私のアカウントの方でも、瑞鶴に指輪を渡しました。
……と言う訳で、今回はケッコンカッコカリ話になります。
人によって「艦娘の誕生日が起工日・竣工日・進水日とまちまち」なようですが、気にしない。
艦娘と新たな絆を結ぶ事で、どこまでいけるのか(それはLv150までですけど)
楽しみですねー。
本日は二話分の予約投稿。次話は23:59に投稿されるはず。
(時系列は、四章マリアナ・レイテ編の直前になります。なおすぐに書ける訳ではない)
それでは、どうぞ
提督さんが執務室にいなかった事を不審に思い、まずは一番事情を知ってそうな上司に聞いてみようと思う。
「ローレンベルグ中佐。提督さんがどこに行ったか知らない?」
「ん、東郷クンなら休暇申請出してたけど……行き先、聞いてなかったの?」
そもそも出かけるという事自体を聞いていない。葛城の訓練メニューや五航戦姉妹との演習計画。周辺海域に対する駆逐隊の対潜哨戒用ルートなど、彼がいなくても出来る程度にまとめられた資料があった事は覚えていたが。
ローレンベルグ中佐がうーんと唸った後、ピコーンと何かが発光する音がしたようだ。
「そういえば、この時期かぁ。景鶴ちゃん、ちょっと哨戒任務に出ない?」
多分東郷クンに追いつけるよ?彼女のアホ毛は、こういう時に限って生き生きと動く。
「別に構いませんけど……どこに案内されるんですか?」
「私も道中までバックアップするから大丈夫よ、行き先は“要塞港仙台”。観光がてらに行く所じゃないけど。多分、駈クンならそこにいる」
どう……乗る?――――ここまで、お膳立てをされたら乗っからない船はない。
「まぁ、景鶴ちゃん。あっちに行ったら“本妻には気をつけなさい”」
私はこの言葉の意味を、少し後で知る事になる。
極東方面隊仙台港。鎮守府のような、莫大な土地を持つ基地ではない。しかしエンジントラブルを起こした艦娘や船舶が寄港するには、十分な設備を持ち合わせている。
目的の相手は、その基地を見下ろせる高台にいた。
『わざわざ追いかけてくるとはな……。いや、本当に物好きだな……景鶴は……』と呆れられていたが、仕方がない。
海を一望出来る山の中腹には、高くそびえる慰霊碑が立てられていた。
――――アノ日ノ惨禍ハ 平和ニ酔ウ 我ラノ戒メデアル 挫ケテハナラヌ 我ラハ前ヲ向キ逝ク 只 イタミ ダケハ忘レルナ
慰霊碑の裏側に刻まれた、東郷舞の文字を確認した。
時期は少し前後するが、10年前のここで提督さんが家族を喪ったのは知っている。
多くの一般人が犠牲になった仙台空襲は、深海棲艦の本土攻撃の中でも教科書に載るくらい悲惨なものだったらしい。
その一端を、私は垣間見たのだろう。献花し、黙祷した提督さんが踵を返したのを見て後に続く。
「あれが何か分かるか?景鶴」
海を見下ろした先。提督さんが指を差したのは、海面を衝立てるようなコンクリートの壁である。
「50年以上前に作られた装甲防波壁=スヴェル・カーテンだっけ?」
「正解。東京湾にも同じように作られているが、元々は大地震に伴う津波を防ぐ為の壁だったんだが……今じゃ、深海棲艦の空襲を防ぐ為の防空装置になっているな」
識別信号を持たない飛行物を、容赦なく対空砲火で叩き落とす防壁。
だがその壁に依存するしか、人類は深海棲艦に対抗出来なかったのだ。
「ここは結局のところは陸上だ。海上に艦娘が張り付くように出来ないのであれば、こんな壁にしか人類は頼れない」
爆撃で角が欠け、銃弾で抉られた武骨な壁は未だに人類を守り続けているのだ。
「俺は少し寄り道をするが……ついてくるか?」
まぁ、提督さんを追いかける為に来たわけだし。基地にすぐ戻ると言う選択肢はない。そもそも輸送艇に乗船してきたのではなく、艤装を使って漕いできたのだから少しでも思い出話が欲しい。
提督さんがここまで乗ってきたという、軍用車の後部座席に艤装を放り込む。
「女性が同伴とか、彼女にどう茶化されるんだかな……」
”彼女”?不穏なフレーズに、眉を顰める。
まぁ、からかわれても軽く流しておけよ――と言われた事は、覚えている。
連れて来られたのは、仙台基地からそう離れていない市街地。
地下への階段を下って行った先に、提督さんは用があったようだ。
そこには銭湯の番台さんよろしく、老婆が座布団に座っていた。
提督さんが、常連なのかが……というかここが何の施設か分からないが、過剰に鉄骨が張り巡らされたシェルターのようだ。
「駈が女の子を連れてくるなんて……私は夢でも見てるのかね?」
「女の子……というか、上司と部下の関係ですから……そんな気持ちはありませんよ。翠ばぁちゃん」
