私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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今回は幕間。前話からいきなり二週間ほど時間が飛んでます。

その間菊月(偽)は朦朧とした意識で目覚めたり寝たりを繰り返し、徐々に沈んでいってます。ピンチです。


幕間『決着、トラック泊地海域』

「ヒカリ……アフレル……ミナモニ……ワタし、も……そ…っ、―――!?」

 

……勝った。化け物としか形容しようのない力と装甲を持ち、随伴艦をすら化け物級の戦艦で固めた深海棲艦。このトラック泊地海域を襲撃し、恐怖と暴力を撒き散らした『戦艦水鬼』は、白みかけた空の下、暗い水底へ還って行った。

 

……私、長月とその時の第一第二連合艦隊が未知の深海棲艦―――帰投後、軽巡棲鬼と名付けられた―――相手に撤退を強いられてから、およそ二週間。

あれから私達の鎮守府は、敵戦力を計算し直した提督により各地の鎮守府に出向していた艦娘達を帰還させ、新たに艦隊を編成。先ずは敵先鋒である軽巡棲鬼の攻略、そしてあの時私達を救った謎の艦娘を捜索すべく海域へ出撃するも何方も発見できず。軽巡棲鬼は後日、敵本拠地海域に出撃した際に発見、私達の記憶にある姿よりもおよそ破損していたそれを撃破した。

 

この時点で、撤退から一週間と少し。謎の艦娘の姿は確認出来なかった。

 

「…………敵戦力中枢、『戦艦水鬼』の撃破を確認しました」

 

今回海戦の最大の切り札、戦艦『大和』が目標の完全沈黙を告げる。今回、決戦海域での作戦では戦艦大和を初め武蔵、長門、陸奥と言ったそうそうたる顔触れが並んだ。それでも攻略に一週間弱かけさせた戦艦水鬼をこそ褒めるべきだろう。……しかし。この一週間、第三・第四艦隊が捜索したにも関わらず件の艦娘は発見出来なかった。

 

……考えたくは無いが、沈んでしまったと考えるのが妥当かも知れない。

 

「現時点を以って一連の作戦を終了とする!連合艦隊の諸君、我々の勝利だ……!」

 

同じく切り札『長門』が勝鬨を上げる。それに呼応するように、艦隊の全艦娘が喜びの声を張り上げた。

 

―――――――――――――――――――――――

 

「……ねぇ、長月ちゃん……?」

 

「……なんだ、如月」

 

一通り喜び終わったあと、如月が近付いてきた。深く考えなくとも、言いたいことの想像はつく。

 

「……私を助けてくれた艦娘のことなんだけれど」

 

「だと思ったよ。けれど、私達も捜索に二週間かけたんだ。長門なんか『仲間を助けてくれたんだ、私が必ず見つけてやる』なんて言ってね。……だけど、見つからない」

 

今回の作戦では、捜索中に空母『天城』を新たに仲間に加えた。この艦娘が私達を助けてくれたのか、とも思ったけれど、シルエットも髪の色も異なっていてはっきり違うと分かってしまった。

 

「……それは、でも……」

 

如月と二人、暗い雰囲気になってしまう。そんな私達の頭上からぬっと現れた影が、声をかけてきた。

 

「……なんだ、どうしたんだ如月、長月。……いや、聞かずとも分かるがな」

 

「……長門さん」

 

如月が声の主の名を呼ぶ。長門は何か面白そうな顔をしているが……何があったんだ。

 

「何、お前達が二人だけで暗くなっているからな。私達も混ぜてくれ、水くさいじゃないか」

 

……私『達』、という疑問に長門の背後を見れば、艦隊のみんながこっちを向いている。どうやら全部見られ聞かれていたようだ、恥ずかしいな……。

 

「私はまだ、その『彼女』の生存を諦めていないぞ。お前達の話を聞くに、独りで殿を務めた上にあの軽巡棲鬼をあれだけ追い詰めた猛者なのだろう?また、逆光の中に見えた服の形状から睦月型である可能性が高い、とも。それが簡単に沈んでいるはずはないじゃないか」

 

長門の言葉に、また後ろの大和が続く。

 

「それに、まだこの海域には深海棲艦が多数残っています。彼女を探すのと並行して残存勢力の殲滅を行えば、一石二鳥じゃありませんか。なんなら私、今からでも探しに行けますよ!」

 

「はっはっは、その通りだ。しかし大和、お前は帰投しなくてはならないぞ?これ以上お前が暴れれば、今度は尽きた資材の工面で提督が倒れるぞ!」

 

「わ、私はそんなに大食らいじゃないですー!」

 

大型戦艦同士、冗談を飛ばし合っているようだ。駆逐艦である私から見れば、どちらも大概だな。……だがまあ、大和を初めとしてこれだけの艦娘を動かしたのだ。消費する資材がどれほどのものか、想像したくもない。

 

「……っと、それは置いておいてだな。ここに居る私達だって、鎮守府にいるみんなだってそいつを見つけたい気持ちは同じだ。大和が言っていたように殲滅のついでに探せば―――」

 

「―――いいえ、その必要はありません」

 

長門の言葉に、赤城が被せる。穏やかで粛々とした彼女にしては珍しいことだが、一体……?

 

「―――私と加賀さんで、残った艦載機を飛ばしていたんです。この近くに残っていて、私達を狙う深海棲艦が居ないか探るためだったのだけれど……少し遠出した艦載機の妖精さんが教えてくれました。『ほくせいのほうがく、かなりとおく。せんかんたきゅうと、ぼろぼろのかんむすがたたかってる』……と。どうやら、今しがた戦闘が始まったようですが……艦娘の方は、轟沈寸前とも」

 

その言葉に、にわかに艦隊がざわめき立つ。北西と言えば、かつて軽巡棲鬼が根城とし、私達が助けられた海域のある方角……!

 

「……全艦、聞いたなっ!?大破した艦、および第二艦、第四艦隊所属の艦は鎮守府へ帰投、補給ののち鎮守府の防衛、足の速い艦は私達を迎えに来てくれ!大和、其方に旗艦は任せる。……そして、比較的余裕のある艦は私に続け!これより任務を通達する、作戦目標は友軍艦の救出だ!」

 

「「「「了解っ!!」」」」

 

「―――よし、全艦抜錨!これが最後だ、気を抜くなよ!」

 

如月に目をやれば、こくんと頷いてくる。ここまで来て、みすみす沈めさせる訳にはいかない。『完全勝利』で帰投するんだ……!

 

「待っていろ、まだ見ぬ姉妹よ……!」




なんかやたら菊月(偽)が持ち上げられてるように見えますが、別に誰がピンチでもみんな同じように動きます。誰が一人のためにみんなで命を懸けられる、艦娘はそんな良い子ばかりなイメージで書いてます。

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