4/6追記:大村丙郎少将に名前を変更。曙と摩耶の出番を追加しました。
「ふあぁ。提督終わりましたー」
結局明石には、無理を押して義手の装着に全力を尽くして貰った。
まさか本当に90分寝て、復活するとは思わなかったが。
「後で、本土の間宮に連れてって下さいね」
そう言って、フラフラと部屋に戻って行った。
さて、本土には空母と駆逐艦保護の連絡はいっているはずだ。あちらの提督も気が気でないのではないだろうか。
しかし救出から3日目となった今でも、本土からの電報一つすらない。
となると件の艦娘が目を覚まさない限り、進展しないのだろうか。
懐かしい夢を見ていた気がする。雨の路地裏、姉妹艦や先輩との思い出。
あれが走馬灯?とも思ったが、鋭い痛みが現実に引き戻す。
何処か病室のような一室、視界は右側のみ。病人服を着た自分の体を見るが、四肢に欠損はなく……ってあれ?吹き飛んだんじゃ?
右腕は動く。声をあげて誰かを呼ぼうとするが、代わりに出るのはゲホゲホッという咳と喉にかけての痛み。
幸い様子を見に来たという桃色の髪の女性のおかげで、事なきを得た。
『気道熱傷ですから、修復材に浸かるまで我慢して下さいね』
だそうだ。この焼けるような痛み。結構こたえるんですが。
結局連絡がついたのが、作戦から一週間と経ちそうな時分だった。目を覚ました空母艦娘から明石が情報を聞き出して、落ち着き始めた頃の通信というのはいささか遅すぎるような気もする。
『―――御苦労だったね。東郷中佐』
嫌味と共に会話を切り出されたな。いかにも嫌な上司といった太った風貌の男――大村丙郎少将が画面の向こうで口を開く。
こんななりでも少女を率いて戦う提督なのだから、世も末だなとは思う
『―――来たるべき本土部隊による、敵泊地への決戦。その前哨戦だった珊瑚諸島沖の強襲。あぁ、南方棲戦鬼に止めを刺したのは君達の部隊だったかね』
これ面倒なパターンだ。後でねちっこく言われるだろうな。
『―――おまけに、想定外だった敵部隊の転進に対して防衛行動をとった艦娘に加勢したそうじゃないか』
「お褒め預かり光栄です。所で大村少将、損害が軽微だった駆逐艦曙はともかく、空母瑞鶴はどうされますか。今は動かすのが危険な状態との報告を受けていますが」
『――――捨て置けば良い』
……耳を疑った。今なんて言った?
『――――捨て置けば良い……と言ったのだ、東郷中佐。元々任務外の行動に走った結果だ。責任はアレ自身にあろう』
「お言葉ですが大村少将。その発言は同じ軍人として戦っている艦娘に対しての暴言かと思われますが」
目前の男は笑みを絶やさず続ける。
『――――いや、失敬。“上の席に上がる為の捨て駒”ならば、利用するに決まっているだろう。今回の件は』
最初から疑うべきだった。獲物を横取りされても少将の機嫌が良い事が、まずおかしかった事に。この件に一体何があるというのか。
表向きには南方海域シーレーンの安定化。急進派による独断思われる作戦内容。一航戦及び金剛型をはじめとする主力艦隊による強襲。その支援艦隊だった第二艦隊所属の一空母の単独行動。それに何の価値があり、単独行動が黙認されたのか。
本来艦娘とリンクしている指揮官には、艤装機能をロックする事が可能である。艦娘が上層部に反旗を翻さない為の処置の一つだが、表向きには気を失った艦娘の作戦行動代行の為、と言われている。
今回の件。遠征中だった駆逐艦二隻による防衛行動は、軍規に基づきリンク外行動に当てはまる。勝ち目がない戦いでも、敵艦隊をひきつけ続けた駆逐艦曙の行動は、これといった問題はない。
しかし空母瑞鶴の場合、リンク下にも関わらず大村少将は黙認。あえて軍規違反を犯してまで、あの海域まで単騎突撃させる上層部のメリットはなんだ?
『――――確か君の部隊は航空戦力に欠けていたそうじゃないか。君に譲ろうじゃないか瑞鶴を。そう出来るだけの根回しは出来るからね。……もっとも“弓が引けなくなった空母”など置物も良い所だがね』
ギリッと歯を噛みしめる。まだだ、まだ怒るな。ここで反論した所であの艦娘の処遇が覆る訳でもない。
『――――明朝マルハチ・マルマルにタンカーと護衛駆逐艦を横須賀に向けて、出港させたまえ。……あぁそれと空母瑞鶴の新しい適合者が見つかったそうだ。破損は破損だが“瑞鶴の艤装”は生きているのだろう?積荷として送ってきたまえ』
「……了解致しました。大村少将」
少将。貴方の言わんとしている事も分からなくはない。轟沈の定義が、使用者の死も意味しているならば、戦力低下を防ぐ為に新たな適合者に艤装を譲る、というのも間違っていない。
それでも……。それじゃああの娘はこの僻地に取り残され、軍籍を剥奪された一般人じゃないか。
『……出来れば火種は最後まで潰したかったのだがね』
大村少将が誰とも言わず呟いた直後、通信機のリンクが切れた。
結局泊地の一提督なんてこんなものだ。艦娘に手を差し伸べられない。憤りは誰にぶつけるでもない、真っ黒な上層部に対してか、自分自身への不甲斐なさか。
――――そういえば、駆逐艦の子がお礼を言いたいそうですよ?
