私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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明確なキャラの無い提督が一番苦労しました。

なんとか、反感食わないよくあるキャラになったかと。


放浪艦菊月(偽)、その八

如月達姉妹と言葉を交わしてから、三日が過ぎた。別れ際に言った通り毎日見舞いに来てくれるだけではなく、姉妹達以外にも様々な艦娘が菊月()の顔を見に来てくれている。どうやら、あの時軽巡棲鬼から助けた艦隊の皆が鎮守府で俺のことを広めていてくれたらしい。お陰で、寂しい思いをしなくて済む。

 

「……全く……」

 

さて、それほど沢山の艦娘が見舞いに来てくれているのだが……実は、まだこの鎮守府の提督とは顔を合わせたことが無い。如月や長月から聞くところでは、まだトラック泊地海域の後始末に追われているとのことだ。そもそも、着任した艦娘の方が提督へ挨拶に向かうことの方が道理だろう。俺はそのことを明石に伝え、明石付き添いでという条件付きではあるが提督の執務室へ出向く………ということになっていた筈なのだが。

 

「……なぜ、その提督がわざわざ病室まで来ているのだ……」

 

「……明石から、君が私に挨拶をしたい、と言っていると聞いた。確かに、着任した艦娘はまず私に挨拶をする。……だが、君の場合は少々特例だろう。……加えて、それよりも先ず、君には軽巡棲鬼の件で礼をしなければならないからだ」

 

そう言って、此方を見やる男がこの鎮守府の提督らしい。いかにも軍人然とした厳めしい顔つきに、体格もしっかりとしている。見た所、『俺』とそう変わらない身長のようだが……俺が菊月になっているからか、ひどく大きく見える。

 

「……あの軽巡棲鬼の件、あれは私の采配ミスだ。敵戦力の確認、周辺海域の制圧、何れも疎かのままに進撃命令を出してしまった。索敵、警戒は厳にしなければならないと言うのに……」

 

この男について、長月に聞いても三日月に聞いても……いや、どの艦娘に聞いても、帰ってくる言葉は似たようなもの。曰く『軍人然としようとしているが、甘いところの抜けない男』。加えて如月など『初心で、そのくせよく調子に乗るのよ。菊月ちゃんも、セクハラされないように気を付けて』なんて言っていた。確かに、執務室に座っていれば良いところをわざわざこんなところまで足を運ぶ男だ。口から出る言葉が殆ど詫びだということからも、やはり甘いところが見て取れる。

 

「……君が居なければ、艦娘達を喪っていただろう。……本当に、感謝する……!」

 

……しかし、こうして頭を下げている彼は、少なくとも『いい奴』なのだろう。優秀な軍人でなくとも、鎮守府の艦娘達が全幅の信頼を置く程には。

 

「……頭を上げてくれ、私も姉妹を助けられて嬉しいんだ……。それに、この菊月の命を繋いでくれたのも、提督達なのだろう?」

 

『菊月』として務めて冷徹に振舞いながらも、最大限感謝を述べる。……しかし、三日月に聞いていたよりも無口なんだな。如月が言っていたことは密かに気にしていたし、いきなり菊月()にセクハラでもかまされればぶん殴ってやろうと気構えていたが無用だったかも知れない。

 

―――――――――――――――――――――――

 

一通り提督と話し、これからも菊月()の身柄はこの鎮守府所属として扱うという話を纏めたところで提督は部屋から去って行った。『菊月』の姉妹艦が沢山居るここを離れようとも思う筈は無い、そのことを告げれば提督も喜んでいた。

 

「それほど長く話していた積もりも無いが……明石さん、今は何時だろうか……?」

 

「そうですね、今は……ヒトナナマルマル、もう夕暮れ時ですね!」

 

成る程、道理で眠気が強くなってきた訳だ。日の出と同時に起き、日の入りと共に寝る生活をしていたせいか、どうも夜更かしは苦手になってしまった。このことを姉妹に話すと、長月は『菊月はお子様だな』なんて言っていたが、俺も同感だ。

……と言うより『菊月』は少しお子様の方が可愛いと思うのだ、眠気に目を擦る菊月を想像するだけでキラキラが付いてしまう程に。

 

