私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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一時間程度は誤差。間に合った。


もしもアニメ艦これ三話前後に菊月(偽)が一瞬だけ乱入したら、その三

耳をつんざくように鳴り響く警報が降り注ぐ廊下を駆ける。遥か背後には正気を取り戻した第六駆逐隊の面々が、そして眼前には――

 

「あらあら、困った人も居るのね?ここは鎮守府、あなたが誰かは知らないけど――火遊びはダメよ?」

 

――陸奥。長門型戦艦二番艦の『陸奥』が、俺の前に立ちはだかった。にこやかに笑みを浮かべつつ、しかし隙を晒さない彼女の様子からその実力が伺える。

……だが、それでも俺は止まらない。

 

「…………っ!!」

 

「って、えっ!?速――」

 

行く手を塞ぐ陸奥へ向かって、廊下を全力で蹴って接近。駆ける速度とは全く別の領域の速度で以って肉薄すれば、まるで対応しきれていない彼女の肩をぐいっと掴みそのまま脇をすり抜ける。ついでに足を引っ掛けてやれば、かの大戦艦『陸奥』は派手にすっ転んだ。後頭部を派手に打ち付けるその有様には同情するが、止まってはいられないのだ。

 

「――なあっ!?」

 

「……寝ていろ……!」

 

倒れた陸奥を第六駆逐隊が起こしている隙に、階段に飛び込み勢いよく飛び降りる。ぱぁんという、靴と床がぶつかり合う軽い音が階段に反響した。

 

「……ちっ、どうやら出撃ではなく待機だったか。――そんな悠長に構えている暇があるならば、さっさと如月を助けに行けという……!」

 

「何をごちゃごちゃ言ってんのかは知らないけどさ、あたしたちの鎮守府に押し入ろうってんだから勇気はあるよね、あんた」

 

「ちっ、此方は無理か。ならば――」

 

「後ろは私です。逃げられると思わないことですね、お馬鹿な侵入者さん」

 

軽巡北上、そして大井。いずれも名の知れた艦娘だが、しかしこの場に於いては俺の方が有利だ。なぜならば……加減も躊躇も、不要だから。

 

「そうか。ならば私も……それなりにやらせて貰うぞ」

 

「なっ!?まさか、あんた深海棲艦――」

 

全身に満たすのは、菊月()達艦娘が持つ推力(エネルギー)。それを足だけに集中させ、同時に全身から抑えていた気焔を噴出させる。目を見開いた北上が、自然と身構えるのを確認して――

 

「――ふ……っ!!」

 

――その構えた防御を狙って、全力で跳躍し右足を叩き込んだ。

 

「――くっ、うわあっ!!?」

 

「北上さんっ!?」

 

「余所見をしている暇は無いぞ、大井っ!!」

 

吹き飛ぶ北上と同じ方向へ、大井の身体を投げ飛ばす。重なるように倒れ伏した彼女達の目線が俺から外れたのを確認すれば、急いでその場から駆け出す。再び階段を駆け上がれば、遠くから聞こえる追っ手の足音から逃れるように手近な部屋へと飛び込んだ。そのまま扉の鍵を閉め、ふうっと息を吐く。

 

「……予想以上に残っている艦娘が多いな。これは、強行突破も視野に入れるしか――」

 

「――視野に入れるしか、何っぽい?」

 

そうして、俺は背後から投げかけられたその言葉に硬直した。ゆっくりと振り向けば、そこには俺の予想通りの艦娘――駆逐艦『夕立』が立っていた。

 

「……まさか、夕立だとはな。ここで何をしていた……?」

 

「夕立は偶々、侵入者さんを探してこの部屋に入ってたっぽい。侵入者さんの方から来てくれるとは思ってなかったけど」

 

「……そうか。私は少し急いでいてな、見逃してくれると有難い」

 

「そんなこと、本当に許すと思ってるっぽい?……ちらっと陸奥さんを倒すところは見てたっぽい、油断は無いよ」

 

緑色の双眸を僅かに細め、こちらを見据える夕立に隙は無い。気焔が満ちている今であれば遅れを取ることは無い筈だが、しかし北上や大井、陸奥の時のように意識外からの奇襲は通用しない。時間は取られるだろうし――それが、命取りになる筈だ。

 

「もう逃げられないっぽい」

 

「そうだな、お前達を全て倒さねばならないとは。……この私にとっても、中々に心苦しいぞ……」

 

「諦めて捕まれば、まだ許されるっぽい」

 

「残念だが、諦める訳にはいかないのでな。……艤装を一つ渡してくれるだけでいい、頼む……」

 

「……そもそも、艤装は艦娘にしか使えないっぽい。なんでそんなに欲しいのか、聞かせて欲しいっぽい」

 

「聞かせたところで、信じるとは思えぬがな……まあいい、艤装が欲しいのは単純に、海へ出る為だ。何故海へ出たいかと言えば――」

 

一瞬だけ口をつぐみ、逡巡した後にフードを下ろす。真紅の色をした俺の目にぱちぱちと雷光が迸るのを自覚しつつ、息を呑んで視線を逸らす夕立へ向けて口を開く。

 

「――如月の轟沈を、阻止する為だ」

 

「っ、轟沈を?如月っていうと――睦月ちゃんの」

 

「そう、睦月型駆逐艦二番艦の如月だ。……今は、W島攻略作戦に出ているな?」

 

「確かにそうだけど――そんなの、起こるわけが無いっぽい!!」

 

「まあ、そう言うだろうな。……だが、起こる。確実に、如月は沈む。軽空母から放たれた艦載機の一撃がまともに直撃し、そのまま沈む」

 

目に力を込め、畳み掛けるように威圧する。ぐっと夕立を見据えていると、目を伏せつつぼそりと彼女は話し出す。

 

「そんなこと、普通は分かるわけないっぽい。私は未来から来た、なんて言い出すっぽい?」

 

「……似たようなものだ。私は此処とは違う世界の艦娘でな、その世界より前に居たところで如月の轟沈を――この目で見た。……まさか私が此処に、この時にこの世界を訪れるとは思っても見なかったがな」

 

ぼそりと零せば、夕立を見る。正直なところ、信じて貰えるとは思っていない。押し通る覚悟を決めて、俺は話し出す。

 

「……そら、信じぬだろう。それで良い。――私は行く、少々喋りすぎた。邪魔をするならば、相手がお前だとて容赦はせぬ……」

 

「――正直、信じれる筈がないっぽい。別の世界なんてある訳ないし、それ以上に如月が沈むなんて認められないっぽい。――でも」

 

「……なんだ」

 

「――でも、あなたが嘘を言っていないって言うのは、分かるっぽい。それに、なんだか不思議だけどあなたのことなら信用して良い気がするし。――なら、仲間が沈むって言うのならこの選択は当然っぽい」

 

彷徨わせていた目線を俺に据えつつ、夕立ははっきりとした声で言う。瞬間、眼前の彼女が俺の知る夕立と被るように見えた。思わず晒したぽかんという表情を引き締めつつ、喜びを以って彼女に向き直った。

 

「……感謝……」

 

「構わないっぽい。……艤装を置いてある船渠は、この窓から飛んでったら速いっぽい。というか、もうそこら中をみんなが探し回ってるからそうするしかないし」

 

「わかった。……お前の恩に賭けて、私の名に賭けて、如月は必ず救うと約束する。そして、出来れば……この世界の私とも、いつか仲良くしてやってくれ……」

 

それだけを言い残し、窓の外を見る。俺は、振り返らずに助走をつけて、船渠の壁へ向けて思い切り跳んだのだった。




よく跳びますよね、この(偽)。

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