艦隊これくしょん~鶴の慟哭~   作:エーデリカ

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お疲れさまです。エーデリカです。

卒論が落ち着いたと思ったら、夏休みが本格的に就活の正念場ですよ。

出そうに出せなかった隼鷹の登場です。本文ではちょろっと出てきたこともありましたが。

それでは、どうぞ。


三章-7 こっちもアニマルパニックだけれどね

 篠華の事前に指示した通り。艤装を装着した朝霜たち528駆逐隊は、沖で哨戒任務を続けていた。

 

 本来であれば突入する篠華の援護だったはずが、近くで中規模の艦隊が捕捉されたから仕方なしの戦闘である。

 

『最悪は深海棲艦たちと鉢合わせになる可能性があるからね。始末書は私が書くから必要な時は施設ごと破壊するつもりで行ってみよー』

 

 確かに鎮守府正面の海域といえど、警備が万全な訳ではない。

 艦隊からはぐれた駆逐イ級が目撃されることも、たとえ横須賀鎮守府の目の前であっても日常茶飯事である。

 

 だが、必ずしも駆逐艦クラスが現れるだけではない。スヴェル・カーテンが設置されているとはいえ、索敵を怠れば軽空母クラスが空襲をしてくるし。駆逐隊では相手がしきれない雷巡・軽巡クラスも出没する。

 

 だからこそ528をはじめとした横須賀直属の駆逐隊は、相当の練度を求められ定期的にローテーションさせられている。

 

「574駆逐隊から入電。敵機動部隊が哨戒線を突破し北上中、横須賀防空権到達まであと3分!」

「大島の部隊の速力じゃ追いつけないか……了解した、こちらで対処すると返してくれ」

 

 接近していた敵を漸減にでた部隊が、物量に押されて撃ち漏らしたらしい。

 報告によると軽空母三隻、雷巡三隻、駆逐の数は二桁と言った所か。

 

 朝霜は手に持った12.7cm連装高角砲に装弾されていることを確認する。

 

「ヴェル、朝雲と山雲を連れて対潜を頼む。」

 

 敵軍の情報が少なければどうすればいいか――そんな状況での作戦立案にはいくつか方法がある。

 

 守り手に対しての攻め手の数は3倍を見積もる。そもそもその前提を越える物量であれば、基本的には勝てないから逃げるべきである。

 こちらは駆逐艦7隻であるから、20隻以上は想定した指揮を執らねばならない。

 

 それにトラック海域の作戦以降は、大規模な戦闘は行われていないから空母クラスが出てくるのも想定される。

 

 最悪の事態は戦艦クラスの投入か。いくら夜といえど、駆逐艦で対応するには限度もある。

 

 そして私が敵の指揮官なら、潜水艦を配置する。定期的な哨戒には基本的に駆逐艦クラスとしか交戦したことがないのは、あちらも分かっているはずだ。

 

 軽空母の爆撃でも駆逐艦にとっては致命傷であるし、どうしても意識を割きがちである。

 だからこそ水面下からの攻撃には、文字通り足元を掬われる可能性が高い。

 

 ヴェルの耳が良い事は知っているし、東郷大尉……じゃなかった、東郷中佐と組んだ時にも彼女のスペックは知っている。独自に動いて貰った方が、何かと都合が良いだろう。

 

「敵航空部隊を視認した、撃墜する」

「見てなさいっ!」

 

 少し離れていたウェーク島からの出向組が、防空射撃に入ったらしい。

 

「さすがは飛燕の部隊だな。どうも敵機と遊んでいるようにしかみえん」

 

 普段から相当の訓練を積んでいるのだろう。艦戦の機銃を掻い潜り、艦爆の投下してくる範囲から逃れつつ敵機を落としていく。

 

「この程度の相手に後れをとってはなりません。超低空からの反跳爆撃の方が恐ろしいですから」

「右舷、敵艦を捕捉した。情報通り軽空母ヌ級が三隻、突入する」

 

 濃紺の鉢巻を風で揺らしながら、初霜が空母本体を叩きに出る。若葉もその後を追う。

 

