書きたいものを書く。それが我が文道。
何事もなく帰還し、戦隊の皆と入渠し割り当てられた部屋に戻る。ぼふり、とベッドに腰掛ければそこからじわりと疲れが染み出してきた。そのまま横になりたい欲望をぐっと抑える。
「……はぁ」
大きく溜息。全身の力が抜けて行くような感じがした。予想以上に、疲れが溜まっていたようだ。それも、心因性の。入渠後に行われた提督との会議、そしてその後個人的に伝えた考察と、聞き出した普段のドイツ海域の様子。どれも中々に面倒であると感じてしまう。
「……ツ級にル級、そしてレ級か。私達の任務は、単に教導と哨戒程度の筈だったのだがな……」
もう一度溜息。そのままちらりとベッド脇の机を見れば、ライトに照らされた手書きの紙束が見えた。会議のあとに提督から聞き出したドイツ海域の様子と現在の様子とを照らし合わせて考えた、およそ現在の海域の推定敵戦力を弾き出したもの。『俺』のものとはまるで違う小さくて几帳面な字は、
「……戦力が、足りぬ……」
菊月の文字が書き連ねられたそれを見て、軽く頭を抱える。事前に聞いていた戦力だけにしか対応出来ないように教導するつもりなど元から無かった。やるからには徹底的に、ドイツ側からはたまにしか現れないと聞いていたル級を苦戦せず沈められるように、というのが武蔵の目標だった筈。しかし、相手がレ級となると話が違う。ル級三体の援護があったとはいえ、今の武蔵を大破にまで追い込む程の難敵だ。確実に仕留めようと思えば、それこそ昔の
「……数は、そう多くないとは思うのだがな……。だが、恐らくはレ級よりも……」
そう。そして何よりも厄介なことは、恐らくそれら深海棲艦を指揮するだけの何かが存在しているということだ。少なくとも、深海棲艦を――それも、戦艦レ級を撤退させることの出来る何かが。
「……とりあえず、今出来ることは無いな。来たる戦闘に備えて、身体を休め皆と実力を高め合う。そして、日々の出撃で可能な限り敵を撃滅する……。ふ、何時も通りか……」
手に取っていた紙束を机の上に再度投げ捨て、ぼふんとベッドに飛び込んだ。そのまま目を瞑り、染み出す疲れのままに眠りに就こうと、身体を休め息を吐き出し――
「…………眠れん」
むくり、と身体を起こす。しばらく静かにしていたものの、もやもやと胸中で渦巻くものが残っている。思い返せば今回の戦闘は、全て不完全燃焼だったような気がする。最初の軽巡ホ級も、二戦目の逃げるツ級も、結局良いところはハチが持っていった。これで決めた、自分が沈めたというある種の爽快感、それが無かったゆえの今のこともやもやなのだろう。
「……む。これは……」
仲間に対して苛立ちを覚えている訳では、決してない。簡単に言えば、身体を動かし足りないだけ。溜めたフラストレーションを解放出来なかったというだけだ。深く考え込む……ふりをして、『菊月』に問いかける。
――愛でても、いいか。
それに対する返答は、およそ呆れのような感情。悪感情ではなく、むしろ照れが混じってはいるようだが許可は下りた。瞑っていた目を開く。
「……ふっふっふ……久しく我慢していたからな!今宵は楽しませて貰うぞ!」
言うや否や、全身の服を脱ぎ捨て下着になる。ちらりと鏡に映るその姿に一気に赤面するが、止まらない。止まれない。右手を持参した大きな鞄に突っ込み、引きずり出したのは――
「ふむ、これはゴスロリか。良いな、良い……!」
ばばっ、と身につけ、今度は鏡の真正面へ。そこには、真っ黒なゴシック・ロリータに身を包んだ人形のように美しい菊月が映っていた。現実味のないあまりの美しさに、頭がぼーっとする。慌ててかぶりを振れば、それに合わせて鏡の中の菊月も悶える。ごくり、と息を呑み、そのまま鏡の前で華麗にターン。ふわりと舞い上がったスカートから、菊月の白い足がちらりと見えた。
「ふむ、ふむふむ……!なら次だ!」
鏡の前からステップし、次いでゴスロリを脱ぎ去る。しゃらりと晒された肌に触れる空気がくすぐったいが、それを感じつつ更に新たな服を引っ張り出す。
「巫女、だな。ふふふ、良い……!」
ばさりと羽織り、前を止め袴を履く。鏡の前に躍り出ると、案の定美しい菊月がそこにいた。ゴスロリが少女としての美を醸し出しているとすれば、巫女は静謐な美しさとでも言うべきだろうか?しん、と静まり返った部屋の中で、ぴたりと菊月と目を合わせる。かわいい。
「今日の私は止まらぬぞ……!次だ!」
勢いよく上下を脱ぎ放り投げれば、服はばさりと宙を舞う。その中を下着姿で駆け、次に引っ張り出したのは『浴衣』。夏祭りで着たものを、密かに運び込んでおいたのだ。流石は『俺』だと褒めたい。
「おお、これは……!」
急いで身に纏い、乱雑に帯を巻く。一人ではこんなものかと思い鏡の前に出れば、その乱雑さが返って魅力を湧き立たせていた。はだけかけた胸元からちらりと覗く白い肌、同じく帯より下、裾の部分からは不出来な着付けのせいで生まれてしまう隙間から白い足がすらりと覗いている。一言で言えば『匂い立つような色気』。幼さと色香の混ざり合った姿に、『俺』はもうメロメロだ。髪を結い上げていたならばもっと色気が、と考えているとどこからか『菊月』の溜息が聞こえた気もするが俺は躊躇わない。
「ふふふ、もう残り少ないか……!」
残念だ、とは口に出さない。それよりも、帰ったら密かに長月と買い物に行こうかと考える。あれは、あんな顔をしていて意外にこういう『
「……これは違うな。うむ、流石に那珂ちゃんとの絆の印で遊ぶ訳にはいかない。なら……っ!?こ、これは……!」
アイドル衣装を横に置き、更に発掘したのは水着だった。それも、一番最初に雑誌の撮影で使った黒いビキニとパレオの水着。流石にマズい、これを着るわけにはいかないと思い丁寧に仕舞い込む。そうして最後にもう一度鞄の中を漁るため、一度大きく伸びをして――
「その、菊月?今日の出撃で怪我をしたって聞いたけど――え?」
がちゃり。
そんな音と共に扉を開けて入ってきたのはレーベレヒト・マース。良く戦術のことを聞きに来てくれる彼女には『ノックは不要』と伝えているからか、今日もそのまま入ってきたようたま。言葉を聞くに、態々心配して来てくれたのだろう。
しかしその瞳は今や大きく見開かれ顔は真っ赤になっている。それもそのはず、何故なら今の彼女の目の前に居るのは下着姿で大きく伸びをしている
「あ、え、う!ご、ごめん!僕はこんな――ひゃっ!?」
逃げ出そうとしたレーベの腕を掴み、そのまま部屋に引きずり込み鍵を閉め、レーベをベッドへ押し倒す。ちょうど良い。
「あ、あ、あの、菊月?その、あの!」
「……レーベ」
「っあぅっ!?」
耳元に口を近づけ、囁くように名前を呼ぶ。『俺』の悪乗りだが、『菊月』もまあ容認してくれている。それに『菊月』も、異国の制服には興味があるようだ。
「……お前の服を貸せ……」
「っ、――え?」
……結局。この夜、俺の部屋の電気が消えたのは夜遅く。『俺』と『菊月』は満足し、レーベは『
少し本気を出してしまった。
後悔はしていない。