私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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出だしで半日悩んで、その後三十分で全部書き上げられたという。波って怖いですねという話。


遠く遠く、その二

姉妹との会話は、卯月と三日月の驚愕の驚愕を以って始まった。二人の絶叫が、暗くなりかけた部屋の空気を揺るがす。

 

「出向――っ!?」

 

「ああ、そうだ。私は今より十数日後、長期遠征任務へと就役する……」

 

執務室を後にし、菊月()は睦月型の私室へと戻る。部屋へ戻った時点では、中に姉妹は誰も居なかった。各自任務に就いているのだ、それも当たり前だろうと納得し一人部屋で時間を潰す。少し仮眠を取り、着替えて剣の稽古をし、風呂へ入り終えたあたりで漸く皆が帰り着く。揃って食事をし、揃って部屋へ帰ったところで出向任務を言い渡されたことを伝え――そして、二人が絶叫したのだ。

 

「ちょっ、ちょっと待つぴょん菊月!出向って、ほんとなのかぴょん!?」

 

「ああ……。今日の昼、司令官に呼び出されてな。異動と任務を要請された……」

 

「な、っ!き、急過ぎるぴょんっ!」

 

「……それは、確かにそうだろう。だが、出向自体は珍しくも無いだろう?この所は長門も陸奥もずっと出払っているし、私に至ってはこの鎮守府に居るという妙高型など見たことが無い……」

 

「それはそうだけど、っ!」

 

唖然とする卯月。頭を左右に振る。その様子を見ながら、菊月()は姉妹達を見渡した。如月は口に手を当て、三日月は目を見開いている。長月は、眉間に皺を寄せていた。その中でも一番幼い、菊月()の大切な妹である三日月の口が開く。

 

「出向って言っても、そんなに大変なところに行く訳じゃないですよね?せいぜい近場の、あったとしてもトラック泊地ぐらいまでで――」

 

「……ドイツだ」

 

「――へっ?」

 

「出向先は、ドイツ。遥か欧州……この国どころかアジアでも、南西海域でもない、ドイツ国が出向先だ。……もっと言うと、出向期間も不定だ」

 

目と同じぐらいに口を開け、卯月と同じように呆ける三日月。ぽかん、という擬音がこれほどに似合う表情も無いだろう。目を瞬かせる三日月。視線を外すと、今度は長月と目が合った。眉間に皺を寄せている。その表情に、出向に対して抱えている不安が刺激される。

 

「出向、か。――気を付けて行ってこい、と言いたいところではあるんだがな。少し気になることがある、一応、菊月も気を付けておけ」

 

「どうした、長月……?何か気掛かりでもあるのか」

 

「いや、な。先程の遠征でどうにも気になって、司令官にも伝えはしたのだが――どうも、深海棲艦の動きが妙でな。違和感、と言うべきか」

 

「妙……?それは、どういった?」

 

俺の問い掛けに、首を横に振る長月。肩を竦め、自分でもわからんがと前置きをしてから喋り出す。長月の勝負勘は頼りになる、紡がれる言葉に集中する。

 

「どうにも、動きがはっきりとしないというか。普段の深海棲艦ならば、全滅寸前にでもならない限り撤退などしないだろ?だが、今日会敵した奴らは少し矛を交えると直ぐに水底へ撤退して行った。だからどうしたと言われればそれまでなのだが――」

 

小さく咳払いをする長月。眉間の皺を少しだけ解かせて、少しだけばつが悪そうな顔をして、

 

「いや、済まんな菊月。私の感傷だ。私達の練度も増しているし、仲間だって頼れる者達が沢山いる。お前が居なくとも十分にやっていける、だから安心して行って、自分のことだけ気を付けていろ」

 

「……ふふ、当たり前だ。私が居ない間、鎮守府は任せているのだからな……?」

 

互いに発破を掛け合い、こつんと拳をぶつけ合う。長月の言葉に少しだけ安堵してしまったあたり、やはり長月は菊月()のことをよく分かってくれているのだろう。口元に少しだけ笑みが戻る。

 

「――はっ。ま、まあ長月の言う通りだぴょん。流石に驚いて固まってたけど、菊月がいなくてもうーちゃんが居れば大丈夫ぴょんっ!でもでもぉ、帰ってきたら一緒に剣の練習するぴょん!」

 

「お姉ちゃんが居なくなるのは寂しいですけど――任務ですもんね。帰ってきたら、一緒に遊びに行って下さいよ?それまで、私達が鎮守府を守ってみせます!」

 

復帰した二人の姿と態度にも励まされ、不安が薄れる。そこでふと、今まで一言も発して居なかった一番上の姉……如月のことが気になった。

 

「……如月?」

 

「えっ?――あら、どうしたのかしら菊月ちゃん?長月ちゃんの言う通り、私達が残っているもの。菊月ちゃんは、安心してお仕事を頑張ってらっしゃい?」

 

「……ああ。そうだ、如月は何か希望はないのか?卯月と三日月は何かして欲しいと言っているが……なんなら、ドイツの珍しい土産でも買ってこようか」

 

心此処にあらず、と言った雰囲気だった如月へ声をかける。あえて長めに話を振れば、彼女は何か察したのか控えめに笑いながら言葉を発し始めた。

 

「あら、別に構わないわよ?私だってお姉ちゃんなんだから、気にしなくても良いわ。それよりも!菊月ちゃん、誰も姉妹が居ないからって無茶だけはしないこと!良いわね?」

 

「……ぐ。それは分かっているが、今言わずとも良かっただろうっ!?ほら、三日月の目が……!」

 

「――そうです、お姉ちゃんは放っておいたら勝手にぼろぼろになっちゃうのをショックで忘れていました。これは、出向なんて行かせられません!むしろ私達が着いて行って――」

 

「落ち着け、三日月……っ!如月も、卯月も笑ってないで何か言えっ!!」

 

少し沈みかけていた空気が、一気に活気を取り戻す。三日月と菊月()を中心に、がやがやと笑いが生まれる。この気遣いこそ如月の本領。本領ではあるのだが……

 

「………」

 

会話の中、無言でちらりと如月を盗み見る。笑顔に染まった顔。姉妹達で過ごすこの時間を心から好いているように見える。しかし、その瞳の中には何かの不安を抱えているようだった。




いざドイツ。
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