夏イベまで時間がないので、駆け足で終わらせたい所。
就活優先だろうから、イベントをやる時間を確保したいのです。
それでは、どうぞ。
「いやぁ、永野准将も物好きですよねぇ。ターゲットとはいえ、他人の日記を漁るだなんて……」
「……普段の行動が、プライバシーの欠片もないお前には言われたくないな。重巡青葉。それに今の私の階級は大佐なのだが」
パパラッチという不名誉なあだ名を持つ紫髪の艦娘は、男性の返答に対してやれやれと肩を竦めた。
工場のホストに侵入して、有益なデータが残っていないかコンソールを叩いていた男。
老いている訳でもなく、ただその表情からは精悍な雰囲気が感じられる。
といっても無精髭でボサボサな髪を放置しているあたり、貫禄があるとは程遠いが。
極東方面隊特設調査部の監査官。九課に所属する永野誠大佐である。
本来であれば、艦隊という性質を持たない特設調査部。そもそも主な業務が対深海棲艦ではなく、人間に対しての特設調査部では回せる艦娘も少ない。
六課に所属する青葉をはじめ、戦力が必要な状況では人員の貸し借りは日常茶飯事である。
特設調査部が緊急で動かねばならないとき。通常の艦隊編成に影響を与えないよう、他課の艦娘を動員するべく特務隊=Special Investigation DEpartment Squadronは構成されている。
現在、敵空母機動部隊と交戦している飛鷹と隼鷹。工場内で陸上型深海棲艦と交戦している鈴谷と熊野。そして後ろに付き従う神通と青葉を含めた6隻。要請があってのことだが、彼女らは一時的に永野の指揮下に置かれている。
そんなSIDESqに所属する艦娘たち。彼女らは戦力的に不十分だと言う烙印を押された者。あるいは、団体行動に不適だと除け者にされた艦娘が配属されることが多い傾向にある。
すぐそこで情報の山にキャッキャしている重巡も、前線で問題行動が複数回にわたって見られたから
もっとも彼女の上司である、六課の監査官もなかなかの問題児だとは有名な話であるが。
奔放な彼女らの手綱を握ることから、特設調査部の指揮官もそれなりに性格や経歴に難がある人物も多い。
この永野という男も空軍時代には猛威を振るったパイロットであったが、艦娘による作戦が多くを占めている現在ではただの
良くも悪くも異色の者たちが集まる
「でさぁ永野大佐。この人間かケモノかも区別がつかない連中は何なの?」
「さぁな。あらかた深海棲艦の細胞を取り込んだら暴走した被検体だろう。強い奴に従うのは本能なのか、それとも理性を持って集団行動で敵を排除しようよする働き蟻かは分からんがな」
うえぇ、気色悪い――とブーツにこびり付いた体液を床に擦りながら、鈴谷が取り回してきた20.3cm連装砲を担ぎ直す。
「熊野ぉー。早く終わらせて帰ろー」
「品度の問題ではなくて、ただただ気色悪い光景が続いていて萎えてしまいますわ」
「お前ら、本当に汚れ仕事が担当の特調か……待ってろ、吸い出したデータの翻訳が今終る」
投影されたディスプレーを見て、眉を顰める永野。どうも、この一件は想像していたよりも面倒なことになったようだ。
「東郷君。君の私情も分かるが、こちらもその機会を利用させて貰うことにするかな」
特設調査部としてというよりも、永野自身の能力を買われて依頼された今回の案件。ミッションナンバーを偽装してまで、SIDESqを総動員してまで調査して欲しいものとは恐れ入る。
