艦隊これくしょん~鶴の慟哭~   作:エーデリカ

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すいません、サボってた訳じゃないです。
一章~三章の内容が気に入らなくて、日々書き直してるエーデリカです。
優先順位が書き直し一辺倒なので、しばらく亀更新になりそうです。

最新話を書く時間としてとれないのと、卒業研究が12月に仕上げなければならない関係でかなりバタバタしてます。秋イベもありますし。

更新ペースは落ちますが、お付き合い頂ければと思います。

それでは、どうぞ。


三章-18 亡霊は、今際の際とを行き来する

 何でこんな時に倒れるかな。悪い癖が祟って臥せった友人を脳裏に浮かべつつ、高峰春斗大佐は平時よりは人がいない司令部宿舎の廊下を進む。

 

 夏祭りにしかり裏方の作業も順調で、二日目は何事もなく進行している様だった。昨晩は来場者へパニックなくおさめるために、全館の照明を消しての花火大会であった。あんな状況で暗闇に明かりがついていれば、探照灯よろしく狙われかねない。敵方の目を一般人から逸らすために、数キロ先の海軍の施設を囮として防衛戦となった。

 

 その指揮をと笹原が掻っ攫われ、夜戦バカこと川内を投入したのが篠華中佐。彼女の傍若無人っぷりは今に始まったことではないが、付き合わされる周りの身にもなって欲しい。

 

 無縫者(・・・)とはよく言ったものだ。得意分野だけは完全無欠。あとはからきし零点な極端振りでよく海大を卒業できたのだと呆れているが、そこは仲が良かった笹原あたりがフォローしていたのだろう。高峰から言わせてみれば、その天真爛漫さを含めて無法者とでも言いたくなるが。

 

 全教科万遍なく。だが取り柄もないクソ真面目な委員長こと東郷とはまったく対極の性格であるため、高峰も篠華とは何かとソリが合わないことも多い。だが、そんな(表向きには)業務もなぁなぁにこなす彼女が『タカ君、手ぇ貸して!』と呼び出すこと自体が稀有で、だからこそその緊急性・異常性に肝を冷やされたものだ。

 

 目的地に辿り着き、ノックを3回。了承の返事を経て入室すると、女性士官用の白ズボンを履きサラシ1枚で包帯と格闘している景鶴の姿があった。負傷した右腕に巻こうとしても、義手の左手だけではさぞ骨が折れることだろう。

 

「傷の具合は……って聞くまでも無いか」

「あー。なんというか慣れっこだからね」

 

 そうはにかむ彼女の肢体を見て、高峰は眉を顰める。いささか成人男性にとっては薬でもあり毒でもあるラフな格好だが、目に留まったのはそこではない。

 

――――なぜこうも傷跡が残る?

 

 前線に出る艦娘にとっての生命線は、傷薬もとい修復材であり。おなじみの緑色のバケツ(高速修復材)はそれを濃縮して、新陳代謝を劇的に高める消耗品となっている。

 

 真皮に達するような深い傷であっても傷跡すら残らないように開発されている特注品であるが、さすがに手足の欠損レベルになると手には負えなくなる。景鶴を見ての反応は一つだ――――なぜ彼女はこうまでして戦うのかと。

 

 脇腹は深く抉れたように、周りの皮膚の色とが異なり。普段は眼帯で隠している左頬も火傷を残し、赤いアザのようにくっきりと分かる。左目は焦点を合わさず、ただ空虚のみを見るかのように澄んでいた。

 

 ファーヴニル生化の遺産=レべナント(欠番個体)の治癒については、そんな傾向があるとは聞いている。何でも修復速度を跳ね上げる代償として、表皮の傷ついた細胞が入れ替わる優先順位を下げているらしい。深い傷すら短時間で治るが、その分以前の表皮に戻す機能が欠落したために彼女の様に跡がくっきりと残る。

 

