今回はオーバードライヴ先生の『黒いカラスが5人そろえば』に類するような企画モノですね。江田島伝説のまた新たなる1ページを刻むことになった模様。エーデリカは今日も平常運転です。
この前「黒烏の伝説を始めてしまったのはお前だ!」と総ツッコミをされましたが……うん、投稿日時確認したら元凶だったらしいですハイ。
本日は節分ですね。はてさて、彼らは邪鬼を払えるのでしょうか?
それでは、どうぞ。
緊急入室用に備え付けられた執務室側のロックは既に解除済みである。
被ると言うよりも持ち主の周囲に展開されるこのタイプの光学迷彩は、補給隊のような後方支援には重宝されるものだ。光学迷彩が必要な補給隊というのも稀有な話であるが、敵地のド真ん中を背嚢を背負って突破するには便利とのこと。まぁ、暗殺なぞ柄ではない時津風にとってはさした問題ではないのだが。
正面口のセキュリティ付きのスライド式ドアを難なく突破。ここからはアナログなドアノブだけの空間である。高鳴る動悸を抑えて、ただひたすらにターゲット目がけて投擲するイメージを再生する。しれーの反応が楽しみだなぁ。くつくつと笑いが出るのを噛み締め、目的の執務室へ辿り着く。
夜勤明けの永野大佐なら、今頃は夢の中に違いない。半開きにしたドアから内部を確認、クリアリング。私室の布団にはいないことを確認しているから、おそらく執務椅子にでももたれかかっているのだと仮定する。窓際で逆光であるが、これだけ照り返せば光学迷彩は役に立たない。解除しつつ、片手に枡を、片手に節分豆をと握りしめる。
――――イチ、ニの、サン。
タイミングを心の中で数え、スタンディングスタートで駆け出す。執務室の奥側へ飛び込み、踵を軸に振りかぶる。今日はこれがやりたくって、しばらく夜も眠れなかったのだ。だから永野大佐には覚悟して貰おう。
「鬼はぁーーーーそとぉ! だよ、しれー!」
右手に握った節分豆を投擲。左手も枡ごと全部ぶちまける。どんな顔で飛び起きるかと楽しみにしていたのだが、テンションがダダ上がりであった時津風にもその違和感の正体は早い段階で気付いた。
「そ、んな馬鹿な」
窓際を向いた執務椅子の中身は空っぽ。周辺にはばら撒いた節分豆が散乱している。
おかしい。直前に基地の出入記録も確認したし。お偉いさんとの会議もなし。自室にはいないことも分かっていたから、ここにしかいないと踏んでいたのに。
「しれー。どーこ行ったのさぁ!?」
「……何してるんですか? 時津風」
「天狗の蚊帳なんて持ち出して……今度は司令官に、何のイタズラをするつもりだったの!?」
執務室から何事もなかったようにジト目で覗き見るのは、僚艦の雪風。惨状を冷静分析し、小言をいうのは天津風――というある意味見知った面子が揃っている。
「だってしれーに『鬼はー外』……ってやりたいじゃん? やりたくない?」
「永野大佐はそれを分かってて、今は避難されてましたよ」
「そ、んな馬鹿な」
事前に教えてくれたって良いじゃん。強襲が失敗に終わり、さすがにいじけたくもなる。節分豆はまだまだ残っている。今から走りまわって探せば、今日中にはあてられるだろう。
「んじゃ、私はこれでー。しれーに豆投げにいくからぁ」
「待ちなさい。自分が散らかした分の片づけくらいしなさい! 神通さんに怒られるわよっ!」
天津風の指摘には面倒だと思いながら、後が怖いので大人しく従うことにする。確かに鬼よりも鬼っぽいのが神通さんなのだから。渋々言いながらも、丁寧に一粒一粒回収してビニール袋に集めていく。
その3人をベランダから窓越しに覗き込む人物が一人。青髪がひょっこり顔を出し、気付かれないようにとまた引っ込める。
「とりあえず何とかなったみたいよ? 永野大佐」
「まぁ時津風が突入してくるくらいは、私も想定済みだった――というのもありますがね」
寒空の下コートを着込みベランダに敷かれたブルーシートの上で日向ぼっこをしているのは、こんな気の抜けたような様相であるが特設調査部九課課長――――永野誠大佐その人である。傍らには、同じく休憩時間であった神通が控えている。
