私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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如月如月。


彼女のいない鎮守府、その三

司令官と金剛さんへの用事を済ませ、手ぶらになった私は船渠に向けて歩みを進める。約束の時間よりは少し早いけれど、待ち合わせの相手はいつもこのぐらいの時間にはもう準備を始めてくれている。いつも、もう少し遅くても良いと言っているのだけれど。

 

「そうねぇ、今日は一緒にお昼を食べてもいいかも知れないわね。いつも付き合って貰っているし……うん、間宮さん券、使おうかしら」

 

お世話になっているんだから、偶にはお礼もしなきゃ。そういえば、ご飯に関しては好物を聞いていなかった。訓練に付き合ってくれる彼女達のことを思い浮かべつつ、船渠の扉を押し開く。そこには、

 

「――あ、如月さん。こんにちは、宜しくお願いしますね」

 

対空迎撃訓練の指南役、その片方である防空駆逐艦の『秋月』その人がいた。黒い髪を靡かせてセーラー服を纏った彼女は、意外に人懐っこい笑みを浮かべて私に挨拶をくれた。応えて、私も挨拶を返す。

 

「秋月さん、こんにちは。申し訳ないけれど、今日も頼むわね?」

 

「はい、お任せ下さい!――その、でも」

 

イエス、と返した割に歯切れの悪い返事が返ってくる。秋月さんにしては少し珍しいことで、何があったのかと好奇心が私の内で鎌首を擡げるのがわかった。

 

「……?どうしたのかしら、秋月さん?訓練が出来ない……なんて、ことじゃないわよね?」

 

「ううっ!?いえ、その――」

 

「うーん、秋月さんが頑なに言わないということは、司令官からの命令かしら?いえ、そんな筈は無いわよね。だって、約束してるもの?」

 

「うきゅぅ……!!」

 

あら、いけない。なんだか嗜虐心が煽られて、ついつい遊び過ぎてしまったわ。ちょっとだけ盛り上がった気分をそのままに、ごめんなさいと前置きをしてから詳しい話を問いかける。

 

「その、訓練も兼ねて、ということなんですが。提督曰く鎮守府近海に軽空母が――機動部隊とも呼べない『はぐれ』で現れたらしいので、討伐に出向かないかとの直々の要請を受けてしまって。いつも付き合ってくれる空母さんたちもみんな出撃してしまっているので、如月さんに聞いてから如何しようか決めようかと思っていたんです」

 

返ってきたのはそんな言葉。言うなれば警備と掃討、そして訓練を兼ねてスケジュール外の出撃を頼まれてくれないかということだ。無論訓練よりも実戦の方が得るものは多いに決まっていて、

 

「そうねぇ。……私は別に、構わないわよ?」

 

「本当ですか、如月さん!艤装は準備出来てます、早く行きましょう!」

 

彼女に動物の耳と尻尾があったなら、それはもう勢いよく動かしているのだろうなという態度で私の腕を引っ張る秋月さん。司令官の役に立てるのが嬉しいのか、此方まで引きずられて笑顔になる。

導かれるままに艤装を身につけ、対空用の機銃も忘れずに装備する。各部点検異常なし、海に出るには最高のお天気。準備は万端だ。

 

「では。秋月艦隊直ちに抜錨!出撃します!!」

 

そうして、私と秋月さんの二人だけの艦隊は、晴天のもと日差しに輝く海へと抜錨した。

 

―――――――――――――――――――――――

 

「――如月さん、もうすぐで会敵します。確認しますが、敵は一体。軽空母ヌ級のみです。会敵直後に予想される艦載機の攻撃を防いだのち、反転し攻勢。一気に沈めます」

 

「ええ、分かっているわ。確認なのだけれど、もしも敵がヌ級のみでなかった場合は身を守りつつ撤退で良いのよね?」

 

「はい、そのように提督からは伺っています。無茶はするな、と。――来ますよ、空へ注意を向けて。ちょっとだけ腰を落として、集中しつつ視野を広く持って。全部覚えてますよね?」

 

「勿論よ。せぇ、の……っ!」

 

此方を発見した深海棲艦の全身から、黒く捻じ曲がった異形の鳥が飛び立ち、殺意をその翼に乗せて迫り来る。それら目掛けて、狙いを定めて――発射。軽快な音を立てて撃ち出される機銃の弾丸が、艦載機目掛けて空を切り……回避される。私の横で同じように弾丸(たま)を放った秋月さんは命中させているのだから、少しでなく悔しく思う。

 

「……っ、流石ね。でも、私だって!!」

 

回避する艦載機を追うように、機銃の向ける先を動かして銃撃。今度は命中、幾つかの艦載機を纏めて撃ち落とした。

 

「如月さん、この程度にします!もうすぐ彼奴等は最後の雷撃を敢行してくる筈ですから、それらを堕としてすぐに砲雷撃に移行しましょう!」

 

「分かったわ――っ、アレね?……当たってぇ!!」

 

秋月さんに教わった通りの構えで、機銃の残弾を全て撃ち尽くす。十数機のうち半分以下しか仕留められなかったものの、残りは全て秋月さんが堕としてくれた。それに――自分の実力に――思うところが無いわけではないけれど、今はただ深海棲艦を仕留めるべき。

用済みになった機銃を背部艤装に固定し、連装砲を撃ちながら魚雷を斉射。反撃の隙も、勿論秋月さんに余計な仕事をさせることもなく、私の砲撃と雷撃をその身に受けたヌ級は爆発し沈んで行った。

 

「うーん、いまいちかしら?」

 

「いえ、前回赤城さんに訓練をお願いした時よりも反応が速くなっていましたよ。上出来です!」

 

「……でも、秋月さんに負けたじゃない」

 

わざとらしく口を膨らませて、秋月さんの腕にしな垂れ掛かってみる。分かりやすく狼狽する彼女は、やっぱり見ていて楽しい。あまりちょっかいをかけ続ける訳にもいかず、ぱっと離れて話を振る。

 

「冗談よぉ、ごめんなさいね?……そうそう、私は訓練が終わったらそのまま別の訓練をするつもりなのだけれど、その前にお昼を食べるつもりなの。どう、一緒に食べない?」

 

「えっ、良いんですか?それじゃあ、御一緒させて頂きます!」

 

そう言って私の手を取ってくる彼女は、やっぱり耳と尻尾が似合いそうで。ちょうど太陽が真上に登る頃、私達は仲良く連れ立って帰ったのだった。




艦これしてるという。

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