 CV-THX01本来であれば存在しないハルナンバー。表向きにはその存在が合法的であるが、実際には対深海棲艦のために設けられた艦種であると記憶している。目の前の景鶴もまたファーヴニル生化の”遺産”と呼ばれる存在だと、諜報機関の手足として動いていた高峰も辿り着いている。

 

 その発端はどこから……という起源は不明だが、従来の艦娘を作りだすために重ね重ね人体実験が行われていたことは事実だ。その中でのファーヴニル生化の動き。ターナー博士が着目したのは深海棲艦からのリサイクルであり、船霊に頼らない独自の運用が出来ることを目指していた――と調査では結論づけている。

 

 帝政アメリカから逃れて研究を行っていたターナー博士。傘下であった六連星造船を隠れ蓑に、日本での実験を開始した。裏の世界に飛び込めば人体実験の聖地であった日本のことだ、彼にとっての天地であったに違いない。研究は完成し………………そして日本の上層部に目を付けられることとなった。

 

 彼の成果を世に晒すことは、艦娘について日本の技術力が世界シェアを占める現状から覆す核弾道のようなものであった。だからこそ海上機動隊を投入し”接収”という形で矛を収めた。博士が死にもの狂いで研究成果の奪還に来たのは、当たり前とも言えただろう。

 

 だがそんな遺産であっても、上層部は被検体の扱いに困った。このまま生かしておくのが危険という派閥と、を画策する派閥もあった。会議は連日連夜で紛糾し、最終的な決定は彼女らを亡き者にする方向性に進もうといた時だった。

 

 その論争に終止符を打ったのが、空戦の申し子と言われた”空鬼”永野誠少将。航空自衛隊上がりの現場主義の戦闘機乗りであり、何よりも深海棲艦への対抗策と国防への関心を寄せる将校であった。

 

 永野少将の提案は、軌道に乗った艦娘運用との併用が出来ないか――といういたってシンプルなものだった。しかし日本の(・・・)息がかかっていない艦娘として運用して、その負う必要のあるリスクと深海棲艦を討伐できるというリターンを秤にかけたときには、どうしてもその遺産が安定して使い物になるか――というところで終始した。

 

 だからこそ永野少将は提案した。遺産を投入したことにより、将来何かしらのトラブルが起きる責任を負うとして、先手を打つ形で大佐への二階級降格を進言。そして空軍の使用しているギニョールシステムを改良し、彼女らの枷として縛り付けることで場を収めた。

 

 邁進を続けていた強硬派の中核担っていた若造であった永野を会議の席から外させることは投入するリスクを鑑みていた穏健派にとってもメリットであり、後々通したい他の議題も含めると決して悪い話ではなかった。

 

 最終的にはレべナント(欠番個体)と名づけられたファーヴニル生化の被検体たちは、その有用性も認められた上で保護。人権を侵害してはならず、被検体の同意を得た上で軍人として起用する――という結論になった。

 

 その投入に関してはまた別の議論が巻き起こるのだが、運命の悪戯もあってか。そんな経緯があって、目の前にいる景鶴は今に至ったという訳だ。

 

 高峰自身も永野から話を聞くまで半信半疑であったが、国防という職を務める中で、駒は多いにこした事がないというのが当時の共通見解であった。派閥を越え、裏で根回しをした出来レース。かくして少女たちは処分をされずに生きながらえてきた。

 

「……高峰大佐……聞いてます?」

「スマン。ちょっと呆けていてな。それで……話をしたいと言われて来たんだが」

 

 棒立ちのまま逡巡していた高峰の思考を遮るように、景鶴の一声が飛ぶ。

 

「提督さんが一番信頼してるのは、多分高峰大佐でしょ? だからお願いがあるの」

 

 彼女の金色の右目が高峰を射抜く。どうやら、冗談で言っているつもりはないらしい。

 

「グラウコス……実際にあぁやって会ってみて分かったけど、厄介なのに巻き込まれたんだね。私は」

「景鶴が心配するようなことでもないだろう? それに横須賀に入れば特調だって張り込んでいるし、何より委員長がいるじゃないか」

 