「”鬼の神通”の通り名は覿面ですね。駆逐艦の子らの教育には良い傾向です」
「永野大佐……それは褒められているのか、分からなくなってますよ?」
日々の指導は、まさに鬼の如く。青髪の少女――初風にとっても、それは同感である。その言葉に神通は苦笑しながらも、意地悪い表情を見せる。
「そんなことを言っていてよろしいのでしょうか? 永野大佐。”断空の鬼神”と呼ばれた第三次世界大戦でも指折りのパイロットだという話も聞いていますよ?」
「断空の鬼神?」
初風も意識していなかったが、初めて耳にした言葉に眉を顰める。様子を察した神通が、こちらを一瞥して話し始める。
「北緯44度、東経129度周辺の渤海戦線。牡丹江から鏡泊湖にかけての空戦で、寄った敵機から切り捨てた日本空軍の戦闘機につけられた異称だそうです。対空機銃と航空戦の砲火の飛び交い続けたその戦場は、翔ける戦闘機が空を切るように落ちる様から”断空”とも呼ばれ、一時は生き残ることすら勲章とまで呼ばれた激戦区。そこで戦果を上げ続けたのが永野大佐なんですよ?」
「へぇ……ただの紳士スタイル好きなおっさんかと思ってたわ」
「……上司に対してのその物言いは、私からのお仕置きが足りないようですね」
「え”!?」
痛い、痛い! 首がとれちゃうっ!?――――初風の悲鳴に耐えかねた永野が、中折れ帽子の陰でくつくつと笑いを堪える。初風に助け船を出そうとしたのか、話題を変えてくる。
「そういえば、防衛大でも節分がありましたねぇ。怖い者知らずの候補生が血気盛んで面白かったですよ」
「そういえば、以前は江田島で教鞭をとられていたとお聞きしましたね。何かあったのですか?」
残念ながら、神通が初風を攻める手を止めずに永野の話題に乗ってくる。これは気を逸らすのが失敗でしたかね――――永野は心の中で思い、初風に合掌する。
「”豊作の五期”とまで言われた国連海軍大学広島校の五期生は、本当に見てるこちらも楽しかったですよ?」
教官なのに見てるだけで良いの!?――――という言葉を飲み込み、二人は永野の言葉に耳を傾けるのだった。
卒業シーズンを後に控えた
養成課程中の
元空軍の出身の永野としては、パイロット養成用機動体験装置ともいうべきギニョールを何とか士官候補生たちに仕込みたいと思っている。艦隊ではなく小隊的な運用を行う艦娘とその指揮官に普及させることが練度向上に繋がると踏んでいるからだ。
クラシックなテレビゲームにおいて、他人の動画を参考に自分の腕を磨くことと同じである。原始的な行為であるが
その中で他者を取り込むという行為から、自身のアイデンティティインフォメーションの境界が曖昧になって自壊に繋がる可能性。その払拭ができぬままに実装に邁進することは、とうてい許されることではない。艦娘自身の個性を殺しかねず、練度向上と引き換えに運用も碌にできない木偶の坊にしてしまってはそれこそ意味がない。
――――そのために種を蒔きに
「……梶主任。また何か教え子がやらかしましたか?」
「永野教官。貴方を”断空の鬼”として頼みがあるのですが……」
粗野な顔つきのスキンヘッド。普段は士官候補生を威圧する訓練主任らしくない梶の大人しい態度に、永野は違和感を覚える。苦虫を噛み潰したような梶の態度に、合点がいくような事象を頭に思い浮かべる――――――――おそらく彼らか……。
「
「永野教官はお忘れですか? 去年の奴らが何をやらかしたか」
「……問題児らしからぬ
「問題児らしいプレゼントですよっ。1m強の恵方巻きを食わせる行為に、奴らから微塵も感謝があると思いますかッ!?」
語尾を荒げたつんざく怒声に耳が痛い。そういえば大量のワサビが入っていて涙目であった彼の姿を思い出し、慌てて笑みを噛み殺す。永野の態度に苛立ちを隠さず、また溜息をつく梶主任。どうやら今日の依頼は一筋縄ではいかないらしい。
「それで……ご用件は去年の仕返しですか?」
