艦隊これくしょん~鶴の慟哭~   作:エーデリカ

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翔鶴さんの判断は、誰にでもあると思います。
2000字程度にまとめるつもりがオーバーしました。

この熱意をレポート作成に回したい・・・。
この書き方が読みにくい―というご意見、お待ちしております。

追記:二章完結を受けて、書き直しを行っています。


一章-7 着任、新たな旅立ちの時

――――景鶴。いいえ。解体されたのだから、本来の貴方の名前で呼ばねばならないでしょう。けれど姉妹艦であっても貴方の名すら知らない私を、貴方は姉と呼んでくれるのでしょうか。

 

 あの時、景鶴ちゃんが曙ちゃん達を助けに行った事を、私は止めなかったわ。旗艦としての任務を果たせねばならなかったし、心の何処かで貴方の戦線離脱を望んでいたのかもしれない。

 

 あの戦闘の少し前に、病院から瑞流の容体を聞かされたの。非常に芳しくない。そんな状態だったそうよ。けれどお医者様がダメもとで、艦娘の適合試験を受けさせたらしいの。貴方も知っての通り、艦娘の適合による体細胞の活性化・器官の再生。それが最後の手段と思ったそうよ。

 

 結果は適正あり。それで適合した艦種は『翔鶴型二番艦瑞鶴』

 

 報告を聞いて混乱したわ。景鶴ちゃんと妹が同じ艤装に適合したなんて……。本当なら貴方にも話しておくべきだったのかもしれない。それでも、私は貴方に相談できなかった。

 

 貴方を艦娘という道に引き込んだのは、他ならぬ私です。

 

 景鶴という艦の成り立ちについても、井矢崎少将から聞いています。本来の適合者が見つからないために、貴方が欠番として扱われ続けた軍の備品であったことも。そして無理な適合が、貴方に負荷を与え続けていることも知っています。

 

 大本営による、本来の持ち主に艤装を返すという規則も理解できます。そして貴方がこれ以上無理に戦い続ける理由もないことも。

 

 それでも、あなたに艦娘を辞めてとは言えなかった。傲慢でしょうが、私の妹を助けるために貴方の戦う力を奪いたくなかった。

 

 そしてあの時。あなたが独断専行した時。負傷した時。救出された時。あなたの無事よりも、あなたの艤装の心配が先に出てしまった。

 

 こんな酷い女は、姉なんかと呼べないわよね。景鶴ちゃん。一度でも、慕ってくれたあなたの死を望み、実の妹の生を選んだ。私の事は忘れて貰った方が幸運なのではとすら思います。

 

 我儘で、そして傲慢でしょう。そんな私は、貴方に会わせる顔がありません。

 

 私はこれから横須賀から転属します。艦娘としてもう会う機会もないでしょう。

 

 最後に一つだけ。あなたと過ごした間。私は幸せでした。こんな事を言える立場ではない事は分かっています。それでも……これからの、あなたの幸せを願っています。

 

――――翔鶴

 

 

 

 

 

「おいッ!提督!」

 

 ひとまず状態が落ち着いて、一週間ぶりの安定した睡眠が摂れると、ウトウトしていた。

 執務室のドアを蹴り飛ばした摩耶の怒声で、現実に引き戻される。

 

「何だ? またヴェルが俺の軍服で遊んでいるのか? いつもの事じゃないか」

「そんなもんじゃないんだよ! 病室にいた景鶴ってヤツ。私らが廊下の前で待機してたからって、油断してた。窓から飛び出して、どっかにいなくなったんだよ!」

 

 おい、病室って2階だよな……どうやらあの拾いモノは、なかなかに根性があるアグレッシブな性格らしい。

 

「……仕方がない。とりあえず、摩耶は当直の子達と手分けして探してきてくれ。あまり気を害するなよ。家出っ子っていうのは本当に何をやらかすか分からないからな」

「提督……アンタが言っても説得力に欠けねぇか?」

 

 ジト目で睨んでくる、今日の秘書艦代理殿からは目を逸らす。

 

「俺も少し出てくるから。夜間哨戒任務は磯風と朝雲。緊急時には端末まで、いいね?」

「まったく……提督も煙草なんか吸わずに、少しぐらいまじめに探せよなー」

「分かってるよ」

 

 摩耶は俺の意図を汲み取ったのか、苦笑して返しただけだった。

 

 そう、ただ少し煙草を吸いに出歩くだけだ。決してあの子が彼女の面影を残していたからではないのだと、自分に言い聞かせながら。

 

