憤怒と雁夜   作:グリゴリ00号

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決闘と戦争

 

ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは悩んでいた。先程セイバーを討ち取れなかったランサーを糾弾しようとしていたのだが、戻ってきたはいいが霊体化をとかず、いくら呼んでも姿を現さないのだ。理由は恐らくバーサーカーだろうが、それはランサーだけではない

 

 

「…決闘ではない……か」

 

 

ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは自他共に認める天才だ。家は九代続く名家であ、時計塔では最年少で一級講師に就任し数々の功績を残してきた。今回、現代における最高峰の魔術儀式である聖杯戦争に参加したのも戦歴と言う名の『箔』のためであり、聖杯における願い等持ち合わせてはいなかった

 

 

だがこの聖杯戦争はその名の通り願望器である聖杯を巡る戦争だ。己の願いを叶えるため参加している者がほとんどだろう

 

 

バーサーカーが言っていたことは正しい。アサシンというのはその名の通り暗殺者であり、通常他サーヴァントと正面から戦う事はなく、サーヴァントの隙をつきマスターを殺す。そんなクラスが存在した時点で魔術師同士の決闘であるはずがなかった

 

 

『勝つために全てを捨てる。それが戦争だ』

 

 

バーサーカーの言葉が頭の中で反芻する。魔術師でなかったとしても、世界に召し上げられたほどの英雄の言葉。それに重みが無いわけがなかった

 

 

「認識を改めねばならんな………」

 

 

そう呟いた数分後、ランサーが霊体化を解き姿を現した

 

 

「……私の願いは、騎士として主に忠義し聖杯を捧げることです」

 

 

「………」

 

 

「主は私の騎士道を必要としておられますか?」

 

 

「………私が欲するのは、主に忠実な使い魔だ。お前の言う騎士道は不要だと思っている」

 

 

「そうですか……ならば」

 

 

ランサーはケイネスの前に跪く

 

 

「私は騎士ではなく兵として、誇りではなく勝利のために、戦い、主に聖杯をもたらしましょう」

 

 

ケイネスはその言葉に己の信念を捨てても主に勝利を誓うという覚悟を感じた。だからこそ

 

 

「ならば私の命お前に預けた。必ず勝利を捧げよ、ランサー」

 

 

「はっ」

 

 

ケイネスはランサーを信頼すると決めた

 

 

この瞬間、本当の意味でランサー陣営が誕生した

 

 

 

 

バーサーカーの言葉に揺れいていたのは騎士王であるセイバーも同じだった。確かに自分は戦争というものを美化していたかも知れない。ランサーとの戦いも騎士の決闘だと思っていた。だがあの時ライダーが直接アイリスフィールを狙っていたら、偽とはいえマスターを失う事になっていただろう。バーサーカーが自分を狙ったのも納得がいく、自分はランサーの宝具により左手が使えなくなってしまっている、自惚れではないが自分は最良とまで言われるセイバーだ。倒すのなら万全ではない時を狙うのは当たり前だ

 

 

(……それでも)

 

 

騎士道を捨てるということはできない。騎士である自分にとって騎士道とは誇りであり、命よりも重いものだそれを捨てるというのは死ぬと同義だ

 

 

「……大丈夫?セイバー」

 

 

「あっ、気にしないで下さい。私なら大丈夫です」

 

 

そんなセイバーを心配してアイリスフィールが声をかける。さすがにこんな空気の中で車を飛ばそうとは思わず、しばらく無言の時間が過ぎた。セイバーはいまだ思考の海に沈んでいたが、ふとサーヴァントの気配を感じた

 

 

「!アイリスフィール、止めて下さい」

 

 

「え!?ええ……」

 

 

二人が車から降りると、黒いローブを羽織ったキャスターらしきサーヴァントが跪いていた

 

 

「……キャスターか」

 

 

セイバーが威嚇するように問いかけるとキャスターらしきサーヴァントが顔をあげ

 

 

「お迎えに上がりました、聖処女よ」

 

 

 

その頃各陣営を驚かせたバーサーカー陣営はというと……

 

 

「あっ、おまえそのミカン四個目だろ!おれ一つしか食べてないんだからくれよ」

 

 

「私は今日働いたんだ、それ相応の報酬として受け取って然るべきだと思うがね?」

 

 