お金なんて、良いのにねぇ。翠ばぁちゃんと言われた老婆が、厚い封筒の中身を見て苦笑している。
シェルターを管理しているという大家さん。提督さんも世話になっているらしく、泊地に持ち込んでいない書籍は全部ここに預けているそうだ。
「こっちも使わせて貰ってるんだから、きちんとお代は払わないと」
「なら差額分は、茜の退職金かい?」
そんな所です――――提督さんの表情を見れば分かる。これは取り繕っている時の顔だ。何かを抱え込んでいるつらそうな……
「行くぞ、景鶴」
声をかけられて、思考が中断される。焦り――というか、避けたい事があるような態度。
連れられて、地下廊を進んだ先。東郷駈様――そう書かれた部屋のドアを開く。
そこにあったのは、ありとあらゆる所に敷き詰められた本の山。
誰かが手を入れているのか、埃一つかかっていない光景に別の驚きを感じた。
「これっ……全部提督さんの?」
「近所の図書館にあったものがついでに避難されてるというのもあるけど、電子化された世の中じゃこんなに蓄えてるのは珍しいんじゃないかな。まぁ私物も持ち込んでるけど」
小説だけでなく、図鑑や随筆。歴史書など、その道を究める人が見たら発狂するような量が鎮座していた。
景鶴自身が目を輝かせている中、部屋の戸がノックされる。
出入り口の近くにいた提督さんが対応すると、弾んだ声が外から聞こえてくる。
何事かと追いかけてみると、自分の視線より少し下の所……会話していた車椅子に座った女性が手を振っている。
首元で跳ねた茶髪の襟足がカールし、快活である事を思い起こすような風貌。サングラスの様に頭部を覆うバイザーを身に着けている以外は、普通の女性であろう。
「噂には聞いてるよ?景鶴ちゃん。高松
「だから会わせたくなかったんだが……まぁ、気にしなくていいからな。景鶴」
えっ!?提督さんと家族!?振り向くと提督さん自身が、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
これは多分、彼女にからかわれているに一票。景鶴は平静を取り戻すのであった。
「トラック泊地に左遷されたと思ったら、横須賀に戻って来たんだ」
「翠ばぁちゃんも、茜さんも元気そうで何よりだよ」
「まぁ最前線でドンパチやってる分よりは、本土は安全なんじゃないかな」
茜さんとやらが、提督さんの良き理解者的なオーラを出している。
嫉妬なんかしてないし……私だって、あんなに親しく話しかけられたいし……。
何か、二人を見てると夫婦みたい。
私が相当の膨れっ面をしているのか、やけに会話に混ぜようとしてくる茜さん。
何だろう……人間的に、色々と負けている気がする。
外見は提督さんより、少し若いくらいだろうか?それでも、大人な女性に見える。
自分自身が色々と貧相なのは、気付かない事にしたい。彼女と、何を比べたという訳ではない……断じてだ。
「へー。じゃあ、景鶴ちゃんが今の相棒?」
「そんな所。ヴェルは相変わらずだからな」
「艦隊のエースは大変だねー」
彼女は結構、艦娘について……というか提督さんの部隊について詳しいようだ。
家族というのは、こんな感じなのだろうか。気を張らずに、話し合える相手がいる事?
私にとっては、ありもしない記憶に思いを馳せる。
長旅のせいでウトウトし始めていたが、話題が変わった事で意識が現実に戻って来る。
提督さんは、ただの世間話をしに来た訳ではないようだ。
私達がここに来るまでの間に、焼け野原が広がっていた事を思い出す。
目の前の茜さんだって、一般人として危険と隣合わせの生活をしてきたのだろう。
「それで……最近は、艦載機の空爆が多くなってきたのは本当か?」
「その通り。大湊から常設の部隊を配属したらしいけど、他に任務があるとどうしても駆り出されちゃうらしくて」
「それで手が回らなくなって、ここら一帯が空爆される訳だ」
基本的に深海棲艦は、陸海上を問わずに人型の物体を攻撃する傾向にあるらしい。
またどうやって判断しているのかは不明だが、船舶や工場を認識して襲撃してくるから性質が悪い。
迎撃兵器である、仙台港のスヴェル・カーテンも万能ではない。
撃ち漏らしたゆえに市街地が空爆されるとなると、後悔はしきれないものだ。
「そして、このタイミングで空襲警報とはな……」
耳障りな警告音が、辺りを支配する。
提督さんが、仕事の時の顔に戻る。幸い、私の艤装もここにある。
少しでも市街地への被害を減らせるなら、私が動くべきだ。
「景鶴、お前はどうしたい?いつも通りの戦場じゃない。機動力を失っている艦娘が参戦したら良い的だ。だが、お前には艦載機を飛ばして対抗できる術がある」
「愚問でしょ?提督さん。全部撃ち落とす以外、選択肢は残ってないっ!」
