艦隊これくしょん~鶴の慟哭~   作:エーデリカ

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艦隊これくしょん―軽快な鏑矢―とのコラボ企画。第二話です。

鏑矢シリーズをご存知の読者様は、ご存知かもしれません。
584駆逐隊(艦これ ある提督の話http://novel.syosetu.org/29291/) より、皐月ちゃんの登場です。はまっち先生の提督も、名前だけですがひょっこり出てます。

それでは、Let's enjoy YOKOSUKA FESTA!


三章-12 Let's enjoy YOKOSUKA FESTA!

「それで、俺は何をやらされるんだ?」

 

 人選ミスったぁ――――と。企画課の控室を訪ねて、頭を抱える東郷。

 

 大柄な男性が、緑と黒で彩られたヘルメットを被っている――――杉田勝也大佐。その風貌は、どこぞの戦隊ヒーローのグリーンかブラックであろうか。

 

 その周りには「かけっこ出来るって聞いたんだけど?」と島風。

 模擬店の店番から、抜け出してきたらしいВерный。

 そして睦月型の面々。睦月、如月、弥生、皐月が顔を揃えている。

 

「あれ……何で皐月ちゃん?担当の望月ちゃんは?」

「うちの司令官と海上警備に出てるよっ。“イベント事は面倒”なんだって」

 

 それで任務につくのか……いまいち面倒の定義が分からないが、代役として立候補してくれたのだろう。マニラ所属の584駆逐隊――――その旗艦の皐月が、人懐っこい笑みで話してくる。

 

 艦娘を含めたイベントへの増員は、横須賀周辺の警備を薄くすることと同義である。

 

 遠路はるばる部下を連れてきてくれた浜地賢一中佐には、あとで皐月をお借りしたと頭を下げねばならないだろう。

 

 海上警備も重要なシフト。しかし、わざわざマニラから来て貰ったのだ。折角だから、夕方には半舷上陸できるよう手配しようと思う。

 

「あー。お集まり頂いて感謝致します。簡単なルール説明は……というと、紙風船を割られないように、来場者から時間内まで逃げ回って下さい。この緑色のヘルメットが目印なので、棄権する以外は外さないように」

 

 予算がない中で、なんとかイベントをやりくりしようと公募した結果。選ばれたのは“スイカ割り隊”という企画だった。

 

 スイカを実際に割る訳ではなく、スイカに見立てた逃走者を追う――この企画。

 逃走者は全身にセンサー付きの紙風船を付けて、全損したらゲームオーバー。参加者は支給される水風船を、逃走者に投げる事になる。

 

 一般向けには、国防を担っている艦娘がどれだけ頼れる存在か。その身体能力・窮地に対しての判断力をアピールするつもりだったらしい。

 

 ――――しかし、問題はそれからだ。

 

 それだけではつまらないと、横須賀鎮守府に侵攻してきたゲリラを食い止める模擬戦をやれよ――と上層部。東郷は海大時代の騒動を、根に思ってる連中が差し金だと睨んでいる。

 

 メンバー候補には、自分の良く知る“5期の黒烏”が名を連ねていたから、完全に黒である。結局は、一番業務が軽かった杉田大佐が指名されたのだが。

 

「イベントエリア内から逃げ出さなきゃ、どこに行ってもOKか?」

「さすがに屋根の上とかは勘弁してくれ、杉田。あと、館内は入ったら大惨事になるから禁止。ちびっ子たちが投げる水風船を避けられる程度で頼む」

「ガキのお守りは、お前の領分だろうが。委員長」

 

 ガキはどっちだ――と。お互い20代が終わろうとしていることを棚に上げる。

 

「えー。いつもの制服じゃないのー?」

「島風、露出が高い服装で水遊びなんかしてみろ?色々と目に毒なんだよ……」

 

 本人の前では言わないが、目のやり場に困るんだよ――と、一人呟く。

 

 用意されたのは、夏場では暑そうな黒緑のインナー。短パンをベルトで締め、チョッキを羽織った駆逐艦たちは、さながらの“一般的な軍人”に見える。

 

 さて私服を着ていたとしても、体格から“一般的な軍人”に見える男の方はというと――――通信用のゴーグルを身に着けて周波数を合わせている様だ。

 おそらく、逃走経路のナビゲーターに渡井か笹原あたりを指名したのだろう。東郷の端末にも、見慣れたIDからの通信が混線している。

 

