私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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この話を読んで頂ければ、私が無双モノを書かなかった理由を察して頂けると思います。
戦闘シーンのBGMは『BLACK STRANGER』とかそんな感じ。

ちなみに、この菊月の覚醒オーラは本編のものとは全く系統が異なります。簡単に例えるなら、本編菊月は超サイヤ人、赤オーラで超サイヤ人2とかですがこっちの菊月は『伝説の超サイヤ人』です。



超番外編!戦慄のゲシュペンスト!!後編。

固い床に敷いた薄い布の上から、むくりと身体を起こす。包まっていた、同じく薄い布団を脱ぎ捨てればゴキゴキと首を鳴らし、肩を回す。大きく背伸びをすれば、冷え固まった筋肉が少しずつ伸びるのが感じられた。

 

「…………」

 

小さく畳んでいた服の埃を払い、身に纏う。朽ち外れた扉の残骸を踏み越え、同じく錆鉄の見える廊下を少し歩く。曲がり角を曲がると眼前に現れる扉を押し開くと、開けた視界一面に真っ青な海が映った。

 

「……さて……、飯だ……」

 

菊月()が寝床としている放棄された資源基地、その真ん前の海へ備えた仕掛けへと視線を向ける。潮風に晒され錆びきった仕掛けだとしても、菊月()の一日の飯の種を得るぐらいには役に立つというもの。昨夜仕掛けた魚獲り網を引き上げれば、その中には幾つかの魚と貝、そしてタコが入っていた。

 

「……焼いて、食べる……」

 

腐っても資源基地だけはあり、今でも微量ながら燃料が湧き出している。それを少し掬い取り、着火の助けとする。積んだ枯れ草に燃料を巻けば、準備は整った。

 

「……ふっ……!」

 

いつものように朱金(きん)気焔(オーラ)を発現させ、指を鳴らして火花を飛ばす。それにより瞬く間に燃え上がった焚き火へいつも使っている鉄板を架け、魚とタコを焦げる寸前まで焼き上げ咀嚼する。最早何度繰り返したか分からないが、やはりこれだけの食事というのは味気ない。

 

「……む?あれは……」

 

タコの足を食みながら海を眺めていると、遠くに小さな黒い影が見える。どうやら駆逐級、朱金(きん)気焔(オーラ)を発現させた眼でなければ見えなかっただろうが、今の菊月()にとっては造作も無いことだ。

 

「……珍しいな。どうやらこの天気、もう暫くで霧も出るようだし……行ってみるか……」

 

今朝方の雨の具合や海に浸けていた網の温度、そして風の具合からしてもうじきこの一帯は霧に包まれるだろう。――そう。たった一人、およそ半年程度だろうが、数えるのも馬鹿らしくなるほど孤軍奮闘して来た菊月()の最高の助けとなった霧が。

 

「……よし。菊月、出る……」

 

態々用意する必要のある持ち物など無い。唯一屋内にしまってあった、裾が破れ朽ちかけた継ぎ接ぎのコートと、黒ずんで血がこびり付いた二本の長い骨刃を身に纏い、菊月()は気配を殺せば悠々と海へ降り立ったのだった。

 

―――――――――――――――――――――――

 

霧に紛れて駆逐級の後を尾け、戦艦棲姫の首を落としたのは良いものの、ちょうどそれと前後するタイミングで霧が風に押し流されてしまった。右を向けば艦娘の連合艦隊と思われる集団、左を向けば深海棲艦の群れ。その真ん中に菊月()は立ち尽くしている。艦娘はともかく深海棲艦の殺気は菊月()へと殺到しており、相手にしない訳にもいかないだろう。

 

「……はぁ」

 

敵の数が多く被弾の心配があるとか、艦種が豊富で戦いづらいとか、そんな事ではない。有体に言って――めんどくさいのだ(・・・・・・・)。だがまあ、背後の損耗しつつある艦娘達を放っておくのも気が引ける。何より、上手くやれば何処かの鎮守府へ合流出来るかもしれない。深海棲艦には悪いが、精々艦娘への手土産として、アピールさせて貰おう。

 

そう、菊月()にとって奴等などものの数でもない。空母?戦艦?それがどうした。恐怖など、全く感じない。たった一人、此処まで生き抜いて培った力は伊達ではない。――奴等は、菊月()どころかその影にすら触れることが敵わないのだから。

 

「……深海棲艦……っ」

 

真っ先に体当たり(ラム・アタック)を仕掛け、駆逐ハ級が突っ込んで来る。力を込めることもなくふわりと水面を蹴り、鬱陶しいハ級の脳天へと降り立つ。菊月()からすればごく当たり前のことなのだが、深海棲艦共からは突然消えたようにすら思えただろう。菊月()がたどり着いた駆逐艦の極致、速さはそれほどのものだ。

