私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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第三章突入。

この章は鎮守府での生活がメインになってくるかと。他の艦娘と親交を深めたり、切磋琢磨したり、ですかね。


第三章
菊月(偽)修行する、その一


『菊月』としては初めての穏やかな時間は、俺を癒してくれる。徐々に親交も増えている、最近は毎日が楽しい。睦月型姉妹以外にも軽巡や重巡、偶には戦艦級とも朝食や夕食を共にすることがあり、この前などは潜水艦達と談笑したりしていた。

 

―――天城と菊月()がこの鎮守府に着任して一週間。天城の方はどうやら空母の少ない他の鎮守府へ出向しているらしいが、俺は変わらずこの鎮守府で任務に明け暮れている。大方は遠征で、しかも近場への出撃が多いためか時間を持て余し気味なのが気になるが、卯月に聞いてもこれが普通だという。

 

「……聞いたのだが、この鎮守府には遣り手の軽巡洋艦が居るという。是非、この不慣れな身を教導して欲しいものだ……」

 

さて、余っている時間を無駄に使うことほど愚かな事はない。ましてや、俺はまだまだ砲雷撃戦に慣れていないのだ。夕食時、ちょうどこの鎮守府に居る姉妹が揃ったためそれとなく聞いてみる。如月や卯月はともかく、似たような性格の長月やしっかりしている三日月からなら良い情報が得られるだろう。

 

「軽巡洋艦?この鎮守府に居るのはみんな遣り手ばかりだが、教導か。菊月、もしかしてそれは『神通』のことでは無いのか?」

 

長月から、目当ての艦娘の名前が出る。『俺』は彼女がどれだけやるかを薄っすらと知っているが、『菊月』は知らないのだ。こういう所には気を使わなければならない。

ともかく、神通の情報は聞けた。ならば後はどうにかして彼女に接触するだけだ。

 

「菊月、神通は止めておいた方が良いぞ。あの人は尊敬できる軽巡洋艦だが、あの訓練には付いて行けると思わないな」

 

「菊月、悪いことは言わないぴょん。神通のアレは、新米をしごいて甘えを抜くためのものだし、今更菊月がする必要は無いぴょん」

 

彼女に接触するだけだ、とそう思っていたのだが、長月、卯月からの反論が飛んでくる。『俺』が知っている彼女とどこまで同じで、何がどう違うのかはまだ分からないが、課されるのはやはり厳しい訓練であることに変わりはないようだ。

 

「……しかし、私は砲雷撃戦が苦手でな。多少は、辛いものでなくてはならないだろう……?」

 

「菊月ちゃん?『多少は』なんて、そんな考え方はしてちゃ駄目よ。本っ当に厳しいわよ、神通さんは」

 

「菊月お姉ちゃん、ゆっくり 上達して行こう?私も、お姉ちゃんと一緒に訓練しますから!」

 

俺の事考え方が甘いだけなのだろうか。如月にはやんわりと窘められ、三日月は必死に引き止めてくる。神通への悪感情は感じられないものの、その訓練には皆辛い思いをしたようだ。これなら、姉妹に神通への訓練の取次を頼むのは無理だろう。

 

「……うむ、分かった。誰か姉妹達に、その『神通』さんとやらに取次を頼もうかと思っていたのだが……。それは諦めるとしよう……」

 

俺の言葉に、ぱあっと顔を明るくさせる姉妹達。それに苦笑して、俺も夕食の続きを食べ始める。

 

―――ああ、諦めるとも。『取次を頼む』ことは、な。

 

―――――――――――――――――――――――

 

夕食後暫くして、俺は鎮守府の中を歩いていた。目指す場所は船渠(ドック)。軽巡洋艦の宿舎へ単艦突撃し同型艦の川内に話を聞けば、目当ての彼女は今はドックに居ると聞いたからだ。

 

取次が出来ないならば、不躾ではあるが直接出向く。むしろ、頼み込むのだから直接顔をあわせる方が礼儀かも知れない。

 

「……それにしても、夜のドックは少し不気味だな……」

 

ぼそぼそと喋りながら奥を目指す。少し奥まったところ、艤装の保管場所に彼女は居た。

 

「あら。こんなところにどうしました、菊月さん?」

 

華の二水戦、秘めたる闘志比類なき猛者。軽巡洋艦『神通』。こうして微笑んでいる彼女を見ている限りでは『優しそうなお姉さん』という印象しか持てないが、それでも彼女の実力を疑うなどということは出来ない。

 

「……睦月型駆逐艦九番艦、『菊月』。あなたに願いたいことがあり、訪ねさせて頂いた……」

 

「願いたいこと、ですか。あまりそう言った頼み事をされた事が無いので、少し新鮮です。それで、菊月さんが一体何を?」

 

「……率直に言う、あなたに私の教導を頼みたい」

 

俺がそう告げた瞬間、眼前の彼女の纏う空気が一変した。笑みの質が変わったと言うわけでも無ければ、威圧感が増したという事でもない。全くの自然体のまま、その強者たる風格だけを笑みに乗せている。これが、彼の武勲艦か。

 

「確かに、私は駆逐艦の皆さんの訓練教官を良く務めています。それでも、自分から訓練を願い出てきた方は菊月さんが初めてですよ」

 

とても嬉しそうに、にっこりと微笑む神通。

 

「……私には、まだまだ力が足りぬ。運良く生き延びてはいたが、それだけでは姉妹を、仲間を守る事など出来ぬ……」

 

「熱心な方は好きですよ、私も。あなたは―――那珂みたいなタイプじゃないのね、話すのが苦手そう。けれど、その気持ちはしっかり伝わりました。私に出来得る全力で、あなたに応えましょう」

 

微笑んだまま了承を返してくれる神通に、感謝の気持ちを心に浮かべ一つ頷く。無口な菊月()のことも汲んでくれる、尊敬に値する人だろう。

 

「……頼む。見所が無ければ、沈めて貰って構わない……」

 

「ふふ、分かりました。なら、菊月さん?明日の予定を教えて下さるかしら」

 

「……明日は遠征だ。マルハチマルマルに鎮守府を出て、ヒトフタマルマルに帰投。二時間休息を取り、ヒトヨンマルマルからヒトハチマルマルまで二度目の遠征だ……」

 

そう、残念ながら明日は遠征が二件入っている。朝方なら六時から一時間、慣らす程度に動けそうだがそれほど教導は頼めないだろう。

 

「そうですか。なら、明日はそれ程訓練出来ませんね。残念です。フタマルマルマル―――いえ、ヒトキュウマルマルにドック集合でよろしいですか、菊月さん?」

 

華の二水戦、侮っていたのは此方だったようだ。ともかく、やってくれるというのだから願っても無い。大きく頷いて、神通と握手を交わす。

 

「……ああ、不甲斐ない身だが宜しく頼む」

 

「任せて下さい、久々に良い訓練が出来そうで楽しみですよ」

 

神通の言葉が頼もしい。ああ、明日が楽しみだ!




似た者同士、脳筋軍団。

もっと穏やかな日常とか書こうと思ってたのに、なんでこうなるのでしょうか。

神通さんのキャラには悩まされます。鬼教官過ぎればゲームっぽくなくなりますし。
神通さんに限らず、このキャラはこうじゃないかってのがあれば伝えてください。

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