「えぇ。奴らのことだ、また何か仕掛けてくるに違いない。だからこそ、こちらがカウンターをできる状況を作りたい」
それでは思考が、頭痛と胃痛の種の彼らの土俵に入るようなものでしょうね。争いは同レベルもの同士でしか発生しない――――というツッコミを慌てて飲み込む。
「奴らは決して貴方には手を出さないでしょう。仏みたいな副主任を怒らせたら一番怖いとは、さすがに馬鹿でも分かるでしょう」
虎の威を借る狐か――――永野から見れば、普段から化かしているのは士官候補生たちの方なのだが。面倒事に巻き込まれそうだ……何とか火の粉を払いたいものだが。
「……この件。東郷候補生に相談でもしたらどうですか? 彼ならあらかじめ計画に巻き込まれていそうですし」
「……経験でようやく分かった。東郷候補生は、ハンドルにはなれどもブレーキにはならんっ!」
「”豊作の五期”は、さながら欠陥軍用車ですかね……」
アクセルを踏むタイプや燃料を投下するタイプはいるが、制御系の人間が大いに不足しているのは同意する。巻きこまれて引きずられる候補生たちも、引きこまれて徒党をなすのだから本当に笑えない。本意ではなく仕方なくの参戦も、かなりの数があったと思う。こんな彼らを軍属に送り出して良いか、自分達が一番悩ませている卒業前だというのだが。
「ともあれ。有事の際にはぜひ矢面に立って頂いて、奴らへの抑止力になって欲しいのです」
そういう梶主任の声色は、心底諦めの混じったものだった。
候補生宿舎の食堂の一角で、椅子を並べた人だかりに女性の声が響く。その内容に背筋を凍らせつつ振り返って怒声を飛ばすのは東郷候補生である。
「んで? 訓練主任のセクハラ冤罪以外に何か案があるひとー」
「……んで? じゃねぇよ! 何でトラブル起こす算段立ててんだ篠華ァ!?」
「ゆうちゃーん。そこの喧しい
「アイアイサー!」
どこからか取り出された紐であっという間に無力された我らが東郷駈候補生を尻目に、
「まったく、今度は何をやらかすって言うんだ?」
「よく聞いてくれました
「お祝いと言うか呪いな気もするがな」
「呪いっていうか別の意味で飯テロだよねアレ。確かとんでもない量のワサビを入れたっけ?」
飯テロ――――劇物食品を普段から創造している渡井彗候補生の指摘には、もはや誰もツッコまなかった。その被害に実際にあっていた何人かは、頬が引き攣っているのが分かる。
「憎き我ら士官候補生の敵である梶訓練主任。彼に天誅を加えるに一票のひとー」
「天誅を加えるも何も、普段からやらかしてないか? 俺たち」
至極もっともな理由を述べた高峰春人候補生に対しては、
陸軍の重鎮に名を連ねる飯田の家系もあって、艦娘の指揮に関しても歩兵戦術をベースに取り組むため『何でお前海軍に来たんだよ!?』と相当数から指摘されるが、当人は艦娘の運用は艦隊運用などではないと切り捨てている。今日も今日とてその持論を展開し、周りを笑いの渦に引きこむのはある意味での才能かもしれない。
「節分豆を装填できる兵装で、教官の帰宿前を奇襲する他はない!」
「成せば成るで、改造模擬銃に挑戦してみるってか? いくら豆とはいえ、死人が出るから却下だ却下」
「じゃあ銃火器の使用は禁止するとして、襲うとしたら狙い目はどこよ陽祐ちゃん?」
「β棟の裏手側にある山林からなら、野生動物用の電磁ネットをくぐれれば問題ない。高峰候補生がいるならば、警報のホストへのクラッキングなぞさした問題ではあるまい」
「ちょっと待て、俺も参加するのは確定かよ!?」
「否というならば、それこそ模擬銃を改悪した遠距離射撃に頼ることになるが?」
「元狙撃手から言わせて貰えりゃ、即席豆鉄砲の射程なんてたかが知れてるぞ? 慣れてない武器を使うよか、スリングショットを造った方がマシだと思うが?」
「なぜ貴様はそこで諦める!? 人間なせば何とでもなる!」
――――何かと根性論やら、貴様には大和魂が足らんと言われるのが扱いにくいところではあるが。彼の扱いを分かってる笹原ゆう候補生が、両手を叩き合わせこれにて終了と声をかける。
