艦隊これくしょん~鶴の慟哭~   作:エーデリカ

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お疲れ様です。エーデリカです。
皆さん、夏イベはいかがでしょうか?私は、まだ堀が終わってません(泣
更新が遅れてる理由は、ほぼコレですねハイ。久しぶりにワードを起動しましたわ……。

今回の話ですが、縁があって白雪紫音 先生(Twitter: @Sirayuki_Shion)より設定提供を頂きました。
四章に関わるキーワードを含んでいただけに、この場を借りてお礼を申し上げます。

それでは、どうぞ。


三章-10 負けっぱなしは趣味じゃないのよ

 日本の夏は21世紀を折り返して、急速に温暖化は止まったらしい。

 幸か不幸か、第三次世界大戦と深海棲艦の登場により人類の総数が大幅に減少した故というのは、なんと皮肉な事だろうか。

 

 8月に入ったとしても、軍人に夏休みはない。

 というよりも、疎開が当たり前の時代では学校に通えるというのも恵まれている方ではあるのだが。

 

 数年前までは学生であった私も、今ではすっかり艦娘だ。

 雲龍型3番艦 葛城――――それが、私に与えられた新しい名だった。

 

 華々しい戦果を挙げよう――という気ではなく、人類のため国民の盾になりたいと志願してここまで来た。研修時代は下積みだと、修練を重ねて耐えてきた。

 

 ようやく入隊という形になったのだが、想像よりも思わしくない生活をしていることは疑いようもない。

 

 今日もまた先輩のしごきにあい、泣く泣く艦載機の整備をする。そんな日常を過ごしていた。

 

「ありがとうございました」

 

 そうやって小言も言わず立ち去る先輩に、私はついていく事しか出来なかった。

 私の僚艦として配属になっている先輩、改大鳳型1番艦 景鶴――――先輩。

 

 彼女と組んでの、ここ数週間の演習は負けに負けの連続だった。

 着任した時には浮かれていたのもあるだろうが、私の心は今では完全にへし折れていた。

 

 523航空戦隊――横須賀所属の空母艦娘が中核を成す部隊。

 

 一足先に竣工した雲龍型の姉達は、既に各戦線で戦っているらしい。

 私に課されたのは、練度の向上――であった。いまだに海域へは出撃させて貰えてないから、実戦には程遠い状況だ。

 

「……今日もお疲れ様、葛城。午後に間宮さんに行かない?奢ってあげるから」

「あっ、はい。御一緒させて頂きます!」

 

 翔鶴型の軍装。瑞鶴先輩とは違く、迷彩柄を纏っている景鶴先輩。

 

 外見は瑞鶴先輩と相違は少ない。艦娘への適性は似たものが惹かれるというから、景鶴先輩が翔鶴型の艤装で戦っていた――という話も理解出来る。

 違いを挙げるとすれば翔鶴先輩のように白髪であることと、長い髪を後ろで一本に束ねていること。それと、左半身を艤装で補っている程に大怪我をしている――という噂くらい。

 

 一緒に入渠したときは、その痣や戦傷に驚いたものだ。どんなに酷使したら、実戦で生き延びて戦い続けられるのだろうかと。

 

『自分では、気をつけているつもりなんだけれどね。どうしても自分の身の安全よりも、部隊の利になる行動を考えちゃうんだ』

 

 それで命令違反を繰り返しているから、軍人失格だよね――と当人は苦笑していたが、私はそれが原因だとは思わない。

 この人は、自分が傷つくことを恐れていないのだと。だからこそ、自分が沈むことと天秤にかけても他人を助けるのだろう。

 

 彼女の優しさでもあり、強さでもある――それでいて、一番の弱さなのではないかと思う。

 

 現に足手まといであり続けている私に対して、小言も恨み節も言わないのだからむしろ申し訳なくなってくる。

 

 ただ、それでも……この演習、どうしても勝てないのは当然だ。

 

 ――――空母2隻が、空母4隻に挑んだらどうなるか?馬鹿でも分かるだろう。

 

