私が菊月(偽)だ。   作:ディム

147 / 276
今日の分。

細かく細かく書き込もうと思って、細かい描写に力を入れてみたりしました。
それはともかく菊月可愛い。


遠征一行ドイツ在駐、その八

揺れる波に、霧のような小雨。

一足一足に力を込めて、不安定に揺れる海を踏みしめて駆ける。一歩踏み出すたびに、艤装と刀の重みで足が軋む。むしろ反動をつけられる、頼りになるそれらの重さを感じながら更に一歩踏み出した。途端、眼前の海が俄かに盛り上がる。これは――新たな敵だ。

 

「――ハチ!」

 

「知ってる!」

 

僅かなコンタクト。視線と言葉を一つずつ交わすだけで意思は伝わる。いきなり至近距離に現れた敵艦は駆逐ニ級が三、そのどれもが、大口を開けて鈍い牙と迫り出した砲塔を此方へ向けている。

間髪入れずに、それらへ向けて意思を固めぐっと足に力を入れる。形の無い敵意が艤装に伝わり、がちりという鈍い音と共に魚雷を四発放とうとし――

 

「……ちいっ、面倒なっ!」

 

雷撃より先に敢行された敵の砲撃が、菊月()へと迫る。腰に提げるふた振りの刀で斬り落とすには時間が足りない。真横に跳ぼうとも、その最中で別の砲弾に突っ込む結果となるだろう。判断は一瞬、菊月()は足に込めた力をそのままに真上に跳躍した。

 

「回避成功……!さあ、これならどうだ……!」

 

足先をまっすぐに通り過ぎてゆく砲弾を見送り、そのまま空中で再度艤装に力を入れ込める。ぶしゅう、という音と共に発射された無骨な酸素魚雷が海中へ突き刺さり、そのまままっすぐに敵へ接近した。着水と同時に、爆発。魚雷に込められた炸薬が膨れ上がり、薄暗い海の上に三つの明かりを生み出す。同時にやってきた熱風が一瞬、鬱陶しい小雨を吹き飛ばした。

 

「……仕留めた?いや、これは――!」

 

ハチの姿が見えない。行動を一瞬で決め、吹き上がる爆炎の中へ向けて単装砲を乱射する。おそらく海面へ突き刺さり、飛沫を跳ね回らせているであろう弾の行方を見ることなく撃つ。追加の爆発はなく、疑問を抱いた瞬間。

 

「……っ!?ぐ、ちいっ!」

 

その隙を突いたかのように、煙の中から数発の弾丸が放たれた。何発かは外れ、菊月()のまわりの海へと減り込み小さな水柱を立てた。残りは腕やふとももを命中し、それぞれ血が噴出する。更に放たれる砲弾。咄嗟に手に持つ単装砲で身体を守り、そのままそれを捨て真横に跳躍。一瞬後に、弾薬に引火した単装砲が炎に包まれて海中へ没するのが見えた。顔を前に向けて、バックステップを二回。十分な距離を取ったのち、『護月』と『月光』を抜き放つ。そんな菊月()の真横に、ハチか浮上してきた。

 

「っ、ごめん菊月!浮上する前に幾つか沈めてやったんだけど、何体かそっちへ――って、怪我っ。ごめん、単装砲まで!」

 

「まだ武器はある、私としては事前に沈めてくれた方に感謝したいのだがな。そして、肝心の敵は……っ!なんだとっ!?ハチ!」

 

「え?――わぁっ!!く、ありがと菊月」

 

ハチへ向けて放たれる幾多の砲弾。身体を縮こませてせめてもの防御体勢をとるハチの前に躍り出て、刀を振るう。一発目は、左手の『護月』を袈裟斬りにし斬り落とす。二発目も手首を返し『護月』を斬り上げ両断。憎々しげに前を見ると、砲弾を放った深海棲艦――同じく三体の、軽巡ツ級を視界に捉えた。

その瞬間、遅れて迫り来る残る砲弾が俺の視界を埋める。

三発目は右手の『月光』で。ほぼ同時に飛来した四発目と五発目は、両手で同時に処理する。菊月()の両脇に流れていったそれらが、ぱっと開きオレンジ色の光と熱を生み出した。爆発に煽られ、風が菊月()の小柄な身体を打ち据える。

そこで体勢が崩れ、残る一発をわき腹に食らった。斬り飛ばした反動と被弾の反動で、ぐらりと身体が交代する。ぴとり、と背中にハチの感触を感じた。ふにょん、という明らかに柔らかく盛り上がった箇所の感触も。密かに、『俺』はガッツポーズ。まだまだ余裕はある。

 

「う、またはっちゃんのせいで!――いや、違うね。冷静になるよ。ミスは働きで返す、潜航するよ!」

 

「ああ、任せたぞハチ。……?通信……」

 

背後のウェストポーチに架けた無線機が、ぴろぴろと情けない音を立てる。そのままスイッチだけを入れ、砲弾を斬り落としつつ応答する。通信機の向こう側に居たのは加賀だった。

 

『菊月っ、そちらはどう?』

 

「あまり芳しくない。現在は、軽巡ツ級を相手にしている。数は三体。新たな深海棲艦が更に現れるかも知れぬ、早期の合流は不可能そうだ」

 

『そう。鈍っている――と言いたいところなのだけれど、此方も同じだわ。ル級が三体、その内一匹は旗艦(flagship)。その後ろにはレ級よ』

 

「……ふっ。お互い、沈まぬようにな。こいつらを斬り捨て次第、合流しよう……」

 

『其方へ援軍を送れない、と言うつもりだったのだけれど。全く、減らず口ね。――気をつけて』

 

ぶちり、という音とともにスピーカーから流れ出る音は小うるさいノイズへと変じる。電源を切る暇も惜しく、そのまま放置。此方もあちらもお互いに苦戦しているようだ。戦況や深海棲艦の種類に思うところはあるが……それら全てを思考の外へ投げ置く。

 

「…………っ」

 

軽巡ツ級三体の放った、容赦の無い砲撃が菊月()へと集中する。態々一箇所を狙って来てくれているのだから軽く左右にステップすれば避けられる――だが、菊月()はそれを全て真正面から斬り伏せる。両手の刀で一発ずつ、残る一発を回し蹴り。全て弾き飛ばし、一瞬だけ目を瞑った。

 

「…………ふう。さあ、」

 

弱い相手や艦娘ばかり相手にしていたせいで、どうも鈍っていたかも知れない。『俺』が『菊月』に、『菊月』が『俺』に喝を入れる。そうして二人で、眼前のこいつらならば肩慣らしに丁度いいと嘯いて見せた。

 

目を開く。

 

「……沈め、深海棲艦……!」

 

一息で言葉を吐き出し、両足に力を込め、一気に跳躍。暗い海を照らす燐光(キラキラ)と燃え盛る深紅の気焔(オーラ)が、踏み出した足の震えと同時にぱっと舞った。




あ、そういえば艦これRPGのルルブ買いました。
プレイ目的じゃなくて、これを書くための資料として、ですけれど。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。