私が菊月(偽)だ。   作:ディム

16 / 276
睦月型集合。
いない子は他の鎮守府に出向してたり、遠征行ってたりします。


放浪艦菊月(偽)、その七

「ん……ふぁ、ぁ………」

 

終始笑顔の間宮さんにスープを食べさせてもらってから、全身が温まったお陰が睡魔がやって来た。食事もそうだが、こうして柔らかいベッドで寝ることも初めてだからな……、菊月の身体には随分無茶をさせた。

 

「ふふふ、眠たいなら寝ても構いませんよ?」

 

「……いや、しかしだな。明石さんが人を呼んできてくれているのだ、私が眠っている訳にもいくまい。……ふぁぁう……」

 

しかし、時間が掛かりそうなら寝てしまうかも知れない。いくらクールで凛々しく、名の通り菊のように美しい菊月と言っても駆逐艦であるのだから幼いことに違いは無い。

 

そうして、暫くの間身体から来る眠気に耐えていると、扉の外からバタバタと足音が聞こえてきた。どうやら、俺が寝てしまう前に到着してくれたようだ。

 

「ごめんなさいっ!探すのに手間取っちゃって……きゃっ!?」

 

ばたん、と音を立てて扉を開いた明石を押し退けて姿を現したのは四人。

 

「あの子が……っ!」

 

「目を覚ましたというのはっ!」

 

「本当なんですか!?」

 

「ぴょんっ!?」

 

……最後の一人は何が言いたいのかよく分からないが、それでも言葉尻から心配が伝わってくるのが嬉しい。声だけでも、誰が誰だか分かってしまうのはもう当たり前か。

 

「あら、この子は寝ちゃったのよ。もう少し静かに……」

 

「……いや、問題ない……」

 

間宮さんの言葉を遮り、いつの間にか閉じていた目を開く。そこには俺の予想通りの四人の姿が。……ともかく、まだ菊月()はこの睦月型姉妹に自己紹介すらしていないのだ。こほん、と一つ咳払いをして、口を開く。

 

「……睦月型九番艦、『菊月』だ……。……初めまして、姉妹達」

 

俺の言葉に、ほけっと立ち尽くす如月、卯月、長月、三日月。変なことは言っていない筈だが、何かしてしまっただろうか?

 

「……うぅ、済まない。何かしてしまっただろうか……うわっ!?」

 

「きっ……!」

 

「「「「菊月(ちゃん)〜〜〜〜〜っ!!!」」」」

 

言葉の途中で、四人に飛びかかられ、抱き締められる。思い切り突っ込んでくる四人の身体は正直痛かったし、締め付けられるのも苦しかったが……。

 

それでもやはり、嬉しかった。

 

―――――――――――――――――――――――

 

「ごめんね、菊月ちゃん。……さて!私は睦月型駆逐艦二番艦の『如月』よ。……あの時はありがとうね」

 

「同じく、睦月型駆逐艦四番艦の『卯月』だぴょん。うーちゃん、って呼ばれてるけど……姉妹なら、卯月でいいぴょん」

 

「同じく、睦月型駆逐艦八番艦『長月』だ。あの時、お前がいなければどうなっていたか……。私からも感謝するよ」

 

「最後に、睦月型駆逐艦十番艦の『三日月』です!……菊月ちゃんは、ちょうど私の一つ上のお姉ちゃんなんですね!嬉しいなぁ……」

 

しばらくもみくちゃにされた後、漸く四人が自己紹介を済ませてくれた。『俺』は以前から知っていたとはいえ、これで初めて本当に知り合えたことになるだろう。

 

「改めて、菊月だ。……どうやら、私を此処に運んでくれたのも姉達のようだな。……うむ、此方からも礼を言っておくぞ」

 

「あら、お互い様よ。助けてもらわなければ沈んでいたのは私も同じだもの……その後は、随分苦労をさせちゃったみたいね」

 

「……構わない。直感に従っただけだが、後悔は無いからな……」

 

