艦隊これくしょん~鶴の慟哭~   作:エーデリカ

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いつのまにか、お気に入りが150を突破と聞いて恐縮です。

自分で書いていて、この作品って読んでて面白いの?と思うことは多々あります。
(というよりも、2月の投稿開始からずっと思ってますがね)

作者としては読んで下さる読者あってものですし、これからも精進していくつもりであります。

それでは、祭の喧騒から少し離れてみましょうか?


三章-14 伏して見ゆるは、虚ろの都

 カツン、カツン。特務護衛艦てるづき の艦内を、伏宮は歩く。

 自分の軍靴が踵を鳴らすたびに、無機質な廊下に反響する。

 

 まるで昔に夢見た、秘密基地みたいだな――――と一人ごちる。

 

「自分で懐かしんでいるくらいには、任務は落ち着いたって訳か」

 

 大湊警備府に配属されて数週間。伏宮本人への大本営からの緊急招集である時点で、呼ばれた理由のだいたいは察しがついていた。

 

 艦娘の誕生から4年。自分の本家である伏見宮(ふしみのみや)家が艦艇の戦闘記録を記憶として残すことは、自律兵器の開発に携わっていた時代から何も変わっていない。

 

 ただその対象が、ただのロボットではなく少女と艤装という関係にシフトしただけということか。無機物であった艦艇の魂そのものに対して、メモリアルストックに準ずる記録(・・)を作り始めたのはここ最近のことだ。

 

 人工知能を用いて、人間が指揮することが困難な戦場で戦わせるという思想は間違ってこそいない。その過程で着目されたのは、かつての大戦を跳梁し無謀とも言える戦いに身を投じた軍艦たちだった。

 

 自分の本家――――伏見宮家は、古来から皇族の祀事の一角を担っていた。精通していたのは日本における信仰や祈祷、呪術の類。本家の働きかけで、八百万の神から遣わされた妖精――――ファンタジーと思うような背丈の小人たちが、今の人類を救済すべく協力しているのが一つの成果とも言えよう。

 

 日本には多神教やら汎神論だとも言われている、八百万の神々への信仰がある。

 自然に存在するものを崇拝する気持ちを、信仰としていた日本。米粒の一つ一つでさえ神が宿ると言えば、人間が目に見える妖精(神の使い)として意識する前から、神々は身近に存在していた。

 

 転機が訪れたのは、怨念として語られる深海棲艦の登場。怨嗟を燃料として。敵意を弾丸としてぶつける彼の者たちを鎮魂すべく、妖精たちも頭を抱えていたのだ。

 

 ――――ここで神々と、深海棲艦へ対抗したい人間の利害とが一致する

 

 その妖精たちと共に作りだされたのは、艦艇の魂を内蔵する艤装という概念だった。

 艤装に宿るのは、かつての大戦で喪われた艦艇の魂――――船霊(ふなだま)とでも言おうか。

 

 まさしく、船霊を用いて怨霊を除霊するという。やっていることは銃器による殴り合いであるが、宗教的意味あいを含んでいたのが深海棲艦との戦争だった。

 

 目的地に辿りつつ、部屋のドアを開ける。そこには別命あるまで待機と、実質的に謹慎になっていた東郷の姿があった。

 

「……独房入りは終わりか?」

「なんて凡ミスしてやがる、委員長」

 

 呼ばれた理由は至極単純だ。その船霊の技術の一端に干渉してしまった同僚――――東郷への叱責であった。流石に度を過ぎた場合では、伏宮としても庇いきれなかったのだ。

 

「ギニョールシステムを使ったのか?お陰様で、限界深度まで潜られたDD-KG01(陽炎)DD-KG02(不知火)に関しては、案の定艤装が使い物にならなくなってた。大本営が艤装の凍結を決めたから、その報告だ」

「……二人の容体は?さっぱり情報が入って来なくてな」

「無事に一命は取り留めたそうだ。ただし、艦娘としてお前と合わせる訳にはいかない。アイデンティティ・インフォメーションの破壊に近しい行為をやってんだからな?お前は」

「……ご忠告、感謝するよ」

 

 大戦に存在した艦の記録を記憶に見立てた疑似メモリアル・ストックというべき情報の塊。そこに、人格としての個の情報を合成したアイデンティティ・インフォメーション。

 

 東郷がやったギニョールシステムによる強制ハックは、一歩間違えれば艦艇の人格(アイデンティティ・インフォメーション)を書き換える行為そのものに近しいのだった。

 

 お前は、甘すぎるんだよ。委員長――――その呟きに、東郷は目を伏せるだけだった。

 

「ギニョールシステムの最大の弱点。簡単に言ってしまえば、艦娘の主導権を人間が握ってしまう事だ。それが分からないお前じゃないだろう。永野大佐にも止められていたんだろうが」

「だからって……見捨てて良い命がある訳ないだろうがっ。どんな理由であれ、彼女らは助かった!」

「だからって、その兵器を壊して良い訳じゃないんだよ東郷。ならお前は、あの二人(’ ’)を犠牲にして、もし艤装だけが健在だったのならば。あの二隻(’ ’)が救えるはずだった、国民の命を奪ったことになってんだぞ。結果論だが艤装自体が回収できてなければ、お前の首は飛んでるぞ」

