今回から全3回予定でお送りします。艦隊これくしょん―軽快な鏑矢―
(http://novel.syosetu.org/33350/28.html)とのコラボ企画。横須賀軍港夏祭り編ですっ!
あちらの共同立案者である東方魔術師先生と、相変わらずお世話になっておりますオーバードライヴ先生。改めて、お礼を申し上げます。
苦労性ポジが絶えない委員長。彼の運命はいかに?
それでは、Welcome to YOKOSUKA FESTA!
こんにちは。雲龍型3番艦葛城です!本日は買い出しに出かけた先輩方の代わりに、東郷中佐の秘書艦を任されているのですが……ナニコレ?
「朝潮……お前は休んでても良いんだぞ?」
「いえ……東郷中佐もお疲れでしょうし、私が進めておきますので……」
なんか部屋に入った瞬間、地獄の釜を開けたような光景ですね。
たくさんの艦娘達がごった返しています。
528駆逐隊の執務室に、山のように積まれた大量の書類。
その全てが戦闘に関するものではなく、横須賀鎮守府祭の申請書類や要望書の類でしょうか。
深海棲艦との戦闘が日常と化した現在では、安全の面もあってか各鎮守府の一般公開の機会は限られています。
その年に一回の公開日――――横須賀では8月に行われる「横須賀軍港夏祭り」。
お二人が徹夜で睨めっこしているのは、運営業務の一端を任されてしまったからなのですが……。
「永野教官が“借りを返せ”――ってこのことかよ。あの人、めんどくさい案件は全部投げるからなぁ」
尋ねたところ、お世話になった先任提督が東郷中佐に仕事を全投げしたとのことです。
ちょうど執務机の前では、那珂ちゃんが東郷中佐に詰め寄っている所ですね。
「野外ステージの設営?却下だ却下。そんな予算をおろす訳にはいかん!」
「えー!?せっかく那珂ちゃんの晴れ舞台だよ!?葛城ちゃんもそう思うよね?」
「えっ!?あっ、はい。そうかも……しれませんが……」
着任して日が浅い私に、同意を求められてもなぁ。
東郷中佐が恨めしい目で、私の方を見てますね……反省、反省です。
「まぁ……合田少佐には、いつも世話になっているから、何とか手を尽くすg「じゃあ、ヨロシクー☆東郷中佐♪」って人の話を聞けェ!!」
東郷中佐が譲歩の発言をした瞬間に、待ってましたと言わんばかりに脱兎のごとく逃走する那珂ちゃん。島風ちゃんもビックリの速さです。
机に突っ伏した本人はというと、失言だった――と頭を抱えていますが……。
「朝潮……すまないが、設備費から6桁……いや5桁分をどうにか捻出できないか?」
「けっこう厳しいですね……。先日も打ち上げ花火の装置で、技術班が追加の予算申請を出してきた所ですよ?」
「だよなぁ……朝潮、2時間ほど時間をくれ――――どうにかしてくる」
帳簿と睨めっこしていても埒が明かないと、退出する東郷中佐。一体何を始めるんですかね?