如月と、一言二言言葉を交わす。流石に二番艦だけあって落ち着いている、会話こそ少ないが、それでもお互いの意思が分かるというのは姉妹故の絆だろうか。そして、残りの三人は……集まってひそひそと話しをしていた。彼女らは小声で話しているつもりなのだろうが、この位置だと聞こえてしまう。何でも、菊月()の受け答えが素っ気ないから距離が掴みにくいようだ。長月だって似たようなものだろうに。

 

ちらりと如月を見れば、彼女も苦笑している。……なら、ここは少し驚かせてやるとしよう。

 

「……あー!ところで、お身体の調子は如何か、ぴょん?」

 

「……うむ、余り良くは無いな。さっき抱き着かれたとき、どさくさに紛れてくすぐられたが……あの場所は、軽巡棲鬼に思い切り殴られたところでな……」

 

勿論、嘘である。しかし卯月はうぐっ、と唸ればすごすごと引っ込んでしまった。姉の筈なのに継戦能力が低いぞ。……どうやら、次は長月のようだ。

 

「そ、そうだな……なら、この鎮守府はどうだ?他の鎮守府よりも施設が充実しているんだ、きっと菊月も、私達睦月型の部屋なんか気に入るはずだ」

 

「施設が充実しているのか、それは良いことだな。……だが、生憎自分で見たものしか信用出来ぬ。これまで、そうして生きてきたからな……」

 

少し大袈裟に返してみれば、長月も唸って退散してしまう。鎧袖一触とはこのことか、また強くなってしまったようだ。……最後は三日月、既に涙目である。

 

「うう〜っ、すっ、好きな食べ物を教えて下さいっ!」

 

「……そうだな、さっき食べた間宮さんのスープか。あれはとても美味しかった……」

 

肯定的な返事をすれば、俄かに沸き立つ三人。狙ってやっているとはいえ、そこまで恐れられる筈は無いのだが。まあ、『俺』も『菊月』も楽しんでいるのだ、あと少しだけ遊ばせて貰おう。

 

「じゃ、じゃあ二番目に好きなものは何ぴょんっ!?うーちゃん、間宮さんのアイスが好きぴょん!!」

 

……来た。全くの狙い通りの質問。敢えて見せた隙に飛び込むとどうなるか、その身に刻んでくれる……!

 

「二番目に、か……。生憎、それ以外では野草と自生した瓜、謎の果実しか口にしたことはない。その中から選べ、と?……案外酷いのだな、姉妹達は」

 

喜色に染まっていた三人の顔が、途端に絶望顔へ変わる。三日月に至ってはぷるぷるし出した。……そろそろ笑いを堪えるのも限界だ、如月と二人で思い切り噴き出す。

 

「……!?……あれっ?……あーっ、騙したぴょんっ!?」

 

卯月の言葉に、からかわれていたことに気付いた長月・三日月の二人も大声で騒ぎ立てる。そのままみんなでひとしきり笑いあったところで、明石が声を掛けて来た。

 

「はい、今日の面会は此処までです!菊月さんもまだ本調子じゃ無いんですから、皆さんはまた明日来て下さいね」

 

その言葉に、口々に返答する姉妹達。それぞれが別れの言葉を言って、部屋の外へ出ようとする。……やはり、この瞬間に『菊月』が強く感じるのは寂しさ。その『菊月』の気持ちを伝えるために、菊月()も口を開く。

 

「……今日は、楽しかった。如月、卯月、長月、三日月……明日も、来てくれるか……?」

 

菊月()の精一杯の微笑みと共に、『菊月』の想いを伝える。四人は顔を見合わせると、同じように笑顔で答えてくれた。

 

「「「「また明日っ、菊月(ちゃん)っ!!」」」」




筆者の心が汚すぎて睦月型が眩しい。
素敵な子達だからもっと可愛く書きたいです。


海色も吹雪も品切れで買えませんでした。

帰りにもしや、と寄ったおもちゃ屋で、睦月と三日月の戦艦プラモは見つけたものの菊月のは無し。まあ分かってたけど寂しい。

追記。
脱字を修正しました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。