艦隊これくしょん~鶴の慟哭~   作:エーデリカ

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公務員試験の勉強がまだまだ足りない。おまけに卒論のES提出が明日……。
一日が72時間くらい欲しいエーデリカです。

合間を縫っての執筆なので、最近書きたい話になってない気がする。
とりあえず時間軸は現実に戻ってきました。横須賀編も、そろそろ折り返し地点と言う所。

それでは、どうぞ。


三章-3 私が守ると決めたんだ

 横須賀に着任してはや数日。ブリーフィングや艦隊指揮の打ち合わせを行おうとしたが、またしても篠華に逃げられた。

 

『ちょっち、沖に対潜哨戒に出てくるから。帰投はフタフタ・マルマルくらいかな、あとは宜しくー駈クン』

 

 ここのところ艦娘の入れ替わりの件もあり、十分な哨戒任務が出来ていないらしい。それでも、深海棲艦の侵攻は年中無休である。

 

 仕方がないと言えば仕方がない。むしろ防衛大時代の思い出を辿ると、篠華が真面目に仕事をしている方が驚きだった。

 

 こうして一日を棒に振り……というか、作戦会議と言う名の情報共有を初霜や若葉と行っていた。

 

 

 

 

 

 時間という物は早い物で、横須賀に来た当初の目的を果たす時が来た。

 

 その日の夜。17階にある周囲がガラス張りの大広間では、各界の大物が名を連ねていた。

 

 この年になっても未だに着なれない、第一種軍装の水色の飾緒を揺らしながら東郷は目的の人物を探そうと周囲を見渡す。

 

 ――――いたっ、井矢崎少将。流石に手を回すのが早い。

 

 強面の男性と話し合っているが、構わず井矢崎の視界に入るように動く。

 

「おやっ、東郷中佐じゃないか。久しぶりだね。中島大臣、彼が“あのチューク諸島防衛戦”の指揮官です。やがてはうちの523を率いてくれる男ですよ」

「おぉ、お噂はかねがね。国土交通省の中島智久だ。宜しく頼むよ」

「いえっ、こちらこそ。528駆逐隊司令補を務めます、東郷駈中佐であります」

 

 井矢崎少将――――貴方は本当に役者になれますよ?昨日も会ったばかりの俺に、白々しく『久しぶり』だなんて言うのは俺くらいかと思いました。

 

 相手との上辺だけの握手と共に、表情に張り付かせた仮面をとる事はない。

 

 井矢崎が話し込んでいた、目的のこの男――――中島智久大臣。彼が一代で六連星(むつらぼし)造船を築き上げ、現在の地位に上り詰めている人物だ。数年前までは艦娘に拘らず現行兵器の開発に注力していたが、今では大手に並ぶ実力を持つ強豪である。

 

 内閣の重役に、平菱やポセイドンといった寡占企業から輩出される事は少ない。“どちらかを選ぶ事”になり、企業間のバランスを損ねかねないからだ。

 

 だからこそ、中小企業の中で力を持つ人物から選定される事が多い。中島大臣もその一人である。

 

 サーブされたワイングラスを片手に、中島大臣との会話からPSSSへの接点を洗っていく。多少強引な手を使う必要もあるだろうが、こちらが嗅ぎまわっている事を知られてはならない。

 

 目的は、業務提携と言う形で在日しているPSSSの技官の所在を明らかにする事。そこにおそらくターナー博士一派が絡んできている。

 

 埼玉の武蔵野か?それとも北関東か?彼の所在さえ掴めれば、こちらの第一目標は達成出来る。

 

 景鶴という素体は何者なのか?もし自分の仮説通り、彼女があの子と同一人物ならば……その時はあの博士を絞め殺しかねなくなる。

 

 ――――後は、敵さんが餌に喰いつくかどうかだが……

 

 大広間の階下にいる景鶴に視線を投げつつ、東郷は目の前で行われている会話に耳を傾けた。

 

 

 

 

 

 正直言おう、凄く居心地が悪い。ウィッグで傷を残す左側を隠し、紫紺のドレスを纏った景鶴は周りの光景に押しつぶされそうになっている。

 

