と言うわけで、プール本編。書ききれなかったので多分前後篇に。
ぱちり、と目を覚ます。ゆっくりと起き上がれば既に部屋は明るく、日差しが差し込んでいる。部屋を見渡すと、如月の姿だけが見えない。まだ早い時間だが、時計と照らし合わせるに、どうやらもう朝食を摂りに行ったようだ。それに倣おうとベッドから抜け出し着替え終わったあたりで、眠たげな声が聞こえてくる。
「う、うーん。はれ、おねえちゃん?おはようございますぅ」
「……おはよう、三日月。随分と寝ぼけているようだな。……今から私は朝食に行くつもりだが……来るか?」
「――っ!?は、はいっ。行きますっ」
声を掛けるや否や、驚いて意識を覚醒させる三日月。少し悪いことをしたと思いつつも、彼女が着替えるのを待って連れ立って食堂までゆっくりと歩く。途中すれ違った何人かの艦娘と挨拶を交わし、辿り着いた食堂のドアを開ける。朝早くとは言えど、任務のある艦娘達がちらほらと見えた。幸いにして空いていたカウンターへ向かい、そこを切り盛りする彼女へと声を掛ける。
「おはようございますっ、間宮さん」
「……おはようございます、間宮さん。如月がどこに座っているか、知らないか……?」
「おはようございます、三日月さん、菊月さん。如月さんなら、あちらの席に座っていますよ」
間宮さんの差した方向を見ると、窓際の席に座った如月が此方へ微笑みかけている。どうやら、彼女の方は俺達のことに気づいていたらしい。手を振り返し、間宮さんへ注文を伝える。少しして出されたトレイを手に持ち、如月の座る席へと向かった。
「おはよう三日月ちゃん、菊月ちゃん」
「おはようございます、如月お姉ちゃん」
「……おはよう、如月……。如月の朝食は、焼き鮭定食か」
取り留めもないことを喋りつつ、朝食を摂る。
「私達が一番遅いとはな。遅れぬように、さっさと食べないといけないか」
「うーちゃん、楽しみすぎてあんまり寝れなかったぴょん。だからまあ、寝坊するのも仕方ないぴょん」
二人が加わり、急に賑々しくなるテーブル。いつものことながら、やはり全員で食べる方が『俺』も『菊月』も好ましく思う。そんな内心を隠すように、少し残った味噌汁を一気に飲みきる。
「……何でもいいが、早く食べろ……。私はもう終わってしまったぞ、あまり遅いと置いて行くからな……」
なんでもないことだと言うのに、意識してしまえば急に頬が緩んでしまう。だらしのない笑顔を見られないように顔を背けながら、
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着替えの入った鞄ひとつを背負い、炎天下を歩いて鎮守府併設プールへ向かう。てっきり我々姉妹だけの催しかと思っていたのだがそうではなく、鎮守府にいる駆逐艦はかなりの数が参加しているようだ。第六駆逐隊や在籍している白露型、果ては秋月に島風の姿まで見える。
「はい、お疲れ様でした。と言っても、殆ど歩いてもいませんけれどね?じゃあ加賀さん、挨拶をお願い」
「はい。――プール開放とは言っても、訓練の一環として行っているのですから、提督指定水着の着用が望ましいです。皆さん、あまり羽目を外し過ぎないように。入る前には準備体操をしっかりすること、疲れたらすぐに休むこと。余りに過ぎた悪ふざけは――私の艦載機が許しません」
加賀の言葉に青くなる駆逐艦の面々。その反応を見て、ほんの少し傷ついたような表情をする加賀。そんな物言いをするから怖がられるのだと、後で教えてやるべきか。逡巡している間に、持ち直した加賀が口を開く。
「こほん、長くなりましたが、皆さん楽しんでくださいね」
一斉に返事を返す駆逐艦達に混ざり、
「……ぐ」
右を向いても左を向いても、目に入るのは下着姿の艦娘達。居たたまれなくなって下を向いても、衣摺れの音と戯れ合う声だけは防げない。下着のまま水着を握りしめ悶々としていると、極近くからも声が現れる。
「うーん、少しきつくなったかしら?」
胸元に手を当てながら、そう声を発したのは如月だ。ちらりと見ると、姉妹艦のなかで最も発育の良いその身体が提督指定水着に包まれているのが分かる。あどけなさだけではない何かを漂わせたその姿を直視する前に、慌てて視線を逆方向へと向ける。しかし、そこに待っていたのは安息ではなかった。
「うーん、うーちゃんはぴったりぴょん。なんだか負けた気がするぴょん」
卯月は、この中で最も均整のとれた身体をしている。如月程の成熟には及ばないが、
「あれ、お姉ちゃん?菊月お姉ちゃん、どうしたんですか」
声を掛けられた以上は振り向かねばならない。向けた視線の先に居た者も、前二人に劣らない天使だった。姉妹の中では最も幼い身体をしているだろう三日月だが、その愛らしい顔や声と相まって庇護欲を掻き立てられる。だが彼女の魅力はそれだけではなく、三日月には如月とはまた違った無意識の妖しさが秘められている。
「……なんでもない」