ともあれそんな風にうとうととしていると、明石が一つ頷いた後、俺に声を掛けてくる。恐らく、少し部屋を外すから寝ていてくれだとかそういう内容を―――

 

「……よし!菊月さん、今日はお風呂に入りましょう!」

 

「――――――は?」

 

……待て、今明石は何と言った?風呂?リダ?フロリダと言ったのか?確かに駆逐艦『菊月』の骸は今もフロリダ諸島に横たわって居るが―――

 

「あれ?うとうとしていて聞こえませんでしたか?お風呂に入りましょう、と言ったんです!大丈夫ですよ、まだ身体が本調子じゃないなら私もご一緒しますから!」

 

……聞き間違いでは無かったようだ。いや、待って欲しい。確かに菊月は綺麗にしてあげたいが、それとこれとは話が別だ。そもそも『俺』は、なんだかんだまだ菊月()の身体を直視出来なかったりするんだぞ!?

 

「本当は昨日お風呂に、と思っていたんですけれどね……。長門さんと話したあと直ぐに寝ちゃったじゃないですか。私が濡れたタオルで寝ている菊月さんの身体を拭いてあげたんですよ?」

 

なんとうらやまけしからん。何故か身体がさっぱりしていると思ったのは気のせいでは無かったか……!くそう、『俺』も『菊月』もすごく照れていて明石の顔を見れない、耳まで熱いぞ。

 

「……いや、風呂はいい……。濡れタオルを持ってきてくれ……」

 

「ダメです!それに、お風呂に浸かれば疲労だって抜けるんですから。リハビリの一環です、行きますよ!」

 

「ま、待て……!ぁぅ、止めろ……!」

 

まだ本調子ではないのだ、抵抗も虚しく明石に担がれてしまう。ベッドから地面に降ろされ、強引に手を引かれれば付いて行かざるを得ない。……さっきから、顔の火照りが大変なことになっている。

 

「あれー?菊月と明石さん、なにしてるぴょん?」

 

手を引かれるまま少し歩けば、如月・卯月・長月・三日月の四人に会う。……助かった、護衛艦隊か……!

 

「……っ、た、助けてくれっ……!明石さんが……っ」

 

「あ、菊月さんの姉妹艦の皆さん!……うーん、ちょうど良いですね!みなさん、一緒にお風呂に入りませんか?」

 

明石の言葉に、ちらりと菊月()を見た卯月が無情にも言い放つ。

 

「……ふっふっふ、それはいい考えだぴょん。うーちゃんは一緒に行くぴょん!」

 

「あら……、なら私もご一緒しようかしら。菊月ちゃんの髪の毛、お手入れしてあげなきゃ」

 

「菊月お姉ちゃんとお風呂……なんだか楽しそうです!」

 

次々に断たれてゆく希望に、菊月()の恥ずかしさが臨界を迎える。これはまずい、菊月(自分)の身体すら見れないのに姉妹もなど……!

 

「……なっ、長月……っ!頼む……っ」

 

「風呂、か……おお、そいつは良いな。誰かさんにはからかわれた礼もある、恥ずかしがっているのならちょうど良いお仕置きだな!」

 

……護衛艦隊だと思った姉妹は、敵の増援だった。唯一純粋に楽しみにしている三日月に、明石が握っているのと逆の手を引かれ、最早逃げ出す望みも無い。

 

「…ぅう〜……、なんなのさ、いったい………!!」

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

……余談ではあるが。

 

睦月型姉妹の身体も、勿論菊月()の身体も、天使のような美しさだったことをここに記しておく。





以下、提督が大人しかったわけ。

「……如月、俺はお前の妹に何かしてしまったのか?」

「あら提督、どうしてですか?」

「部屋に入った時から、凄い威圧感を感じてな。いくら俺が調子に乗りやすい性質だといっても、あの前では居住まいを正さざるを得なかったよ。まるで、性犯罪者を見るかのような目つきだったし」

「あら………」

菊月(偽)にとって、菊月に手を出す=敵。敵にはサバイバルで培った威圧感をぶつけます。具体的には軽巡棲鬼を尻込みさせるぐらいのプレッシャー。

ちなみに、セクハラ云々は如月のジョークです。この提督はそんなことしませんのでご安心を。

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