 明らかに、お偉いさん達の集まりなのである。提督さんからは『餌が喰いつくのを待て』と言われたが、正直自分の顔が引き攣っているのが分かる。

 

「そこのお嬢さん。良ろしければ一曲踊りませんか?」

 

 それに、なぜ男どもが群れてくるのだろう。慣れない化粧を全部加賀さんにやって貰い、この場に放り込まれただけの景鶴。

 

『今休んでいます』とか『連れを待っています』とか、ただすみません――とひたすら断り続けるしかなかった。

 

 そんな景鶴の態度に、業を煮やしたのだろう。何人かの男性が実力行使に出てくる。

 

 明らかに部屋の角に追い込み、退路を塞ごうと計算し尽くされていた。

 その目は、一人のオンナを狩るケモノの眼光であった。

 

 私は艦娘だ。やろうと思えば目の前の男どもを血祭りに上げる事は容易い。

 それでも……それでは提督さんに迷惑がかかる。彼が何の為にココに連れてきたのかは分からないが、少なくとも“私が使える人間”だからの役割なのだろう。

 

 臀部に回されて、なぞる手の不快感に、自分自身に吐き気がしてくる。同時に、彼らに対しての殺意も。

 

 ――――甘ク見ルナヨ 人間 ソノ気ニナレバ 貴様ラナド 根絶ヤシニシテクレル

 

 ……今のは、私の思考なのだろうか?何を思って、私の脳裏に言葉が浮かんだのか?

 

 その思考してフリーズした一瞬を突いて、男共はさらに手を伸ばしてくる。

 

 提督さん、助けて……。私の思いは、彼には届かないのだろう。彼には彼の仕事があって、私に気を割く余裕があるとは限らない……今はこの不快感に堪え続けるしかない。

 

 しかし焦れったいといわんばかりに手を伸ばしてきた男性の手は、別の誰かに横から掴まれた。

 

「悪いね。このお嬢さんは、僕の連れなんだ……“人の女”に手を出さないでくれるかい?」

 

 横合いから現れたタキシードを着た男性に言われるがまま、手を引っ張られて包囲網を抜ける事になる。

 

 えっ、誰!?て……提督さん!?

 

 声にならない叫びを上げそうになる。

 

 その反応を愉しむかのように、自分の手を引く男性が笑いを堪えているように見えた。大広間を抜けて、廊下を進んだ先。まぁこんな所か――と呟いた青年がようやく立ち止まる。

 

「ハハッ。そんなに緊張しなくて良いのにさぁ。景鶴」

 

 壁際の椅子に腰かけさせられて、青年は少し離れた自動販売機から紙コップに入ったコーヒーを持ってきた。その姿に見覚えのあった景鶴は今度こそ叫ぶ事になる。

 

「かわう……川内!?あんた、なにやっt」

「しっ!ちょっと、声が大きいって景鶴!」

 

 タキシードを着こなした男性?――――佐世保の547水雷戦隊旗艦。自分も良く知る川内が私の口を押さえてきたのだった。

 

 

 

 

 

「なんで、井矢崎少将はこんな所に景鶴を連れ出したのさー。おかげでこんなフォローをする羽目になる。司令官から男装しろって言われたのはこの為か」

 

 コーヒーに口をつけながら、履き慣れないヒールを放っぽり出した景鶴を見ながら川内は苦笑する。断る権利だってあったろうに。そういうと景鶴は、提督さんの頼みなら――と顔を背けるのだった。

 

 ちらりと自分の端末に視線を向け――話は終わったようだねと川内は呟く。

 

「じゃあ、景鶴。私の部屋に行こうか?」

「ちょっ、藪から棒に……って、何でお姫様抱っこなのよ!?ばかわうち!」

 

 最後まで抵抗しようとするが、その反応が逆に川内を楽しませる事になる。腕の中にいる少女に向かって、川内は本心から口づける――その獲物を見る目は笑っている。

 

 何かの固形物が口に流し込まれ、景鶴の目が驚きに見開かれる。同時にゲホゲホッと咳き込む。

 