「じゃあ、今夜の決行に向けて各自就寝。当直の梶主任の帰宿時間はフタマル・マルマル。実行部隊はそれまで各自で睡眠時間を稼ぐこと。補給部隊は支給用の
ストレス発散に意気込む候補生たち。教導艦娘たちも音頭を執る篠華たちには前回の借りがあるので、苦笑しつつも装備の手入れへ向かう――――ようは、バレなければ良いだけの話なのだから。それだけで終われば良かったのだが、その場を立ち去ろうとした潮に篠華が声をかける。
「あっ、ゴメン。曙ちゃんと潮ちゃん。特務があるから、ちょっと厨房にいる鳳翔さんとそこにいる亀さんつれて交渉してきて?」
「……なんで私と潮とクソ委員長なの?」
「そりゃあ、キミに負い目があるからに決まってるじゃない。それに潮ちゃんが、今日の夜警組でしょ? バレないバレないって」
亀さん――――完全にその場に固定されている東郷候補生を指差しつつ、篠華はいかにも悪巧みの顔をする。クリスマスの日に、顔を真っ赤にした曙に罵声を浴びせられながら被弾した
「ほらー委員長。曙ちゃんのためだから逝ってきなさい」
「クソっ。あの時の弱みを握ってるからって、いいように使いやがって」
毒づきつつも、参加は仕方がないと諦める東郷。ここまでくると、すぐそばでストッパーに入る方が被害が少ないのは目に見えているからだ。
「それで……俺に何を交渉してこいって言うんだ?」
「
そういって、篠華は後々の惨事を思い浮かべつつ笑みを深めるのだった。
丑三つ時。当直も引き継ぎあとは寝るだけというところで、山林に面した連絡通路を歩く梶主任。普段は感じない追ってくる気配を感じ溜息をつく。何気なくを装い、近場の喫煙所で煙草に火をつける。
学生共に悟られないように。だが、目を凝らして周囲を見渡す。完全に景色とは調和してしない一角。ホログラム特有の揺らぎが確認できただけで十分だ。
「奴らめ。光学迷彩はこの前の騒ぎで没収したはずだが……」
あらかた装備の調達は飯田候補生あたりのコネを使ったのだろう。彼の父親が、ある意味親バカなのはこの海軍大だけでなく陸軍でも聞いた事があるくらいに有名だった。それで迷惑を被るこちらはたまったものではないが……。
独り言を呟き、葉巻を一本吸い終わるまで喫煙所の物陰に身を隠す。あとは予定通りに、永野の到着を待つだけだ。宿舎で律儀に待機していたのだろう。こちらが緊急でコールすると、苦笑とともにすぐに姿を表した。
「夜分までお疲れ様です。梶主任」
「永野教官もお勤めは終わりですか?」
「えぇ、それで寝る前に一服です」
おそらくこの場に来た永野も気付いているだろう。血気盛んな候補生たちが、爛々と目を光らせていることを。軍人出身者の一部は殺気を消しているのだろうが、民間出の残りはそうはいくまい。うまいように足を引っ張っていてくれて、こちらは助かるばかりだ。
「では私がそのニット帽を深めに被って、彼らと
「お恥ずかしいことに、頭がこれでは冬場は寒いのですよ」
以前スキンヘッドになった切っ掛けの事件を思い出し、苦虫を噛み潰す梶主任。対照的に永野は、帯刀している特注マグネシウム合金の模造刀のつばに手を添える。
「裏側からお逃げください。私は消灯時間を守らない候補生たちに、少し灸を据えてきますので」
「……心配ないとは思いますが、お気をつけてください。永野教官」
「いえ。私も腕が鈍ってきたので、肩慣らしには丁度良いですよ」
ホログラムの揺らぎを。そこに潜む者の呼吸を感知した永野は、梶主任が駆け出したのと同じタイミングで林に飛び込む。
「鬼はそとぉ! って何で永野教官!?」
「
「竹光だけど怖ぇーよ永野教官ッ!」
飛び込んできたニット帽の男に節分豆を投射するも、弾道を予測してたかのように避けられ懐に飛び込まれる候補生たち。その獲物に気付いた月刀候補生が、懐から取り出したコンパクトナイフでその斬撃を受け止める。
「今回は容赦がないってことですか……永野教官?」
「おいたが過ぎると、罰があたりますよ? 月刀候補生」