 彼女が東郷を慕っているのは目に見えて分かる。戦場を突き崩すワンオフ運用できるスペックと、戦場でも火消しに走る東郷の戦術との相性は良好と言える。恋心……のようには見えないが、相棒という言葉に当てはめるのならば二人の組み合わせは決して悪いものではないはずだ。

 

「高峰大佐は、本当にグラウコスがいるって思う?」

 

 予想外の質問に目を丸くする。

 

「確かにクラッキングがあって、私が借りていた艦載機が部隊指揮から逸れた。でも本当にそれだけなのかなぁって」

 

 不正アクセスを検出し、その発信源を突き止めようと高峰ら特設調査部が奔走したのも昨晩のこと。確かにグラウコスの手引きがあったことまでは分かる。

 

「でも……思うんだ。高峰大佐は、私が深海棲艦の細胞を取り込んでるって所まで知ってるでしょ? 昨日の戦闘で川内たちに艦載機を向けたのは、もしかしたら私自身のせいなんかじゃないのかなって」

 

 それは、思い詰めた彼女の叫びだったのかもしれない。膝の上で握った拳は震え、唇を噛んでいた。彼女が手をかけたという感覚すら、操られている物ではないのか。紛い物だとしても、今の自分達にその真実を探ることは悪魔の証明に近い。

 

「ねぇ、高峰さん。私がやったんでしょう……私が川内達を沈めようとしたんでしょう!?」

「そこまでは俺からはいえない。グラウコスの使用したスタックネット型ウイルスは、君がそう判断していることさえ、意のままに操れる。相手の掌で踊らされているかもしれないし、君の言う通り理性が利かなくなって艦載機で攻撃したのかもしれない」

「だったら……今すぐ私を殺して。私が提督さん達を殺す前に殺してよっ!」

 

 艦娘には一時的に船霊が憑依しているようなものであり、艤装の砲を用いたとしてもそうそう死ぬようなものではない。防護機能もあるし、何より自殺志願者として苦しまずに三途の川を渡るのは困難だと言える。手段があるとすれば、他人から命が尽きるまで凶弾を撃ち込まれ続けるくらいだろう。

 

 入水自殺をしようとしたって。リストカットをしようとしたって、艦娘としての保護機能によって軽傷であればたちまち回復してしまう。そして何より指揮官や関係のある人々に警告が発信されるのだから、秘密裏に死ぬ事はできないといえる。

 

 もし本当に死にたかったら艦娘を辞めるのが手っ取り早いが、他国から狙われてるという都合上。また東郷に退役する旨を伝えた時点で勘繰られるだろう。

 

 そんな八方塞がりの彼女が思いついたのが、自分の状況を知っていてなおかつ協力してくれるであろう人物。そして、無暗に口外しないという条件に合致したのが高峰なのだろう。

 

 それを分かっていても、彼女の上司ならどうするかと逡巡し言葉を重ねる。

 

「俺は、今の君を殺す事はできない。たとえグラウコスの手足のように傀儡になっていても。仮に深海棲艦の片鱗を見せたとしても、東郷はそれを許さないだろう……むしろ、自分の手で君に手をかけるだろうからね」

「……そう言うと思った」

 

 乾いた笑みを浮かべる景鶴は、力なく項垂れた。

 

 そんな彼女に励ましの言葉一つくらいかけるのは、お節介ではないだろう。

 

「景鶴、委員長を頼む。あんな生真面目な馬鹿だが、誰よりもお前の味方になってくれるはずだ。お前が信頼してやらなきゃ、アイツも救われないぜ?」

 

 返事を待たずに、踵を返す。東郷の存在が彼女を艦娘たらしめる枷となるなら、それにこしたことはない。

 

 一指揮官としても、仲間が減るのはツライものだ。そう思い浮かべて後ろ手に扉を閉める。

 

 部屋には、少女の啜り泣きのような声が響くだけだった。




グラーフ堀に70週。燃料が50000近く吹っ飛んだので、しばらく遠征これくしょんですね。
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