私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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今回の話は前回の直後、戦ってた艦隊サイドになります。
視点はやっぱり長月。菊月視点じゃないけど菊月が出てくるので番外じゃないです。



放浪艦菊月(偽)、その三

―――どかん、とまた一つ砲音が響く。

 

「……きゃっ!?ま、まだ……沈んだり、しないわ……!」

 

旗艦である戦艦……『金剛』を庇った駆逐艦『初霜』が被弾する。どうにか沈んではいないようだけれど、あれでは戦闘の続行は不可能だろう。かくいう私、『長月』も最早戦える状態ではなく、控えめに言って大破。どうにか第二艦隊が凌いでくれてはいるが、旗艦『金剛』以下私達第一艦隊はみな満身創痍だ。

 

……あの、神通遠征部隊として偵察を終えた直後、私達は『トラック泊地が急襲された』という情報を得た。深海棲艦が集まっているというのは偶然でも何でもなく、大軍による一斉攻勢の下準備だった、という訳だ。

 

私達の鎮守府は、現状どうにか泊地周辺には海域を取り返したところ。私達第一第二連合艦隊は、泊地へ迫る第二波……機動部隊の対処を第三・四艦隊と待機艦達、そしてその指揮を戦艦『大和』に任せ、威力偵察へ出撃した。

 

第一艦隊旗艦に歴戦の金剛、その補佐に姉妹艦の比叡。赤城・加賀の一航戦を据え、私……長月と初霜が周囲を固める。第二艦隊も同じく幾多の海域を潜り抜けた艦娘で揃え、あわよくば海域の制圧をすら眼中に入れていた。

 

「……っ!なっさけ無いなぁ、もう……!」

 

「北上さんっ!?……!ぁあっ!!し、修理しないと……!」

 

それが……どうだ。奇襲に次ぐ奇襲、そして圧倒的物量。個々の練度では深海棲艦など歯牙にもかけぬ我等だとしても少しずつ疲労は嵩む。昼戦・夜戦を繰り返し、大事をとってそろそろ撤退を始めようか、というところで……恐らく、この海域の敵本隊に襲撃された。上級(elite)以上の空母ヲ級が四隻、最上級(flagship)の戦艦タ級が二隻。そして、何か様子の違う駆逐イ級が更に四隻。そして、今までに見たことのない―――そのシルエットには既視感を覚えるけれど―――、異形の下半身に人型の上半身を備えた未知の深海棲艦。

 

「まだ……まだ、沈みません……っ!」

 

「……うふふ…私を、どうする気、かしら……?」

 

……第二艦隊の北上と大井がそれぞれ大破、中破。そして秋月も被弾し、姉艦……如月も大破だろう。此方も敵艦隊に相応の損害は与え、駆逐イ級全てと戦艦タ級一隻、空母ヲ級の半分は沈めたものの未知の深海棲艦には小破程もダメージを与えられていない。

 

「……撤退!撤退するネ……!」

 

「ニガサン……シズメ、シンカイへ……!」

 

さっきから金剛が奮闘し、退路を切り拓こうとしている……が、これは無理だと感じてしまう。未知の深海棲艦の顔に刻まれた愉悦の笑みを見なくても分かる、確実に何隻かは仲間が沈んでしまうだろう。……それでも、と必死に砲を上げようとするも、手が動かない。

 

―――未知の深海棲艦が身体を逸らし、下半身の異形の砲口が如月へ向く。奴の笑みがより一層深くなり、今にも弾が放たれようとする。……間に合わない。

 

「……如月ぃぃぃぃぃいっ!!!」

 

思わず叫び、伸ばした手が届く筈もなく。異形の大きく開いた口から砲弾が放たれる―――

 

「―――ぉぉおおおああっ!!」

 

―――その時。何処からか響いた咆哮と共に、異形の口内から迫り出した砲が爆散した。

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

「…………え?」

 

それは誰が洩らした声だっただろうか。周囲を見渡しても暗闇ばかり、照明弾は全艦尽きているため謎の声の主を探ることは出来ない。

 

「……何をしている、そこの艦隊っ!その状態で夜戦など無理だろう、さっさと撤退をしろっ……!!」

 

「イマイマシイ……ニガスモノカ……ッ!?」

 

「貴様の相手は私だ……深海棲艦っ!」

 

勇ましい声と共に、未知の深海棲艦の左右に着いてある砲、その片方が爆散する。気付けば空母ヲ級も倒れ伏しているようで、撤退にはこれ以上無い好機だ。

 

「……全艦隊に告ぐネッ!!全艦、全速力で海域を離脱、無事に鎮守府を目指すのデース!」

 

金剛の掛け声と共に、全艦が死に物狂いで行動を開始する。私も如月の元へ駆けつけその肩を支え、深海棲艦に背を向け必死で水面を滑る。

 

「コザカシイ……サセヌワッ!!」

 

「ぐぅぅぁぁあぁっ!!?」

 

ガギン、という鉄同士がぶつかり合う鈍い音と同時に、謎の声の主の悲鳴が聞こえる。その声に、訳もなく心中が掻き乱される。引き返したい、引き返さなければならないと全身が叫ぶ。……しかし。

 

「くっそぉ、済まない……!如月を、連れ帰らないといけないんだ……!」

 

見れば、如月も顔いっぱいに苦渋を浮かべている。私と同じようにあの声が気になるのだろう。それでも如月が声を発することはない。声の主の意思を汲むのならば、生きて帰らなければならないからだ。

目尻から溢れる熱いものを堪えて前を見れば、金剛が此方へ寄ってきた。

「スミマセン、長月……。いずれ必ず、この海へ戻って来マショウ」

 

こくり、と頷き一度だけ振り返る。遥か遠く砲火に一瞬だけ照らし出されたように見えた、靡く白色の髪を私は忘れることは無いだろう。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

本作戦における中破艦娘、三隻。

大破艦娘、九隻。

轟沈艦娘、無し。

 

――――――如月による作戦報告レポートより。




本日の如月:軽巡棲鬼に海の藻屑にされかける。←回避!

という訳で、まるっと一話全部艦隊サイドでした。菊月(偽)が超ヒロイック。流石菊月ィ!

追記。
リクエストいただいてない艦娘は全部アニメから引っ張ってきました。

更に追記。
感想でご指摘下さったように、最初は登場したタ級を二隻、沈めたのを三隻としていました。ゲームのボスマス(通常形態で取り巻き五隻
、中破形態で取り巻き五隻の合わせて10隻の積もりでした)に合わせた積もりでしたが頭の中で何故かタ級を四隻と計上しており、それを元に話を進めていました。次話で菊月を攻撃する用として一隻残しておきたいので、艦隊側のスコアを『イ級四隻、ヲ級二隻、タ級一隻』という形に減らすことで修正とさせていただきます。ご指摘ありがとうございました。

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