ごとん、ごとんと各駅停車の普通列車に揺られ、もう二十分になる。電車の中程の座席、その一番端に座った
「……あと、どの位なのだ神通……?」
「もう少しですよ、菊月。そうですね、もう十分もすれば目的の駅には到着するでしょう。その後は駅から少し歩きますが、そう長い距離ではありませんよ」
「ふむ、そんなものか。……しかし、人が少ないな……」
座席に深く座り背中をもたれさせると足が床に着かない、そのことに少しの頼りなさを感じながら車内を見回す。静かに揺れる電車の中にはあまり人がおらず、席も半分ほど空いている。横に座る神通の顔を見上げそのことを指摘してみると、神通は苦笑しながら口を開いた。
「今日は平日ですからね。私達には関係ありませんし、態々曜日を気にする艦娘も少ないですが、人はそうではありませんからね」
指摘されて漸く合点がいく。平日の朝十時前となると、確かに人は少なくなる時間帯だろう。となると、目的の百貨店も混雑はしていないと予想出来る。あまり人混みの好きではない『菊月』にとってこれは朗報だったようで、少し
「……む、止まったぞ神通。ここか?」
「ええ、ここです。さあ、降りましょう菊月?」
神通が伸ばした手を自然に取り、座席からぴょんと跳ね降りる。開いたドアを抜け日差しの下に出ると、吹き付ける潮風でない風が妙に新鮮に感じた。歩き出す手を引かれるがままに、俺は見知らぬ街へ降り立った。
自動ドアの開く無機質な音を聞きながら、建物の中へ一歩踏み入る。潮風と街の風の違いにしてもそうだが、一瞬で空気が乾燥したものに変わったことを感じられるのはやはり
「……ここが、そうか」
「ええ、そうです。――さて、布団売り場は何階でしたでしょうか?私も姉さんと那珂ちゃんと三人で来てばかりでしたので……」
「……おい神通。これを見るに布団売り場は四階のようだぞ……?」
「あら、ありがとうございます。――菊月、落ち着いているように見えて少し浮かれていますね?」
「な、そんなことは無いぞ。私は平常だ……」
「さあ、どうでしょうか?平常心を保っているのであれば、慌てた反応をする筈も無いのですよ?――ふふ、冗談です」
真顔で言い放ったあとに、破顔してくすりと笑う神通。彼女とは長い付き合いだが、未だに神通の冗談には慣れる気がしない。ツラギ沖の一戦で神通に言うことを聞かせた分、少し引け目があるから……というのも理由ではあるが。
「……お前は、そう冗談を言うタイプでは無かったと思うのだがな。お前も変わった、ということか……」
「私がこうまで砕けて接するのは姉さんと那珂ちゃんを除けばあなたぐらいですよ、菊月。それ以外は、何故か私が冗談を言うと凍りついてしまうのです。――しかし、変わったと言うならばあなた以上に変わった者も居ないでしょう」
「……私が変わった?そんな筈は無いさ」
「さて、どうでしょう?少なくとも出会った頃のあなたは、こうして私に手を引かれて歩くような艦娘では無かったと思いますよ。控えめに見ても、固くて余裕の無かったあなたですからね」
余裕が無かったとは思わないが、恐らく神通が言うならばそうなのだろう。確かに今以上に気も肩肘も張っていたのは確かなわけであるし。そんなことを考えていると、チンッという小気味好い音と共にエレベーターのドアが開く。
「こうしてあなたとショッピングに出かけエレベーターに乗ることになるともし言ったとしても、あの頃の私は信じないでしょう。――あ、勿論変わったと言っても悪い意味ではないですよ、弛んでいる……だとか。そうではなく、接していて楽しくなった、とでも言いましょうか」
「……それは、単に私とお前が仲良くなっただけではないのか?――む、着いたようだぞ……」
再び小気味好い音を立てて開くドアをくぐり、エレベーターから降りる。顔を上げた
「ここからは少し詰まらなくなりますけれど我慢して貰いますよ、菊月?」
「……海から離れると途端に自分を卑下するその癖は、治して行かねばならんな。楽しいのだから放っておけ……」
「そう、ですか?早く終わらせて食事でも、と思っていましたが」
「神通が欲しいものを探さねば意味がないだろう……。……ほら、行くぞ」
何故だか弱気になる神通の手を逆に引きながら、求める布団を探して歩き回る。そのうち少しずつ乗り気になった神通と二人で時間を費やし、求めるものは買うことができた。
――しかし、行く店行く店で『お二人でのご使用ですか?』と質問されたのは、何故なのだろう?
菊月ぃ……