迎えた鎮守府祭当日。満足な睡眠を摂れないまま、東郷の一日は最悪の形でスタートする。
「畜生ッ!なんで開催前に出店区画のブレーカーを落とすんだ、馬鹿野郎ッ!」
もともと、軍属であるスタッフが有志で出店しているのだ。彼らは調理専門ではないし、港内の配電図など知るよしもない。
しかしさすがにコンセント1か所で供給できる、電力の上限くらいは把握して欲しいとは思う。
ドラム型の延長コード一つに、ホットプレートを3台同時使用したらブレーカーが落ちるのは自明の理であると。
各工廠から仮設電源を設置してまで、電力を稼いでいたのが仇となった。見学用のハンガーの照明分まで、根こそぎダウンしている状態である。
貫徹してまで工廠に籠っていた明石と夕張から、悲鳴のモーニングコールを受けたのは数刻前である。起こされる身にもなって欲しい――というと、あちらも死人の声だったのでこちらが折れた。
『――――こちら渡井。Eブロックまでは完了したよ。全区画復旧まで、あと20分欲しいかな』
「もう開場5分前だぞ!?昼時までまだまだとはいえ、下調理にも時間がかかる……なんとかならないか!?」
『――――貸し1だね。15分で片づけるよ』
同輩に無茶振りを投げつつ、自分の財布の中身が減ることを天秤にかけて妥協する。
『――――委員長。とりあえず原因の出店者には、キツく灸を据えといた……だが、さすがに“出店の手引き”のページ数がA4判40ページ越えはやり過ぎじゃないか?さすがに、全部は把握しきれんだろ?』
「無茶言うなよ高峰。規制してない行為ばっかりやられたら、困るのはこっちなんだぜ?」
物事を円滑に進める為には、ルールが必要だ。40ページ越えなどと言っているが『調理中はエプロン・三角巾・ビニール手袋をしましょう』だとか『生卵は常温で保管しないように』だとか『調理室に食材や包丁を剥き身で放置しないように』だとか、当たり前の事しか書いていないのだが――――と、東郷は思う。
そもそも責任問題に生じる事態になった場合は、運営側に落ち度がある状況をつくり出してはならないのだ。そうすれば、無理が通って道理が引っ込んでしまう。
なら良いけどな――――同輩の呆れ半分の返事には、こちらも苦笑で返すしかなかった。
『――――ご来場の皆さまに、お伝えいたします。本日は横須賀軍港夏祭りにおこし頂き、誠にありがとうございます。会場は非常に混雑いたしますので、小さいお子様をお連れのお客様は、手を離さないようお進み下さい』
時刻が10時を回り、開場のアナウンスが流れる。
ここからが、本番だ。沈みそうな意識へ鞭打ち、東郷は会場に足を向ける。
しかし、後にしようとした模擬店区画から悲鳴が聞こえた事で、意識が呼び戻される。
声色からして、若い女性――――というか艦娘であることが窺えた。
ふと視線を空に向けると、そびえ立つ火柱。
「今度は何だってんだよ!?」
東郷の叫びも、空しく響く――――まだ、鎮守府祭は始まったばかりなのだ。
時間は数刻ほど前に遡る。
「あーもうっ。電気が来ないから、下調理が間に合わなかったじゃないっ!」
「でも、暁ちゃん。回避できない事故は、仕方がないと思うのです」
「そうそう、お昼時まで1時間はあるわ。何とかこの大鍋を一杯にしないとっ!」
DD-AKのロットナンバーを持つ艦娘たち――――暁、響、雷、電、おまけにВерныйが二つの大鍋を横目に、今後の算段を立てていた。
メニューは至ってシンプルなカレー。しかしあまりにも食材が多すぎるため、ホットプレートで食材を炒めながら大鍋に放り込むつもりだった。
しかしブレーカーが落ちていた為に、そこまで下ごしらえをすることができなくなった。
余りにも時間がない。そんな中、口を開いたのは響だった。
「なら、やるべき事は一つだね。最初から食材を、鍋に放り込んで煮込めばいい」
「でも、この大鍋はかなり大きいわよ?このコンロの火力で間に合うかしら……?」
雷の指摘はもっともだ。
しかしそもそもカレーを煮込むのに、一般的には火力は重要ではないのでは?