 

「ゴガァァァァアア!?」

 

戸惑うハ級を踏み台に、今度は力を込めて再度跳躍。たったそれだけで、ハ級の頭蓋は陥没し抉れ砕ける。そんな見慣れた光景をいちいち気にしていても仕方が無い。燦然と輝く光の軌跡を残し、艦載機を放とうとする寸前の空母ヲ級の懐へ。

 

「……ナッ」

 

「ふっ――」

 

ばぁん。

そのまま右足を大きく振るうと、まるでトマトか何かのようにヲ級の頭はひしゃげ圧壊した。人型の深海棲艦の中でもヲ級は脆く、弱点が多い。楽に処理出来るのは良いところだ。

 

「コノ、キサマ……!」

 

大盾のごとき艤装を此方へ向ける、複数の戦艦ル級。そのうち一体へと目星をつければ、その真横へ。圧倒的な力へと昇華した速度で以って、その艤装へと回し蹴りを放つ。ぱきん、という軽い音を立てて砕けた艤装を貫通し、そのまま胴体を両断した。

 

「……ふむ、少し物寂しいな……?」

 

崩折れるル級の上半身を蹴り飛ばし、残りのル級を牽制する。残る戦艦棲姫以下、無数の砲弾が菊月()へと撃ち込まれる。しかし、朱金(きん)気焔(オーラ)を纏った菊月()の前にはそんなものは止まっているのと何ら変わりが無い。戦艦棲姫の放った、一際大きな砲弾の上に飛び乗り彼奴等を見下ろす。

 

「……歌でも歌うか……」

 

砲弾の上から更に跳躍する。足元遥か下で爆散した砲弾を一瞥すれば、腰に取り付けた投擲刃を持てるだけ引き抜く。眼下には数多くの深海棲艦、どれだけ仕留められるか。

 

「――君と……♪」

 

残像すら残るであろう速度で、投擲刃を投げる。それが真っ先に着弾したのはやはり最も近い駆逐ロ級。小さな音を立てて、投擲刃がその船体へ孔を穿つ。

 

「……きぃみと……♪」

 

一瞬後に遅れてその周囲が孔へ向けてめり込み潰れ壊れる。それを切っ掛けとして着弾した深海棲艦や海が同じように圧潰し、大きく波立つ。

 

「……シズメ、シズメ……!キサマハ、イッタイ!」

 

人型の、知能を持つ深海棲艦はヒトと同じように苦痛に顔を歪めもすればプレッシャーだって感じるし、怯えることすらある。そんな相手に対しては、敵前で歌うというのは存外に有効な手段ではあるのだ。

 

「うーたぁーって、いーたい……♪」

 

『必死の砲撃も掠りもせず、歌を歌いながら味方を惨殺する謎の敵』。孤軍奮闘の中、試行錯誤の末見出した戦い方の一つだ。こう戦うことで、敵の人型は怯え竦み動きが鈍る。最も、そんなことをせずとも彼奴等を屠れるようになってからは歌うことも少なくなったが。

 

「グゥゥウ、コノォォォオッ……!!」

 

水面に降り立つと同時に、戦艦棲姫へと向けて突撃する。飛びくる砲弾をゆるやかに――実際は掻き消えるほどの高速だが――躱し、両手に握る骨刃を振り抜く。菊月()朱金(きん)気焔(オーラ)が伝播した刃の一撃は、勢い余って彼奴の首どころか背後の異形まで半ば斬り飛ばしてしまった。頭を喪い沈みゆく戦艦棲姫へは眼もくれず、何か素材の足しにでもなりそうな異形の死骸だけを引っ掴み――ふと視線を感じて振り返れば、そこには顔を青ざめさせた艦娘が沢山居た。

 

「……どうした?」

 

「お前――お前は一体、なんなんだ?」

 

艦隊の先頭に立ち、心なしか背後の仲間を庇っているように見える艦娘――確か菊月()の記憶では『武蔵』だった筈の艦娘が口を開く。姿を省みて、確かにこの朽ちかけたマントを羽織っていてはわかる筈も無いと納得する。

 

「……私か?私は――」

 

マントを脱ぎ去れば、それに覆われていた朱金(きん)気焔(オーラ)が増大し発言する。後退る艦娘たちに疑問を覚えるが、気を取り直して口を開く。この制服と、腰の三日月のバッジを見て貰えば疑問も晴れるだろう。

 

「――菊月。睦月型駆逐艦の九番艦、菊月だ……」

 

艦隊へ向けてにっこりと微笑みながら、菊月()はそう告げたのだった。




菊月(偽)。

練度、1500。

篠生茉莉さんが挿絵を描いて下さいました!
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=50697573
此方へ是非!

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