 負けると分かっている演習に、本気で挑むのはどうかとは思う。

 それでも、景鶴先輩は言うのだ。

 

『敵がそこにいて、勝てないからってみすみす沈んでいく?私は仲間のために一隻でも多く道連れにして、笑って逝ってやるわ』

 

 そうやって笑う先輩は、自身について気付いているのだろうか。表情の陰りが、まるで死相のように見えることを。

 

「どうして、先輩は耐え続けられるんですか……」

 

 本心を語らず、瞳には悲しみを湛えたようで。

 きっと誰かに頼りたくても、一人で出来ると仮面を被りつづけているようで。

 

 それでもそんな先輩だからこそ支えていきたいと思うのは、実力が伴っていない私にとっては傲慢なのでしょうか。

 

 

 

 

 

「まったく、東郷中佐も井矢崎少将も何を考えているのだか……」

「そう言っていても、さっきの演習は目を離してないですよ?永野教官」

「もう二度と、教官って呼ばれる事もないだろうと思っていたのは、私だけでしたか」

 

 宿舎から港湾を見渡せる位置から、男――――永野誠大佐が双眼鏡を片手に身を預けていた。

 

 研修生時代が終われば教官と候補生の関係ではない――と豪語し、頑なに教官呼びを拒否し続けているが、問題児の一人――笹原ゆう大佐は意に関していないらしい。

 

「笹原君も出世したものだ。研修生時代は、君らが戦場に出ること自体が恐怖だと思ったのだが?」

「それ、教え子に階級を追いつかれた皮肉ですかぁ?そういう永野教官だって、対人演習とか銀蠅の時とかで色々と口をきいてくれたじゃないですか?」

「君らを戦場から遠ざける事は、人類にとってのマイナスだと思いましたからね。ただ、共に戦いたいとは思いません」

 

 教官も冷たいですねー。ゆうちゃん泣いちゃうぞ?――バッサリ両断され泣き真似をし始めた笹原を横目に、永野はディスプレイに演習のログを呼び出していた。

 

「……で。何で東郷中佐が、こんな無謀な演習を組んでると思います?永野教官殿?」

 

 井矢崎少将率いる“赤城、加賀、翔鶴、瑞鶴”。4隻の演算可能な艦載機は339機。

 対する東郷中佐の“景鶴、葛城”は計137機。葛城が竣工したてで改装が済んでいないのは仕方がないが、2倍以上の戦力差のなか演習を繰り返すのは確かに無謀だろう。

 

 この傾向はまずいな――今まで指導役を預かっている身としては、そろそろ変えた方がいいとは思う。

 だが、それ以上に結果を出せてはいるのだが。投影した演習結果を見ると、人知れず笑みがこぼれる。

 

「東郷艦隊の艦載機が全滅するまでの、井矢崎艦隊の最大損耗がどれくらい……という話ですかね」

「この前の演習で206機を撃墜してますからねー。委員長は、本当に負けず嫌いなんだから」

 

 あんな戦い方を教えてしまった、私の責任ですかね?永野の呟きは、笹原には聞こえていないようだった。

 

 東郷中佐たちに空戦の術を叩き込んだのは、空軍出身というのが買われたからに過ぎない。

 艦載機がやらねばならないこと。空母艦娘がすべき役割――というのは、確かに私が教えたことが根幹にあるとは思う。

 もともと自分は提督という人間の類ではなく、操縦桿を引いて戦っていたパイロットだったのだから。

 

 同僚と切磋琢磨し、世界大戦では部下を率いて空に花を咲かせた。あの爆発一つ一つが人間の命で燃えていたのは、今でも鮮明に思い起こせる。いつのまにか自分の部隊が、通った後には生き人を残さない“死神部隊”などと言われたことも。

 

 日本を守る為に戦って、戦って、戦って。勝ち目のない戦場であっても、部下たちは必死に生きた。お前達がいれば、この戦争は勝てる――――そう、プロパガンダ的な意味も含めて、激戦区に飛ばされた。

 

