あーるにならないめには仕方ないね。
あれから少しの時間が経ったが、一向に状況は好転しない。
「……酒?そうか、酒か……」
自らの思考の中から、昨夜の祝勝会に繋がるキーワードを引きずり出す。そう、『酒』。あの場にいる誰もが、確か酒を呷っていた筈だ。無論
「……思い出すしかない、か。運が良ければ、そのうち武蔵も目覚めるだろう……」
思わず吐きそうになる息を抑え、目を瞑り記憶の中に潜り込む。己の内に沈んでゆくことにも随分慣れたものだ、と独りごちながら、俺は昨晩の記憶を引っ張り上げるのだった。
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レーベとの話をそこそこに、
「あーらー?菊月ぃ、調子はどうですのぉ?」
「……熊野。あとは……ハチとU-511か。……熊野は潰れたのか、ハチ?」
「うん、あっちで加賀とプリンツと飲み比べしててね。熊野が一番にダウンしたから二人でこっちに連れてきたんだけど、まあ見ての通りで」
比較的小柄な二人に両脇を固められた熊野は、幸せそうなだらしない顔を晒しながら何事かを呟いている。そのまま椅子に座らせられ動きを止めた熊野を見て、漸く二人は文字通り肩の荷を下ろしたようだった。
「……お疲れ様だな、二人とも。……楽しんでいるか?」
「はいっ。今までもパーティは沢山ありましたけど、こんなに賑やかなのは初めてですっ。ゆーの好きなワインも沢山飲めます!」
そう言いつつ、ワイングラスを片手にほんのりとピンクに染まった頬を手で押さえるU-511。恐らく同じようなものを飲んでいたであろうハチの顔は真っ白そのもので、平然とグラスを傾けるその姿にはある種の感服を覚えた。ちなみに、ハチは今もきちんと提督指定水着のままである。
「ふぅ、それにしても最近は働きづめだったからねー。こうやって、だらだら過ごすのがはっちゃん的には一番好きかな」
彼女がぐいっとワインを飲み干した拍子に、眼鏡がずれるところが見えた。ふと露わになったお茶目さに苦笑しつつ、ハチに対して口を開く。
「ああ、そういえば。ハチ、武蔵を知らないか?恐らく何処ぞで飲み比べでもしているのであろうが、それにしては妙に見つからなくてな……」
「え、武蔵?武蔵ならさっきあっちに――」
ずれかけた眼鏡を直しながら、ハチが語りかけたその瞬間。ハチが指差す方向から、わっ、と沸き立つ艦娘達の声を聞いた。見れば、いつの間にか完成していた人だかりの向こうで何かが行われているようだ。
「……まあ、大体何が起こっているかは察せられるがな。……む、おい見ろレーベ、U-511……ほら、あれだ。あの、端から抱えられて出てきたのは……」
「うわぁ、マックス。――流石にマックスもビスマルクには敵わないけど、それなり以上には強いんだよ?それを潰すって、やっぱりちょっと格が違うというか、感心するというか」
「……すまない、私はあれを見てくる。お前達は談笑していてくれ……」
一言断りを入れ、見送られながら人混みへと向かう。
「……これは」
目に入って来たのは、やはりと言うべきか武蔵とビスマルクの
「お、菊月じゃないか。私の勇姿を見に来たのか?いいぜ、彼女はさっさと蹴散らしてやろう」
「ら、なによむさひー!このビスマルクしゃまを蹴散ふですってぇ!?いっひぇくれふじゃらい!」
褐色の肌を赤く染めただけの武蔵に対して、最早ダウン寸前とばかりにふらふらとしているビスマルク。此方を見て言い放った内容からも、それは容易に理解できる。
「そうだな、折角菊月も来たのだ。この武蔵の力を見せてくれよう!」
「……っ!?お、おい武蔵……!」
久々の宴会で興が乗ったとでも言うのか、武蔵はジョッキを投げ捨て瓶をそのまま鷲掴みにすると呷り出す。ごくっ、ごくっと此方まで聞こえてくる音と共に、あっという間に一本を空にしてしまった。
「さあ、ビスマルク。お前の番だぞ?ああ、お前はジョッキでも良いとも――お前に私に挑戦する勇気が無いのであればな?」
「言うじゃらい!見てなひゃちよ、わらひだって、だって――きゅう」
瓶に手を伸ばそうとしたビスマルクが可愛らしい声と共に突っ伏し、動きを止める。同時に沸き立つ観衆が、武蔵の勝利を称えた。改めて武蔵とビスマルクの周囲を見回せば、転がっている瓶の数は十や二十では収まり切らない。それらを踏み越えて、武蔵が歩いてきた。
「はっはっは、どうだ。ドイツ艦娘恐るるに足らず。しかし、此処まで粘るとは流石と言うしか無いな。まあ、この武蔵に殴り合いを挑むのがそもそもの間違いなのだが――ひっく」
「……お前、どれだけ飲んだのだ。顔も赤い、珍しく酔っているな……?」
「何を。酔っていれば足元が覚束なくなり、饒舌になるものだろう。私を見てみろ、しっかりと両の足で立っているし、いつも通りそんなに口数も多くないぜ?ほら、その証拠に――」
足付きはともかく充分饒舌にはなっているだろう、と言いかけた
「こんな風に、お前を抱き留めても足は平気だ。どうだ、酔っていないだろう?――む、ふむ。それにしても菊月、お前は中々抱き心地が良いな。このサイズが、うむ。私のいつも抱いて寝ているぬいぐるみよりずっと良い」
その言葉で、
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そう、そこまでは覚えている。武蔵に抱き締められ、運ばれ、そして記憶が朧げだが付き合っていくらか飲んだ筈だ。そのまま恐らくは眠りについてしまい……
「こうなった、という訳か。……思い返してみれば、なんとも代わり映えのしない理由だな……」
ぼそりと呟けば、またしても武蔵が震える。しかし今回はそれと同時に武蔵が寝返りを打ち、最初に抱きしめられていた時のような態勢へと戻る。掛け布団がはだけ腰の位置ほどにまでズレたせいで、
「おーい、武蔵。朝だ――え」
がちゃり。
そんな音と共に扉が開かれ、その向こうかハチが姿を現わす。その瞳に映ったものは言わずもがな、
ちらりと見えているハチの顔が、一気に真っ赤に染まるのが分かった。
「……ハチっ!ちが、そうだ助けて――」
「あ、あわあわあわ、ごごご、ごめんっ!!」
「ハチぃーっ……む、もががっ!?」
助けを求めようとした口が武蔵の双丘に塞がれ、それを見て顔を押さえたまま走り去るハチ。扉が閉められたことだけが唯一の救いだが、俺は拘束されたまま。結局、武蔵が目を覚まして暫くするまでは
羨ましいですね。
武蔵が。