 生きていればあの年齢くらいになるのだろうか。研究所で衰弱した少女を見たのを最後に、自分の記憶からは消えている。

 

 艦娘への適合者を培養し、育成し、運用する施設。そこで散り散りになった被検体たち。欠番個体(ミッシング)とも言われた少女の面影が、回収した艦娘とダブる。

 

 彼女(・・)は死んだはずだ。もちろん自分の預かり知らぬ所で死亡とされているだけっであって、拘束されていた自分が彼女の死体を確認した訳じゃない。

 

 しかし欠番個体の行方を見届けたいと願うのは、あの研究に関わった自分の業であり、責任だと思う。本来であれば、一生をあの研究所で終えるべきだった彼女達を、生き延びさせ使い潰しているのは他ならぬ自分の決断のせいなのだから。

 

 もし彼女が生き残りだったとしても、決して俺のことを覚えてはいまい。しかしその表情が、髪が本人であると囁くのだ。

 

「クソったれが。何であの悪夢を、今になって現実に再生する必要がある?」

 

 別れた者と再び出会うのに、よろこばしくないことがあるだろうか。だが、今の東郷にとっては、枷であり呪縛でしかない記憶を抉るだけの要因にしかならなかったのだった。

 

 南方の風とて、夜半には流石に冷える。Yシャツの上から上着を羽織る。執務机の引き出しから、ライターと煙草を取り出す。

 

「……とりあえず思い出に浸る前に、迷子っ子だけは探しますかい」

 

 感情の整理をしようとすれば、自ずと人気のない場所に籠りたいと思うのだがどうだろうか。

 

 決してトラック泊地だって、土地が広大過ぎるものでもない。日中夜で工廠は動いているし、見回りをする担当だっている。

 

 そんな中で人目のつかない場所と言えば、波止場のない海岸部あたりが狙い目か。

 

 まるで自分を見ているようで、嫌気が差してくる。個人的にそっとしておきたいのも山々だが、泊地を預かる者として所属外の艦娘を野放しにしておくわけにはいかない。

 

 開けたドアから夜風が入り込む。頭を冷やすのには丁度良いくらいだ。

 

 

 

 

 

――――会わせる顔がないのは、私の方だよ……翔鶴姉。

 

 私の死を望まれた?そんな事はどうでも良い。ただ、現状に満足していた自分が許せない。

 だって翔鶴姉の妹さんを、私は見殺しにする所だったんだよ。

 

 相談して欲しかった。言ってくれれば、私は喜んで退役しただろう。私の世界に色をくれた翔鶴姉。少しでも恩返しがしたいって、いつも思っていたのに。

 

 右肩の傷口が疼く。血が滲み出る。私が生きているのだと実感出来る。

 

 私は翔鶴姉が幸せならそれで良いんだよ。

 

 どれくらい時間が経っただろう。波間の音が慰めてくれている。そんな錯覚に陥っていた頃。誰かから上着をかけられた。

 

「そんな所にいたら風邪をひくよ。怪我人は安静にしてなきゃダメだ」

「……誰?」

 

 私を見て、少し頬を引き攣らせたような笑顔で青年が声をかけてくる。

 

「……まぁ、この泊地に所属する只の軍人なんだが。隣、座って良いかな?」

 

 こちらの了解を待たずに砂浜に腰掛ける青年。今の私の泣き顔は相当酷いだろうと、顔を背ける。

 

 青年は意に介せず続ける。これは独り言だよ――――と。

 

「俺には兄がいたんだ。優秀な自衛官だった。深海棲艦との戦争が始まったら、一目散に前線に出て行った。護衛艦なんてものがあったけど、手数は圧倒的に不利だった。別に護衛艦が深海棲艦に勝てない訳じゃない。それでも戦線は膠着し、撤退に撤退を重ねた」

 

 淡々と青年は語る。それこそ、私の心象なんかお構いなしに。

 

「ある日、兄は家に帰らなかった。その時思い知ったよ。『あの時、自分に力があれば』ってね」

 

 月余しか明かりのない海岸で、青年の顔に陰が落ちる。まるで、その言葉の端々が引き込んだだかのように。

 

「実は俺、艦娘には嫉妬しているんだよ。妖精の作った艤装は女性にしか適合されないからね。船っていうのは昔から女性名詞が使われていたからね。変な因果があったものだよ。だから君のような、艤装を背負って戦う艦娘が羨ましい。皆を守る為に、命を懸けたいって気持ちは負けたくなかったね。君は艦娘になって命を失いかけた。艦娘になった事を後悔しているかい?」

