私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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この菊月(偽)はわりとおばかです。


もしもアニメ艦これ三話前後に菊月(偽)が一瞬だけ乱入したら、その二

登りきった低い安ビルの屋上から周囲下方を見渡す。ぐるりと首を回し、視線を巡らせ、一際突き出した『HOTEL』と書かれた看板の上に飛び乗る。俺の視界に一番に目に飛び込んで来たのは、街からそう遠くないところに存在した海だった。

 

「……む、海と……それに、あれは?」

 

大きく青い海と同時に目につく、人工的に舗装された海岸に少しだけ突き出るように拵えられた幾つかの港と、その周囲に存在する赤煉瓦造りの建物。周囲を木々とフェンスで囲われたそれなりの敷地に、宿舎らしきものや庁舎らしきもの、工場らしきものを備えた一つの建築物群。俺のよく知っているものとは大きく異なってはいるが、俺はそれが何であるかを理解した。

 

「……鎮守府。よく見れば建物の並びや形は、アニメにあった通りのようだ。――となると、やはり私は迷い込んだのではなく……呼ばれた、のだろうな」

 

一人納得しつつ、再度眼下の鎮守府らしき建物群を見遣る。よくよく見れば海から艦娘らしき小さな影が出たり入ったりしている、となれば艤装もきちんと保管されていることだろう。

 

「あとは、どうやってそれを手にするかだが……むぅ。流石にこの世界に知り合いも居らぬし、あの鎮守府以外に当てもない。――仕方がない、か……」

 

看板から飛び退き、最初に駆け上がってきた壁のある方へ。そこから眼下を見下ろせば、俺が立っているビルの窓からはたはたとゆらめいているカーテンに目をやる。開いている窓の位置は分かった、ならばそれに引っかからないように飛び降りる――とまで考えた時、脳裏に一つの案が閃く。……旅の恥はかき捨てとも言う、何でも試してみるべきだろう。

 

「……ならば、ここからだな……!ふっ!!」

 

虚空へ向かって跳躍し、身体を浮かせれば重力に惹かれて軽い身体は落下を始める。ふわりとひらめくスカートを抑え、下着をガードしつつ加速。途中、窓からゆらゆらとはみ出しているカーテンを掴み――カーテンレールごと引きちぎり、減速。それを三度ほど繰り返せば、ちょうど良い速度で着地出来た。ずしん、と響く音はそれなりに大きく、俺の足も少し痺れてしまう。だが、それに見合うだけのものは手に入れられた。

 

「カーテン三つ。これをどうにか使えば、顔を隠して鎮守府へ……おっと。まずはここから離れるか……!」

 

着地こそ最初に目覚めた裏路地へとしたものの、ずしんと音を立てたからか人が近づいてくる気配を感じる。流石に見つかってもマズイ、俺は人から隠れつつ目にした鎮守府へと駆け出すのだった。

 

―――――――――――――――――――――――

 

「――ふぅ」

 

手に抱えた白い布の塊を地面に置き、一つ大きく溜息をつく。木々の合間に隠れつつ高いフェンスの向こう側を除き見れば、そこには悠然と佇む鎮守府の煉瓦造りの建物があった。見る限りでは屋外に居る艦娘は皆無で、殆どが出撃しているか――中で待機しているか。願わくば、前者であって欲しいものだ。

 

「……窓の位置は、チェックを済ませた。侵入経路も――まあ、褒められたものではないが確認した。あとは、私の運がどう作用するかだけだな……」

 

言いつつカーテンをフードのように被り、その上から更にマントのように巻く。遠目には白いフード付きマントのように見えるだろうこれで、どうにか顔を隠すことも出来た。念の為に、残る一枚のカーテンを引き裂き口を覆うように装着しておく。

 

「……ふっ。我ながら、中々に格好いいではないか……!」

 

白マントの菊月を想像し、俺のテンションが急上昇する。これで何も怖くなくなった、あとは突撃するだけだ。

 

「……よし。あまりぐずぐずもしていられない。覚悟を決めろ、菊月……!」

 

ふうっと息を吐き、フェンスから充分に距離を取る。意識を細め集中し、全身から燃え盛るような真紅の気焔(オーラ)が溶け出す。揺らめくそれを靡かせ――

 

「……だぁぁぁあ……!」

 

駆ける。一歩ごとに加速した身体を跳躍させれば、第一には目星をつけておいた木の枝へ飛び乗りそれを足場に更に跳躍。過ぎ去った背後で、乾いた何かの折れる音がした。

 

「らぁぁぁぁぁぁあっ……!!」

 

跳躍の勢いを更に維持しつつ、次に向かうは鎮守府の境界となるフェンスの頂点。それなり以上に高いそれは、一般家屋の一階の屋根程の高さ。そこへ、木の枝から飛び移った両足を掛ける。加速を緩めず、しかし足へは力を込め。更に高い位置にある鎮守府二階の窓へ向かって――

 

「しゃぁぁぁぁあぁぁぁあっ!!!!」

 

――瞬間、身体は弾丸に変わる。鉄のフェンスを両足で、気焔揺らめく全力で蹴りつけた速度をそのままに両手を身体の前でクロスさせる。足はきゅっと抱え込み、背筋も丸め突入の態勢へ。その直後、がしゃんという轟音とともに俺の身体が何かを突き破った感触がした。瞑っていた目を開ければ、呆然としている第六駆逐隊の面々がいる。

 

「…………」

 

「――――!?!!?!?」

 

一瞬だけの、視線の交錯。それを気にせずくるりと宙返りし、そのまま着地し間を縫って駆け出す。纏ったカーテンの裾がめくれ上がり、風に靡いてふわりと広がる。

 

「――てっ、てってててててて、敵襲ぅぅぅう!!!」

 

背後から聞こえる暁の叫び声。同時に鳴り響く警報に、俺は少しだけ肩を竦めたのだった。




ほら。

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