井矢崎少将の依頼は“グラウコス”と呼ばれる人物の特定。その専門ではない永野にとっては記憶の抽出から疑似記憶の作成、同化までを行うスタックスネット型ウイルスの作成者を特定して欲しいとのことだ。
現行の主戦力である艦娘ですら人間である現状では、薬物投与によるキルマシーンになってもらっては、世間体的に問題があるだろうから少将は事態を重く見ているようだ。
今回の件のターゲットであるハーミラ・ターナー博士も、電子工学、生体科学に精通したスペシャリストだ。彼自身の研究も被検体の記憶や自我を奪い、新たに植え付けると言う実験法も今までの傾向から分かっている。
依頼された側としては彼を重要参考人として召還しなければならないため、なるべく生かして確保する必要がある。
そのヒントが得られるか……永野は厳重にロックされていたターナー博士の電子日記に、意識をダイブさせた。
December 24, 2074
東西戦争で敗れ我が祖国を離れてこの国に落ち着いたのが、もう十数年前のことのように思えてくる。
いざこの日記を見返してみると、ニッポンに亡命したときの私は酷く錯乱していたようだ。
支離滅裂な文章の羅列は、当時の私の中身をデータとしてぶちまけた様そのままだ。
研究所で試験菅を眺める退屈な生活だが(周りには海ぐらいしかない)、休み時間に海岸を散歩をしていると奇妙なものを見つけた。
肌は青白い人型。マネキンなどではなくUMAかと思ったくらいだ。
海岸に打ちつけられていて怪我をしていたので、介抱をした。
まるで童話のLittle Mermaidのようだ。
不気味であるが、神々しいその姿に私は一目惚れをしてしまった。
軽い検査をしたがヒトではないものだから、貴重な研究サンプルだ。
とりあえずは容体が落ち着くのを待って、研究してみようと思う。
February 14, 2075
彼女の正体は依然として謎のままだ。容体は残念ながら安定はしていない。
確かに塩基配列は人間のものに近しいと分かっているが、どうやったらこのような進化を遂げたのかは検討もつかない。
とりあえずの意志疎通を試みてはいる。知能は高いらしく、すさまじい速度で学習し続けている。
私は彼女?(性別がメスであることは確認されているが、そもそも性別という概念が彼女の種族にあるかは分からない)を“Charlotte”と名づけた。
昔の彼女の名前を付けたことを、私はいずれ後悔するのだろうか。
March 3, 2076
Charlotteの容体が急変した。一年もあの状態から保っているのが不思議なぐらいだったが、いよいよ覚悟を決めねばならないようだ。
苦しみながら呪詛のように何かを呟くさまは、恨んでいるのではなく必死に助けを求める慟哭のように聞こえてしまう(残念ながら、言葉を理解できない我々にとって、彼女が苦しんでいるとまでしか分からない)
海に還そうとも試みたが、彼女自身が海岸から一歩も踏み出さない。
子どもの頃に飼っていたAquarium fishは、寿命が来る前に水辺へ還したのが思い起こされる。あのときは両親にひどくあたったものだ。
子どもながらに“死”という概念はなんだか想像がついたし、その死骸を見せまいとする両親の気配りが煩わしく思ったものだ。
一体何が足りないのだろう。科学技術では出来ることが限られている――という現実を突き付けられた気分だ。
この年になっても、結局は水辺へ寿命が迫った生き物を還すことと何一つ変わっていない。
May 5, 2076
本当はCharlotteを元いた、場所に還すべきなのだろうか?