この一瞬の交錯を逃さず、投擲班は節分豆を投げつける。その様を見て、顔を引き攣らせて逃走経路を確保するのは杉田勝也候補生である。
「総員退避! 月刀相手が悪い! 今回は大人しく戻れッ!」
「らしくないですね。杉田一曹」
「”断空の鬼神”とまで言われた永野教官に、喧嘩を売る馬鹿なんて陸軍出身者じゃいませんよ」
その意味も分かっている月刀は、足での追撃を片手で受け流し撤退する。その少し先を行く高峰候補生は、クラッキング中の端末が警告音を鳴らしたことに目を見開く。
「最初から奇襲は想定済だったってことか!? お前らこっちに来い! 電磁ネットが復旧する!」
「余所見とは良い度胸ですね? 高峰候補生。年貢の納め時だと思ってください」
さながら、プロレスのリングのような周囲を囲われた屋外演習場のようだ。武装は候補生たちは節分豆やらである。こちらは十人プラスアルファ。相手はたかが一人。ただ永野から立ち上るオーラは、見る者を威圧するだけには留まらない圧力を感じるのだった。
「どうするよ月刀? これ下手すりゃ全滅だぞこれ」
「卒業前に事故死者が出ないことを祈るだけだな」
冷や汗をかく候補生たち。この場を切り抜けられたとしても後が怖い。ならば永野教官に戦闘で認めて貰うことしか、弁明の手段はないように感じた。
「敵が人間である以上、倒せない相手ではあるまい!」
「さぁ、全力でかかってきなさい」
強気な飯田の発言に、腹を決めた候補生たちは己の武器を振りかぶる。言葉を返す永野はこの惨状をむしろ楽しむくらいには戦闘狂なのだった。
――――さて。果たして、黒烏たちの作戦は本当に失敗に終わったのだろうか? 永野が夜な夜な乱戦でお説教をしている間に起きたことを綴りたい。
事前に永野副主任と対抗策を打っておいただけに、候補生たちの襲撃を乗り越えられたのは予定調和とも言えた。
梶主任が部屋に戻り、コーヒーでも入れようかと思ったところで備え付けのキッチンから異音がするのに気付く。
家鳴りやラップ音のような恐怖を煽るものではなく、人の神経を刺激するようなバチッ――という音。配電の過程でショートでも起こしているのかと足を向けるが、私物でない鍋がコンロに鎮座ましましている状況に目を見開く。香ばしい匂いと共に、何かが弾ける音。恐る恐る梶主任が鍋の蓋を手に取る。
次の瞬間、熱しに熱せられていた鍋の中から豆のようなものが弾けて飛んでくる。溢れんばかりの白い球体状のもの。慌てて飛びずさるが、彼を追うかのように箍を外されたポップコーンがミニキッチン上を乱舞する。
「奴らめ……この借りはいつか必ず返すッ!」
足元に落ちていたメモには女性の丁寧な字で、こう書かれていた。
――――拝啓
立春の候。貴殿益々ご健勝のことと、お慶び申し上げます。訓練主任におかれましては、寒さに負けぬようお体をご自愛ください。
僭越ながら、五期候補生一同より熱い贈り物をお届けにあがりました。お時間が遅いお勤めかと思います。今夜のお夜食に、どうぞお召し上がりください。
まずは足元まで散乱する大量のポップコーンをどうにか片づけねばなるまい。去年の恵方巻き同様に、胃にダメージが来るのは当然であった。
――――そのころ節分豆を投げるだけが節分じゃないと、女性陣は笑ったそうな。
やっぱり鍋じゃねぇか! 慟哭らしい?一周年だったと思います。
『黒いカラスが5人そろえば』系列の執筆にあたって、先方のコラボ先である『模倣の決号作戦』より主人公の飯田孝介……じゃなくて、その親戚の飯田陽祐少佐をお借りしました。今後もSN作戦編で活躍予定です。帝都造営先生の書く、血と泥を啜って生きる男たちの戦い。ぜひぜひご覧ください!
オーバードライヴ先生やりょうかみ型護衛艦先生をはじめ(また、これから共同執筆させて頂く作者様も含めて)様々な方と交流できた、恵まれた作品だと思います。
拙い筆ですが、これからも鶴の慟哭をよろしくお願いいたします。
(改稿作業遅れててごめんなさいッ!)
活動報告にちょびっと持論を入れました。興味のある方は是非。