菊月可愛い。
昼下がりのカフェ。俺達六人の前にはそれぞれグラスやコーヒーカップが置かれている。ディアンドル姿で町を
「……ふむ。ならば、この店はビスマルクのお勧めだという訳か……」
「はい、何度かみんなで来たことがあります。ここなら皆さんにも気に入って貰えるかな、って」
「そうね。確かにこのコーヒーは美味しいわ」
ずずっ、とホットコーヒーを啜る加賀。その横姿はやはり様になっており、『菊月』が密かな対抗心を燃やした。その心に従うように、眼前の大きなグラスを両手で掴み傾ける。口に流れ込んだココアの甘さが頬を緩ませた。
「美味しいですか、菊月?わたくしにも、一口頂けませんこと」
「……別に構わんぞ……。だが、そうだな。其方の珈琲も一口飲ませてくれ。今ならもう、冷めているだろう……」
テーブルの前に座る熊野とカップを取り替え、両手でこくりと一口飲む。ココアとは違った深い苦味と風味が口の中に広がる。その奥からふわりと生み出される香りを思い切り吸い込み、ふうっと吐き出した。いつの間にか瞑っていた目を開けると、熊野が少し意外そうな顔で俺を見ている。
「あら。驚きましたわ、コーヒーは飲めたのですわね。てっきり苦いものは不得手なのかと思っておりましたわ」
「……飲めぬ訳では無い。ただ、甘いものが好きなだけだ……」
憮然としてそう告げると、くすくすと含み笑いを漏らす熊野。似合わないですわ、などと言う熊野を睨みつけつつもう一口珈琲を飲む。ごくり、と大きく喉を鳴らしてから、コップを熊野へ突き出した。
「私が何を飲もうが、構わんではないか。ハチもまたココアを飲んでいる……」
「別に、好きなものを好きに飲んでるだけです」
和気藹々、と言った風に俺達はとりとめもない話を繰り広げる。俺達は、自分達の鎮守府や仲間の艦娘のことを。U-511はこのドイツの艦娘やそれを取り巻く環境について。話しつつぼんやりと視線を巡らせると、穏やかに笑みを浮かべている武蔵の手がぴくぴくと動いていることに気がついた。そのまま注視。じっと見つめていると、武蔵の指はとん、たんと机をリズムよく叩き始める。音は小さいが、リズムは聞いたことがある。
「……出撃の際のアレか、それは?」
ぼそりと呟くと、武蔵の手がぴたりと止まる。止めた指を暫し彷徨わせる武蔵。結局、そのままばつが悪そうに、今まで机を叩いていた指で頬を掻いた。
「見つかっていたか。恥ずかしいな」
「何?武蔵が何かしていたのかしら、菊月。出撃の際の、というと――あの、私達が出撃の際に流すことが出来る曲のこと?」
「え、え?あの、どういうことかなって」
急に転がり出した話について行けないU-511が、慌てたように話を止める。それもそうかと思い直し、詳しく説明しようか――そう思った時、武蔵が徐に口を開いた。
「ああ、すまんなU-511。私達の国には、我ら艦娘が出撃する際に流す曲があってな。幾つか種類はあるのだが――お前達の国には無いか?」
「あ、えっとあります。けど、あんまり誰も流さないし、出撃の時に流している時間も無いことも多いし、良くは知らないって」
U-511の言葉に、武蔵は重々しく頷く。腕を組んだ際に胸が押し上げられ、シャツに皺が寄る。それを気にせず、武蔵は続けた。
「そうだな。私達の国でも同じようなものだ、一艦隊単位での出撃で鳴らしていては煩いからな。しかし私はこの歌が好きでな。自然と指が動いてしまう程には、な」
一人で頷いている武蔵につられるように、U-511の頭も上下する。
「この歌に限らず、歌ならなんでも好きだ。だが、特に好きなのがこれでな。――それで、だ。ウチでは必ずこの歌が鳴らされる時があるんだ、U-511」
「必ず、ですか?」
「ああ。それは、『連合艦隊』が出撃する時だ。それも、鎮守府を挙げての総力、大連合艦隊がな」
ふう、と息を吐きながら武蔵は続ける。しかし、歌が好きだとは。こいつもアイドルに誘ってみれば、意外な活躍を見せるかも知れない。そんなことを考えつつ、続きを聞く。
「まあ、なんてことはない。私の好きな歌がそれだったというだけだ。――済まない、私の癖のせいで話を逸らした。もとの話を続けてくれ」
饒舌に、と言うよりも楽しげに語り過ぎたことに気がついたのか話を止め、椅子に深く座り直しながらカップを啜った。その横で、目を輝かせたU-511が武蔵にまとわりつく。
「武蔵さん、武蔵さん!今度、その歌を教えて欲しいと思うんです。駄目、ですか?」
「いや、うむ。駄目ではないが、私は音楽が苦手でな。うーむ、それでも良いならば構わないぞ」
どんどんと進んで行く話に狼狽する武蔵。僅かながら眉を下げ、うろたえながらU-511を相手にするそのさまを見て頬を緩める。ちらりと横を覗き見ると、武蔵の前に座る加賀もその横のハチも同じ様に笑っている。