 消耗していった部下は悪化する戦況もあり、一癖も二癖もあるパイロットが補充されていった。軍規違反者であるが、実力を兼ね備えたようなマシーンの集まり。

 

 それでも。人間を殺すための部下でも、彼らは人間であって。だからこそ“懲罰部隊”などと蔑まされようが、祖国のために戦い続けてきた。

 

 今でこそ艦娘などという年端のいかない少女を率いているが、今までに比べれば楽な方である。

 

 ――――ちなみに目の前にいる教え子も、よほどの問題児であったのだが……。

 

 視線に気付いたのか、当の本人は何食わぬ顔で口笛を吹いているが。

 

「そういえば、うちの川内が例の刀を預かってるそうで。深海棲艦の細胞を取り込もうとする力を流用した兵器なんて、こんな面白いものを貰っちゃって良いんですか?」

「精製できたのが二振りなだけであって、レシピはもう出来上がっています。量産化は時間の問題っていうだけですからね。うちの艦隊にはまだまだ、試す武装が残っていますし」

 

 任された今度の依頼もまた、厄介なんですよね――――永野の溜息が、会話の間を繋ぐ。

 

「少し話を変えましょうか――――学年5位の笹原候補生。講義の準備はいいですか?少し意地悪をしてみたくて」

「え”!?完全に出世したことを根に思ってますよね!?」

 

 教官であった頃の顔に戻した永野は、笹原に笑みを浮かべる。

 

「初年度研修クラスの問題ですが、高速修復材の主成分は?」

「不明……というのが正解ですかね。妖精たちが素体となる人間に対して、細胞を活性化させ修復を促進する薬を精製したのが起源だと言われていますけれど。現在、“人工的に”作るレシピは存在していません」

「新陳代謝の速度を大幅に加速させる……ともすれば諸刃な薬物です。妖精たちの気まぐれで作られるからこそ、在庫が限られている」

 

 ――――では、深海棲艦の再生力の謎は何でしょう?

 制帽を被り直しつつ、紫煙を吹かす永野。その視線は、先程の演習場へと向けられている。

 

「倒しても、倒しても終わりの見えない戦い。深海棲艦にとっては、人類との資源を巡っての争奪戦ですから。彼女らもまた、自分達のために戦っている」

「お陰様で、軍人は休みなしですけれどねー」

「……そこで、です。同じく年中無休で戦っている深海棲艦。彼女らが戦線を支えるために何をしてきているのかは、未だに謎のままです」

 

 その一つが、彼女らの驚異的な回復力です――――人差し指を立てて、永野は笑う。

 

「北方棲鬼の鹵獲に始まり、私たち人類も少しづつ深海棲艦の謎に迫りつつあります」

「その一つが、炎陽と朧月ですよね?」

「あの二振りの刀は、深海棲艦の細胞に含まれた“強者にひれ伏す”という性質を利用したものです。今回、艤装研のレポートに上がってきたのは、深海棲艦の血液自体が高速修復材と同様――ないし、それ以上の効力を発揮している可能性について示唆されています」

「では深海棲艦の大攻勢の原因は、戦隊を率いる鬼・姫クラスが莫大な貯蔵をしているからかと?」

 

 それに関しては戦争が終結して、直接彼女らに聞いてみないと分かりませんね――和解が出来ればですけれど。

 櫛が通されていないクセっ毛の髪を、ガシガシと掻く永野。

 

「これは、下手すれば艦娘の存続に関わる問題です。“敵の技術を用いた存在が、本当に味方なのか”ってね。公になれば、司令たちからの妖精への信頼も失いかねません」

「そんな情報を、大本営が告示するはずがないと?」

 

 それ以上は、私の口からは何とも――――ね。

 教官としては不相応な、天邪鬼な性格。笹原に対して研修時代の様に、生徒を試すような含み笑いをするのだった。

 

 

 

 

 

「さすがに、怒って良いわよね?私はともかく、景鶴先輩にいつまで恥を晒せって言うのよ!」

 

