艦隊これくしょん~鶴の慟哭~   作:エーデリカ

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とりあえず、卒論の中間報告書の提出ーと。

おかげさまで、まだまだ全然時間に余裕が出来ないエーデリカです。
周りが就職先が決まってくると、本当にテンションが下がってきますね……。

作者はこんなのですが、
それでは、どうぞ。


三章-6 あんたの期待には応えられないわ

自分の目の前に広がっている光景は“おぞましい”と一言で済ます訳には行かなかった。

 

ここに連れ去られる途中で遭遇した白色の肌をもつ、異形の生物たち。

自分が見てきたのが深海棲艦なのではないか――という疑問は頭の片隅にあったのだ。

それらが広大な実験室に放り込まれ、敵と認識する者は暴力で叩き潰す弱肉強食の世界だった。

 

監視室と思われる高所から、見下ろす白衣の男――――目の前の彼の姿を、私はどこかで見たことがあっただろうか?

 

脳内を埋め尽くしていく違和感と既視感。自分ではない誰かの思考に塗り潰されそうになる。

 

ぼやけた視界の中に写るのは、今より少し若い白衣の男。銃を向けあっているのは……提督さん!?

 

どうして!?――という問いを発そうにも、体は自分の意志で動かない――――まるで、誰かの記憶になぞって再生されていく動画の様に。水の中で、自分ができるのはもがくことだけだった。ただそれさえも、過去には意味をなさないとばかりに無駄な抵抗だった。

 

ガラス越しに、ただ男2人が向き合っている場面が写る。沈黙を破ったのは、白衣の男の言葉であった。

 

『ようやく来たか、傀儡めが。笛吹き男を気取るのは、もうおしまいだよ』

「こちとら自分の身の可愛さに、反吐が出た所だよクソったれが。彼女達を殺す事に何の意味があったんだよ!?答えろよ!ターナー」

 

いつもと違う、怒気を含んだ提督さんの声。けれど、その雰囲気が私が知っているよりも明らかに若く感じられる。

 

ターナー――――と呼ばれた男が、こちらを見て嗤った気がした。ヒトとしてではなく実験動物(モルモット)を見るような冷酷な視線で。

 

『殺したつもりは無かったのだがねぁ。あくまで彼女達が“耐えられなかっただけ”だろうに』

「……遺言はそれでいいか?まずは死んで彼女達に詫びろ、この人殺しが」

『私を裁いた瞬間に、君も人殺しになるがね。実験動物(モルモット)に心を惹かれた、愚かな看守よ』

 

看守?……提督さんが?頭の中に響く叫び声が一層大きくなる。

今思えば、不思議でならない。私は、トラック島で彼にあった時、自分で自覚できるくらいになぜ彼に懐いた?彼とその部隊の空気にあてられたから?

 

彼が私を見る時には、まるで後悔しているような悲しみを含んでいたのはなぜだった?

 

最初は空母瑞鶴として捨てられた私を、同情しての親切だと思った。

 

けれど、この記憶を見れば違ったのではないだろうか――――私はかつて彼と会っていて、その別れに提督さんが後悔しているからだったのだと。

 

『……物は要らないから、思い出が欲しい。そうだ、名前を付けてよトーゴー。“107”じゃなくて、私に似合う人間っぽい名前』

 

私が知らない、ワタシの声。

 

でも知っている――――私はあの時、初めて彼にヒトとして認めて貰ったのだと。胸の中が幸せで一杯だったのと――――そして、もう二度と彼と会えないであろうことも。

 

頬を掻きながら、苦笑した提督さんが去って行ったあと。場面がまた変わっていく。

 

鎖に繋がれて、ヒトであらざる者に化けようとしている感覚。培養液に浸かっているのは、私が艦娘だった頃には見飽きた空母ヲ級。既に沈んでいるのだろうが、その肉体は崩壊せずただただ虚ろな目を向けてくるだけだった。

 

今再生されているワタシの記憶と、現実の私の知識があるから、何が行われたかが想像できてしまった。記憶のワタシに共感し過ぎてしまったのだろうか……込み上げる不快感を抑えきれずに嘔吐する。

