私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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昨日の。
次は演習かな。


遠く遠く、その五

ビスマルクに連れられて、鎮守府の内部を歩く。およそ俺達の鎮守府と同じぐらいの広さの此処だが、その佇まいも内装も至る所に違いが見える。

 

「……ふむ。これは凄いな……」

 

小綺麗に整えられた内装、柔らかな絨毯。廊下の所々に備えられた窓の枠すらもお洒落に整えられている。こんな小さなところを取っても、我々の鎮守府とは大違いだ。華美であることが良いことでも無いし、個人的にはやはり俺達の鎮守府の方が好みではあるが、偶にはこんなのも良いだろう。そうやってホテルのような廊下を歩いていると、廊下の終点の両開きの扉へと辿り着いた。この造りだけは、我々の鎮守府でも見たことがある。即ち――提督の執務室だ。

 

「よし、着いたわよ。ちょっと待っててね――Admiral!『お客さん』を連れてきたわよ!」

 

『おお、そうか。良し、彼女達を通してくれたまえ』

 

ビスマルクの発した声に対して、上品な扉の向こうから聞こえてきたのはよく通る男性の声。ビスマルクが扉を開く。軋みながら開いてゆく扉の向こう側には、初見の(見慣れた)艦娘が四人と一人の若い男が居た。口元には、浅い笑みを湛えている。男が口を開いた。

 

「やあ、遠いところをよく来てくれた。私がこの基地の指揮を執っている提督だ。君達の訪問に、此処に在籍する全ての艦娘に代わり礼と歓迎の意を表そう」

 

「歓迎をありがとう、異国の提督よ。私が今回の艦隊の指揮を兼任する旗艦、戦艦『武蔵』だ。詳しい編成や情報・装備は資料に記載されているだろうが、此処でも仲間を紹介させて貰う。私の隣、左から加賀、熊野、菊月、そして伊8だ」

 

武蔵に名を呼ばれる者から、順に軽く頭を下げて礼をする。それが一通り終わると眼前の提督は少し頷き、自分の斜め前に並んだ艦娘たちをちらりと見て口を開いた。

 

「ふむ。誰も彼も、一度は名を聞いたことのある艦娘だ。君達と、そして君達を送り出してくれた日本の提督にも改めて礼を。そして、君達だけに名乗らせたままだと言うのもいけないな。ビスマルクは名乗り終わっているだろうから――Prinz、君から順に挨拶を」

 

「了解、提督(Admiral)!さて、Guten――じゃなくて、コンニチワ!私は重巡、『プリンツ・オイゲン』!そして、この隣の二人が――」

 

「ボクだね。ボクの名前は『レーベレヒト・マース』。レーベで良いよ、日本の仲間たち」

 

「――私は、『マックス・シュルツ』。レーベもだけれど、駆逐艦よ。よろしくお願いするわ」

 

プリンツ・オイゲンに続いて自己紹介をしたのは、Z1(レーベ)Z3(マックス)。プリンツも合わせて、三人ともが記憶にある通りの声と性格をしているようだ。特に、今の菊月()ならばレーベとマックスとは仲良くやれそうだ、と感じる。

 

「私は、U-511です。ユー、って呼んでくだされば、嬉しいです。よろしくお願いします」

 

そして、最後に頭を下げたのはU-511(ゆーちゃん)。やはりと言うべきか当たり前と言うべきか、その姿は改装後のものではない。少しだけ安堵すると同時に、そこからゆーちゃんの……ひいては艦隊の練度も自ずと分かってしまう。成る程、確かに彼女達に対しての俺達であれば、演習相手として丁度良いだろう。

 

「ここに並ぶ五人が、我が基地の誇る第一艦隊と言うわけだ。如何に君達が数多くの戦いを潜り抜けてきた猛者揃いだとしても、そう簡単には君達にも劣らぬ者揃いだと思っているよ」

 

提督の言葉に、艦娘達が揃って胸を張る。その光景に、武蔵はぐっと笑みを深めた。その笑顔のまま、楽しげに口を開く。

 

「そうか、それは頼もしいな。今は我々も、深海棲艦に対して肩を並べ戦う者同士。彼女達が強く、そしてその者達と演習を重ねられるというのであれば何よりだ」

 

武蔵と提督が一歩ずつ歩み寄り、そして握手を交わす。数瞬ののちに離れると、提督は口元にだけ笑顔を浮かべて話し出した。

 

「良し、これで一通りの顔合わせも済んだな。君達については、明日の朝にもう一度全艦の前で紹介させて貰うぞ。あと必要なことは――書類の処理だけか。なら、その役目は私に任せてもらおう。その代わり、君達には早速任務に就いて貰おうと思うのだが、構わないか?」

 

提督の言葉に、思わず隣のハチと顔を見合わせる。熊野も加賀と視線を交わしているあたり、いきなり任務というのは良くある話では無いらしい。だが、それも直ぐに収まる。眼前の提督と周囲の艦娘達、それらの放つ雰囲気が一変したからだ。それも、好戦的なものに。先程から浮かべたままの笑みをさらに深めた武蔵が、

 

「――ふむ。まあ、今は貴官の指揮下に入っている身だ。命令とあれば我ら艦隊は断るつもりは無いが、何分急な話だ。我々に何をさせたいのかは話してくれよ、提督?」

 

「大したことではないさ。君達には明日から演習の任務に就いて貰うのだが、その前に実力を見ておきたいというのは当たり前のことだろう?君達さえ良ければ、是非一戦お願いしたいと考えてな」

 

四方から向けられる闘志。菊月()自身はあまり演習に参加した経験は無いが、それでもこうして向けられる、殺気では無い純粋な闘志は身に受けて心地よいと感じている。そして、こんな歓迎を受けて大人しくしていられる艦娘は俺達の中には存在しない。

 

「よく言った、異国の提督とその艦娘達よ。だが、我々を過小評価し過ぎていやしないか?その勘違いを、まずは知らしめてやることにしよう」

 

武蔵の言葉に、一斉に闘志を漲らせる遠征艦隊の面々。来て早々の運動にはなってしまうが、まあ準備体操には丁度いいだろう。そう考えながら、菊月()は口元の笑みを釣り上げたのだった。




あ、オリジナルは出ません。
「見たこと無い艦娘と演習した」ぐらいの軽い描写ぐらいはあるかも知れませんが、未実装の艦娘について詳細に触れることは無いです。

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