「……で?」
服の裾を握りしめながら、身体を震わせて皆へ抗議する。顔はおそらく真っ赤で、心臓は羞恥でばくばくと鳴っている。どんどんと熱くなってゆく顔と比例するように、にんまりと歪んでゆく皆の顔。さっき捻り出した一言も、声が震えていた。
「似合っているわよ、菊月」
「ああ、全くだ。そのまま攫って行きたいほどだな」
「……加賀、武蔵っ!黙れ……っ!」
ぶん、と振り抜いた腕が軽々と武蔵に止められ、逆に身体を持ち上げられる。すとん、と座った先は武蔵の肩の上で、所謂肩車をされている形になってしまった。更に顔が赤く熱くなる。それを見て――周囲の通行人達の顔が幸せそうに綻ぶ。そう、
「……なっ!な、なんなのさ……っ!」
「いやあ、なんなのさも何も無いだろう?その服が羨ましいぞ、菊月」
「私は、お前たちのようなパンツルックが良いと言った筈だ……!それがどうして、着てきた服まで取り上げられる羽目になるっ!」
「それは加賀と熊野に聞いてくれ」
「――やりました」
眼下の武蔵、そしてちらりと横を見るとそこにいる満足げな加賀はどちらもパンツルックにジャケットという出で立ち。元々クールな二人が着ているだけに、立ち姿は視線を引きつけるものがある。実際、先ずは武蔵と加賀に視線が集中し、そこから
「おい、U-511っ!……お前は、なんとも無いのか……!」
「私は、この服好きかなって。そういえばいままで着たことが無かったし、折角加賀さんが選んでくれた服ですし」
加賀と手を繋ぐU-511も、俺と同じディアンドルに全身を包んでいる。銀髪のU-511と白髪の
「あらあら、アイドルをしているのならこのぐらいで堪えてはいけませんわよ?ほら、笑顔を振りまきなさいな菊月」
「……熊野、誰のせいだと思って――」
「アイドル?あの、それは歌って踊るアイドルって?」
何故か得意げにまくしたてる熊野は、お淑やかなワンピース風の服を着ている。こちらも、どちらかと言えばガーリーなタイプではなく大人っぽい服装。しかし、胸を張る熊野の表情が子供っぽさを醸し出してしまっている。
「ええ、そうですわ。ほら、良い機会ですから見せてあげても良いんではないですの?わたくしも、あの夏祭りでちらっと見た限りですから恋しくなっていますわ」
「やらん!……U-511も、そんな目で私を見るな……!」
必死に暴れるが、武蔵にがっちりと脚を掴まれて逃れることが出来ない。それ以上はどうしようもなく、そのまま彼女の頭にしがみついて顔を垂れる。どうしてこうなったと恥ずかしがる『菊月』と、あまりの菊月の可愛さにショートした『俺』。思惑は真逆だが、俺達は同時にこれまでの経緯を思い返すのだった。
―――――――――――――――――――――――
晴天、涼風。雲はなく、外出には最適の気候。U-511と、何故かついて来たプリンツ・オイゲンに先導され鎮守府から出た
「本当は、私は行かないつもりだったんだけどね。ちょうど買いたいものもあったから、ついでに乗せてってあげるわよ。まずは買い物、服と小物を見るので良かったわね?」
その言葉に、
「……買い物?私が聞いた話では、今日は皆で食事という話だったのだがな……」
「本当はそう考えてたんですけど、ハチさんがやっぱり買い物は要るだろうって。私もそうかなって思ったので、変えました。駄目、でしたか?」
「……いや、単に気になっただけだ。私としても、此方の服には興味がある。姉妹達への土産としても、丁度いいだろうしな……」
「なら、良かったかなって」
にっこりと微笑むU-511を見て、警戒するだけ無駄だろうと諦める。それよりも、明日からの任務に備えて精一杯息を抜くべきだろう。幸いにして今回も、U-511に対しては提督からカンパが出ているらしい。提督とはどこでも艦娘に財布を握られる運命にあるのかと呆れたのは横に置いておけば、存分に楽しんでも罰は当たらないだろう。
「…………」
「ん、どうかした菊月?」
「……いや」
……まあ、おそらくU-511のプランにショッピングをねじ込んだであろうハチには要注意だが。視線を動かすと、本人はいつもの表情のまま頷いた。肩を竦め、車の側で暇を潰していたプリンツへ目を向ける。カジュアルな服装に、どちらかといえば派手めなスカート。新鮮だが、それが彼女にはよく似合っていた。
「……行くか。プリンツ、宜しく頼むぞ……」
「任せて、これでも運転には自信があるの!」
一つため息を吐き、プリンツが用意した車に乗り込む。黒い塗装の眩しい、言わずと知れた高級車だった。どるん、とエンジンが掛かる。静かな振動をはじめに、車は走りだしたのだった。
「はい、着いたわよ。ここで良かったのよね?」
「ありがとうございます、プリンツ。ここで良かったです」
「そう。帰りは要らないの、よね?本当にいいの、今なら迎えに来れるわよ?買い物の後に歩いて帰るのってしんどくないの?」
「それについては、大丈夫かなって。プリンツとは買い物とご飯で時間が違うので、ビスマルクが迎えに来てくれるそうです」
その言葉に、成る程と納得し走り去るプリンツ。U-511と二、三言交わしたあとは此方へ視線を飛ばし挨拶してゆくあたり、中々に律儀な艦娘であると思う。
「さて、では入りましょうか。流石に、少し高揚します」
「あら、加賀はショッピングが好みでしたの。なら、機会があれば日本に戻った後もわたくしと出かけませんこと?わたくしが其方へ出向くことがあれは、になってしまいますが」
加賀と熊野が話に華を咲かせている間に、武蔵に先導され店内に入る。ぐるりと見回し、目に入るのは落ち着いた配色の店内装飾。華美ではないにも関わらず洒落っ気を表している分、センスの良さが光っている。そしてそれは飾られている沢山の服も同じで、派手さではない美しさを秘めた物が多い。『菊月』の気に入りそうなものばかりだ。
「ありがたいわ。私は、あまりこういうのは得意ではないから。――でも、今日はそれじゃない。そうね?」
「ええ、万事承知しておりますわ」
背後で会話する二人、どうやらひと段落ついたようだと判断し声を掛けようと思ったところで――
がしっ。
熊野に、思い切り腕を掴まれた。
「……どうした?」
「いえ?単に、事前に立てておいた作戦を決行するだけですわ。ドイツの様々な服飾の中でも最も有名で、そして可憐な民族衣装――加賀っ!」
その言葉に、ばっと振り向く。
「……くうっ!しかし、この菊月この程度で――うわあっ!?」
「
「止めろ、引き摺るな!……持ち上げるな……!」
抵抗虚しく、試着室に放り込まれる。そのまま踏み入ってきた熊野に、力尽くで服を剥がれる。側から見れば姉と妹か、それとも幼女性愛者か。下着姿になった
「うう……っ!」
鏡を見る。そこには、質素かつ可憐な衣装に身を包んだ、天使の如き
「うーん。はっちゃん、菊月には似合ってると思うな。提督指定水着と同じぐらい」
「……求めて、おらぬ……!」
こうして
菊月にディアンドルは絶対似合う。