私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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遅刻ですね。もっと頑張らないと。


逆巻く嵐、その一

踏み込むと同時に振りかぶった一刀を、切っ先を横に振るわれる飛行場姫の一閃に防がれる。同時に感じる衝撃、身体が吹き飛ばされる前兆。俺達艦娘とは比べ物にならないその膂力が、背中へと突き抜ける。身体の奥で、がつんと音がした。

 

「……ぐ、うっ!!」

 

「……フフ、フフフ……!」

 

鈍い鉄の音と同時に弾かれる。くるくると宙を舞いながら、しっかりと左手に握りなおした機銃のトリガーを引く。命中を期待してのものでもなく損害を与える目的でもない、ただ牽制のためにバラ撒いた弾が海面を穿ち小刻みなクレーターを作り出した。長く伸びた砲身から連射される弾が、飛行場姫の足を止める。何十発かの弾が斬り弾かれ、何発かの弾が飛行場姫の身体にめり込んだ。

 

「チイッ、小賢シイ……!」

 

「それならば貴様は鬱陶しいな……!」

 

着水と同時に、右方向へ大きくステップ。素早く刀を仕舞えば、両手に装備するのはそれぞれ単装砲と機銃。飛行場姫から一定の距離をとりつつ、その周囲を回り駆けながら次々に発砲する。口径の違う幾つもの弾丸が敵へと降り注いだ。

 

「このまま沈めて……チッ、そんな筈も無いか……!」

 

弾丸をその身に受けた飛行場姫が、苛立ち混じりに足で海面を踏み鳴らす。同時に彼奴の前に現れる錆鉄の盾、脳裏にひらめく悪寒――不味い。艤装のマウントもそこそこに全力でバックステップ。海面下から飛行場姫が蘇らせた、いくつもの錆鉄の槍が菊月()を掠める。舌打ちをした。そのまま距離を稼ぎ続け、武蔵達と離される。ちらり、と向こうを見た。

 

「……余裕がないどころか、押されているだと?……あれは」

 

『菊月』の視線を通して、菊月(俺達)は見た。

遥かに離れてしまった戦場で、等級も知れぬ数多くの雑魚と装甲空母鬼、そして傷だらけのレ級を相手に奮闘する仲間を。

菊月(俺達)は見た。黄金色の憎しみに包まれた装甲空母姫の身体が仲間の砲撃で抉られるところを。

菊月(俺達)は見た。その傷口から弾け飛んだ肉や鉄に黄金のオーラが絡みつき、沈んだそれらが新たな深海棲艦となって咆哮を上げるのを。

 

「……出鱈目か、オーラから新たな深海棲艦を生み出すなど……!あれだけの数、四人だけで相手を仕切れるものではない――ぐうっ!?」

 

「私ヲ相手ニ余所見カァ、駆逐艦ッ!!」

 

一撃目のお返しとでも言うように、正面から斬り掛かってくる飛行場姫の一撃を迎撃する。数秒だけ拮抗し、その後容易く押し潰される。その勢いをどうにか往なし、返す刀を一閃する。薄く鋭い一撃と共に、飛行場姫の右腕上腕から青い鮮血が噴き出した。

 

「先ずは……!」

 

「…フ、フフ!!ソレデコソダ、駆逐艦……!」

 

「っ、何度も同じ手を…!」

 

笑いながら傷ついた手で振るう長剣を、間合いの外へ飛び退ることで回避する。菊月()はそのまま再度踏み込み、空いた両手にそれぞれ装備した二刀を叩きつけた。『護月』と『月光』、長さの異なるそれぞれの刀から伝わる衝撃は鉄を殴りつけたようなもの。片方は長剣で、もう片方は鉄の手甲で止められていた。

 

「サア、サア次はドウスル……ッ、グオォオッ!?」

 

「……っ!!」

 

飛行場姫が両手を広げる。それに合わせ思い切り弾かれ、ぐらりと体勢を崩した。好機とばかりに横一文字に薙ぎ払われる長剣。身体の外側から内側へ、軽い袈裟斬りに放たれるそれをすんでのところでしゃがんで回避する。そして、その体勢のまま懐へ潜り込み――発射。背部にマウントした『Wurfgerat 42』が菊月()の意思に反応し、その引き金を反応させる。

 

「……ここで使い切る、全弾持って行け……!」

 

