私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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昨日の分。
如月ちゃん、おめでとう。ということで如月重点回。

どこまでやるか考えた上で、如月ちゃんへのお祝いの意味も込めて突っ走らせました。


菊月(偽)と夏祭り、その三

時刻は午後五時半。ちょうど日が水平線に沈みかけ、茜色の空にうっすらと月の見えるころ。広場からはそこそこ遠いというのに、俺達睦月型の部屋には太鼓の音と艦娘たちのざわめきが聞こえてきている。夏祭りは、始まったようだ。

 

「――しかし、如月。その、これはやはり……」

 

「大丈夫よ、菊月ちゃん。私も、他の娘もそうなんだから」

 

睦月型用の少し広めの部屋には今、俺と如月だけが居る。残りは部屋の外で待機していて、恐らくは聞き耳でも立てていることだろう。そう、つまり――菊月()は、如月に浴衣を着せて貰っているところなのだ。

 

「……く……っ」

 

如月の言葉に、おずおずと上半身用の下着(Sports brassiere)下半身用の下着(pantie)を脱ぎ去り、裸になる。素肌に触れる冷房の冷たい風に、菊月()はぶるりと一度身体を震わせた。そのままそそくさと、渡される薄い木綿の浴衣用下着を着込む。素肌に擦れる木綿の感覚が少しくすぐったい。

 

「……浴衣を着るときは下着を着ないと聞いてはいたが……。ぐ、これはどうにかならぬのか……!」

 

「まあ、少し恥ずかしいのは分かるわよ?でも、折角ならちゃんと着なきゃいけないでしょ?ほら、腰のところを締めちゃうわね」

 

薄木綿の肌着、その腰の紐を如月の両手が軽く引っ張り締める。その様子を見ようとちらりと下を向けば、如月よりも先に目に入るのは薄木綿の下着から透けて見える菊月()の胸。慌てて上を向く。顔に血が上って行くのがはっきりと分かった。

 

「はい、これで良し。次は浴衣の方を着ちゃいましょう。――あら、菊月ちゃん?顔を赤くしてどうしたの?」

 

「……な、何でもない……!」

 

ぶっきらぼうに言い放つと、くるりと如月に背を向けて両手を広げる。後ろからくすくすと如月の笑い声が聞こえてくるのは気のせいだろう、そうに決まっている。ごほん、と一つ咳を漏らせば、菊月()の上からふわりと浴衣が被せられた。

 

「はい、先ずは袖だけ通して?でないと、私も全部着付けさせてあげることは出来ないわ」

 

「……む。分かった……」

 

如月に促され、肩口までずり落ちて来た浴衣の袖へとするりと両手を通す。首と肩、腰辺りの位置を整え軽く前を合わせると、如月がまた声を掛けてくる。

 

「うん、出来たみたいね。なら帯を回しちゃうから、ちょっと両手を真横に上げてくれないかしら?」

 

「真横に、だな?分かった……」

 

言われるがままに両手を広げる。伸びる腕から垂れ揺らめく浴衣の生地が、視界の端に映り込む。それへ視線を伸ばそうとした瞬間、広げた腕の脇の下から通された如月の両手が――菊月()()を鷲掴みにした。

 

「――――っ!?!?」

 

「ふむふむ。あら?ちょっとだけ、大きくなったかしら?」

 

木綿の下着越しに感じる如月の滑らかな手の感触と、柔らかな菊月の胸の感触。それら二つから伝わる未知の感覚が背筋を駆け上り身体をびくんと跳ねさせる。先程とは比べ物にならない程の熱が、一気に顔へと集中力する。

 

「……んっ!?ひうっ……!」

 

「うーん、間違いないわよね。成長してるわ」

 

もにゅもにゅと動く如月の指が、菊月()のごく小さな、しかし確かなふくらみをやわやわと揉みしだき形を変えさせる。背中には、密着した如月の双丘の感触。未だ嘗て体験した事のない刺激に、『俺』の意思はすぐさま轟沈する。辛うじて稼働している『菊月』の意思だけを原動力とし、思い切り如月の腕を振り払う。

 

「――っ!!きっ、きききき、ききき如月っ!!おま、お前……っ!」

 

「うふふ、ごめんなさい菊月ちゃん。ちょっと気になっちゃって、ね?」

 

ね、と言われてもどうしようもない。早鐘を打つ心臓を宥めるように視線を彷徨わせ部屋中を見渡し、視線が一つの鏡を捉えた瞬間――菊月()は再度固まった。

 

さらさらと流れ落ちる、真っ白で柔らかな髪が黒い浴衣へ映える。

浴衣に描かれた一輪の菊花とその花弁、それらと同じように凛としている筈の顔は真っ赤に染まり、全身をきゅっと丸めている。

合わせられた浴衣を押さえて肌が晒されるのを防ごうとしているようだが、胸元や腹の白くすべらかな肌がまるで隠せていない。

無垢な顔つきとなだらかな身体つきだというのに、その仕草と上気した表情がなんとも言えない艶やかさを醸し出している。

 

――肌蹴た黒い浴衣を身にまとい、帯のないそれの胸の部分をぎゅっと掴み肌が晒されるのを抑え、身体を縮こませ羞恥に顔を真っ赤にした……菊月(天使)。俺はそれを鏡の中に見た。

 

「うぐぅ……っ!?」

 

「き、菊月ちゃん?どうしたのかしら。顔が凄く赤いわよ?私のせい、かしら。その、ごめんなさい?」

 

「い、いや違う。……いやっ、違くはないが、その。――ああもうっ、良いから早く着させてくれ……!」

 

「う、うんっ。ごめんなさい、今度は真面目にやるからね?」

 

その言葉に俺は一度だけ溜息を吐き、先程と同じように両手を真横に広げたのだった。

 

 

 

「――はい、出来たわよ菊月ちゃん?」

 

如月の声に、意図して瞑っていた目を開ける。眼前には、にこにこと笑う如月の顔。その如月が促すままに、先程天使を内包していた鏡を覗き込む。

 

――つややかな黒地に映える、幾つも舞い散る菊の花弁。その中で一つ佇む大輪の菊華は、シンプルながら上品な美しさを表現している。朱鷺色の帯はこれまた黒地の浴衣を引き立て、儚さを感じさせつつも纏まった印象を与えさせる。

そして、それを纏う菊月()の姿もまた美しい。

先程の不完全な羽織り方ではなく、こうしてきちんと着付けた今では凛とした麗しさが広がっている。袖口、肩口の菊の花弁と白い髪が互いに引き立て合っているようでもある。その場でくるりと身を翻してみても、匂い立つばかりの美しさだ。

 

「これは……」

 

「うふふ、我ながら似合うでしょう?買い物の時は見て選んだだけだったけれど、私の目は確かなんですからね」

 

「ああ。……正直、少し驚いた。私が、こうまで変わるとは……」

 

これは『菊月』の素直な感情。驚きと嬉しさがない交ぜになった感情を、その気持ちと共に言葉に乗せて伝える。

 

「さて、それじゃ私も浴衣を着なくっちゃ。菊月ちゃん、ちょっと部屋の外に出ておいてくれるかしら?やっぱり、お披露目はみんなと一緒に、ね?」

 

「……分かった。その、だな。如月……」

 

「どうしたの、菊月ちゃん?」

 

「……ありがとう。とても、嬉しい……」

 

声を掛け、振り向いた如月へとふわりと微笑みかける。顔が熱を持っていることを自覚した上で、それを生かした会心の微笑み。面食らったような如月の頬にほんのりと朱が指したのを見て、菊月()は密かに満足するのだった。




プレゼント=菊月(偽)の胸。

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