 艦隊旗艦を務める朝霜にとっては、司令官が不在な状況での戦闘は極力避けたかった。

 しかし彼女らの様に練度があり、単独で十分に戦えるスペックがあれば自分の戦闘に集中できる。

 

「雷巡チ級を捕捉した。機動力に惑わされるな朝潮、この数を私らで捌ききるっ!」

 

 駆逐艦の数は、視認出来る限り10隻を越えるだろうか。砲塔を向けようとしたときに、ヴェルの声が響く。

 

「推進音を捕捉した、おそらくこちらが戦力を割くのを待っていたんだろうね。左舷、潜水艦からの雷撃くるよ」

「緊急事態にのほほんとした報告するなヴェルっ!総員戦闘を中断し回頭、回避行動を最優先!」

 

 先程までいた地点を雷跡がすり抜ける。左右に揺らして砲撃を避けていた主機をフルスロットルにして旋回する。

 

 冷や汗をかきながら、随伴艦の反応が消失していないことに安堵する。

 

「警告が3秒遅いぞヴェル、躱せなかったら無駄死だぞ!?」

「……でもこの艦隊の練度なら十分躱せるだろう?朝雲、山雲。敵潜水艦に爆雷を叩きこむ」

「……あたいは、主機の調子が悪いから負担をかけたくないんだよっ!」

 

 言うが早いか、先程の雷跡の元へと加速するВерный。12.7cm連装高角砲のマガジンを入れ替えて、その砲口を“水面”に向ける。

 

「この短時間では、進路を変える事も難しいだろう?発射地点さえ分かれば十分だ」

 

 聴音機がタービンの駆動音を探知。慣性航行から移行しようと、機関の出力が速度として現れるには時間がかかり過ぎる。ましてや、進路の変更などそう簡単に短時間ではできない。

 

 だからこそ単調な動きの今なら、例え水上艦でなかろうと対潜砲弾を当てられる。

 

 おそらく距離が1500、深度50程度。高角砲に装備された補助用のホロスコープが投影され、ノイズ交じりの照準に黒い影が映る。

 

 Верныйから放たれた対潜信管を用いた砲弾は海面に着水するが、その場で炸裂せずに水中を直進する。

 

 彼女にとっては、最初の一撃で仕留められなかった時点で最大限の反撃を加えられる。

 

 この対潜砲弾の実装を528駆逐隊に優先させたのは、篠華の采配もあるのだろうがВерныйの特出した対潜水艦への経験を上層部が評価したのもある。

 

 爆雷の搭載量に限りがあるのならば、取り回しのしやすい対潜砲弾を用いるのであれば継戦能力も向上する。

 

 対潜砲弾が海中を潜り続け、目標であった潜水艦カ級に直撃する。

 

「足は止めたよ。ここからは駆逐艦の独壇場だ、Ypa(ウラー)!」

 

 三式投射装置から投下された爆雷が、Верныйの狙った海中にばらまかれる。

 

 暫しの沈黙のあと海面が大きく盛り上がる。その戦果を確認する暇を与えず、別の発射元へ急行する。

 

 流石に30秒もかけると、敵潜水艦には逃げられてしまう。朝雲と山雲も奮闘しているようだが先程の雷跡は10条を越えていたし、なにより初霜と若葉への部隊にも向かっていたのは分かっている。

 

 敵の第二次航空隊が、機銃を放ちながら突撃してくる。数による暴力であり、軽巡クラスの砲の圏内に入った。

 

「やだやだ山雲、攻撃には弱いのよー!」

「ちっ……痛いじゃない!朝潮っ、軽巡クラスからの砲撃はどうにかならない!?」

 

 水上に海中に挟まれている状態では、正直いうと分が悪い。ヌ級撃破に向かった初霜と若葉が戻って来るには時間がかかるし、何よりも半包囲されつつある状態は中々に頂けない。

 

「朝霜っ!?直上!」

 

 朝潮の叫び声に、現実に戻って来る。しかし突破する方法に思考を割いていた分、反応が遅れる。

 対空砲火を抜けてきた艦爆隊の投下で、海面に炸裂し爆風に巻き込まれる。

 