「川内!あんた、何呑ませた……の……」

 

 パタリと電池が切れたように、景鶴は動かなくなりスヤスヤと寝息をたてていた。

 

 速効性の睡眠導入剤と聞いていたが、効果が薄かったのか?先程飲ませていたコーヒーにも含ませていたはずだが、タイムリミットだ……時間がないから、強硬策をとらせて貰った。

 

 当初の予定通り景鶴の端末を拾い上げ、東郷中佐には『先に部屋に戻っている』と送信する。

 

「やっぱり、薬物に対しての耐性が高すぎる……景鶴、あんたは本当に人間か?」

 

 川内は呟くが、実はどうでも良い事に気づく。だって……

 

「私が守ると決めたんだ。正体なんて誰だって良い」

 

 だから良い夢を……景鶴。後は、私の司令官が何とかしてくれる。

 

 横須賀の夜は、始まったばかりである。

 

 

 

 

 

 ――――川内が景鶴に接触する前。彼女の上司については、話が少し前にさかのぼる。

 

 

 

 とあるチャットルームに、女性と少女が二人。廃墟をイメージしたそこで、笹原ゆう大佐は眼前の少女を睨んでいた。

 

「やはり、東郷中佐が動き始めたかい。しかし不幸な事だ。私とコネクションを持ってる井矢崎少将を使ったのは、間違いなんじゃないかな」

『――――スキュラ……アンタの今回の目的は何?』

 

 笹原の問いに対して、スキュラ――――そう呼ばれた少女が、その身に似合わないような落ち着いた声で語りかける。

 

「なぁにPSSSは、アメリカに属する企業だ。奴らに一泡吹かせられるなら、今回は手を貸すべきだろうさ。幸いに高峰君の働きもあって、あらかたは一網打尽に出来そうだがね」

『――――ただし、景鶴の存在ごと抹消して……という事ね』

「その通りだ、彼女の意志があったかは関係ない。彼女の生体情報がアメリカに渡っていく事が問題だ。彼女を処分するのが任務だ“笹原大佐”。汚れ仕事は今に始まった事じゃないだろう?」

『――――なら、“流出しかけている景鶴の生体情報を処分”って事で動こうかしら』

「言葉遊びをする暇はないんだがね。好きにしたまえ」

 

 そういって通信が、笹原から一方的に切断される。少女は頬杖を突いて、己の思考を確認する。

 

 日本に発言力と莫大な財力を得る状況を作り出すには、深海棲艦との戦争において日本が最大の戦果を挙げねばならない。艦娘というビジネスが世の中に存在するのは、深海棲艦と言う人類共通の敵がいるからなのだが……。

 

 艦娘と言うのは大戦の記憶を持つフネの魂を艤装に定着させたもの。艤装は妖精の技術を使ってサルベージしたフネの魂そのものなのだ。

 日本は幸か不幸か、かつての栄華と没落を経験しているからこそ“艦娘の質が良い”。

 

 深海棲艦が大戦の怨霊が凝り固まった集合体であるならば、沈んだフネが多い日本はその質と量が段違いである。

 

 自国を守る為に、各国はこぞって艦娘――艤装の開発を行っている。しかし日本の艤装技術は群を抜いており、その開発データは何事にも代えがたい交易のカード(切り札)なのである。

 

 だからこそ景鶴というイレギュラーの力が、帝政アメリカに渡って戦力になるのを何としてでも阻止しなければならない。

 

 簡単な事だ、“火種は、この世から消えて貰うだけで良い”。日本のこれからの為にも――――スキュラの思考はその1点に繋がる。

 

 だが“まだ”その時でなくて良い。今回見逃しても、幸い自分にはガトーという優秀な駒がいる。

 

「精々足掻いて見せろスクラサス、私から卒業出来るかは分からんがね」

 

 ――――そして東郷中佐。興味本位で、裏の世界に足を踏み入れたのを後悔する事になるぞ

 

 廃材に腰掛けた少女は、外見年齢に不釣り合いな笑みを浮かべるのだった。




そろそろ内定が来ないとで、精神的に参ってきている件。
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