「男は全身濡鼠になっても構わねェってか?」

「……その“水遊び”を研修施設でやった結果、後始末に4時間かかったのは誰のせいだ?」

 

 消火栓を使って、演習相手ごと濁流に飲み込ませていたのを思い出す。あの惨事の後始末は、もうこりごりである。

 

「時間だな。那珂。会場図をモニタリングして、逐一実況してくれ。盛り上がって“事 故 が な け れ ば”それで良い」

「はいはーい『――――それでは、お待ちかねですっ!横須賀鎮守府、スイカ割り大会っ。スタートッ!』

 

 那珂のアナウンスと共に、逃走者が建物から飛び出していく。

 

 大男が重装備で駆けていく様が絵面的にシュールだが、駆逐艦の少女らがテケテケと駆けて行くのは微笑ましい。

 

「……ちょっと待て!?」

 

 最後尾を走って行ったВерныйの脚部。見慣れない推進機構がついていたのを確認する。

 

「あれって、まさかSTARDUSTか!?」

 

 STrategic sea ARea Domination Unit SysTem。本来であれば、平時に使うような武装ではない。

 

 Верныйは周囲の安全を確認し、スラスターに点火して宙空に体を放り投げる。

 

 目の前をアクロバットな飛行で少女が飛び去って、水風船を構えていた少年たちがポカンと口を開けているのが何とも言えない気持ちになる。

 

「葛城!?彩雲を飛ばしてくれっ!今すぐにだ!」

『――――今日の東郷中佐は、無茶振りが多すぎですっ!』

「四の五が言ってられない。事故が起きる前に止めるっ!」

 

 トラブルの火種の大半が、自分の部下の不始末でないことを祈るばかりだった。

 

 

 

 

 

「こんなにハードだとは聞いてないのですっ!」

「あんなのが直撃したら、お肌が痛むわよー」

 

 親子連れの水風船を回避しながら、睦月と如月、が必死に逃げる。

 

 逃げる途中で弥生が「ここは……任せて」と言って逆方向に逃げたが、完全に死亡フラグである。

 

 来場者の安全を考えて、見晴らしのいい場所を駆け巡る。出会い頭衝突したら、とんでもないので、気を配りながらの逃走だ。それでもいざと言う時のために緩衝用フィールドは常時展開しているので、大事にはならないはずだ。

 

 しかし、そのフィールドの恩恵はむしろ逃げる側にとっての足枷だ。

 障害物を受け流す為に、水風船程度なら低反発で跳ね返そうとする。その際に、フィールドと干渉して水風船は破裂するのだ。

 “そして、この緩衝用フィールドは水を通す”。海上にいる艦娘にとって、波浪に一々反応させていたらキリがない。だからこそ、水風船が散弾のように弾けてしまう。

 

 そのおかげか二人とも、数個の紙風船が割れてしまっている。

 

 しかし、まだまだ余裕はある。敵艦の砲撃に比べれば水風船など止まって見えるし、何より艦娘としての意地もある。

 

 それでも周りが敵だらけ――――という状況は精神的にこたえるのだが。

 

 いつも工廠にいる整備員たちが、サクラとして参加して弱めに投げてくれるのは有一の救いだろうか。

 

 対人戦や戦闘訓練にもなるし、良いんじゃないか――と上司に太鼓判を押されたのが不味かったのだろうか?

 逃げ切れたら、間宮券1週間分――――という餌に飛びついた訳ではない……断じてだ。

 

「放水車がいるなんて、聞いてにゃいにゃしー!?」

「武器の貯蔵は十分ってことね。逃げるわよっ。睦月ちゃん!」

 

 水風船の需要に応えられるよう、わざわざ召喚したらしい。スタッフがせっせと作っている様が、何とも言えない気持ちになる。

 

「弥生ちゃんと皐月ちゃんも無事だといいけれど……」

 

 睦月の願いは、果たして届くのだろうか。

 

 

 

 

 

「望月ちゃんが“代わって”って言う意味が今さら分かるなんて!」

 

 敵の頭数を減らそうものなら撃ち返せば良いのだろうが、一般人相手にそうはいかない。

 

 射線から身を躍らせつつ、建物の裏に駆け込む皐月。30分も続いていると、さすがに息も絶え絶えである。

 

「他の子たちは、どうやって逃げてるんだろう?」

 

 睦月姉ぇたちは無事なのだろうか?自分よりも横須賀基地の勝手を知っているから、地の利はあるのだろう。きっと大丈夫だ。

 

「浜地司令官と、絶対に間宮に行くんだからっ!」

 

 いっつも頑張ってるし、たまには本土で美味しい物を食べさせてあげたいのだ。

 

 壁際に水風船が着弾して身を竦ませるが、間隙を縫って反対側に飛び出す。

 

 けれど、待ち構えていた来場者の集団に顔が引き攣る……この数を凌ぎ切れと!?