「そんなこと言って、おまえアーチャー逃がしただろ。マスターの命令果たせなかったくせに何が報酬だ!」

 

 

「あれは逃がしたわけではない。泳がせたのだよ」

 

 

「もう、桜のあげるからけんかしないで!」

 

 

ゆるい空気の中でダラダラしていた。ランサーが見たら、あんな事言っておいて!とかいってキレていただろう

 

 

「それは桜ちゃんが食べていいよ。それは桜ちゃんのだからね」

 

 

「すまないね。有り難く貰うとしよう」

 

 

「ああ!お前貰ってんなよ!それは桜ちゃんのだぞ!?」

 

 

「くれるといった物を貰って何が悪いのかね?」

 

 

雁夜はバーサーカーに突っ掛かりバーサーカーは素知らぬ顔、桜はそんな姿を楽しそうに眺めていた。雁夜が望んだ幸せな生活、特殊な形ではあるが雁夜はそんな今を噛み締めていた

 

 

「まったくお前は……うん?」

 

 

「どうしたの?」

 

 

そんな空気の中、冬木中に飛ばしていた使い魔の一体が、セイバーが相対するキャスターらしきサーヴァントを捉えた。すぐに雁夜はその映像をバーサーカーに見せた

 

 

「お!これならキャスターもすぐに脱落しそうだな」

 

 

「いや、まだわからんぞ」

 

 

「は?だってセイバー対キャスターだぞ?決まったも同然じゃないか」

 

 

映像を見ていると。何やら言い合っていた二騎だが、痺れを切らしたのかセイバーがキャスターに向かって不可視の剣を降り下ろした。雁夜はそれでやっぱりなと言おうとしたが、セイバーの放った斬撃はキャスターの横の道路に深い傷痕を残しただけにとどまり、何を思ったかキャスターを倒さずそのまま車に乗り、走り去っていった

 

 

「おいおい、倒さないのかよ。絶好のチャンスだったじゃないか」

 

 

「まったく、これも騎士道とやらか。倒せる敵も倒さんとは…………」

 

 

バーサーカーは心底呆れたといった顔でミカンを剥く作業に戻った

 

 

「で。どうする?キャスターを倒しにいくか?」

 

 

「いや、やめておこうキャスター程度いつでも倒せる。なにより…」

 

 

バーサーカーの向いている場所に視線を向けると、眠たそうに目をこする桜がいた

 

 

「そうだな…………さあ、桜ちゃん。一緒に寝ようね」

 

 

桜は寝ぼけ眼で頷くと、雁夜にてを引かれ寝室に入っていった。バーサーカーはというと二人が寝室に入ったのを確認した後、霊体化し屋根の上で警戒を始めた。雁夜は色々文句をいっているが、他と比べるとできたサーヴァントなのである

 

 

「ほぉ」

 

 

バーサーカーの目には、かなりの距離があるがホテルが倒壊している光景が写っていた

 

 

「見所のある者もいるではないか」

 

 

その少し前…

 

 

ケイネスはソラウと話しているのだが、空気はとてつもなく思い。それはランサーの意見によることだった

戦争中に自分の大切な人を側に置いておくのは危険。確かにその通りだ。これは戦争だと認識した今、婚約者であるソラウを側においていれば戦闘などから守れるかもしれない。しかしケイネスは基本的にソラウを戦場には連れて行かない。これは危険を回避するための行いだったが、今回はそうはいかない。何せ時計塔でも悪名高い『魔術師殺し』の魔術使い。敗退していたと思われていたが未だに現界しているアサシン。そして勝利のために手段を選ばないだろうバーサーカー。これだけの面子が揃っている中で1人にしておくのは人質にしてくれと言っているようなものである。だからこそケイネスはソラウをこの冬木の地から遠ざけたいのだが

 

 

「いやよ、私は戻らないわ」

 

 

「いや君には戻ってもらうぞソラウ。私は君を失いたくないんだ」

 

 

「あら?自分じゃ守りきれないって言ってるように聞こえるけど、どうなの?神童さん?」

 

 

「……そういうわけではないが」

 

 

ソラウはそれをずっと拒否し続けていた。悔しいがソラウはランサーに惚れている。ランサーには愛の黒子という呪いがかかっている。魔術師ならばレジストする事も容易いがソラウは自分からその効果を受けているきらいがある。ケイネスはソラウの事を愛しているが、所詮は政略結婚のようなものだ。ソラウがケイネスに惚れていないのはランサーの事でわかっている

