみる?えっ、でも手すりがついてないじゃない!?

 

仕方ない。手すりがついている“右側”を引いてみる――でもこれって、同じ方向に動かそうとしているだけなのよね。夜遅くなものだから他に来客もなく、5分ほどガラス張りの円柱の中で格闘する。

 

「何をやっているの?あなたは……」

 

諦めて提督さんに電話しようと思った時、救世主が現れた。

 

「加賀っ……さん!?」

「これだから、五航戦の子は……」

 

景鶴の手を引いて、加賀は悠々と右側の扉を押して進んでいく。

 

 

「たまたま私が通りがからなかったら、あのままだったのですか?……って景鶴!?」

 

非常階段に進もうとしている景鶴を、引っ張り慌ててエレベーターに放り込む。お節介のつもりが、階段昇りには派生させたくない。ランプが7階に点灯する。

 

「エレベーターの使い方はこうよ。覚えておきなさい」

「ねぇねぇ、加賀さん見て見て!外の景色が下に流れていくよっ!」

 

目を輝かせて外の景色を眺める景鶴を見て、加賀は溜息をつくのだった。

この子の世間知らずは、いつ治るのだろうかと……。

 

キーカードを通して、701号室とナンバリングされた部屋に踏み入れる。

 

机の引き出しを開けた所で、『聖書があるっ。時間を持て余したら読み切ろう!』との景鶴の発言は、聞かなかった事にしようと思う。

 

「ねぇ、加賀さん。これが井矢崎少将からのお届け物らしいんだけど……」

 

紫紺のドレスを引っ張り出す景鶴。それも結構、値段が高そうなものだ。その時に、床に落ちた小袋の一つを拾い上げる。

 

「突撃一番?加賀さん、これなぁに?」

「馬鹿っ、止めなさい!」

 

加賀の制止が聞こえなかったのか。興味津々といった景鶴が、丸星印の書かれた小袋を開封する。

 

出てきたのは……いわゆるラテックスやポリウレタン製のアレである。

 

「コレって結構伸びるけど……何に使う為の物なの?加賀さん」

「……この子はコウノトリが赤ちゃんを運んで来るとかを、本気で信じていそうね……」

 

無邪気過ぎて、逆に見るに堪えない気持ちになる加賀。

びよーん、びよーん。引っ張って遊んでいる景鶴の扱いに途方に暮れる。

 

景鶴に気づいて貰うには、なかなかのハードルみたいである。

 

「その小袋は東郷中佐に預けておきなさい。絶対に……絶対に他の男性には渡さないようにしなさい。良いかしら?」

 

夕ご飯はまだなのでしょう?宿舎の食堂に行きましょう――――とりあえず開封されてしまったブツをゴミ箱へ放り込み、念を押して景鶴をこの部屋から連れ出す。

 

一日くらい匿っても、赤城さんには文句は言われないでしょう。

 

「東郷中佐。景鶴の事、宜しく頼みます」

 

貴方であれば、この世間知らずを間違った方向には連れて行かないでしょう。そう呟いて、この場を後にする。

 

「523航空戦隊。私と赤城さんが留守の間の横須賀は任せます」

「分かってる。加賀さんも、即応打撃軍の方で頑張ってね」

 

私の跡を継いで貰う為に、貴方を育てたのですから。

 

技術の吸収は、今の翔鶴・瑞鶴よりも圧倒的に早かった。私の手の届かない所まで行くであろう貴方を、手元に繋ぎとめて置きたいと思うのは私の我儘でしょうか。

 

願わくば、私と貴方が共に歩み続ける時間。それが、少しでも長く続けば良い――と加賀は思うのだった。

 

一晩くらいは、この子を自由に扱っても罰は当たりませんよね。

 

 

 

 

 

「こんな、夜更けに来客とはね……眠れなくなって、故郷が恋しくなったかい?」

「うちのВерныйを連れ込んでいるのは、どこの誰ですか……まぁ、そんな所です。兄の命日も近いですし」

 

井矢崎の執務室には、モニターの映像をじーと見続けているВерныйがいた。見たところ中身は落語の様子だろうか。

 

「まぁ、座ったらどうだい?コーヒーでも入れよう」

「頂きます。ブラックでお願いします」

 

3人分のマグカップを机に置き、来賓用のソファに腰掛けた井矢崎が口を開く。

 

「ミッドナイト・サン――――俗にいう“白夜の鐘事件”。あれは、艦娘の使用を認めない一派を粛清した一件だが……年端もいかない少女達に、武器を持たせて平和の為にと深海棲艦を殺させる――確かに現在の戦い方も、人道的ではない方法だとは思うがね」

「……それでも人間は、艦娘を使う事でしか深海棲艦に抗えなかった」

 

東郷のスタンスとしては“守れるものは守る”のである。犠牲と言う思考を一蹴したりはしない。

 

今なお深海棲艦との戦争に人類が負けていないのは、彼女達が身を捧げて国を守っているおかげなのだ。だからこそ彼自身は、提督として上司に立つこと以外では艦娘達の要望を可能な限り対処してきた――――それが、この戦争で生き残る為の処世術だと分かっているからだ。

 