 

実験が再開されたのだろうか。ワタシの全身を貫いた衝撃に、意識が霧散する。

 

 

 

『ちょっと記憶を弄っただけなはずだが、酷く狼狽しているな “107”』

 

思い出した――――“107”私に与えられた被検体番号。シニカルな笑みを浮かべて、伏した私を見下ろすのは間違いない。ハーミラ・ターナー博士。私をこの姿に封じ込めた元凶だ。

 

身寄りがなくなった戦災孤児として引き取られて、明くる日も明くる日も人体実験を受け。

その結果“深海棲艦に近づいた人間になったこと”も、思い出した。

 

私の顎にターナーの手が添えられ、眼帯で隠している左目を露わにする。

 

実験室のガラスに反射して写る自分の姿に、あぁやはりという苦笑しか出なかった。

 

悍ましい程に煌々と光る左目は、深淵を覗く海色のような深い蒼を湛えていた。

 

――――その姿は、まさしく空母ヲ級ではないか。

 

『あの時、撃沈した空母ヲ級を人体に転写する実験。失敗は数知れずだが、悪影響が記憶を喪うだけに留まったキミは、私の実験の最高傑作だったのだがね』

 

目の前の男が語りだした内容に、疑問はやはりそうか――という確信に変わる。

 

妖精の力を借りて艦娘を建造できるなら、サルベージした深海棲艦を利用して艦娘を造る事だって可能と考えたのだろう。

 

『君は行く先々の戦場で重傷を負っても、沈む事はなかった。適合した艤装が、かつて“瑞鶴”と呼ばれた幸運艦の因果を持ったとしても、横須賀の精鋭部隊として何度も窮地を生き残ってきた』

 

だが、それは沈まなかったということじゃない――――ターナーは私を見て、嘲笑う。

 

『キミは既に沈んでいる艦だから――艦艇の怨霊である深海棲艦だから沈まない。浮いていない船がどう沈むというのかね?』

 

ブーゲンビル島であれだけの重傷を負っても、私は生き残っていた。それは轟沈しなかったんじゃない。

 

――――私は人間の皮を被った深海棲艦に成り果てていたのだから、“艦娘として沈めなかった”。ただそれだけなのだろう。

 

深海棲艦は、その存在自体が怨霊のかたまりだ。私の中に眠る深海棲艦としての力が、人類を恨み続ける限り、私は戦場において死ねないのだろう。

 

記憶を取り戻し、混濁する意識の中。彼が手を差し伸べる。

 

『キミには、どの道戻る場所はない。あの小僧が物好きなのは知っているが、敵となったキミを庇うつもりはないだろう』

 

違う……提督さんはそんな人じゃないっ!と言いかける。

 

その言葉自体を打ち砕いたのは、まさに提督さん自身の言葉だった。

 

『残念、不正解だ。轟沈させる事が前提の作戦も視野には入れるよ。正直に言おう――全滅するよりは幾らでもマシだとは思う』

『……僕ら指揮官の役目は国土を、そして国民を守る事だ。その為に艦隊を任され、艦娘を操る……犠牲ゼロが前提の作戦なんてありえない』

 

トラック島での会話を思い出す。彼の思考は、最大多数の最大幸福のためであり“私が、害をなす者”だったら、たとえ親しい仲でも容赦なく切り捨てるだろう。

 

『キミには、私の玩具として生き残る術しか持たない。それが嫌なら、自死を選ぶか?“107”』

 

――――私は深海棲艦だ。もし提督さんの障害になるならば、今……ここでヒトとして死ぬべきだ。

 

手元を漁ると、見知らぬ女性から手渡されたシグザウエルP230が鈍く光る。

 

マガジンに装填されていることを確認し、セーフティを外す。この口径なら至近距離で頭を打ち抜けば、例え深海棲艦であろうと絶命できるだろう。

 

『ここで自死を選ぶか?それもいいだろう。キミは最高の作品だが、幸い替えが利くような駒は揃っているからね』

 

いくら馬鹿にされようと、罵られようと、ワタシが私であることには変わりはない。

 