 

 

「それにランサーの魔力供給は私がしているのよ?魔力的な繋がりと言っても距離はそうそう離れられないわ」

 

 

「それは私が引き継ごう。確かに私の礼装が弱体化するのは否めないが、凡百の魔術師に破れるほどヤワな礼装ではない」

 

 

「………そう、なら私にの令呪を譲渡して貴方が帰ればいい。私は絶対にランサーの側にいるわ」

 

 

「こんなに言ってもわからないのか!?君は私の弱点になる!確実に勝つためにはこうする他ないんだよ」

 

 

「貴方こそ何故わからないの!?私は彼から離れたくないの!それをじゃまするというなら」

 

 

ソラウが何らかの魔術を使おうとした瞬間。霊体化していたランサーがソラウを気絶させた

 

 

「申し訳ありません、主。ですがこのままでは御身が危険に晒されると判断した結果です」

 

 

「………ああ、不問とする」

 

 

ケイネスは気絶しているソラウを覗き込み、一つため息をついた。ランサーに惚れているのは分かってはいたがこれほどまでに魅了されていたとは……

 

 

「………申し訳ありません。私がこのような呪いを持っていなければ……」

 

 

ランサーはそう言ってはいるが、ケイネスがランサーを疎ましく感じるのは変わらない。だが今はそんな事言っている余裕はない。すぐにソラウに暗示をかけ本国に帰らせなければ

 

 

そう考えていると、突然ホテルに火災発生を伝えるベルが鳴り響いた。ケイネスが窓から外を見下ろすと、沢山の一般人がホテルから脱出していたのが見えた

 

 

「主よ、どうなさりますか?」

 

 

「……どうやらマスターが潜入しようとしているようだな……魔術工房は凡百の魔術師に突破されるようなものではないが、対魔力を持ったサーヴァントなら軽く突破されてしまうだろう………ランサーお前はどう思う?」

 

 

「は、恐れ多くも今すぐにでもここから立ち退くのが最善と思われます」

 

 

「………なぜそう思った?」

 

 

ケイネスが聞き返すのも最もだろう。このホテルは外来のマスターからすれば最高の場所にある。霊地としては遠坂や間桐に及ばないがそれでも中々の物であり、更に最上階付近の階を全て貸し切ることによって大規模な工房を作ることができた。自分の用意できる最高の拠点だとケイネスは思っていたからだ

 

 

「マスターのいう通りここは最高の拠点でしょう。魔術的な工房は元より、高所にあるため攻撃するのも難しく。一般人が多くいることから秘匿も難しくなるかと思われます。しかし今回はその高さが問題となっているのです」

 

 

「高さが?」

 

 

「はい、このように高さがあるということは有利にもなりえますが。弱点として下からの攻撃に弱いということが挙げられます」

 

 

「なるほど………」

 

 

確かに柱を破壊されればこのホテルは一気に崩壊するだろう。更にこの聖杯戦争には魔術師殺しも参戦している。よく考えればホテルの人間を全員避難させたのも秘匿の為でなく。ここから逃がすため?そう考えると嫌な考えばかり浮かんでくる

 

 

「いかがなさいますか?」

 

 

「…………ここを捨て脱出する!?」

 

 

ケイネスがそう言った瞬間に下の方から巨大な爆発音が響いた。ケイネスは軽く舌打ちすると必要最低限のものだけ持ってソラウを抱き抱え、己の最高傑作とも言える礼装を発動させ。ケイネス達は銀色の液体に包まれていく

 

 

「ランサー!私たちを抱えて窓からとび降りろ!」

 

 

ケイネスがそう言うと、ランサーは最速という称号通りに銀の球体を抱え窓から飛び出し、トップスピードのままその場から脱出していった

 

 

ちなみに余談だが、ホテルを爆破した張本人である現代のゴルゴこと衛宮切嗣のサーヴァントのセイバーは、脱出したランサーと決着をつけようとしていたが完全に無視され、今回の聖杯戦争での唯一の癒しとも言えるランサーとの決闘もできず崩れ去った瓦礫を前にして深いため息をついていたという

 

 






ちなみにセイバーはアイリを送り届けて直感でホテルまで向かいました。完全に居ないものとして扱われちょっと辛いアルトリアちゃんでした

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