艦娘でない自分達は非力だ。だからこそ自分は彼女らを敬い、蔑んだりなど絶対にしない。そんな事をすれば、兄妹の仇をとれなくなるのだから。

 

彼女達は武器であり、手足の様に操れて自分の意志を再現するもの。その考えを持ち続けて入る。士官学校での『艦娘を、兵器と思え』という教訓は否定できない。

 

「そうだ。今でも艦娘がどのように誕生したかは、一般向けには秘匿されている。解釈の仕方は人それぞれだが、同時期に表れた妖精と呼ばれる存在が関わっているのだ……とね」

「……だが、実際は違った」

 

カップの中には、東郷自身の顔が写り返す。

 

「艦娘の艤装が、なぜ人を選ぶのか?表向きには、艤装に惹かれているという表現を使っているが実際は違う」

「……メモリアル・ストックによって抽出した、人間の思考の傾向を200パターン程度に分別する。選定された記憶からくる経験に合わせて、艤装が妖精によってチューニングする事で艤装と艦娘との適合は行われているからね」

 

だからこそ響は、Верныйで足り得るのだ。そこにいるВерныйと月刀の元にいる響だって、ただ容姿が似ているからという理由だけで同じ艤装を任されたのではない。

 

個人の艦娘適性を国が素早く判断できるのは、メモリアル・ストック=記憶を抽出して、データとして保存する技術の恩恵によるものだ。

 

人間が生きているうちに、その記憶をコピーし保管する。痴呆にでもなれば、正常だった頃の記憶を疑似的に与える事が出来ると言う、元々医療分野で使われていたものだ。

 

その記憶の吸い出し技術を、死んだ人間をあの世に送る時に“思い出”として残せないか?深海棲艦との戦闘が激化して、暴動やテロにより失われる人命も多い。いつ死ぬか分からない世の中では瞬く間に流行り出し、やがては政府主導で実施されるようになった。

 

しかし記憶のバックアップを取ると言う名目から、人間の性格や傾向を探る為に利用される事にそう時間はかからなかった。

 

艦娘とは艤装に選ばれるのではなく、国が艤装を使わせる者を選んでいると言った表現の方が正しい。

 

「だから4年ほど前の、PSSSへの強行調査があったぐらいですから」

「……まだあの子に、舞ちゃんの記憶を使った事に後悔しているのかい」

「あの件はあれで良かった……今はそう思っています」

「それが、今の彼女が景鶴として成り立ったただの器だとしても?」

 

それでも……です――彼女が笑えるようになったのなら、それでも構わない。

 

「あの判断が例え、彼女を艦娘として駆り立てる要因になったとしても。生きているだけの空っぽの人形であるよりはマシだったと思ってます」

「……再び彼女が、君の前に現れたのは偶然だと思うかい?」

 

井矢崎の問いには、無言で返す。その反応をどう捉えたか分からないが、井矢崎がテーブルの上に数枚資料を滑らせる。

 

「私は運命だと思うけれどね。あの時、取り逃がしたターナー博士――再び日本に接触してきている様だ」

 

資料の写真には、見覚えのある顔がある――――PSSSの強制捜査で遭遇した、あの男に似ている。

 

「ハーミラ・ターナー博士――――アメリカ東西戦争当時、合衆国陣営の副大統領の御曹司か」

「当人が人体実験の才能さえ持ってなけりゃ、“白夜の鐘”後の仙台は平和だった気がします」

 

おかげさまであの一件が、本家のコネを使って誤魔化す羽目になりましたけどね――翠ばあちゃんには、頭が上がらないわ。

 

今度は六連星(むつらぼし)造船での対面か。あの男……諦めずに来日とは、その精神には敬意を表しよう――――もちろん、協力する気などさらさらないが。

 

 

 

 

 

思い出話も少しはするが、後には続かない。コーヒーを飲み終わった所で、時計が2時を回っている。

 

「話を中断させてしまってすまない、全部見終ったから返すよ。“二番煎じ”の話が面白かった」

 

どうやら、Верныйの方の要件も終わったらしい。落語を生で見る機会があれば、面白いのだろう。

 

まぁ本土――という事は、娯楽に苦労しないものだ。私的な通信ですら限られてる離島では、読書が日課な東郷にとって映像媒体とは手に余るものである。

 

「それでは、これで失礼します。井矢崎少将。そういえば……自分の一室にプレゼントって、何を置いておいたんですか?」

「んー。明日、景鶴に来てもらえるようなドレスと突撃一番だけど」

「………………分かりました。とりあえずこの件が終わったら吊るしますので、覚悟しておいて下さいね」

 

行くぞ、ヴェル――――執務室には井矢崎の姿だけが残った。

 

仮眠室に戻ろうとする東郷は、心の中で思う――――どこかで、否定したかったのかもしれない。あの赤い夢に出てきたのは、あの男なんじゃないかと。

 

今度こそ景鶴を守る、あの時のようにはさせない。東郷の後ろ姿が、常夜灯のみに彩られた廊下に消えて行った。

 

あの赤い夢が、正夢にならない事を祈るばかりだった。




イベントの告知が来ましたねー。皆さん準備は出来てますか?

うちの瑞鶴98。大和武蔵97がアップを始めました。
なお、資源が70000しかない模様。
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