「残念だけど、あんたの期待には応えられないわ」

 

この場で死ぬ“人間”は一人で十分だ。自身が怨霊ならば、大人しく成仏してやろう――元凶であるこの男を殺した後で。

 

 

 

トリガーを引き絞ろうとしたところに、割って入る影があった。私をここに連れてきた深海棲艦。前腕に装備された飛行甲板で、銃弾を受け。残りの1体の発砲で、構えた拳銃が弾き飛ばされる。

 

『遅いぞ“5022”。まったく、まだ主を守らせる教育が上手くいかないのか?』

 

銃撃から庇った深海棲艦は、激昂と言わんばかりのターナーの拳を真正面に受けていた。

 

それでも抵抗せずに、虚ろな目を向けているだけだった。

残る3体も同じ。心の何かが欠けているのか、それはヒトのカタチを成した抜け殻のようでもあり、景鶴にとってもただの人形にしか見えなかった。

 

『紹介がまだだったね“107”。被検体“5022”から“5025”で、キミをプロトタイプとするなら、妹と言っても良いだろうね』

「……あんたは一度、地獄に落ちた方が良いわ。一体どれだけの命を犠牲にすれば気が済むの!?」

 

こちらの怒声に対しても、ターナーは態度を崩さない。

 

『深海棲艦であるキミに対して、教授するのはまた変な話であるが……まぁいいか。私が消費してきた被検体の数。そして現在も継続して深海棲艦に殺されていく人間の数を比べてみるがいい。果たして、どちらが本当の人殺しかな?“107”』

「……私達の戦いは戦争だ。深海棲艦が相手陣営である人間を殺したことは問題じゃないっ。同族である人間を殺し続けたあんたが言うのかっ!ターナー!」

 

埒が明かんな――――ターナーもまた、懐から拳銃を取り出してこちらに向ける。

 

『かつてJapには、鬼を従えた貴族がいたらしいじゃないか。政府を引っ繰り返すような、強い鬼がね。伝承がどうであるかは分からないが、私は彼女達を Steel(金鬼) Gale(風鬼)Phantom(水鬼) Shadow(隠形鬼)と呼んでいる。彼女らは純粋な、深海棲艦だ』

 

自らの意志を持つのか分からない、鬼たちの視線がこちらを向く。

 

『簡単な話だった。既にある人間に深海棲艦をの細胞を混入させるのではない。先の実験のデータを元に、深海棲艦の細胞から精製した卵子と人間の精子を用いてシャーレの中で受精させただけなのさ。人工的に作り出された深海棲艦ということだ。驚くべき事に、拒絶反応は一切みられなかった。体表が白いことと、艦娘と同じように砲を持ち海面に浮くことが出来る。この技術を用いれば、私は深海棲艦の軍を率いてあの憎き帝政アメリカに反旗を翻せる』

 

この男は、私怨のために一体どれだけの時間と命を消費してきたのだろう。景鶴の胸中に憐みと怒りしか残っていなかった。

 

「可愛そうな人ね……そんなもののために、私たちの命がつぎ込まれてきたと思うと反吐が出る」

 

精一杯の強がりだ。だがこの男の野望のために、これ以上自分を利用される訳にはいかない。

 

舌を噛み切ったとて、深海棲艦の再生力を手に入れてしまった私は簡単に死ぬ事が出来ないだろう。だからこそ、殺されることを選ぶ。

 

武器もなく、目の前へ飛び出すだけだ。敵対する意思を見せれば、彼らは発砲してくるだろう。ここでただ殺されるのは性に合わないが、それでも私が深海棲艦となって皆を殺すよりはよっぽどマシだ。

 

生きることを諦めないと言ったのは、そう遠い昔ではなかったっけ。ヴェルに笑われるかもね。

 

 

 

こちらの行動に反応し、銃口が向けられる。

 

銃声が、監視室に木霊した。




横須賀動乱編もあと数話。
この後には夏祭り編や、東郷の過去にあった演習編で三章は終わりそうです。

正直に言うと、四章は夏イベと五航戦の改二実装次第で内容が変わる模様。
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