「……お前達は、全く。とりあえず、菊月。お前はこの後もそのまま曳き回してやるからな、覚悟しておけ」
「……済まんな、武蔵。もう慣れた。何なら、私とU-511の二人を肩車してくれても構わんぞ……?」
切り返すと、武蔵は顔だけ苛立たしげに背け机をとんとんと叩き出す。そのリズムも、やはりよく知ったものだった。
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カフェを出て、ぶらぶらと歩きながら数時間。天候は変わらず晴れていて、時折吹く風が心地よい。今も、優しく流れてきた風がふわりと
「ふふ、済まないな……加賀、ハチ。だが、お陰で良い土産を買うことが出来た……」
両手に持つ買い物袋を丁寧に運びながら、『菊月』の嬉しさを表現するようにくるりとステップ。再度、ディアンドルの裾がひらりと舞った。その
「喜んでくれて何より。流石に食べ物は帰る前に買わなくちゃ駄目だけど、服とか小物は何時でも買って置いておけるから。どう、その置き時計?はっちゃん、センスは良いと思んだけど」
「ああ、これか。……確かに、見れば見るほど奥深いデザインだ。小さく彫られた意匠や、木の手触り。如月など、喜ぶだろうな」
「私の買ったこの人形も、良い造形をしていると思います。赤城さん、可愛いものが好きだから。気に入ってくれると良いのだけれど。それにしても、伊8には感謝が必要ね」
「その分、加賀と菊月には服を見てもらったからね。いやー、最近ずっと水着しか着てなかったから。はっちゃん、服の流行りにはついて行けなくて。助かったよ、danke」
代わりに、
「二手に分かれての買い物だったが……まあ、よかったな。姉妹たちの、全てのディアンドルとリボンを買えたのは、良かった。……向こうも向こうで楽しんでいるだろうか」
「そうね。――あの様子を見る限り、満喫は出来たのではなくて?」
曲がり角を曲がり、指定された駐車場を視界に入れる。そこには車を出してくれたビスマルクと、買い物袋を存分に抱えた三人が居る。買い物袋を一番多く提げているのは熊野。大きさを見る限り、やはり服や小物といった買い物が多いようだ。土産はそのうち半分程度だろうか。
「あ、加賀さんとはっちゃんと菊月!おーい、こっちですって!」
此方に気づいてぶんぶんと手を振るU-511に誘導され、ビスマルクの車へと近づいてゆく。ビスマルクの乗る車はプリンツのものと同じく黒い色をしているが、それよりも更に大型だ。流石は戦艦と言うべきなのだろうか。
「あら、遅かったじゃない――って、時間にはぴったりなのね。なら、こっちが早かっただけかしら?ま、流石は日本の艦娘ってとこかしら」
「うむ、これで全員揃ったようだな。済まないなビスマルク、態々出迎えをさせて。面倒だっただろうに」
「構わないわ。あなた達のお出迎えってことでAdmiralに午後からは休暇も貰ってるし、ゆっくり景色を見ながらドライブできたし」
「そうか。なら良かった。――よし、みんな今から帰るぞ。荷台に荷物を載せろ、壊れやすいものを買った者はそれだけ手で持っておけよ!」
武蔵の言葉に従い、わいわいと荷台へ群がる皆の中からするりと抜けてビスマルクの元へと歩み寄る。不思議そうに此方を見るビスマルクに一つの包みを差し出す。
「あら、菊月?どうしたの、これ」
「……迎えに来てくれる、と聞いていたのでな。何もお前に無いというのも悪いだろう?……日本製のものでなくて悪いが、扇子だ。良いものを、見つけたのでな……」
「センス!?センスというと、オウギの仲間ね?ありがとう菊月、嬉しいわ!日本のものはあまり持っていないから、よく分からなくて買って無かったの!日本の艦娘が選んでくれたのなら間違いないわ、大事にするわね!」
「……う、うむ。喜んでくれて、嬉しい……で、ではな!」
くるくると回って喜ぶビスマルクから走り離れ、荷台に荷物を積み込み後部座席へ乗り込む。扉が閉められ、車がゆっくりと走り出した。直ぐにスピードを上げる車に揺られながら、
挿絵様と支援絵様のご報告です!!
いつも描いて下さっている篠生茉莉様より、熊野がル級にパンチを入れるシーン!
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=51098068
そして、darkend様より浴衣の菊月(偽)です!
ttp://seiga.nicovideo.jp/seiga/im5005503
皆様、もう僕の更新なんて良いのでこちらへどうぞ!!
追記。
遠く遠く、その十には挿絵を挟ませて頂いてます!