 

 艤装が無事であれば、素体である少女を交換すれば兵器として存続できる。

 そもそも艦娘の仕組み自体が、脆い人間を抱えているというシステムであるから当然であるのだ。

 

 東郷がやったのは、国民の命ではなく兵士の命を優先してしまっただけなのだ。

 お陰様で船霊が艤装にアクセスできない状況まで浸蝕され、艤装は今は使い物にならない状態になってしまった。

 

 だからこそ、駆逐艦陽炎と不知火は名実ともに沈んだと言えよう――――素体の少女二人を残して。

 

「二人の無事を知っている連中には、箝口令が敷かれてる。もうあの二人はいないんだ、分かってるよな?委員長」

「……了解」

 

 去り際に東郷を見やると、一番彼女らの無事を心配していたのは彼なのだろうと思うくらい、安堵していたのを覚えている。

 

 

 

 

 

 この二人を前にすると、あの件を思い出すのは仕方ないか……

 

 ほらほら、人気者は行った行った――――と、呼び出しを喰らって去っていく東郷を尻目に伏宮は焼きそばを啜る。

 作業を監視する邪魔者が、いなくなったと言わんばかりである。

 

「生きているのが奇跡だったお前らの艤装を直すのに、一体どれだけの根回しが必要だったと思ってんのかなぁ……アイツは。どう思う?陽炎(・・)に不知火(・・)

 口に含んでいたお茶を、盛大に噴出したのは姉の方。

 

「唐突に何よ?そこで、私の古傷を抉るかフツー!?」

「その節はお世話になりました、伏宮少佐」

 

 頭を下げた桃夏――――不知火は、一瞥した後には手元の作業を再開し始める。

 むしろ決まりの悪い顔をするのは朱夏――――陽炎の方だった。

 

「あー……まっ、まぁ。さっきまで様子を見ていたけれど、今のワタシ(・・・・・)もなかなかの面構えだったじゃない?」

「アラスカ沖海戦で、初期生産型の艦娘を何人も喪った……3年間も、陽炎型を黒潮型に呼称する必要があったんだ。あいつらに働いて貰わなかったら、手を尽くしたこっちが割に合わん」

 

 少なくとも火消しに奔走する羽目になった伏宮にとって、目の前の双子が生存していることで色々と手間がかかったのは事実だ。

 

「引退した――――正確に言えば、艦娘から抹消されたお前らを、こう呼ぶのはおかしいがな」

「あの時大湊の支援艦隊が間に合わなかったら、艤装の回収すら出来なかったと聞いています」

「今頃魚の餌になって、海に還ってるところだったわ。それだけは感謝してるわ……」

 

 白夜の鐘――――あの時に通常兵器の在庫一掃セールが開催されたのは、首を突っ込んだ司令官勢には暗黙の了解だった。それに一部の艦娘たちが、不幸にも巻き込まれてしまったことも。

 

 伏宮にとっても、あの戦闘が自分の運命を大きく変えた一件であり。同時に今の職を続けていられるといった面では、恨みはなくむしろ感謝しているくらいだ――――針の筵のような伏見宮家で過ごすのに比べれば……だが。

 

「唐突になによ。皮肉を言うためだけに、私たちを呼んだって訳じゃないでしょうが」

「いや……そろそろ東郷(アイツ)が扱う艦娘を、変えるべきだと思っただけだ」

「例のギニョールシステムで、また東郷大尉がやらかしたのですか?」

「ホント察しが良いのな……桃夏は」

 

 何せこのタイミングで彼女らを呼ぶつもりはなかったから、伏宮としても予定外であったのだ。

 

「艦娘の正体とは何か?って知っているお前らには今更か……表向きには妖精の造った艤装を背負う少女達であるって解釈だが、厳密には違うのは知ってるな?」

「船霊の件も含めて、存じています」

 

 伏宮の問いに、桃夏が頷き返す。

 

 あのとき、確かに陽炎と不知火は沈んでいるのだ――――背負われた艤装は確実に。

 

 素体の少女が使えないならば、人間が乗っ取って強制的に艤装を使用する。

 二人が生き伸びるために、施した処置が最善だが最悪(’ ’ ’ ’ ’ ’)の方法だったのだ。伏宮としても、原因の東郷を責めることは出来なかった。

 

「艦艇にだって分霊された艦内神社を持っているんだ。地名と所縁を持つ艦艇は、その近くの神社。天候やら気象の名前を冠する艦艇は、主に伊勢神宮から分霊されていることが多いのだが……」

「まぁ伏見宮(ふしみのみや)少佐」

「俺は分家だから伏見宮姓を名乗れないことになっているんだが……うちの本家――――伏見宮家は、八百万の神から遣わされた妖精との関わりも多いからな。その方面にも明るい訳だ」

「だから伏宮少佐は、そうやって妖精達に懐かれているのですね」

 

 桃夏の指摘したとおり作業を止めていた伏宮には、その頭や肩や膝の上などに妖精達が群がっている。

 

