私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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遅刻。
キクヅキニウム切れかけなので次は頭からっぽの短編書きたい。


彼女のいない鎮守府、その十

傷ついた川内さんを支えながら、急いで鎮守府へ帰還する。燃料の殆ど空になった川内さんの艤装を急いで外し、連絡を入れていた明石さんへその身体を引き渡す。ストレッチャーで運ばれてゆく彼女と、それに付き添い自身も入渠しに行く金剛さん。横たわる川内さんの姿に微妙な既視感を抱いてから、ようやく私達は自らの艤装を取り外しに掛かった。

 

「……あら、燃料が空っぽね。よっぽど急いでたみたい。……それもそうよね、あんなのと出くわしたんじゃ」

 

「それでも、誰も沈んでないぴょん。――川内は心配だけど、ぴょん。それより、如月も速く入渠して来るぴょん。背中に一発受けてたのはうーちゃんだって知ってるぴょん」

 

「大丈夫よぉ。川内さんが医務室に入っている(高速修復に掛かっている)から私が鈴谷さんに付いておかないと駄目でしょう?明石さんのところへ行くにしても、それを済ませてからよぉ。それに――」

 

言いかけて、ぐるりと視線を彷徨わせる。薄暗い船渠の中には私たちが今ちょうど片付けている艤装と……それとは別に、その辺りに散乱している半壊した、もしくはほぼ全損した艤装の数々。これを卯月ちゃんに促すだけで、どうやら意図は伝わったらしい。

 

「そうよ。汗を流す方ならまだしも、多分今行ってもお風呂は一杯でしょうから。あの(・・)深海棲艦に襲撃された第一艦隊の皆さんがどれぐらいの損害を被っているのかにも依るでしょうけれど、すんなり入れるなんてことはなさそうだし。髪とお肌のお手入れが遅れるのはちょっと辛いけれど、頑張るわ。弱音なんて吐いていられないものね?」

 

「ふーん。偉いっちゃ偉いとは思うよね。鈴谷、感嘆するし。てか、如月ちゃんがそれでいいならあたし的にも良いかなって。如月ちゃんみたいのは意外と言っても聞かないって知ってるし?」

 

いつの間にか(・・・・・・)真横に立っていた鈴谷さんの声に少し驚いた。……肩を震わせたりしなかったかしら。そんな私の心配も杞憂だったのか、私の頭にぽんと手を置いた鈴谷さんがにっこりと笑う。

 

「よっし、旗艦代理の鈴谷についてきて!睦月と弥生は如月ちゃんが倒れないように見といてあげてね!そんでちゃっちゃと報告済ませてお風呂にしよう!さーんせー!」

 

そう言ってすたこらと歩き出す鈴谷さんを追い、私たちもぞろぞろと歩き出す。無性に此方を気にしてくれる睦月ちゃんと弥生ちゃんに、私は平気なんだけどなぁなんて思いつつ、司令官の執務室へと向かう。そうして特に何事もなくすんなりとたどり着いた執務室の扉を叩き、鈴谷さんが口を開いた。

 

「やっほー、提督さーんチーッス!今日の出撃の旗艦代理の鈴谷でーっす」

 

「ちょ、ちょっと鈴谷さん!相手はウチの提督さんじゃないんですよ!あんまり変なこと言ったら怒られちゃうにゃしぃ」

 

『――鈴谷か、明石から大凡の話は聞いている。入ってくれ』

 

「うーい。んじゃ、失礼しまーっす」

 

ギギィという重苦しい音を立てて開かれる扉、その向こうに広がるのはいつも通りの見慣れた部屋。しかし、その中には一つだけ、決定的に欠けているものがあった。

 

「――五人か。まずは君達に労いを。ご苦労だった。本来なら報告をして貰うところだが――それは金剛から内線で既に受けた。君達には、何が起こったかを説明させて貰うよ」

 

こほん、と一つ咳払いをし、司令官は口の前で組んだ手を解き机に付いた。両手で身体を支えながら、司令官は話し出す。

 

「本日ヒトヨンマルマル、突如として深海棲艦の一艦隊が出現した。現在各海域で縄張りを広げている奴等とは全く違う、別の一団だ。鎮守府近海に出現し、真っ直ぐに此処を目指すその深海棲艦の艦隊へと私は艦娘を出撃させたのだが――」

 

そこまで言って、司令官は一度だけ目を伏せる。

 

「結論を先に言おう。深海棲艦艦隊との交戦中に、一体の『姫』に奇襲を受けた。奇襲を食らった大和は大破に加え重症、残る赤城や天城、青葉、衣笠、そして神通は大破及び中破。神通以外は本体に加えて艤装を徹底的に破壊されるという有様だ」

 

「っ、それは本当なのかぴょん?うーちゃんですら、第一艦隊の強さは知ってるぴょん。一回倒してる敵だし、それに例え飛行場姫がいくら強くてもこんなに一方的にやられるなんて信じられないぴょん」

 

「そうだな。だが、彼奴はそれをやってのけた」

 

「なら、そんなのどうやったんだぴょん!」

 

卯月ちゃんに言葉をぶつけられた司令官は一度口を噤む。眉間を二三度揉み解し、そうして再度開いたその口から告げられた言葉に衝撃を受けた。

 

「――『菊月』。そう睦月、如月、弥生、卯月――君達の妹だな。彼奴、飛行場姫は最も意識しているその菊月と全く同じ戦法を取った。つまり全速力で奇襲し、一刀を振り抜くことで大きな損害を与え、それを起点に敵を剣戟で翻弄するという戦法だ。加えて、彼奴等の奇襲は何処から来ると思う?そう、水底からだ。大和はその、海面下からの奇襲を受け一撃で大破。大和を庇いながら撤退した赤城達も、それぞれ艤装を完膚なきまでに破壊されてしまった」

 

そこまで言うと静かに口を閉じる司令官。私達の間に降りた重みを振り払ったのは、鈴谷さんの口調だった。

 

「ってことは提督、私達が戦ったのって」

 

「そうだ、ちょうどその戦闘の直後だ。引き上げる飛行場姫と鉢合わせしてしまったのだろうな。せめて私が適切な指示を出せていたならば――む?」

 

司令官の言葉を遮るように鳴り響く内線のコール音が室内に響く。此方へ「失礼」と一言言ってから受話器を取った司令官が幾言か交わし、受話器を持ったまま此方を向く。

 

「明石からだ。第一艦隊の入渠はキリがついたから、君達も傷を癒すように、とのことだ」

 

「あれ?ってことはもうココの第一艦隊は復活した系?やるじゃん」

 

「どうやらそうでは無いらしい。第一艦隊の完全回復には時間がかかり過ぎるため、ある程度の傷を癒した段階で君達を優先させるようだ。それに、本体が治癒したところで艤装がアレではな。――ともかく、君達は入渠して来たまえ。私は現状を踏まえて作戦を考えるから――そうだな、明朝マルハチマルマルにもう一度集合してくれ」

 

了解、と全員で返して部屋を後にする。なんだか妙に気が滅入る作戦報告だったと感じているのは私だけではないようで、卯月ちゃんは伸びをしているし睦月ちゃんは弥生ちゃんにしな垂れ掛かっている。

でもまあ、取り敢えずはお風呂に入るべきでしょう。気持ちを切り替え、私達はのっそりとお風呂に向けて歩き出したのだった。




如月ちゃんも可愛いよ?

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