明石に言われた事を思い出し、医務室の扉を叩く。返事を確認した所で入室すると、紫髪の少女が視線を向けてきた。
良い目をしているな――率直に思ったのはそれだった。物怖じしない度胸と、少女の強気を表すかのように爛々と燃える。
「横須賀鎮守府所属、綾波型8番艦曙よ。」
一応、助けて貰ったし、お礼を言うわ――そっぽを向いているが、微妙に頬が赤い少女。
傍らには、道中を共にしてきた潮が控えている。
「感謝の言葉は僕なんかより、空母の子に言った方が良い。攻撃の手が緩んでなかったら、俺らも間に合わなかったからな」
といっても、まだ目覚めていないから後にしておこうね――そう釘を刺しておく。
「横須賀の曙ちゃんか……噂は聞いてるよ。提督泣かせのクソ提督製造機って、言われるくらいにはね」
「何それっ!?あんたもクソ提督って言われたいの?」
言った傍からだなぁ。からかいつつも少女に聞きたい事があった為、真剣な面持ちに戻す。
「曙、さっそく聞きたい事がある。大村少将の目的は何だ?空母1隻を沈めてでも作戦を継続する理由が思いつかない。勤務態度とかで何か知らないか?」
「……そうね。私も遠征部隊だから、一軍がどう扱われていたかは知らないけど。……
でも無茶をして作戦を継続するくらいには好戦的よ。表向きには黙殺されているけど、捨て艦戦法も躊躇せずにやっているわ」
横須賀のような本土でそれが認められているという現状は、あまり好まれたものではない。
しかし、結果を出しているのでは話が別だ。――――犠牲を幾ら伴おうが、結果が全てであるのならば……だが。
曙はギリッと歯を食いしばる。
「私はあんなものは認めないッ。味方の屍を踏み越えてまで得た勝利に、何の価値があるのよ!?」
「落ち着け、曙。確かに大村少将のやり方が正しいとは言えない。だが、軍人としては優秀な部類に入るんだよ……犠牲を承知で戦果を上げる事でしか、手腕を発揮できないような奴はな」
アンタはどうだって言うの?――――曙の問いはもっともだ。
「曙ちゃん!?助けて貰った提督さんに、そんな事を聞いちゃダメだよ!」
「潮。アンタには聞いてない。……で、どうなの東郷中佐?」
彼女の指摘に答えようとした時、俺はどんな顔をしていただろう。
「――――沈めたも同然の事なら、とうにたくさんだ。戦果を求める為ではないが、艦隊の為に味方を見捨てたといっても否定できない」
「アンタも同じ穴の貉ね――――残念だわ」
話は終わりよ、出てってくれる?曙に言われるが早いが、足は扉に向かっていた。
「……少なくとも俺は、お前を助ける事が出来てよかったとは思っているよ」
そう言い残して、その場を去る。
「アレで良かったのかよ?提督」
宿舎の屋上で紫煙を吹かしていると、摩耶が声をかけてきた。
「曙には悪い事をしてると思う。だが艦娘が司令官に従うように、俺ら司令官も軍と言う場では歯車にしか過ぎない事は気付いて貰わなきゃならないんだよ」
手すりに体重を預け、隣に摩耶が並ぶ。
「“白夜の鐘事件”まだ提督は、あの事件を気にしてんのかよ?アタシも長らくウェークにいたから、当時の様子は知らないけどさ……」
「……地獄の釜を開けたような光景だったよ、アレは。十何発の核ミサイルが撃ち込まれた戦場は、凄惨だった。俺とВерныйはたまたま運良く生き延びただけなんだ」
――――だから、他の船は沈んだ。助けられなかったんだ、俺達は。
ギリッと奥歯を噛みしめる。
「だから俺は力が欲しい。もちろんお前達が強くなると同時に、自分だけでなく周りも守って欲しいんだよ」
「知ってるよ。“沈むな、必ず生きて帰って来い”提督の口癖じゃねぇか。提督って言うのは、ひたすら前だけみてりゃ良いんだよ」
アタシらは沈まない。なんてったって、”守りの東郷”がついてるじゃねぇか!
カッカッと笑う摩耶に、つい自分も微笑ましくなってくる。
「お守りをするつもりはないが……そうだな、あの空母の子も守らないとな」
東郷の呟きは、煙草の煙と共に青空へ消えて行った。
少将のイメージはエスコン5に出てくるオーソン・ペロー基地司令です。
あれ聞いてるたびに、この野郎と思ってた時期もありました。