 

 唐突な問いには首を横に振る。ようは、この青年は訊きたいのか。私が何のために艦娘をやっているのだと。燻るのが目的なのかと、頬を叩くかのように。

 

「何もなかった私だけど、誰かの為に戦った。それは十分誇って言えるわ」

 

 チクリ……そう心が痛む。驕りではない。自慢でもない。けれど自分が成したことを宣言しただけなのに、この痛みは何だろう。

 

「武勲艦の紛い物でしかなかった君はこれから何を成そうとするんだい?」

「そうね。たとえ瑞鶴のなりそこないだとしても、私は戦える。それが、空母機動部隊の最後を飾った瑞鶴(ワタシ)の矜持よ」

「弓も引けない。動く足もない空母がかい?」

「飛ばす艦載機のなかった(瑞鶴)に訊くわけ?撃てる砲があればまわす、浮き砲台になってなれるでしょ。

 

 青年は腰を上げる。まるで、私を見透かすかのような瞳で見返してくる。それが悲しみの色を湛えていたのは、私には分からなかった。

 

「それが聞けて良かった。じゃあ帰ろうか、お嬢さん。『僕たちの』泊地へ」

 

 右手を引かれ立たされる。まだ馴染んでいない義足だが、しっかり私の体を支える。

 

「ちょっと! 何で手を掴んだままなのよ」

「こうでもしないと、君がまた逃げるんじゃないかと思ってな」

 

 ぎゃあぎゃあ言いつつ、青年に手を引かれて病室のあった宿舎に着く。

 

「戻ったら、明石や摩耶に謝っとくんだよ」

 

 と青年は別の宿舎へと、歩を進める。

 

「あっ! いた!」

 

 あの声は明石さんだろうか。捕まった所でデコピンをくらう。

 

「痛ッ」

「けがにんは絶対安静ですっ!」

「本当に、すみませんでした」

 

 泣き笑いのような表情で怒られても――と思いつつ、この場は大人しく謝ろうと思う。

 

「とりあえず治さないと、外出は認めませんからね。ちょっと!傷口開いてるじゃないですか!」

 

 明石さんに連れられて、病室へボッシュート。部屋から出れるのは当分先になりそうです。

 

 

 

 

 

 解体処置されようが、艦娘は艦娘である。抉れた跡はそうそう戻らないが、それでも日常生活に支障がないくらいには時間はそれほど要しない。

 

 傷もだいぶ癒えた所で、新しい服を支給された。私が着てたデザインだけど、黒と緑、青を基調とした迷彩デザイン。

 

 結局左目の視力は回復しなかったので、鉢巻を模した眼帯を着ける事になった。あっこれ翔鶴姉のと同じデザインだ。

 

「なんか死化粧みたいじゃない?」と聞くと。

「うちの提督が、景鶴さんなら『地獄に送っても帰ってくるだろう』って言ってました」

 

 あのちびっ子めそんな事を……。明石さんに連れられて来た執務室。逆光で椅子に座っているちびっ子が見えにくい。

 

「挨拶が遅れました。一応、翔鶴型二番艦……でいいのかな。景鶴、トラック泊地に着任致しました。これより艦隊の指揮に入ります」

「……うん。よく知っているよ」

 

 あれ?この声どこかで聞いた気が……。

 というか、ちびっ子提督が壁際にいるんだけど……。

 

 まさか……そんな事って。

 

「私は提督業務をやっているとしか言っていないよ……秘書艦のВерныйだ。宜しく」

 

 子鬼がニヤリと呟く。

 

「悪いな、ヴェルはしょっちゅう俺の制服を持ち出して、遊んでいてな……」

 

 あの時の青年がこちらを見て立ち上がり、右手を差し出してくる。

 

「トラック泊地の提督を務める東郷駈中佐だ。改めて宜しく頼むよ。景鶴ちゃん。事務方の仕事に是が非もないが、幸運の空母の力……期待しているよ」

 

 その日、私の一度は潰れかけたとは思えない喉から、人生一かもしれない絶叫が泊地に轟いた。

 




Верныйが制帽を被っていた事に疑問を感じていた人もいるはず。

ヴェルちゃんは変わり者なのです。

東郷さんはというと、女性がいる病室に入るとロクな事がないと思っているので、瑞鶴の事は明石さんに任せきりでした。

さてこれから瑞鶴の仮想二次改装(意味深)に入りたいと思います。
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