だが一般来場者が来る中で、食中毒はマズイ。本来であれば個別に炒めて火を通す所であろうが、背に腹は代えられない――――直接炙る。
「でも……これ以上火力があるものなんて……あるのですっ!」
考え込んでいた電の頭に、電灯が光る。
「なる程、確かにアレを使えば間に合いそうだね」
上司がいたら、拳骨ものの台詞を吐くВерный。完全に楽しんでいる顔である。
数分もおかずに、近くの工廠からバーナーを借りてくる暁型の面々。
「それじゃあ高速クッキング、開始ぃー!」
暁の号令と共に、文字通り模擬店に炎が奔る――――それはもう、とんでもない勢いで。
「ちょっ、ちょっと火力が強すぎるわっ!?止めて止めて!」
雷の叫びが、模擬店区画に木霊する。夕張印の超耐熱合金鍋だと過信しすぎていたのかもしれない。確かに鍋自体は無事なのだろう――――問題はその周囲であって。
隣接していた木製のテーブルに飛び火する。その光景に顔から血の気を引かせながら、暴れ馬を抑えようと奮闘する。
「これ以上……被害を出す訳にはいかないのですっ!」
暴走するバーナーに飛びつき、必死にその砲口を上空に向ける電。空高くまで業炎を立ち昇らせる。
「誰かっ、誰かとめてぇ!」
「スイッチを切っても止まらないよ!?」
流石のВерныйもことの重要性を優先して、事態の収束に努めようとするが無駄だった。
そもそも、艦娘とは戦う側の軍人であり。整備の方面は趣味であらぬ方向に走っている、明石や夕張などの例外を除いて専門外なのだ。
とりあえずスイッチを入れれば良い――――という認識であったので、いざパニックになってしまって操作がおぼつかなくなる。
そんな中、助け船を出したのは意外といえば意外。だが、適任といえば適任の人物だった。
「全員その場を動くなッ!」
怒声と共に、必死にバーナーを抑える駆逐艦たちは身を竦ませる。
駆け込んできた男が、力任せにコックを捻り倒す。火柱は消え、延焼した机を消火器で消し終わると、ようやく人心地がついたようだった。
「とりあえず……火器を使う場合には、消火器くらい置いときな?いざって時には、取り返しがつかいからな……」
マズイ……怒られる――――そう思って戦々恐々だった暁型たちであるが、予想以上に沈んだ声に驚いたほどだ。
「完全に、東郷中佐の目が死んでるわね」
「しー。言っちゃダメなのです。ここ数日の勤務で、きっとお疲れなのです……」
後片付け以外、特にお咎めなし――――といった風に開放された。予想以上に軽い処分である。
ふらふらと、元来た道を帰って行く東郷には同情の念しかない面々であった。
「さて、調理を再開するかい?」
そして、いつも通りに平常運転なВерныйであった。
『――――こんな時に呼び出して何だ?今は赤城の監視で忙しいんだが』
「なぁ月刀。お前の部隊……カレーを作る時にバーナーを持ち出す風習でもあるのか?」
『――――……何の話だ?』
端末の連絡相手は、件の部隊の上官である月刀航暉准将。どうやら、公園エリアでも悪戦苦闘しているらしい。
三笠公園の監視には景鶴を向かわせているが、特に目立った報告はない。その中で一体何が忙しいと言うのか?
「赤城?もしかして、模擬店をやらせてるのか?
『――――そのつもりは無かったんだが、当人らがどうしてもやりたいって聞かなくてな……』
「聞こえるか?景鶴。給仕車の荷台を確認してみてくれ。大至急だ」
『――――ちょっと待ってて、ちょうど目の前にいるから…………………………提督さん、残念なお知らせかも……予想の三割増しで減ってるわね』
「月刀ぁ!何が何でも止めろ!ただでさえ予算が火の車なんだ。追加の買い出しは無理だっ!」
『――――了解した。とりあえず、つまみ食いだけは実力行使で止める』
「最初からやれよ!景鶴は、一航戦のお好み焼き屋台をマーク……最悪の場合、爆撃も許可する」
『――――ちょっと、提督さん!?疲れすぎてて、支離滅裂になってるわよ!?』
一般公開中に身内を爆破するなど、海軍にとっても不名誉な事態であるが仕方がない。
最優先は『限られた予算内で、いかに安定した運営を行えるか』だ。
更に重くなった体を引きずりながら、詰所のホワイトボードに書かれたスケジュールを確認する。
「そうか、“スイカ割り隊”が始まるのか……」
イベント中であれば来場者の流れもそちらへ向くし、軍工廠の関連でのトラブルは減るだろう。ホッと息をつく。
――――しかし、この安易な判断を東郷はすぐさま後悔することになる。
ちなみに今回の小説で挙げているトラブルは、着色してますが”実際に起こってます”。
学園祭実行委員をやってると、このテのトラブルが日常だと思えてくる不思議。