U-511を共とした買い物の翌日。存分に休暇を満喫すれば、次は艦娘の本分である訓練と出撃へ力を入れるのは当然のことであり、昨日の帰りの車の中でもそのような話になっていた。武蔵は朝から第二艦隊以下の戦艦の訓練に出ているし、加賀は空母娘への直々の指導。残りの仲間もめいめいに己の仕事を果たしている。
「……ふむ。これは……」
そして俺は、船渠の入り口でビスマルク達第一艦隊を待っていた。既に艤装も身につけ、今すぐにでも海に出られる状態である。少しだけ付着していた砲身の汚れを拭き取りつつ時間を潰す。集合の五分前になって、ビスマルク達は揃って扉を開けてやってきた。そのまま艤装を身につけ、
「……時間通りか。よし、それでは訓練を――」
「あの、ちょっと良い?」
おもむろに、ビスマルクが口を開く。疑問になるどころか殆ど喋ってすらいない、首を傾げながら続きを促す。ビスマルクは、一言ありがとうと言ってから話し出した。
「ごめんね、折角準備してくれてたのに。それでも、どうしても気になることがあるのよ。――外、雨よ?それも、小雨なんかじゃなく暴風雨」
ビスマルクの指が窓を指す。それに従うように目線を動かし、そしてまたビスマルクへ視線を戻す。空は真っ黒、窓はがんがんと音を立てている。うむ、と言わんばかりに
「……そうだな。では、訓練を――」
「ちょっと!?ちょっと菊月!暴風雨だって言ってるのよ!?」
「……済まない、ビスマルク。お前が何を言わんとしているのか、私には分からぬ……」
いや、実際には分かっているのだが。こんな悪天候の中で訓練するなど、最初は誰でも正気を疑うものだ。しかし、
「……うむ。行くぞ、訓練開始だ……!」
しこたま雨に濡れ、『菊月』がはしゃぎだす。子供のようだとは思わない、何故なら『俺』もまた楽しくなって来たからだ。何故か固まっているビスマルク達を置いて、
「――あーもう!!日本の艦娘はどうかしてるわ!」
「ちょ、ビスマルク姉さま!?うぅぅ〜、分かった、行くわよみんな!」
背後から、ばしゃんと何かが着水した音が複数聞こえた。振り向かず、ハンドサインで艦隊の先頭をビスマルクに指定する。そのまま隊列を組み替え、俺は最後尾へ。訓練メニューを叫びつつ、俺達は真っ黒な海へと乗り出した。
「……」
それから数時間。横殴りの風が
「ねえ、菊月!?ホントにこんな天気でまだ訓練するの!?ねえ、ちょっと聞いてるの――へぶっ」
ビスマルクがわんわんと吠え立てるが、その顔に高波が直撃し黙り込む。しかしずぶ濡れになっているのはビスマルクだけではなく、その後ろを行くプリンツ・オイゲンもU-511もレーベもマックスも、そして
「……何を言うかビスマルク、この程度私からすればどうということは無いぞ。むしろ、私の訓練教官などは良い訓練日和だと言い切るだろうな……」
遠い海で今も仲間と戦っているであろう神通の姿を思い浮かべ、くすりと笑みを浮かべる。少し開いた口の中に、雨水が入り込んだ。それを吐き捨てつつ、艦隊へ指示を飛ばす。
「よし、次は不規則に動く目標に――いや待て、あれは……!ビスマルクっ!!」
「見えたわ、菊月!駆逐艦クラスと――軽空母!?マズイわね、全艦備え――って、え?」
黒い波間に確かに見えたのは、数隻の駆逐級と一匹の軽空母の深海棲艦。
「……これは、妙だな。ビスマルク、訓練は中止だ。帰投し、司令官に報告すべきだと思うのだが、どうだ?」
「そうね。ちょっと見逃すには恐ろしいわ。出来るなら、叩いておきたかったのだけれど――へっくしゅん!流石に、この雨じゃ私達も向こうもまともな戦いは出来なかったでしょうね」
ビスマルクがそこまで言った時、海中から沸き立つ泡と共にU-511が現れる。独自に深海棲艦を追いかけていたのだろうが、結果は芳しく無かったようで顔を曇らせている。
「ごめんなさい、追いかけては見たんですけれど。やっぱり駄目でした。すぐに見えなくなってしまって」
「そうか……。嫌に不気味だな、周囲の警戒を厳にせねばなるまい。ともかく、今は帰投だ。ビスマルク、頼む……」
「分かったわ!全艦反転、ペースを維持したまま基地まで帰還するわ!背後と上空、あとは海中の警戒を怠らないでよ!」
一斉に進行方向を逆転させ、基地へ向けて歩みを進める。今の今までは向かい風だったものに、背中を押されながらの帰還。ちらりと振り向いた視界いっぱいに移る嵐の海が、どうにも
徐々に戦闘が増えて行きますかね。