 ずかずかと現在の上司である東郷中佐の執務室。井矢崎少将が部屋を空ける事が多いため、523航空戦隊の詰所にいるはずだ。

 

 訓練が無駄になるとは思わない。それでもあの人が感情を押し殺して笑っているのは、もう耐えられない。抗議してでも、これ以上の演習は続けさせたくない。

 

 しかし、荒っぽく踏み入ろうとした瞬間。執務室の中から聞きなれた声がする。

 

「提督さん……あんま無理しちゃ駄目だよ……?」

 

 ひょっこり覗いてみると、こちらに背を向けた景鶴先輩が東郷中佐に声をかけているらしい。

 

 先輩が振り向く気配がして、咄嗟に物陰に身を隠す。冷や汗をかきながら、通り過ぎた先輩に気付かれないよう、私は執務室の扉を開ける。

 

 書類は整理されているが、図面が散在している執務机。覗き込んでみると、東郷中佐が戦況シミュレーションへの入力作業中で寝落ちしているらしい。

 

 ディスプレイが点灯したままなので、つい覗き込んでしまう。表示されているのは、景鶴先輩と私の艦載機の挙動。現在の状態と最適化への誤差が計算され、出力を繰り返している。

 

 同じ部隊に所属する、赤城先輩らのデータ。私も教導艦としてお世話になった、鳳翔さんのデータ。今までに出現した、空母ヲ級らの交戦記録。

 

 幾重にも交錯する戦況図には、互いの艦載機が喰らいあう様が投影されている。

 

『勝てないからって、そこで逃げる訳にはいかない。少しでも仲間のために出来る事をするんだ』

 

 そういえば景鶴先輩に言われたような台詞を、東郷中佐も話してたっけ。

 

 私だって、もっと練度を積んで戦いたい。景鶴先輩の隣に立って、恥ずかしくないくらいに活躍したい。

 

『君の力は何のためだ?仲間を守るために行使されるべき力だろう?』

 

 以前、東郷中佐に愚痴った時の回答を思い出す。彼は今までだって、勝てない私を馬鹿にするような発言はしていなかった。

 

 負け続けてでも、生き残る意志を刻み付けるのが目的ならば――――中佐は、相当にコミュニケーションが欠けているのではないだろうか?

 

「ちゃんと、言ってくれれば。文句は言わないのに……」

 

 目の前のシミュレータが叩き出した数値は233機の撃墜。空母2隻が沈むまでに、相手3隻の艦載機を無効化している計算になる。

 

 きっと“電子の世界にいる私たち”なら、そう出来るのだろう。

 出力されたのは、きっと私たちの“限界”という訳か。

 

「私だって……私だって、先輩に負けないぐらいに足掻きたい。データになんて負けない位に。絶対に見返してやるわ」

 

 私と先輩が、最強の機動部隊だと――――そう中佐が信じていてくれるならば。新人の私を修練し続けるならば、その期待に応えたい。

 きっと景鶴先輩が求めているのは、そういうことなのだから。

 

 

 

 

 

 執務室の外で、その様子を眺める隻眼の少女がいた事に。葛城が気付く事はなかった。

 

「でも……そろそろ、加賀さん達にギャフンと言わせたいわよねぇ」

 

 流石に20回を超えたあたりから、数えるのを止めた。瑞鶴ちゃんの練度上げを手伝っていると思えば……葛城には申し訳ないと思うけれども。

 

 手元の端末には、伏宮少佐から送られてきた改装設計案。

 搭載数の絶対差を覆すために、色々と思案してくれているそうだ。

 

「負けっぱなしは趣味じゃないのよ」

 

 景鶴の呟きは、誰に聞こえる事なく消えて行った。




甲甲乙乙甲乙丙で、夏イベは攻略終了です。

瑞穂は第二艦隊旗艦にした照月が、改になったくらいに来てくれました。
あとは風雲ですかね。海風?知らない子ですね(白目)

次話より『四章 反撃!第二次SN作戦編』です。
幕間を挟みますが、お付き合い頂ければ思います!
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