私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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昨日の分です(白目)

いやね、昨日は菊月の除籍日だったじゃないですか。で、日本酒ひと瓶買ってきて、遠くの菊月に杯を掲げながら夜酒を楽しんでたんですよ。
気付いたら朝でした。


菊月(偽)と潜水艦とプール、その五

既に深まった夜、吹き付ける夜風は七月のものだと言うのに身体を冷やしてゆく。まるで石のように固まった足、動かない身体。何故か鉄扉の向こうに居た神通の存在は、かつて無い衝撃を菊月()にもたらした。

 

「……そ、その、神通……?率直に尋ねる、何故ここに……?」

 

夜風を思ってのことか、夏用の薄い上着を纏い普段着に身を包んだ神通は少し新鮮に見える。しかし制服で無かろうと、その身体のうちに秘める意思が透けて見えるあたりは流石だと言うべきだろう。彼女は、まるで聖母のような笑みを浮かべると穏やかに口を開いた。

 

「何故、ですか。今晩、偶々間宮さんにお酒を出して貰おうとお話を伺ったら、今日の先約と同席でも良いかと聞かれまして。先約というのも気になり、話を聞かせて貰ったのですよ。まさかとは思いましたが、本当だったのですね」

 

「あ、間宮さんに話をしちゃったのはゴーヤでち。ごめんね!」

 

「菊月のその姿を見る限り、水泳の特訓という話は本当だったのですね。ある程度は冗談だと思っていただけに、少し驚きました」

 

思わず頭を抱え、その場にしゃがみ込む。先程までの高揚した気分ならばともかく、落ち着いて冷静に考えると羞恥が顔まで迫り上がって来る。もっと必死に抵抗しておくべきだった、身体を両手でかき抱きせめて神通から見える範囲を少なくしようと試みる。

 

「そ、そう落ち込まないでください、菊月。――その、似合っていますよ?」

 

「そこを気にしているのではない……!ううっ、見るな……!」

 

神通の言葉に、一気に頬が紅潮するのが分かる。頭に熱が走り、あうあうと言葉にならない言葉が漏れる。と、その時菊月()の身体が何者かに引っ張られる。

 

「全く、なにを恥ずかしがっているのでち。機能美溢れるこの水着に恥ずかしいところなんて全く無いのでち。もっと胸を張るでち!」

 

「そうなのね。むしろ、全ての艦娘はこの水着を制服にすると良いのね!動きやすくてお洒落、言うこと無いのね」

 

「その通り。というわけで、行きますよ。ゴーヤ、イク、菊月をひっ捕えい。間宮さんのところまで連行します」

 

がっしりと両脇を抱えられ、ずるずると引き摺られながら鎮守府屋内へと運ばれる。せめてと神通に視線を送るものの、彼女もまた笑いながら後に続くだけ。こうして菊月()は、細やかな抵抗も虚しく水着のまま鎮守府屋内へ連れ込まれたのだった。

 

―――――――――――――――――――――――

 

暗い廊下を五人で歩く。夜番の艦娘に見つからないかと気が気でない菊月()とは対照的に、残る四人は堂々と歩みを進めていく。神通はともかく、潜水艦三人はもう少し恥じらいを持てと言いたくなる。

 

「はい、いらっしゃいませ。――あら、本当に水着で来たんですね。四人とも、良く似合っていますよ」

 

「ふっふっふ、当たり前なのね!」

 

食堂へ連れ込まれ、酒の並べられたカウンターへ座る。一人悶々としていれば、いつの間にか神通も三人も酒を頼み終わっていたようだ。此方へ視線を投げかける間宮さんに、とりあえずオレンジジュースを注文する。差し出された大きなグラスに注がれたオレンジジュースは、その中の四角い氷と共に薄明かりの下で煌めいていた。

 

「それで、菊月さんの特訓はうまく行ったんですか?ゴーヤさん、『菊月ちゃんは見所があるでち!』なんて嬉しそうに言ってたじゃありませんか」

 

「勿論成功でち!ゴーヤと、イクとハチの三人掛かりで完遂できない作戦なんて無いよ!」

 