Sea Scramble 7.17以降に目撃されるようになった深海棲艦。彼女がそのヲ級と同等のものだと分かった。
死してなおサンプルとして保管することを選んだ私は、研究者としての面が勝ってしまったのだろうか。
いや違う。ただ私は、Charlotteを手の届かない場所に置きたくない――という我儘なのだろう。
確かに水面に浮き続ける浮力を持つ仕組みすらも解明できていない現状が、腹立たしかったのは認めよう。
それよりも問題なのは、Kanmusuと呼ばれる兵士だろう。彼女達の艤装の仕組みはCharlotteが発する浮力力場と同じ反応を示している。
ならば、Kanmusuにヲ級のサンプルを投与することで、彼女を蘇らせることが可能ではないか?――という希望が湧いてきた。
無理であろうことは、分かっている。それでも研究者としては立ち止まって諦めることは許されない。
June 16, 2076
被検体が消耗していくのが著しい。難民キャンプではぐれた少女を攫い、投薬によって記憶の一切を奪う事でクリーンな個体を用意は出来ている。
基本的に艦娘への適性がある個体にしか、投与できないのがコストとリスクがかさむ原因ではあるが。
実験の内容をファーヴニル生化の社員には、なるべく公にはしたくない。今年に入社した社員に手伝いをさせているから、囲っていれば報告が上がることはないと思うが。
新入社員はまだまだ青いのか、汚れ仕事の片棒を担ぐことに疑問を覚えているようだ。
まぁ被験者から、彼に対する反応が好意的であることをこちらは利用できている。
人事の采配には感謝をしきれないくらいだ。
March 14, 2083
あの男が被検体107を連れ出してからは、長い道のりだった。
被検体107ほどの成功例を作ることはできなかった。
考えた末にCharlotteの卵細胞を用いて、受精させた個体を飼育してきた。
驚く程に彼女の面影を残す個体。意思疎通が困難なのは変わらないが、まるで娘を持った気分だ。
彼女らを用いて、被検体107を取り戻す。私はこの時まで待ったのだ。
そして、私から彼女を奪ったあの男を許すことはない。
私自身がCharlotteの力に触れることで、彼への復讐を果たそう。
「うわー。ロマンチックっていうか愛憎劇の一種じゃないですか?罪だなぁ、東郷中佐も」
「馬に蹴られて死ぬつもりは、私にはないんだがな」
流し読みして、閲覧し終わった青葉の問いに応えつつ、永野は目の前の障害を排除すべく引き金を引く。
既にその足元には、四足で地面を駆けていた深海棲艦が山のように折り重なっていた。
「埒が明かんな……神通」
「はい、何でしょうか?永野大佐」
血糊を払い、白い刀身を鞘に納めた少女――武士を思わせる装束を身に着けた神通が、こちらを振り返る。
「新装備の調子はどうだ?」
「深海棲艦の素材を用いた刀身――斬るのではなく、敵を抉るための武器ですし加減が難しいですね」
斬れ味が存在せず、その刀身は深海棲艦の細胞に反応し浸食するように作られている。
太刀――紅焔と、小太刀――朧月。
深海棲艦の中で姫と呼ばれている白い少女の細胞を解析したところ、強い者であればある程にその細胞は硬度を持つそうだ。
深海棲艦同士を戦わせるのであれば、未熟で完成されていない深海棲艦に対しては上位種の細胞は無類の強さを発揮する。その性質を利用したものが、神通が携えている一対の刀である。
監視モニターをクラッキングし終わった青葉が、声を上げる。
「いましたっ。東4ブース先の管理室に景鶴さんです!」
「青葉、鈴谷と熊野を連れて残存部隊の掃討。私と神通とで、ターゲットの確保に移る。既に手遅れの可能性もあるがな」
言うが早いか、部屋から永野は飛び出す。
深海棲艦の細胞の性質は、基本的には浸食だと言われている。
先に挙げた紅焔と朧月の仕組みのように、意志によって管理されていない細胞は触れたものを飲み込もうとする性質がある。
日記の通りであれば、細胞を移植された被検体はこの浸食によって体を蝕まれていったのだろう。
もしこの細胞をターナー博士自身が取り込んでいたら……そのときは、彼ごと処分することを考えねばばらないだろう。
扉が開け放たれていた監視室には、蹲る白髪の少女と白衣を着た男。
状況は最悪だな。話し合いの猶予すらない。
永野は間髪入れずに、男に対して引き金を引いた。
横須賀編も完結まで、あと一話かなぁ。
息抜きの鎮守府祭編を早く書きたいです。
でも、明日から4日連続で適性検査と面接です……。