私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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間違えて別の方に投稿してました。
久し振りに速い投稿だと思ったらこのざま。


睦月型みんなの夏祭り

あらゆる艦娘が一堂に会する、鎮守府を挙げた夏祭り。今日この日は、私――三日月にとって、掛け替えのない日になりました。浴衣を着て、みんなで夜店を渡り歩く。如月お姉ちゃんと、卯月お姉ちゃんと、長月お姉ちゃんと――菊月お姉ちゃん。

みんな、私の大好きなお姉ちゃん。去年はばらばらに過ごしたからでしょうか、こうしてみんなで過ごす時間が夢みたいです。

 

「ふふっ。楽しかったなぁ」

 

「……?どうした、三日月」

 

隣を歩く菊月お姉ちゃんが、不思議そうに私の顔を覗き込んできます。秘密です、と意地悪をすれば、困った顔になるお姉ちゃん。

 

思い出しているのは、今日過ごした濃密な時間の数々。例えば、卯月お姉ちゃんが完全敗北を喫した金魚すくい。

 

『うあーっ!このうーちゃんが、金魚ごときに虚仮にされたまま黙っていられるか、ぴょん!よぉく狙って、せいっ――あーっ!』

 

何度やっても、静かに網を入れることが出来なかったお姉ちゃん。屋台の番をしていた艦娘さんが、情けでくれた追加の網も全部穴だらけにしていましたっけ。

 

「ん?どうしたぴょん、三日月」

 

「ふふっ、何でもないです」

 

知らず知らずのうちに卯月お姉ちゃんへ向いていた視線を戻し、また思い出す作業へ。例えば、長月お姉ちゃんと如月お姉ちゃんが熱いバトルを繰り広げた射的の屋台。

 

『そうまで言われては、ねぇ。黙っていられないわよね?』

 

『そうだな。無意識だろうが駆逐艦を、そして睦月型を侮った報い――受けて貰おう!』

 

『ちびっこだから、少し前に出て撃っていい』。店主さんが笑って言ってくれたその言葉にカチンと来たお姉ちゃん達。二人でどんどん景品を撃ち抜いて、全部掻っ攫っていましたっけ。流石にそこまですれば頭も冷えたみたいで、一番大きな景品以外はちゃんと返していましたけれど。

 

「ん、どうしたんだ三日月?」

 

「うふふ、なんだか楽しそうな顔をしているわね」

 

「えへへ。だって、楽しいんです!」

 

ふいっと視線を空へと向けると、そこには眩く輝くお月様。私達の名前はみんな月から来ています、けれどもああして輝くお月様を見て、私が思い出すのは菊月お姉ちゃん。お姉ちゃんとの、今日の思い出を想起する。

 

『……す、済まない三日月。つい我を忘れて……。瑞雲、は渡せないし……ううむ』

 

私の顔を見て、珍しく狼狽えていた菊月お姉ちゃん。しっかりしているようで、意外と抜けているのはもうみんなが知っていることです。だって――私が不機嫌そうにしていた理由を、ぬいぐるみを取れなかったからだなんて勘違いしているぐらいなんですから。

 

「――はぁ」

 

そこまで考えて、大きく溜息。私が不機嫌になった理由は、ぬいぐるみなんかのせいじゃありません。お姉ちゃんが、菊月お姉ちゃんが戦艦にすら『勝ってしまった』ことが原因なんです。

菊月お姉ちゃんはいつも言っています。『私はみんなと並んで海を駆けたいのだ』、『みんなと守り合えるようになりたいのだ』って。そうして、お姉ちゃんはそれを実現するためにどんどん先へ進んで行きます。私達なんて、届かないスピードで。

 

私は、守られるだけなんて嫌なんです。

 

『守り合えるようになりたい』って言うのは、菊月お姉ちゃんだけの思いじゃないんです。この、置いていかれるような感じ。私は――いいえ、私だけじゃない。如月お姉ちゃんも、卯月お姉ちゃんも、長月お姉ちゃんも。きっとみんな、同じ風に考えてます。だから――不機嫌な顔をしてしまったんです。せっかくお姉ちゃんが私のために戦ってくれているのに、戦艦とも渡り合うその姿を見て。

悪い考えが堂々巡り。また溜息が出そうになって――

 

「なんだよー、顔が暗いぞ三日月っ!」

 

「ひゃあっ!?って、皐月お姉ちゃんですか。驚かさないでくださいっ!」

 

「えっへへ、ごめんにゃしぃ。でも、元気は出たでしょ?」

 

皐月お姉ちゃんと、睦月お姉ちゃん。別の鎮守府から、夏祭りのために姉妹みんなで来ているみたい。迷子になっていた文月お姉ちゃんを探していた彼女達とは、日向さんの演し物のところで合流しました。

 

「元気は――ううん、出ましたけれど」

 

「なら、もっともっと楽しむにゃしぃ!せっかく、殆どの姉妹が揃ってるんだから!ほら、にこーっ!」

 

ぐにぃっと、ほっぺたが睦月お姉ちゃんに持ち上げられる。その目を見て、なんとなく睦月お姉ちゃんも、そしてあっちの姉妹のみんなも同じなのだと気付きました。みんな、自分の弱さが許せないのだと。その上で、腐ってなんかいないんだと。

 

「ふふっ、分かりました。私だって、笑ってみせます!」

 

ほとんど顔を合わせたことのない睦月お姉ちゃんですが、それでもやっぱり長女だけはあって、私の不安を少し溶かしてくれました。ちょっと晴れやかになった気分で周りを見渡すと、菊月お姉ちゃんが誰か――あの制服と髪は多分青葉さん――に呼ばれているみたいです。断りを入れて、走って行くお姉ちゃん。それを見送って、みんなで顔を見合わせました。

 

「やっぱり――」

 

「予想通り、だね。準備は?」

 

「完璧にゃしい。そっちこそ、場所は?」

 

「あら、最前列を確保しているわ」

 

「さっすがだね、睦月に如月!」

 

大方今は、青葉さんと二人で隠し通した気になっているのでしょうが、あの菊月お姉ちゃんの隠し事。何を隠しているのかは分からなくても何かを隠していることはバレバレで。それも今日の日と照らし合わせればすぐに目算は立ちました。

というか菊月お姉ちゃん、『なにがあるかは分からないが、今日は特設ステージをチェックしておいた方が良いぞ』なんて言っちゃ教えてるのと同じです。

 

「やっぱり、シークレットゲリラライブ?」

 

「決まってるぴょん。あの那珂ちゃんと菊月が、何もしないはずは無いぴょん」

 

「うわ〜っ、あたし楽しみぃ〜。三日月ちゃんは〜?」

 

「そうですね。――勿論、楽しみに決まっています!」

 

シークレットには、サプライズで。舞台上のお姉ちゃんは、どんな顔をするのでしょうか。ちょっとした可笑しさを覚えながら、私達はみんなで悪巧みをするのでした。




全員に強化フラグ。

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