「そうですか、おめでとうございます菊月さん。艦娘って、結構泳げない人が多いですからね。凄いと思いますよ」

 

からん、と音を立てて溶ける氷を眺めつつ、ちびちびとオレンジジュースを味わう。潜水艦達の二杯目に合わせ、間宮さんも自分のグラスにも酒を注ぎ飲み始めている。ジュースの杯がちょうど半分になるぐらいで、俺は口を開いた。

 

「……何やら複雑だが、とりあえず第一段階はクリアだ。そうだな、ハチ……?」

 

「ええ。明日からは、徐々に泳ぎの練習に入ります」

 

「泳ぎとは言っても、まずは浮かぶところからなのね。力を抜いて浮くのは、慣れないと難しいのね」

 

「そうか……。うむ、楽しみだ……」

 

「あれ?まだ泳ぎの練習にははいってなかったんですね。――そうだ!なら、神通さんも混ぜて貰ったらどうですか?川内さんも那珂ちゃんも泳げるのに自分だけ泳げないって、この前愚痴を言ってましたし!」

 

「――っ!?げほ、えほっ!ま、間宮さんっ!」

 

すっかり酔いの回った様子の間宮さんの放った一言に、咳き込み頬を染める神通。神通が恥ずかしがる様など珍しいことだが、今はそんな事を気にしている場合ではない。

 

「……なんだ、神通。お前も泳げなかったのか?意外だな……。どうだ、顔浸けは出来るのか?私は出来るぞ……」

 

「そ、それぐらいは出来ます!というか、そもそも――」

 

「ゴーヤ、神通のサイズの提督指定水着はあるのか……?」

 

「な、菊月っ!話を聞いてください!」

 

既に数杯を重ねた潜水艦のうち、最も酔っていそうなゴーヤへと声をかける。当のゴーヤはきらりと瞳を光らせると、グラスを一気に呷り言葉を発した。

 

「水着のサイズ?勿論でち!!提督指定水着は、菊月ちゃん達駆逐サイズから、大和や長門の戦艦サイズ、あとは愛宕サイズまでオール完備なのでち!ねぇ、イク、ハチ!?」

 

「そうなのね、提督指定の名は伊達ではないのね。あの提督が、各サイズを揃えていない筈が無いのね!」

 

「――なので、勿論そちらの神通さんサイズも用意出来ます。というか、那珂さんに水着を用意したこともありますからどちらにせよ逃げ場は無いのですが」

 

三方向から攻め立てられる神通。彼女は落ち着くようにと身振りで示すと、紅潮した頬を隠すように一度咳払いをしてから話し出した。

 

「全く、四人とも急き過ぎです。――それで水泳の特訓ですが、むしろ願っても無いことですね。そもそも私は、その集まりに加えて貰おうと思ってあなた達を訪ねたのですから」

 

「あれ、そうなのでち?」

 

「ええ。一人での訓練に行き詰まっていたところ、ちょうど特訓をしているという話を聞いたものですから。出来ないことをそのままにしておくことは、華の二水戦の誇りにかけて許せませんからね」

 

そう言うと、懐から何やら取り出す神通。暗がりに目を凝らしてみれば、それは五枚の間宮券だった。数枚は皺が寄っていることから、それなりに古いものだと分かる。

 

「あなた達に教えを請うには、見返りが必要だと聞きました。――今晩のお酒は私の奢り、それで構いませんか?」

 

「太っ腹。さすが華の二水戦ね。私も、勿論ゴーヤもイクも文句は無いわ」

 

「良かったです。――では、明日から宜しくお願いしますね」

 

そう言うと、神通はグラスに残った酒を一気に飲み干し笑う。その頬が赤いのは、酒のせいだけではないことを追求するのは野暮だろう。

 

こうして、俺達の特訓に新しい仲間が加わったのだった。




筑摩ー!ちくまぁぁぁあ!!!

なんと!!なんと!!!!
いつもの挿絵の方が!!!!!
スク水菊月を描いて下さいました!!!!

http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=50553290

正直僕の小説とかもう良いので皆さん挿絵の方へゴー!!

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