私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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昨日の。書けると思ったら寝落ちしちゃいました。


帰還と休養

ぼんやりと意識が浮上する。霞んだ視界に映る部屋は狭く無機質的な様相を呈している。寝かされていたベッドで一度身じろぎつつ、寝惚けた頭を回転させた。

 

「……ん、む……」

 

満身創痍で基地に帰還した菊月()達を待っていたのは、迅速な救急対応だった。特に菊月()や熊野といった重症を含む遠征艦隊、自らの危険を省みず先陣を切り続けたドイツ第一艦隊の面々は一人一人隔離され、個別に用意された入院部屋に押し込まれ治療を受けた筈。応急処置が終わった辺りで、恐らく意識を手放したのだろう。

 

「……身体が軽いな……」

 

軽くなった代わりに、少し鈍ったような身体の感覚から恐らくは一晩二晩眠り続けたであろうことが理解出来る。ゆっくりと身体を起こし、惚けたまま素足で床に降り立つと、はらりと身体から薄い掛け布団が剥がれ落ちた。

 

「……!っ、いかんな。……一瞬で、頭が冴えたぞ……!」

 

舞い落ちる薄布団を無意識に目で追い、菊月()の身体を一瞬だけ視界に入れてしまう。慌てて目を逸らし、そっぽを向いたまましゃがみ込み足元に重なった布団を拾い上げ身体を隠した。垂れ下がる布で身体を覆い、布団の端を握った手は僅かに膨らむ胸の中心へ。その手が華奢な胸板に触れた瞬間――ぞくり、と背筋に怖気が走った。

 

「……っ!!」

 

ちょうど触れた胸の奥底に、何かがあると今は知っている。知ってしまった。触れたことで想起されるあの本能的な、『俺』が押し潰されるかのような恐怖を感じ布団を取り落とす。慌ててしゃがみ拾ったそれを胸元に抱き込むと、少しだけ安心できる気がした。

 

「……何を、怖がっている。あの時感じたのは、『菊月』だった筈だ。ならば、それがどれだけ大きくなったところで……問題は無い、筈だ……」

 

二度三度、自分に言い聞かせながら立ち上がる。そう、菊月。この胸の奥にあるのは菊月だ。それを確かに思い返せば、得体の知れない恐怖は霧散する。俺の心には平穏と、そして菊月の裸身に対する興奮が戻ってきた。

 

「……さて、どうするか。……問題は、大破することなく下着を身に付けられるのか、だな……」

 

誰に聞かせる訳でもなく軽く言い放ち、覚悟を決めて布団を投げ捨てる。ベッドの脇には、見慣れた菊月()用の着替えと下着があった。その内の一枚、胸に当てる下着へと手を伸ばし――

 

――結局、着替えを済ませられたのはそれから一時間後のことだった。

 

―――――――――――――――――――――――

 

着替えを済ますと同時に部屋を出て、ちょうど菊月()の様子を見に来てくれたらしい艦娘に礼を言う。何故か照れている彼女から俺の向かうべき場所を聞き出し、そこへ向かって歩みを進めた。途中すれ違う艦娘達に挨拶を飛ばしながらその部屋の前までたどり着けば、此方を背にして海前の桟橋に佇むその男に声をかける。

 

「……来たぞ、司令官……」

 

「ああ、わざわざ悪いな。怪我はもう大丈夫なのかね?無理をしているようなら、下がってくれて構わないが」

 

その男……提督は此方を振り返り、海を背にした状態で口を開いた。その様子に、別段おかしなところはない。だからこそ、執務室ではなくこんな場所で話を持ちかけられたことが不思議だ。訝しむ感情を抑えようとしながら口を開く。

 

「……いや、平気だ。既に完治しているようだからな。……で、何の用だ?」

 

「そうか。なに、君達に改めて礼を言おうと思ったのでな。――今回の助力、本当に感謝する。もし君達が居なかったらと思うと、私は恐ろしくて堪らない。きっと私の命だけでなく、ビスマルク以下かなりの艦娘の命が――いや、最悪を考えれば、全ての艦娘の命が落とされていたかも知れない」

 

「……そう言って貰えるのはありがたいが、私達を呼んだのはそもそも司令官だろう?目先の小事やプライドに惑わされることなく、な。ならば、まずはそれを誇るといい。……それは、実行するには難いことだからな……」

 

そう言うと、眼前の男は頭を小さく縦に振る。そうして、少しだけ安堵したような表情を作ると更に口を開いた。

 

「そうか。……だが、やはり君達の力無くしてはどうにもならなかった。私は、私を誇る。だから君達も、この基地を、艦娘を、そしてこの国の民を救ったことを誇ってくれ。でなければ、せっかくの祝勝の宴を用意したことが無駄になってしまうからな」

 

「……宴を?ふふ、中々気の利いたことをするではないか……だが、量は充分に用意してあるのだろうな?」

 

「ああ。君とビスマルクがほぼ同時に目覚めたのでな。それで全員が回復したから、今日の夜に開催することを決めたのだ。――おや、君はそんなにも食べるのかね?可愛らしい君の容姿からは、とてもそんな風な印象は受けないが」

 

「私ではない。……加賀と、武蔵だ。確認するが、量はあるのだな?主食だけではないぞ、おかずも、付け合せも、スープも全てだ。あとは酒だな。加賀も大概飲むが武蔵は……うむ、うわばみだ。生半可な量では枯渇するぞ。……大丈夫、なのだな?酔いが回った後に食物が切れると、何をするか分からんぞ……」

 

そこまで言い終わると、途中から黙り込んだ提督の顔を覗き込む。僅かに下を向き考え込んでいる提督に、チェックを手伝おうか、という旨の視線を送る。暫し目線が交錯し、その後提督は厳かに頷いた。

 

「厨房に行く必要が出来た。付いてきてくれるか?」

 

「勿論だ。……私も、暴れる彼奴等の被害に遭いたくはない……」

 

時刻は午前十一時、猶予はある。もう一度二人で頷き合い、そして俺達は走り出したのだった。




そろそろ前書きと後書きのネタが無くなってきた。

と、そんなことはどうでもよいのです。

いつもの方!!篠生茉莉様が!!
挿絵を描いてくださいました!!!武蔵とくまのんとハチがカッコ良い!!!
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=51436640

さあ、見に行きましょう!!

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