決まりだな――――提督さんがコンソールを取り出して、周辺地図や仙台基地からの情報がアップロードされていく。
「こっちでもサポートはする。死なない程度に暴れて来い、景鶴」
「了解。後で、何か奢って貰って良いわよね?」
景鶴が駆けて行った後には、茜と東郷が残された。
元気な子ですね?――茜の問いには、東郷も肩を竦めるだけだ
「だからこそ、そのはねっ返りが凄いんですよ……もしかしたら、手助けを頼むかもしれません。茜さん」
「気にしなくて良いんですよ?駈さん。やる時はやりますから」
かつて“夜叉”と呼ばれた艦娘が、未だにその爪を持っている事を知っている。それは当人と、かつて戦った戦友にしか知らない事だった。
空襲警報が鳴り響いた戦場で、景鶴も艦載機を飛ばして対抗する。
しかし今の景鶴は海上にいない為に、棒立ちしているのと同じものだ。
どうしても直掩隊に多くを割かなければならず、防空能力が平時よりもガタ落ちしているのが自分でも分かる。
敵の艦載機は、海岸線からスヴェル・カーテンを越えて無差別に爆撃してくる。
こっちから海へ攻撃する戦力はないから、全敵機をここで叩き落とすしか勝機はない。
防戦一方という状況が、景鶴自身に焦りを生む。
上空をモニタリングしていた東郷から警告されるまで、自分の身の危険すらも判別する余力がなかった。
『――――投下された爆薬をセンサーが捉えた……対象が破裂した!?まずい、”鉄の雨だ”景鶴!』
空中で炸裂し降り注ぐ凶星を、肉眼でも確認出来た。その軌跡が、市街地に落ちてくるであろう事も。
“squall of bullets”――――南北アメリカ方面隊の報告にあった“鉄の雨”だ。
高密度に凝縮された装甲が爆薬で炸裂し、空中から降り注ぐ。
現代兵器でいう散弾ミサイル――とでも言ったところか。
ビル街で大地震が起きた時に、割れた窓ガラスがどれだけの凶器になると言えば伝わるだろうか。
文字通り流星となって降り注ぐ破片は、艦娘達のとっても致命傷を負う威力を持っている。
辺り一帯が破壊されているのは、お前のせいか!?予想されるであろう被害が、景鶴に怒りの火を灯す。
敵の二次攻撃隊がこちらへ向かってくる。
炸裂寸前の”鉄の雨”を抱えた戦闘機を数機だが、破壊する。
これ以上は無理だ、そう判断する。恐怖で竦む足を叱咤し、まだ生き残っていた家屋に駆け込む。
左腕部の飛行甲板を構えて、クライン・フィールドを展開する――――アレはこの程度なら突き破ってくる。気休めにもならないが、ただ撃ち抜かれるよりはマシだ。
想像通りの、最悪な被害を及ぼすのだろう。屋根を撃ち抜く音、景鶴の皮膚を抉る音。
装甲甲板はその役割を果たし、甲高い音を立てて敵の砲雨を防ぎ続ける。
『――――無事か!?景鶴』
「……っ、生きてる。でも、大丈夫じゃないっ」
防護フィールドは演算処理の限界を超え、もはや原型を留めていない。
脳殻に与えられたダメージも大きく、掲げていた左手は丸ごとおしゃかになっている。
義手の強制接続解除。神経を切断しない上でのパージは強烈な痛みを伴うが、既に満身創痍な景鶴にとっては差異のない行為だった。
ガランと音を立てて、左腕ごと飛行甲板が倉庫の床に転がる。
敵の艦載機が、周回し続ける音が響く。
このままではジリ貧だ。朦朧とした意識の中、それでも生き残る術はないかと鈍った頭を回転させる。
・ローレンベルグ中佐が、こっちの危機を察してヴェル達を派遣してきてくれる
・大湊所属で、定期哨戒中の艦娘達が加勢してくれる
――――これらはNoだ。そもそも、陸で艦娘が戦う前提の作戦など中央コンピュータが承認するはずもない。それに空襲自体はよくある話だ。艦娘の余力が普段からなく、迎撃していていないのはスヴェル・カーテンの時点で分かっている。
となると、私と提督さんだけで打開するしかない。
『――――景鶴、西へ3ブロック先で合流する。そこまでは行けるか?』
「……やってみる。でも背部の艤装は生きてるけど、火器管制装置がやられたみたい。私の演算装置がオーバーヒートしてて、レスポンスを返してない」
『――――砲塔がお荷物になってるか……だが、勝つ事じゃない。生き残る事だけを考えよう』
提督さんらしいな――そう思いながらも、重い体を引きずって立ち上がる。
絶対に生き残る。生き残った上で、敵からの被害を食い止める。
景鶴を突き動かす力は、その意地しか残っていなかった。
次話は23時59分の投稿予定。お楽しみにです。
そういえば、いつのまにかお気に入りが100件を超えておりました。
読者の皆様に感謝の意を捧げつつ、これからも慟哭を宜しくお願い致します!