辛うじて答えれば、目を瞑り一気に下着を脱ぎ去り水着を身に纏う。着慣れてなければ敵わなかっただろう、長かった水泳特訓に改めて心中で礼を言う。深呼吸ののち目を開け、振り返る。そこには姉妹最後の一人、長月が仁王立ちをしていた。
「顔が赤いが、大丈夫か菊月。無理はするなよ、加賀にどやされる」
長月の水着姿は、一言で言えば『完璧』だろう。あどけない顔に凛とした表情、幼い身体を存分に強調する提督指定水着。そして、それが当たり前かのように振る舞うその姿。ことこの提督指定水着が最も似合っている姉妹はと問われれば、長月と答えざるを得ないだろう。
「……大丈夫だ。うむ……。済まんが、先に行っていてくれ……」
「本当に大丈夫なのか?まあ、水着に慣れないだけかも知れんが。如月達も先に行った、私も先に出ているぞ」
「ああ……」
ぺたぺたと素足で石の床を歩く長月を見送り、大きなバスタオルに身体を埋め深呼吸する。
姉妹達は誰もみんな、其々が全て魅力的だ。それが提督指定水着を着ているとなれば、『俺』がこうなってしまうのも仕方ないだろう。対する『菊月』の感情は大きく冷え込んでおり、このままでは間違っても
「……うむ。やはり菊月が一番天使だ」
周囲に誰も居ないことを確認し、ぽろりと零す。至極当たり前のことを再確認すれば、
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照り付ける日差しの中、きらきらと光る水飛沫を跳ね上げ艦娘達が踊る。
「まあ、これはこれで良いか……。……なんだ。少し釈然としないがな……」
プールサイドから一段低くなった、水面と同じ高さの段差に腰掛けながらぱしゃぱしゃと水を蹴り上げる。水の行く先を目で追うと、夕立と白露が楽しそうにプールを駆けているのが目に映った。その光景を、すっと現れた三日月が遮る。
「お姉ちゃん、何をしているんですか?」
「……三日月か。いや、プールだと言うから皆泳ぐものだと思っていてな。少し、拍子抜けしたのだ……」
「あはは、確かに卯月お姉ちゃんの説明じゃそう思いますよね。でも、ちゃんと泳げる艦娘ってほとんどいないんですよ?私達の姉妹の中でも卯月お姉ちゃんがクロールを泳げるぐらいで、あとはバタ足が出来るかどうか、の所ですね。それなのに――」
三日月は苦笑しつつ、とある方向を指差す。その先に居るのは卯月と長月、何やら言い争っているようだ。そのまま少し眺めていると言い争いがひと段落ついたのか、二人は連れ立ってプールの中を移動して端の方の深いコースに陣取った。
「卯月お姉ちゃんが長月お姉ちゃんをけしかけて、水泳の勝負に持ち込むんです。如月お姉ちゃんは勝負には乗らない性格ですし、私はその、泳ぎが苦手ですから。毎回、長月お姉ちゃんが捕まっちゃうんですよね」
同時にスタートする長月と卯月だったが、見る見るうちにその差は開いて行く。どちらも不完全とはいえ、バタ足でクロールに勝てるはずも無く大差をつけて卯月が勝利を収めた。
「まあ、見えてはいたがな……。それにしても、卯月も大人気ないことをする」
「お姉ちゃん達が戦う時って、いつも夕ご飯のデザートを賭けてますから。プールだけじゃなく、栗拾いだって雪合戦だって得意なのは卯月お姉ちゃんなんです。それで、毎回長月お姉ちゃんが負けちゃうんですよ」
「成る程。……いや、尚更大人気ないではないか……」
「ぷっぷくぷぅ〜、ふっふっふー。なーに話してるぴょん?」
会話の元凶であった卯月が割り込んでくる。遠くで打ちひしがれ、如月に励まされている長月とは対照的にとても嬉しそうな表情だ。
「……いや、な。お前と、長月のことを三日月に聞いていたのだ」
「成る程ぴょん。で、それを聞いて菊月はどうするぴょん?まさか、泳げないなんてことはないぴょん?さあ、菊月と三日月のデザートもうーちゃんに捧げるぴょん!」
「そうだな……。私が勝てば、『一ヶ月』デザートを寄越してくれるというなら乗ってやっても良いが。なに、卯月はそれほど自信があるのだろう?ならば、私程度どうということは無いはずだ」
「一ヶ月でも一年でも望む所ぴょん!うーちゃんはぁ、イベント事では滅法強いんだぴょんっ!!」
「決まりだな……」
卯月へと笑みを漏らし、背後の三日月へ小さくウインクをする。そのまま振り返らず、
最近遅刻が多くて申し訳ないです。精進します。
それはそれとして、支援絵・挿絵を!
http://seiga.nicovideo.jp/seiga/im4930102
darkendさんに描いて頂いたゴスロリ菊月です!
更にもう一つ!
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=50624256
いつもの挿絵を描いてくださっている篠生茉莉さんから、
覚醒菊月の挿絵です!
本当、これだけ描いて頂いていると言うのに申し訳ない……
菊月可愛い……