照り付ける強い日差しのもと、足元に白波を立て海を行く。普段とは違う、海を行くことで身体を打ち付ける向かい風が直接全身を撫でてゆく感覚に、靴も何も履いていない素足が波にくすぐられる感覚。そのどちらもが新鮮でこそばゆい。
「うぅ〜、これは流石に酷いぴょん。艤装のベルトは妙な感覚だし、というかそれ以前に抑えてないと
先頭を行く神通の背後、単縦陣の二番目に位置する卯月が自らのビキニを抑えながら愚痴を零す。そう、海を行く上で必ず感じざるを得ない向かい風、それがもたらすものはくすぐったさだけではない。水着として余りに想定外のこの風は、隙あらば
「卯月。そう言いたくなる気持ちは分かりますが、今は警戒を厳にして下さい。敵艦があまり多くないとは言っても、奇襲されれば壊滅することだってあるのですからね?」
「はーい。うーちゃんだって、ちゃんと警戒はしてるっぴょん」
苦笑する神通と、それでも不満げな卯月。それを遠目に、
「……どうした、元気がないな?」
「あ、お姉ちゃん。あはは、ちょっと残念で。せっかくお姉ちゃんと、みんなと久し振りに遊べる日だったのにって。でも、仕方ないですよね。私達は艦娘、もっと頑張らないと!」
「……ああ、そうだな……」
片手に連装砲を装着したまま、ぐっと両手で小さくガッツポーズを取る三日月。背筋を張ることで、ごく薄く膨らんだその胸が強調される形となる同時に、身につけているチューブトップ型のビキニも。フリルが付いている以外はシンプルなものだが、逆にそれが三日月の清楚さを際立たせているように思えた。
「……ふむ」
「――?どうしました、菊月お姉ちゃん?」
「いや……。ただ、良く似合っていると思ってな。可愛いよ、三日月」
『菊月』と『俺』の感じた通り、素直に三日月を褒める。口に出した言葉は真っ直ぐに三日月へと届く。直後、三日月は弾けるように顔を真っ赤にした。
「かっ――!?お、おねえちゃんっ!!」
「……どうした。何か気に食わなかったか?」
「いっ、いえ!そういう訳ではない、です。――もうっ。いきなり言われたから慌てちゃいました。そういうお姉ちゃんも、似合ってますよ?」
「それはそうだろう。何せ、お前が選んでくれたものだからな?――ん、通信か……神通!」
水着の上に直接締めたベルト、そこに提げた通信機に連絡が入る。神通へと声を掛ければ、水着には似合わない無骨なそれを、スピーカーをオンにしてスイッチを入れる。途端に流れる音声。
『こっ、こちら大和!敵は一、駆逐艦です!でも――っ、きゃぁっ!?む、武蔵の水着がぁ〜っ!?』
『ひゃあっ!っ、この駆逐艦が武蔵の肌を――な、きゃあっ!』
『ちょ、ちょっと待って!加賀さん、ああっ!!』
『っ、頭に来ま――っ、ううぅぅ〜っ!!』
阿鼻叫喚。普段はその堅牢な装甲を頼りにしている戦艦や、空母の甲高い悲鳴が断続的に聞こえてくる。おそらく、通信機の向こうではさぞや大変な光景が広がっていることだろう。まあ、大和武蔵のコンビや赤城加賀のコンビが一隻の駆逐艦に翻弄されるというのも大事件ではあるのだが。
「……神通」
「はい、菊月。――全艦に通達。敵は散開し、一隻単位での戦闘行動を繰り広げているようです。戦力的に見れば取るに足らないものですが、現状は聞いた通り。各員、気を引き締めて警戒を――」
「……警戒、ではないな?」
「ええ。――回避行動!!艦載機ですっ!!」
遥か遠くの空に見えるいくつもの黒点。俺達の良く知るその脅威……艦載機。神通の号令で回避行動を開始し、更に砲で対空迎撃を展開し――その上で、撃ち漏らした幾つかの艦載機が
「くうっ……!」
本来ならば、損害はほぼない状況。しかし、今に限って言えば被害は甚大であった。
「きゃっ!いやん、もう!」
「わ、私の水着が!く、見えてしまうっ!!」
爆炎と熱風に煽られるだけで、生地がほつれ焼き切れる水着。声を上げた如月と長月以外の姉妹達も、勿論神通も同じ被害を負い、身体を艶めかしく捩り羞恥に顔を染めている。
すなわち、
「っ、この好色深海棲艦っ!全艦、避けなさい!爆風にも気をつけてっ!」
叫ぶ神通の命令に従い、攻撃を回避しようと動き出す。
「っ、上だ三日月……!」
「ぁ、えっ!?」
彼女が抑えていたのは、
「な、駄目ですお姉ちゃんっ!!」
駄目と言われようが、妹を守るのが姉の役目だ。『菊月』と二人、頷きあって覚悟を決める。
迫る魚雷へ向けて抜き払った『護月』を無尽に走らせ、それを一閃。それによって発生する爆発に、後続の魚雷も飛び込み誘爆する。直撃は無い、しかし広がる炎が
「ああっ!!き、菊月があられもない姿になっちゃうぴょんっ!」
爆音の向こうから辛うじて聞こえる卯月の声通り、確かに
――だが、
「……っぉぉおぉおぉぉおぉ!!」
魚雷から発せられた黒雲が消え去る前に、その中から一直線に飛び出す。右腕には『護月』を逆手で握り、左腕は胸を隠すよう身体を抱く。通信機を提げる用のゴツいベルトで腰と股関部を隠せば、かなり犯罪的ながらどうにかなっている、と思いたい。
「――――ヌ?」
「……沈めぇぇぇぇえっ!!!」
艦載機を発艦させ、無防備なヌ級の頭蓋の頭頂部に『護月』を真っ直ぐ突き立てる。同時にその大きな頭の上に飛び乗り、突き刺さった刀をぐりぐりと抉り捻る。苦悶に暴れ出すヌ級に、胸を隠していた手で抜き放った『月光』で更に一撃。数秒後に痙攣を止めたヌ級を見て、カタが付いたことを確信する。
「……ふむ」
『護月』と『月光』をヌ級の遺骸から抜き放ちがてら、その表皮を薄く長く剥ぐ。ちょうど幅の大きな帯のようになったそれを胸と腰にそれぞれ巻きつければ、ゆっくりと振り返る。
「……帰投しようか。……む、どうした……?」
「い、いえ。なんでもないですよ」
辛うじて声を出した風な神通を除き、誰もが顔を真っ赤にしている。理由は勿論理解出来るが、『菊月』の意思に倣ってなんでもない風を装い艦隊の先頭へと立ち、未だ惚ける神通と姉妹達を、半ば強引に引き摺るようにして帰投した。
――帰還後に
はーい!本編なんかぶっちぎって、頂いた挿絵のご報告です!!
毎回お世話になっている茉莉さん、改めて海鷹さんがまたも描いてくださいました!!
アイドル菊月ですっ!!
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=51559216
さあ!見に行きましょう!今すぐ!!