「ったく。どうしてこんな時に限って、主機の調子が悪いんだよ」

「新たに識別なしの艦載機(アンノウン)を複数確認、着弾地点の予測、各艦に送ります!」

「魚雷の突破音とおぼしきものを捕捉した。敵潜水艦隊から雷撃がくるよ」

 

 損傷は軽微。だが推進部の一部にガタがきはじめていた朝霜にとって、急な回頭をするのは難しい。

 

 潜水艦からの雷撃を確認したとしても、被弾が覚悟の上だ。

 

 しかし目の前の海面に炸裂したのは、目視した限り深海棲艦のゴテゴテした爆弾ではなく、明らかに人間や妖精たちの手によるものだった。

 

「……一体どこの部隊が!?」

 

 朝潮の指摘ももっともだ。この海域には正規の戦力の投入は出来ない――と中央戦略コンピュータからの返答が来ている。

 

 では、どこの航空部隊か?考えられるのは地上から発艦された“航空機”(ニンゲン)の部隊か、一定の所属を持たない艦娘の航空隊か。

 

 直後に海域を飛び抜けたのは、鈍重そうなボディ。明らかに九九艦爆とも彗星とは異なる機体は次々に爆弾をばらまいていく。

 

 急降下の際に発した不快なサイレンの音。発生源とおぼしき艦載機が、新たにレーダーに映った熱源に戻って行く。

 

 軽空母独自の発艦方法である、巻物と展開している式神。

 勾玉を首からさげる黒髪と紫髪の女性が、こちらを見てやれやれと首を振っていた。

 

 

 

 

 

「まったく、四課から九課の所属艦娘を総動員たぁ。永野大佐も人づかいが粗いねぇ」

 

 艦娘の所作にまったく興味を示さない現在の上司は、今頃内部でドンパチやっているのだろう・

 

「特設調査部も艦娘の数は足りてないっていうのに……こちら飛鷹です。神通、青葉?上陸している連中の仕事はまだ終わらないの!?」

『――いやー、なかなかお相手さんの本拠地が動物園みたいなものでして。アニマルパニック状態で進めないんですよねぇ。隼鷹さんたちも頑張ってて下さいね♪』

 

 飛鷹型航空母艦、飛鷹と隼鷹。彼女らもまた龍驤と同じく式神を用いるタイプの空母だった。

 

 工作艦の明石と同様に戦力として投入されない事が決まっているために、艦隊編成図には彼女らの名前はない。

 

 彼女らが防衛行動に移ると言うのは、本来の所属である特設調査部の仕事絡みというわけだが。

 

 こちらの姿を確認したらしく朝霜やВерныйにとって、幌筵泊地では共に戦った隼鷹は手を振る。

 

 一息ついて補給を終え艦載機を発艦させるべく、巻物を展開し指先に灯らせた勅令の火の玉を滑らせる。

 

「こっちもアニマルパニックだけれどね……スツーカ部隊、全機発艦!」

「おーい。朝霜に朝雲。それに“子鬼”(Верный)は元気してたかー?」

 

 滞空していた式神が姿を変え、闇夜に飛び立っていく。

 

 彼女らが使った“スツーカ”という名称は中央戦略コンピュータには登録されていないが、データベースに照合したら検索は一致する。

 

 ドイツ空軍で製作された急降下爆撃の名を冠するJu87(スツーカ)

 元空軍出身である上司がコネで持ってきた異国の最新鋭機だ。

 

 登録が間に合っていないのか、はたまたわざと登録をしていない特殊装備なのか。

 味方には所属不明機(アンノウン)として扱われるわけだ。

 特設調査部の所属という職柄では、手の内を知られたくない意図があるのだろう。

 

 

 その独特の風切り音が、悪魔の呼び声の様に一面に響く。

 

「さぁて、一仕事終えた後の酒は格別だよなぁ」

 

 正規の出撃がでいない分に、鬱憤がたまっているのだから敵艦には的になって貰おう。

 

 飛鷹型の二人にとっては夜間戦闘など、文字通りに朝飯前なのだから。

 




うーむ、横須賀編2話と夏祭り編が2-3話。
これを夏イベ前には終わらせたいんだがなぁ。

第四章『反撃!第二次SN作戦編』にご期待下さい……。
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