 基本的に神様っていうのは、退屈しているから遊びたいんだろ?――――押し寄せられている当人は諦めているようだ。

 

「話を戻そう。その妖精や艤装の役割を知っているからこそ、艤装を喪うことは戦力ダウンだけじゃなく、神々の怒りを買うんだよ――――何せ、貸して貰っている力だからな。問題は意図的じゃないにしろ、ギニョールシステムは艤装を壊すシステムってことだ」

 

 だからこそ東郷の部隊は、彼にとってある意味使い捨てに近しいのだ。といっても東郷と艤装とのコンフリクトが問題であるから、陽炎や不知火のような限定された状況以外では他の提督に悪影響は関係のない話であるが。

 

「艦娘……いや、そもそも艤装の喪失にはかなりの責任問題なんだ。何せ、神様から預かった神器を、人間の都合で壊した訳だからな。妖精(神の使い)からの信頼を大きく損ねることになる。アラスカ沖での海戦だって、君たちを含めてかなりの艤装を破壊された。だからこそ修復には最善を尽くさねばならなかった」

 

 そもそもギニョールシステムがなぜ艤装に悪影響を及ぼすか、お聞きしても宜しいでしょうか?――――桃夏の問いに、伏宮が口を開く。

 

「提督が艦娘を操る従来の方法っていうのは、このペットボトルを持ち歩くようなものなんだ。提督が指示を出し、艦娘が艤装=船霊という燃料を運ぶ容器だと思えばいい」

 

 伏宮は、手元にあったペットボトルをちらつかせる。

 

「ギニョールシステムが欠陥品と呼ばれる理由は、単純明快だ。Guiniol(見世物小屋)の名を冠する通りに、艦娘自体を人形のように骨抜きにしてしまうデメリットがある」

 

 艦娘への適性は、艤装が少女を取り込みやすいかによって決まっている。

 船霊からしても、自身と同調しやすい少女だからこそ力を貸しているという現状だ。

 

 ならばその関係に、提督と言うイレギュラーが挟み込まれたらどうなるか。

 ギニョールシステムのように、指揮官が直接脳髄を支配するようになれば。それはもはや原型の少女とはかけ離れて行く。

 

 船霊からしてみれば『憑りついている艦娘が、自由に動かせる駒でなくなった』ということだ。

 

 だからこそ、艦娘が艤装本来の力を引き出せなくなる。

 主導権は指揮官に移り、艦娘は船霊の力を行使する為だけの人形に成り果てる。

 

「艦娘がペットボトルの容器だとすると、船霊が艤装を支配できる領域っていうのは入っている液体分だってことだ」

「ちょっ!?私のお茶を取ってくなぁ!」

 

 朱夏の指摘を受け流し、伏宮はキャップを開け中身のお茶を呷る。半分ほどを残した所で、再びキャップを閉める。

 

「今は半分しかお茶が残っていない訳だが、これはギニョールシステムを使ったおかげで船霊が支配している領域を人間が奪ったっていうことなんだ。逆を言えば、艦娘単体でスペックを引き出そうとしても、半分のリソースしか残されていない」

 

 ギニョールシステムが指揮官との同調で、少女自身の戦闘技術をブーストさせる装置ならば。

 同時に船霊からのサポートとコンフリクトし、艤装を満足に扱えないようになる。

 

 ――――それが、GUINIOL-E(GamUt of IgNItion contrOL Executer)。戦域において、上官が部下の火器管制の全てを掌握する。日本空軍が電脳式の指揮システムを構築していく中で生まれた、負の遺産であった。

 

「で。東郷中佐は、何でそんな諸刃のギニョールシステムに拘ってるのよ?」

「海大時代の恩師が、操縦すりゃ空戦の申し子とまで言われた永野大佐だっていうのもある。あの人が設計に関わってるし、ギニョールシステムの開発自体は単純な戦力向上に繋がるからな。いかに艦娘への浸蝕を防ぎながら運用するかっていうテストベッドみたいなもんなんだ。東郷(アイツ)の部隊は」

 

 そのサポートの為に、船霊を扱う俺の家系が目を付けられてるって訳だ――――伏宮は自嘲ぎみに呟く。

 

「東郷自身の戦闘技術は、そう高いものじゃない。ただしメモリアル・ストックで掲示されてるアイツの性分は、他人に溶け込みやすいっていう個性だからな。指揮官として着任した以上、無意識にとはいえ艦娘が自分の指揮下で疑問を持たずに従う部下になっちまうんだよ」

 

 誰よりもギニョールシステムの真価を引き出せ、同時にその反動がでかい被検体。永野大佐もシステムの完成という悲願の為には、教え子を使い続けるのだろうと思う。

 

「景鶴ちゃんにも、助けるために相当ダイブしているからな。嫌な事にならなきゃいいが」

 

 杞憂であれば良いのだがな――――伏宮の呟きは、祭の喧騒に消えて行った。




活動報告に、執筆の近況について載っけました。
慟哭に限らず”余裕ができたら”書こうと思ってます。
ご意見等ありましたら、コメント欄へどうぞです。



なお夏祭り編は、あと2話に延長された模様です。
SN作戦いつ始まるんだよっ!
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