 

 ヒュッっと息を吸い込む間にも、目の前に水風船が迫る。

 

「誰かっ、誰か助けてっ!」

 

 普段頼りにしている上司は、今は仕事中だ。それでも祈らずにはいられなかった。タスケテと。

 

 ――――しかし、目の前に迫った水弾。それが、皐月に届く事はなかった。

 

「やれやれ。こんな所で使うつもりはなかったのだが……無事かい?」

 

 目の前には、滞空する3基のシールド。空色の髪をなびかせた艦娘が、皐月の前で手を掲げていた。

 

「ヴェ……Верныйさん!?」

「しっかり捕まってて」

「へっ!?」

 

 Верныйの両腕が、皐月の身が抱えあげる。お姫様だっこをされていると分かり、皐月は手足をバタバタさせる。二人の体が空中へ飛び出した。

 

 良い眺めだな――――ってそうじゃない。

 

「Верныйさん!?東郷中佐から、屋根の上に登っちゃダメって言われたよね!?」

「……別に、滞空してはいけない――――とは言ってないよ」

 

 笑みと共に余裕な表情を浮かべるВерныйに、されるがままの皐月は呆然とするだけだった。

 

「ボクの感覚がおかしいのかなぁ……」

 

 それでも、十人いたら十人はВерныйの方がおかしいと言うだろう――と思う皐月だた。

 

 

 

 

 

 御法度だったはずの屋根の上に登りながら、杉田勝也大佐は一息つく。

 

 違和感だ。狙ってきている一部の連中が、明らかに戦闘のプロである。水鉄砲の持ち込みが許されているとは聞いていたが、射程が安物ではないし明らかに杉田だけを狙っているように思う――――明らかに体格が軍人だから、間違いがないだろう。

 

 回線を開きつつ、思っていた疑問を口にする。

 

「おい委員長。思い出すつもりもない、陸軍師団の顔が見えるのは気のせいか?」

 

 海大の演習でボコボコにしたことがある陸軍師団。一般人に紛れて、私怨を晴らしに来ているらしい。模擬店の協力で富士基地や目黒基地から陸軍関係者も来ているはずだから、ありえない話ではない。

 

『――――気のせいもクソもあるか!?最初っから、胡散臭いとは思ってたんだ。目には目を歯には歯をじゃないか?』

「上等だ。こっちから願い下げだ」

 

 拝借してきた水鉄砲に、まだ水が残っている事を確認する。

 

「俺の合図でドミネートを実行。会場の液晶モニターをクラック。奴らの眼を奪え」

『――――りょうかーい。こういうのは本当ならハル君の領域なんだけどね』

 

 端末に応答した笹原が、プログラムを走らせたようだ。

 

 中央広場の特大モニター――――会場図と逃走者に付けられた、発信機のマーキングの映像がブラックアウトする。

 

「それじゃ、反撃開始と行くか」

 

 そちらがその気なら、こちらもあの悪夢の再現と行こうじゃないか。

 

 義足のジェネレータの出力を、最大限まで引き上げる。両手には拝借した水鉄砲。恰好はつかないが、戦力としては十分だ。

 

 こちらの様子を窺っていた男の顔面に、水流を吹きかける。

 

「なーに。騒ぎにならんよう、穏便にやるさ」

 

 スティンガーキラーを舐めるなよ。杉田は迫りくる相手に視線を向け、口角をあげるのだった。

 

 

 

 

 

『――――いやー。盛大にやりましたねー杉田大佐も』

「ふっざけんじゃねぇ!どこのバカだ、警備カメラの映像も巻き込んで差し替えた奴は!青葉、優先順位を変更するぞ」

 

 一方その頃。警備を担当していたある男が、同僚の行為に悲鳴を上げていたのは言うまでもない。




改めて。皐月をお貸し下さった はまっちさんに、感謝申し上げます。
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