「よぉし、全艦準備は良いわよね?任務内容を――そうね、確認も兼ねて如月、言ってみて」
「はい、分かりました。今回の任務は鎮守府近海の哨戒です。近海と言っても正面海域よりは少し出たところになります。本来ならば強力な深海棲艦は存在しない区域ですけれど、最近の海域を見る限りではそれは当てにならず厳重な警戒が必要です。また、今回の任務もそれら例外的深海棲艦への対応を目的としたものです――で、宜しかったですか川内さん?」
海へ突き出した桟橋の上、ギリギリのところに立った旗艦――川内さんは満足げに首を縦に振った。後ろに垂らした彼女の髪が静かに揺れる。
「よっし、合格。内容の順番まできっちり提督と同じだったね。今日は鎮守府には第一艦隊が残ってるし、任務に専念できるよね。――ということで、今日の任務は頭に入った筈!如月と卯月、今日は助っ人と一緒だし、良いところ見せよう!」
「了解しました、川内さん」
「了解っぴょん!」
卯月ちゃんと並び首肯を返す。それを尻目に、川内さんは口を開く。その視線の先にいる人達を、私もちらりと見てみた。端から『鈴谷』、『睦月』、『弥生』。睦月ちゃんを除いたどちらの艦娘も、ミッドウェー攻略戦の際に面識がある。特に弥生ちゃんは、菊月ちゃんを連れ帰ってくれた恩がある。守らないとね、と気合を入れた。
「で、助っ人で来てくれた三人。ありがとね、助かるよ。これからしばらくは此処に滞在することになると思うけど、何かあったら言ってよね」
「サンキュー、川内!ま、その分鈴谷も頑張っちゃう感じ?」
「はいっ、お願いしますっ!」
「――了解」
川内さんが三人を見回しつつ、そう締める。三者三様の返事だったけれど、その目に宿る意思はみな一様に純粋で真っ直ぐだ。よし、と満足げにつぶやいた川内さんが、片手を突き出して号令を飛ばした。
「みんな、準備は良いみたいね。旗艦は私で最後尾は鈴谷!残りは臨機応変に!!――いくよ、全艦抜錨!川内艦隊、出撃っ!!」
勢いよく跳び出した川内さんに続く卯月ちゃんと睦月ちゃん、そして鈴谷さん。そんな彼女たちを眺めながら、私と弥生ちゃんはお互いの顔を見合わせ、それからゆっくり着水して滑り出した。
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波を切り、海を進んで数時間。肌を通り抜けてゆく風の熱が変わってきたことに、時間と海域の変化を実感する。それらから判断するに、そろそろ目的の場所なのだけれど……
「敵影なし、よねぇ」
「変わったものは見えません。少なくとも海上と、見える範囲内での海面下は」
弥生ちゃんと会話しながら、索敵を続ける。積んできた電探にも未だ反応はなく、どこから現れるのかと警戒が自然に強くなる。気は抜けないわね、と独りごちた時、背負った電探が反応を示す。それとほぼ同時に卯月ちゃんが声を上げた。
「――如月、みんな!あれ見るっぴょん!」
卯月ちゃんの指の先、あからさまに不自然に歪んだ海面から現れる複数の黒い怪物――深海棲艦。ぎらりと光る目が、嫌悪感を沸き立たせる。一瞬で敵を見渡し、戦力を把握。重巡リ級、軽巡ホ級、そして駆逐ハ級二隻の計四隻からなる敵のようだ。
「なーんか、数が少ないじゃん。ヤな感じ」
「それでも、戦うしかないよね!軽巡は私、重巡は鈴谷!残りはさっさと沈めて手伝いに来てよね、駆逐艦達!――さあ、夜戦じゃないのが残念だけど始めるわよ!!」
言うや否や深海棲艦に突っ込んで行く巡洋艦娘二人を見送り、私たち睦月型駆逐艦は揃って砲を構える。眼前には二匹の狂える獣、牙を剥き突撃してくるそれを散開して回避する。
「……そういえば、一番艦から四番艦まで揃ってるのよねぇ。奇遇だけれど、嫌なことじゃないわ。……張り切らなくっちゃ!!」
砲を構える手に力を込め、強い意志で引き金を引く。重い砲音と軽い反動、発射された砲弾が何よりも速く片方のハ級に着弾した。隙を晒したそれを沈めようと狙いを定め――
「如月ちゃんっ!」
「っ、分かってるわよぉ!次、二人お願いねぇ!」
もう片方の突進を慌てて回避する。回避しながら砲を乱射し、そのうち幾つかがハ級の巨体に突き刺さった。チャンスとばかりにすれ違った巨体を追い、その船尾に向かって雷撃を放つ。白浪をあげて突き進む魚雷はハ級を捉え、その船体の後ろ半分を爆散させた。
「さっすが、如月もやるもんだぴょん!なら、次はうーちゃんがやってやるっぴょん!」
気声とともに腰の軍刀を抜き払い、日差しに白刃を煌かせる卯月ちゃん。それを構えて突撃しようとした卯月ちゃんの真横を、颯爽と弥生ちゃんが駆け抜けていった。背後から放たれる睦月ちゃんの援護砲撃を頼りに接敵し、右舷に雷撃を斉射。炎を噴き上げ炸薬が弾け、ハ級の横腹を食い破った。
「流石は私達の妹ね、睦月ちゃん?」
「そうだね、如月ちゃん!弥生ちゃん、カッコよかったにゃしぃ!」
「ぷっぷくぷぅー!弥生、うーちゃんの活躍の場を取らないで欲しいぴょん!」
「相手も、
「んー?あ、もういいよっと。あっちももう片付いちゃったし?」
背後からぬっと現れたのは、先ほどまで重巡を抑えていたであろう鈴谷さん。まさか、もう重巡リ級を沈めたと言うのでしょうか?
「あら、鈴谷さん。……まさか、もう深海棲艦を沈めてしまったと言うのですが?」
「いやいや、それなら良かったんだけどちょっち違うのよ。なんか、そっちがハ級沈めたとこで撤退して行って?なーんか不気味で腑に落ちないんだけど、逃げちゃったものは仕方ないからさ」
「そう、其方も逃げられたのね。――こっちも同じ。弾だけ命中させておいてさっさと逃げてくんだから。ムカムカするけど一旦帰投するわ。敵影は無いわよね?」
「ええ、今は。――不気味。嫌な感じがするわ」
川内さんに返答を返したのち、誰にも聞かれないようにぼそりと呟く。私達が後にしようとするその海域は、日が照り波もあるというのに、不気味な静けさに包まれていたのだった。
キクヅキニウム不足の皆様!朗報です!!
なんと!『ハトの照り焼き』様が菊月(偽)を描いて下さいました!!可愛いです!!URLは下記!
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=51791449
さあ!見に行きましょう!
あ、番外編はちょくちょく書いてますので纏まったら投稿します。