前屈みになれば、『Wurfgerat 42』から放たれる弾頭の向かう先は飛行場姫の顔面、そして上半身。沈めてやる、という明確な意思を秘めて煙と共に噴射されたそれらが、菊月()のほぼ真上、至近距離で爆裂する。次々と放たれる暴力の嵐が、発射の反動で後退し続ける菊月()を飛び抜けて命中し炸裂する。僅か数十秒、その間に全ての残弾を撃ち尽くし爆煙から距離を取る。

 

「……これで、どうだ……!」

 

突撃したいと逸る気持ちをぐっと抑え、煙の中におそらく健在であろう飛行場姫の姿を見極める。果たして、それは正しかった。海面から巻き上がる黒煙のうちから、黄金の光を纏った白い女が現れる。その身体の至る所に刻まれた傷は菊月()の一撃で深まってはいるが、それでもまだ両の足で海を踏み締めている。だらだらと血を流す顔をにやりと歪め此方を見据える飛行場姫に、額から流れ出る血を拭い口を開く。

 

「……手応えは、あったのだがな」

 

「アノ程度、ドウトイウコトハ無イ。貴様コソ鈍ッテイルノデハナイノカ?アノ海ノ、アノ軽巡ト共ニ私ト相対シタ時ノ迫力。アレハ何処ヘ行ッタ」

 

「……」

 

――正直に言えば、測りかねている。眼前の女は、確かに今まで何度も殺しあってきた存在だ。彼奴に対する闘志も、『菊月』を弄ばれた怒りも薄れてはいない。しかし、どうにも可笑しい。一番最初に殺し合った時より、二回目の方が。そしてそれより、更に今。殺意だけでなく、それ以外の何かを獲得しつつあるように感じる眼前の存在を。

 

「……くだらん」

 

「フフ、覚悟ハ決マッタカ?」

 

舌打ちをし、一言吐き捨てる。それは菊月()への――正しくは、『俺』の甘さを斬り捨てるもの。今悩んだところで、飛行場姫を倒さねばならないということに変わりはない。片手に握った『月光』の切っ先を、真っ直ぐに飛行場姫へと向ける。

 

「フフ、フフフ楽シイナアッ!!サア駆逐艦、続キヲ――ッ!?」

 

「……何っ!?」

 

踏み出そうとしたその足を止め、飛び退る……寸前に、艦載機(・・・)から降り注ぐ無慈悲な攻撃を全身に浴びる。機銃の雨が菊月()の身体へと叩きつけられ、数発の魚雷が投下される。攻撃の出処を探すまでもない。これら艦載機は、装甲空母姫より発艦したものだ。

――被弾する。これを受ける訳にはいかない。温存して置きたかったが、仕方がない。全身に力を漲らせ、『艦娘(ふね)が海を進む際の膨大なエネルギー』を足に込め――刹那、眼前を通り過ぎた長剣(・・)が迫り来る魚雷を両断した。

 

「……貴様」

 

「アノ俗物ガ……!私ヲ、私ノ邪魔ヲ!!」

 

飛行場姫の瞳に映るものは憤怒。しかし、その中から憎しみの色は薄れている。深海棲艦という存在からすれば、有り得ないくらい異質なこと。装甲空母姫から目を逸らし、此方へにやりと笑むその瞳も同じ。皮肉でも雑言でもない、確かな『楽しさ』を感じている目がそこにあった。

――嘆息する。温存など、出来る筈もない。

 

「……礼を言う」

 

「構ワン。サア、続キヲ――」

 

「……その前に、だ。名乗らせて貰うぞ」

 

息を吸い込み、ぐっと腹に溜める。『菊月』が呆れながらも、やってこいと言ってくれる。その声音に、何かの感情を乗せて。大きく頷き、口を開け、

 

「……睦月型駆逐艦九番艦、『菊月』だ。……出し惜しみを詫びる。が、仲間の助けに向かわねばならんのでな?全力を出すその代わりに、一瞬で終わらせる……!」

 

目を閉じ、足に、全身に、『菊月(ふね)』の力を満たす。感覚が引き伸ばされ、あらゆるものを置き去りにする感覚が再来する。気焔と燐光を纏った今、少なくとも満足は行く程度に動ける筈だ。

 

「行くぞ……!」

 

目を開く。そこに宿る焔を光の軌跡に、菊月()は跳んだ。




次回、菊月(偽)の戦闘が爆発します。

が!!!!
そんなことより!!!!!
いつも挿絵を描いてくださる篠生茉莉さんが!!!!

ディアンドル菊月(偽)とゆーちゃんの挿絵を!!!!!!
描いて下さいました!!!!!!!!

http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=51352407

小説なんざどうでもいい!!早く見にいくのです!!!!
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