時刻は変わらず深夜、消灯時間は既に回っている。姉妹達はとうに夢の中だ、ゆえに
「……っ、しかし慣れぬ……」
俺は今、ダイビングプールのような水槽の端に腰掛けている。ほどよく温い足元の水からは、ほのかに塩素の匂いがする。少しだけ懐かしい匂いだ。軽く足を動かせば、それに従って水も揺れる。
「準備は出来たみたいでちね。じゃあ、菊月ちゃんの特訓を始めるでち!宜しくお願いします、でち!」
「此方こそ、宜しく頼む……」
プールサイドに立つ
「じゃあ、まずは基本の基本からなのね。菊月ちゃん、水自体は怖いと感じるのね?」
「……そうだな。シャワー程度なら問題ないが、顔を浸けることには抵抗がある。以前大きな池に落ちたことがあるが、その時は途轍もない恐怖を味わった……」
『俺』が
「落ちたというと、ドボンと?うーん――菊月ちゃんの話は聞いてるから何とも言い難いけど、多分それは『艦娘全員』が抱く恐怖だね。それ、『水』に対する恐怖じゃなくて『沈む』ことに対する恐怖。それを水に対する恐怖と混同しているんだと思う」
「……むう、確かに。私があの時思ったのは、確かに『沈みたくない』、だった筈だ……」
「ビンゴ、なのね。水にさえ慣らしてしまえば恐怖心も薄れるのね。それなら――うん。まずは水遊びをするのね!」
「……なに?」
「ふっふっふ、甘いでち。水遊びこそ、水に慣れる一番の方法でち。というわけで――とうっ!」
話し終わるや否や、プールへと飛び込むゴーヤ。身体と衝撃に推された水が跳ね、周囲に飛び散る。
「っ!いきなり何をする……!」
「んー?何って水遊びでち。いやー、こんな夜遅くに好き勝手羽を伸ばせるなんて、菊月ちゃん様々でち!」
「ゴーヤ、真面目にやりなさい。――ごほん。と言うわけで、はっちゃん印のレッスンその一。水掛け遊び。これはとっても単純で、私たち三人と菊月ちゃんが水を掛け合って遊ぶだけ。これで水は怖くないと認識して貰います」
「ちなみに、イクは水鉄砲を使うのね。油断してたら顔にバン!なのね。ふっふっふ、イクの水鉄砲がうずうずしてるのね!」
口々に告げられる内容に混乱する。混乱するのだが――どうにも、彼女達を見ているとそれが些細なことのように思えてくる。泳ぎのことに関しては俺達は無知なのだ。ならばまずは、信じてみよう。
「……正直なところ、効果があるのかよく分からぬ。だが、私はお前達に教導を頼んだのだからな。従おう……」
「――あら。こうすんなり信じて貰えるなんて。ちょっと嬉しいね、danke」
「お前達を雇うと決めたのは私だからな、信じるさ。……で、水掛けだったな。たとえ水掛けであろうと、私は遅れを取るつもりは無いぞ……!」
「その意気なのね!じゃあ始めるの、レディー――ゴーなのね!」
イクの号令に合わせ、両手を水に突っ込んで振り抜く。同時に眼前の三人も、顔に笑みを浮かべて両手を跳ね上げる。互いの意思に従って高らかに舞った水飛沫が、照明に照らされきらりと輝いたのだった。
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「……ぜぇ、はぁ、くっ……。つ、疲れるな……」
プールサイドに寝そべり、大きく荒く呼吸をする。息を吸うたびに、スクール水着に包まれた胸が上下する。肩紐は片方外れ、何時の間にか提督指定水着はずり落ち脱げそうになっていた。服の乱れをのろのろと直す
「まあ、水の中での動きに慣れてなかったらそうなるでち。水は考えてる以上に抵抗とか大きいでち。というか、菊月ちゃんは頑張ったほうだからね?」
「そうなのね。まさかイクの水鉄砲を奪って反撃してくるとは思ってもみなかったのね。菊月侮りがたし、なのね」
「でも、その甲斐はあったみたいだけど。それっ」
ハチが軽く手を動かすと、跳ね上がった水が
「……わざわざ言われずとも分かっている……。ああ、お前達のお陰だとも。半信半疑だったが、確かにこのように水には慣れたからな……」
三人の容赦のない攻撃によって嫌と言うほど水を掛けられ、顔も身体もびしょ濡れになった。イクなど顔ばかり狙うものだから、遂にその手の水鉄砲を奪い取り暴れる。散々遊び惚け飛沫を立て合い、気づけば水に対する恐怖心も薄れていた。
「ま、本当は水に慣れたから直ぐに顔浸けが出来るようになる、と言うわけでもないけれど。ぼちぼち練習して行きましょう?」
「……ああ。改めて、宜しく頼むぞ三人とも……」
疲れ切った身体を引き起こし、三人と向き直り握手をする。しっかりとシャワーを浴び、着替え、潜水艦娘達に別れを告げて部屋へと戻り泥のように眠る。ただ一つ気づかなかったことがあるとすれば、それは俺がどれだけ身体を使ったかの自覚。慣れない筋肉まで無理に使った代償は小さいものではない。
翌朝、俺は全身の筋肉痛に苛まれるのだった。
スク水菊月可愛い。